代襲相続とは、相続人が被相続人よりも先に亡くなっているときに相続人の子どもが相続することです。
たとえば父親が死亡したケースにおいて既に息子が死亡していた場合、息子に子ども(父親から見ると孫)がいるのであれば、その子が代襲相続人となって遺産を相続します。
なお、相続人に代襲相続人が含まれる場合、法定相続分や相続税の計算が複雑になる可能性があります。混乱せずに正しい知識をもって遺産分割を進めていきましょう。
今回の記事では代襲相続の範囲や代襲相続する場合の注意点について解説します。
代襲相続
代襲相続は、一定範囲の相続人が被相続人より先に亡くなっていて、相続人に子どもがいる場合に発生します。代襲相続する相続人を代襲相続人、代襲相続される人を被代襲者といいます。
モデルケース
- A氏・Bさん夫妻には3名の息子(長男C、二男D、三男E)がいます。
- Bさんは2010年7月に亡くなりました。
- 長男Cには、2人の子ども(X、Y)がいます(Aさんからすると孫に該当)
- Cさんは、2020年1月に亡くなりました。
上記のケースで、2022年6月にAさんが死亡した場合、X、Yが長男Cの代わりに代襲相続することになります。X・Yちゃんが代襲相続人、長男Cが被代襲者です。
A氏の相続人はX、Y、二男D、三男Eの4名となり、この4人で遺産分割協議を行うこととなります。
代襲相続が発生する範囲
代襲相続は発生する範囲が限られています。
01.子どもや孫などの直系卑属は代襲相続人になる
子が親より先に死亡したときには、子の子(孫)が代襲相続人になります。
「子」も「子の子(孫)」も親より先に死亡していている場合において、孫に子がいるのであればその子(ひ孫)が再代襲相続人になります。
このように直系卑属については「子」「孫」「ひ孫」と、無制限に代襲相続が続きます。
02.兄弟姉妹の子どもの代襲相続は一代限り
相続において兄弟姉妹は第三順位の相続人にあたります。
相続権の認められる兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっている場合も代襲相続が起こりますので、兄弟姉妹の子(被相続人からみると甥姪に当たる子)が代襲相続人になります。
なお、先の直系卑属のものとは異なり、甥姪が先に死亡した場合において甥姪の子どもは代襲相続人とはなりません。傍系親族においては代襲相続は一代限りとなります。これは被相続人とのとの関係が遠い者に遺産相続させるのは不合理と考えられているためです。
03.親や配偶者は代襲相続しない
親は第2順位の相続人にあたりますが、親に関しては代襲相続は発生しません。また、配偶者についても代襲相続は発生しません。
代襲相続人の法定相続分
代襲相続が発生した場合、代襲相続人の法定相続分はどのくらいになるのでしょうか?
代襲相続人は被代襲者の地位をそのまま引き継ぎますので、法定相続分についても被代襲者のそれと同じになります。代襲相続人が複数人いる場合は被代襲者の相続分を代襲相続人の人数で均等割することとなります。
モデルケース01
- A氏・Bさん夫妻には3名の息子(長男C、二男D、三男E)がいます。
- Bさんは2010年7月に亡くなりました。
- 長男Cには、1人の子ども(X)がいます(A氏からすると孫に該当)
- 長男Cは、2020年1月に亡くなりました。
上記のケースで2022年6月にA氏が死亡した場合の相続について検討してみましょう。
長男Cが生きていたとしたら長男C、二男D、三男Eの3名で相続することとなりますので、法定相続分は各々3分の1です。長男Cの代襲相続人はX一人なので、Xの代襲相続分は3分の1になります。
モデルケース02
- A氏・Bさん夫妻には3名の息子(長男C、二男D、三男E)がいます。
- Bさんは2010年7月に亡くなりました。
- 長男Cには、2人の子ども(X、Y)がいます(A氏からすると孫に該当)
- 長男Cは、2020年1月に亡くなりました。
上記のケースで2022年6月にA氏が死亡した場合の相続について検討してみましょう。代襲相続人はX、Yの2人です。長男Cの法定相続分が3分の1なので、X、Yの相続分は各々6分の1となります。
代襲相続人の遺留分
01.遺留分とは
遺留分とは一定範囲の相続人に認められる最低限の遺産取得割合です。不公平な遺言や贈与が行われても遺留分権利者には最低限の遺留分を取り戻す権利が認められます。
遺留分についても、代襲相続人は被代襲者の権利を引き継ぎます。
モデルケース
- A氏・Bさん夫妻には3名の息子(長男C、二男D、三男E)がいます。
- Bさんは2010年7月に亡くなりました。
- 長男Cには、1人の子ども(X)がいます(A氏からすると孫に該当)
- 長男Cは、2020年1月に亡くなりました。
上記のケースで2022年6月にA氏が死亡したとします。A氏は遺言を残しており、その内容が「すべての遺産を二男Dに相続させる」であったとしましょう。
このような場合、Xは二男Dに対し遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分割合は、長男Cが生きていた場合に主張できる割合と同等になります。本件では6分の1(「法定相続分:3分の1」の「2分の1」)となります。
代襲相続人が複数人いる場合は、被代襲者の相続分を代襲相続人の人数で均等割します。先のケースで長男Cの子がX、Yの2名である場合(代襲相続人が2人の場合)は、各々の遺留分は12分の1となります。
02.遺留分が認められない代襲相続人
遺留分はすべての代襲相続人に認められるわけではありません。
遺留分を取得するのは兄弟姉妹以外の相続人です。そのため、兄弟姉妹の子どもである甥姪が代襲相続人となった場合については、甥姪は被代襲者である兄弟姉妹の地位を引き継ぐこになるためそもそも遺留分が認められません。
また、配偶者や親には遺留分が認められますが、この方々にはそもそも代襲相続が起こりません。そのため、親や配偶者が被相続人より先に亡くなっても代襲相続や遺留分の問題は生じないこととなります。
遺留分が認められる代襲相続人は、孫やひ孫などの直系卑属に限られるということです。
相続税に関する注意点
孫が代襲相続する場合、相続税の計算が変わってきます。
01.基礎控除が増える
相続税には基礎控除があり、税額の計算時に3000万円+相続人の数×600万円を遺産額から差し引くことができます。
計算式から分かるように相続人の人数が増えると基礎控除が高くなります。基礎控除が高くなれば相続税の支払いを免れたりその税額が低額になる可能性があります。
代襲相続が発生する相続においては代襲相続人全員を法定相続人としてカウントできます。代襲相続人が被代襲者と同じ人数であれば基礎控除の金額は変わりませんが、孫が複数いる場合は、代襲相続人の人数は被代襲者の人数より増えることとなるので基礎控除額が上がります。
02.2割加算は適用されない
相続税のルールでは、相続人以外の人が遺産を受け継いだ場合は相続税が2割加算されます。孫へ遺贈した場合の相続税は2割増しになりますし、孫を養子にした場合も2割加算となります。
しかし、孫が代襲相続人になった場合は違います。「代襲相続人は、被代襲者の地位を引き継ぐ」のですから2割加算の対象とはなりません。
相続時の注意点
01.相続放棄すれば代襲相続は起こらない
法定相続人であっても遺産を相続したくないのであれば相続放棄をすることができます。相続放棄をすれば資産も負債も権利義務も含めて一切の遺産を相続しません。
相続放棄者ははじめから相続人ではなかった扱いになるので、その後の代襲相続は起こりません。
02.相続欠格や相続人廃除の場合には代襲相続が起こる
相続人に一定の非行がある場合には、相続欠格や相続人廃除に該当する可能性があります。
相続欠格に当たる場合や相続人排除された場合、その者は相続する権利を失いますが、その子どもは代襲相続することができます。相続欠格や相続廃除は被代襲者固有の事情であり代襲相続人が非行を行ったわけではないからです。
この点は注意が必要です。相続欠格者の孫だからという理由で遺産分割協議に加えなかった場合、有効な遺産分割協議ができないことになるので注意しましょう。
03.孫養子が代襲相続する場合の相続分
相続税対策などのため、孫と祖父母が養子縁組するケースがあります。養子となった孫を孫養子ともいいます。
子ども(孫の親)が先に死亡して孫養子が代襲相続人になった場合、相続分はどのように計算すればよいのでしょうか?
孫には養子としての立場と代襲相続人としての立場の2つの立場があります。孫の相続分を1人分と数えるのか、養子と代襲相続人である孫の合計2人分として数えるのかを検討しなければなりません。
このような2つ以上の相続資格が併存する状態になった人を二重相続資格者といいます。
法律上、二重相続資格者がいる場合は2人分の相続割合が認められると考えられています。そのため、孫には養子としての相続分と代襲相続人としての相続分の両方が認められます。
モデルケース
- A氏には、二人の息子がいます(長男B、二男C)
- 長男Bには、子どもXがいます
- ある日、長男Bが亡くなりました。A氏はXを養子にしました。
このケースでA氏が死亡した場合、相続人は「長男Bの代襲相続人であるX」「二男C」「孫養子X」の3名でカウントします。相続分は3分の1ずつです。
「長男Bの代襲相続人であるX」と「孫養子X」は同一人物なので、Xは遺産の3分の2を、次男は遺産の3分の1を相続することとなります。
さいごに
遺産分割協議は全員が参加し、全員が合意しなければならないこととなっております。代襲相続が発生している場合、本来の相続人よりも遠い親族、疎遠な親族が相続人となることがあるためトラブルが生じやすい傾向にあります。
相続人間でトラブルが生じた際は弁護士を入れることを検討しましょう。
弁護士に交渉を任せてしまえば話しにくい相手に自分で対応する必要がなくなるのでストレスが軽減されます。自分で連絡しても無視されるケースでも、弁護士から連絡を入れれば応答してもらえることが多数です。相続人の確定や相続財産の調査、複雑な相続分の計算も正確にできるので自ら対応するよりも効率的に遺産分割を実現できるでしょう。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では遺産相続トラブル解決に力を入れて取り組んでいます。突然祖父や祖母の代襲相続人となって困惑している、遺産分割協議が滞って進められなくなった、相続分や遺産分割方法がわからないといったお悩みをお抱えの方は是非一度ご相談ください。