遺産額が高額になってしまった場合、相続税を払わねばなりません。できるだけ節税するには生前から対策を立てておくべきです。
今回の記事では生前贈与による節税対策方法について解説します。
生前贈与
生前贈与とは、生きている間に財産を誰かに無償で「あげる」契約です。生前贈与の相手先は相続人でもそれ以外の人でもかまいません。
贈与すると贈与税がかかりますが、贈与税にはさまざまな控除制度がもうけられています。上手に使えば贈与税を払わずに財産を次の世代へ移転させられます。
以下、生前贈与で節税する方法をみていきましょう。
暦年贈与
暦年贈与は、贈与税の基礎控除を利用した贈与の方法です。
贈与税には「1年に110万円までは課税されない」という基礎控除が適用されます。
110万円は「受贈者」についてカウントされるので、子どもや孫1人あたり年間110万円分までの贈与であれば、贈与税を払う必要はありません。
また、贈与対象資産はお金以外の財産でも可能です。たとえば株や不動産であっても贈与できます。贈与の相手方にも制限がなく相続人以外の人に贈与してもかまいません。
子どもが2人、孫が4人いる方が1人あたり110万円ずつ、10年間暦年贈与を続けたら、合計で「6人×110万円×10年=6600万円」を無税で生前贈与することが可能です。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母が20歳以上の子どもや孫へ贈与するときに「2500万円までの贈与が無税」になる制度です。
なお、2500万円を超えた贈与には一律で20%の贈与税がかかります。また、非課税となった贈与財産は、相続発生時に遺産に組み込まれてまとめて相続税課税の対象になります。
相続時精算課税制度は税金の支払い時期が繰り延べられるものであり、無税になる制度ではありませんが、贈与税を払わずにまとまった財産を贈与できるメリットがあります。
また、贈与財産の評価時は「贈与時」となるので、贈与時から相続発生時までに値上がりする資産があれば大きく節税できる可能性もあります。
なお、相続時精算課税制度は暦年贈与と併用できません。いったん相続時精算課税制度を適用してしまったら、暦年贈与は利用できなくなります。「どちらが得になるか」しっかり検討してから適用を申請しましょう。
相続時精算課税制度をお勧めする状況としては、以下のケースが考えられます。
- 不動産などの高額な資産を一括で贈与するとき
- 事業承継で、一時的に株式の評価が下がった時点で後継者へ会社株式を贈与する場合など
- 将来値上がりしそうな不動産を贈与したいとき
- 贈与によって相続財産が減り、相続税がかからなくなる見込みのケース
教育資金一括贈与
親や祖父母が30歳未満の子どもや孫へ教育資金を贈与すると、最大1500万円までの贈与分が非課税になります。これを教育資金一括贈与制度といいます。
非課税になる限度額は、支払う費用の種類によって異なります。
小中高、大学、大学院などの入学金、授業料、学用品代、修学旅行費などの学校に支払うお金であれば、最大1500万円まで非課税です。また、塾や習い事、スポーツなどの活動にかかる費用については500万円が上限となります。
30歳までに使いきれなかったら自動的に制度の適用が終了となり、残った金額に贈与税が課税されます。
結婚子育て資金一括贈与
親や祖父母が子どもや孫へ結婚や子育て資金の贈与を行うと、最大1000万円まで非課税となります。非課税になる限度額は費用の目的によって異なります。
結婚式や挙式の費用、新居の敷金や引越し費用、家賃などの「結婚資金」については300万円が上限です。
妊婦健診や分娩にかかる費用、子どもの医療費や保育料などの子育て資金については1000万円が上限となります。
居住用不動産購入資金の贈与
親や祖父母が20歳以上の子どもや孫へ「居住用不動産の購入資金」を贈与すると、最大3000万円までの贈与分が非課税となります。
不動産の購入だけではなくリフォームの際の資金援助にも適用できます。
ただし、対象となるのは「資金援助」に限られており、不動産そのものの贈与には適用されません。すでに子どもが組んでいる住宅ローンを親が肩代わりした場合なども対象外です。
また、3000万円控除となるのは「令和2年3月31日までに契約した省エネ住宅」の場合であり、今から契約する場合には最大でも1500万円の控除となります。
配偶者控除
贈与税には「配偶者控除」があります。
20年以上連れ添った配偶者へ居住用の不動産を贈与する場合、2000万円までは贈与税がかかりません。不動産そのものだけではなく不動産購入用の資金を贈与する場合にも適用できます。
また、20年以上連れ添った夫婦間で居住用不動産を贈与する場合、民法の「特別受益持ち戻し計算」についても例外的な取り扱いとなります。
法定相続人へ贈与すると「特別受益」と評価されて「特別受益の持ち戻し計算」の対象になり、特別受益を受けた相続人の遺産取得分が減ってしまいます。
他方で、20年以上連れ添った配偶者へ居住用の建物や敷地を贈与する場合「特別受益の持ち戻し免除意思」が推定されるので、贈与を受けた配偶者の遺産相続分が減りません。
死後に遺された配偶者の生活を守りたい場合、贈与税の配偶者控除を適用して自宅を贈与しておくメリットは大きくなります。
生前贈与の注意点
生前贈与をするときには以下の点に注意が必要です。
01.死亡前3年以内の贈与には相続税がかかる
死亡前3年以内に行われた贈与には「相続税」がかかります。
たとえば暦年贈与で数年にわたって贈与しようと計画しても、3年以内に死亡してしまったら全額が相続税の課税対象になってしまいます。生前贈与による節税対策をしたいなら、贈与者が若いうちから取り組んでおくようおすすめします。
02.特別受益のトラブルが発生する可能性
20年以上連れ添った配偶者へ居住用不動産を贈与する場合以外では、特別受益の持ち戻し免除意思が推定されません。
法定相続人へ生前贈与すると「特別受益」になり、相続発生後に相続人たちが「特別受益の持ち戻し計算」を巡って遺産相続トラブルを起こすリスクが高まります。
遺言書に「特別受益の持ち戻し計算はしない」と書いて「持ち戻し免除意思」を明らかにするなど対策方法をとっておきましょう。
さいごに
効果的に相続税の節税を図るためには、家族の状況に応じた対策が必要となります。また、税制は頻繁に改正されるため、常に最新情報をもっていなければ効果的な節税対策はできません。素人判断では効果的な節税対策は困難となるでしょう。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、相続に詳しい税理士とも提携して積極的に相続案件の解決に取り組んでいます。相続税対策に迷われている方はお気軽にご相談ください。