相続の場面において、相続人間でもめ事が生じることは多々あります。遺産の中に不動産が含まれている場合にはその傾向が顕著にみられます。
- 誰が不動産を相続するかで揉める
- 不動産の評価方法で揉める
- 相続税を払えない
- 特別受益の持戻計算でのトラブル など
これらのトラブルを事前に予防するためにはどうすればよいのでしょうか?
また、これらのトラブルが発生してしまった場合はどのように対応すればよいのでしょうか?
今回の記事では、不動産相続の場面で起こりやすいトラブルについて、その予防方法や解決方法も含めて解説します。
不動産の相続でよくあるトラブル
まず、遺産に不動産が含まれる場合の相続において。よくあるトラブルを見てみましょう。
以下、トラブルについてパターン別に解説しますが、その際に例示するシチュエーションの設定は以下の通りとします。
- 被相続人:父
- 相続人:長男(2分の1)、二男(2分の1)
- 相続財産:実家(土地及び建物。資産価値1000万円)
01.遺産分割方法で意見が合わない
トラブルの一つとして、相続人間で不動産の相続方法(遺産分割方法)について意見が合わない、というものがあります。
例示の設定において、長男が「不動産を処分せずに残しておきたい」と希望し、次男は「不動産を売って現金で分けたい」と主張した場合、どちらもその意見を曲げないようであれば、協議(話し合い)による遺産分割は難しいといえるでしょう。
02.1人が「不動産を単独相続したい」と主張する
相続人の1人が「自分1人で不動産を相続したい」と主張してもめることもあります。
例示の設定において、長男が「自分が家を継ぐのだから当然に実家は全部自分が相続する」と主張するケースです。
不動産の資産評価額は高額となることがほとんどです。これを1人が単独で相続するとなると不公平となることがあります。他の相続人としては1人の相続人による単独の不動産相続を認めないので、トラブルにつながってしまいます。
03.不動産の評価方法でもめる
不動産の評価方法でもめることも往々にしてあります。このトラブルは不動産を代償分割する場合に生じます。
代償分割
代償分割とは、不動産を単独取得する相続人が、他の相続人に代償金を支払って清算する方法です。この代償金の金額は、法定相続分に応じた額です。
例示のシチュエーションにおいて、相続財産が実家以外ないものとします。この場合において、長男が実家を単独で相続するとした場合、二男に対し代償金として500万円を支払うことで平等に相続できたこととなります。
代償分割で相続が行なわれる場合、評価額は大きな問題となります。
不動産の評価額は、一律でこの金額と明示されるものではありません。査定業者によってばらつきが出ることは避けられません。
評価額が高額な方がメリットのある相続人は高額な査定額を採用するよう主張するでしょうし、評価額が低額な方がメリットのある相続人は低額な査定額を採用するよう要求するでしょう。
例示のシチュエーションでは、二男としては評価額が高額の方が長男からもらえる金額が多くなりますし、長男としては評価額が低額な方が二男に払う金額が少なくなります。
そのため、評価額の算定方法について対立してしまうというトラブルにつながります。
04.代償金を支払うお金がない
代償分割を採用した際には、代償金を支払う資力がないというトラブルが生じることもあります。
代償分割する場合、不動産を取得する相続人は他の相続人へ代償金を支払う必要がありますが、必ずしも代償金を支払うだけの余力があるとは限りません。
例示のシチュエーションにおいて、長男が500万円を支払う余力を有していない場合は代償分割を採用することは困難と言えるでしょう。
05.相続税を払う資金がない
被相続人が多数の不動産を所有していた場合、これらを相続するとなると高額な相続税が課される可能性があります。
相続税は原則として現金一括で納付しなければなりません。相続税を支払えない場合、税務署から督促が来たり延滞税が課されたりすることとなり、金銭的なトラブルにつながります。
06.特別受益の持戻計算でもめる
生前贈与された不動産がある場合、不動産の贈与を受けた相続人の特別受益の持戻計算の場面でトラブルが生じることがあります。
特別受益
特別受益とは、遺言や贈与によって相続人が受けた利益のことです。
特別受益の持戻計算
遺言や贈与によって特別の利益を受けた場合、その相続人の遺産取得分は多くなってしまいます。
このような場合、相続人間の公平を期するために特別受益を受けた相続人の遺産取得分を減らして調整します。この特別受益を受けた相続人の遺産取得分を減らす計算方法を「特別受益の持戻計算」といいます。
この特別受益の持戻計算を行なおうとすると特別受益を受けた相続人が反発し、そこからトラブルに発展することがあります。
07.収益不動産があってもめる
相続財産に収益物件(定期的に(賃料)収入等が入るもの)がある場合もトラブルにつながりやすいです。
収益不動産がある場合、相続開始後、遺産分割完了前までの賃料を相続人全員に分配しなければなりません。この賃料を誰が管理するのかを決める際にもめることがあります。また、賃料を誰か1人の相続人が独占してしまったり管理方法がずさんになってしまったがためにトラブルに発展するケースも多々あります。
08.放置してしまう
不動産の相続について、きちんと分割方法を決めずに放置してしまうことも往々にしてあります。
不動産を放置していても、しばらくの間は問題ないかもしれませんが、不動産を活用しなくても毎年固定資産税はかかります。固定資産税は、相続人が法定相続分に応じて負担しなければなりません。
また、相続人のうちの1人が亡くなってさらに相続が起こると、共有持分が細分化されて遺産分割協議を進めるのがさらに困難になってしまいます。
不動産を相続したときには、放置せずに早めに遺産分割協議を行いましょう。
相続登記の申請義務化
令和6年4月から、相続登記の申請が義務化されます。
相続により(遺言による場合を含みます。)不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないこととされました。
また、遺産分割協議の成立により、不動産を取得した相続人は、遺産分割協議が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記の申請をしなければならないこととされました。
なお、正当な理由がないにもかかわらず申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。-宇都宮地方法務局のサイトより引用-
過料が科されることになるので、相続登記の申請は必ず行いましょう。
不動産の遺産分割方法
不動産を遺産分割する方法としては、以下の4種類があります。
01.現物分割
現物分割は、不動産をそのままの形で誰か1人の相続人が受け継ぐ方法です。土地の場合には分筆してそれぞれの相続人が分筆ご相談の土地を受け継ぐことも可能です。
現物分割の欠点は不公平になりやすいことです。分筆すれば公平に分割しやすくなりますが、すべての土地を分筆できるわけではありませんし、建物は分筆できません。
02.代償分割
代償分割は、誰か1人の相続人が不動産を取得し、他の相続人ヘ代償金を払って清算する遺産分割方法です。
代償金が払われるので、比較的公平に遺産分割できるメリットがあります。
なお、代償分割をする際には不動産を評価しなければなりませんが、先述のとおり評価方法で意見が割れる可能性があります。また、代償分割で不動産を取得する相続人に資力が必要です。資力がない場合は、代償分割をすることはできません。
03.換価分割
換価分割は、不動産を売却して現金で分ける方法です。
売却金から不動産の売却にかかった経費を差し引き、残った金額を法定相続分に応じて分割します。
換価分割を利用すると、公平に遺産分割できるメリットがあります。
しかし、不動産という資産を失うこととなるので、のちの世代に伝えたり活用したりすることはできなくなります。売り急いで損をしてしまうケースも珍しくありません。
また、必ずしも速やかに売却処分できるとは限りません。
04.共有
相続人で共有する方法もあります。相続人間で話し合っても意見が合わない場合等には、共有とするケースもあります。
共有状態にしたままだと、将来不動産を活用したり売却したりする際に他の共有者と話し合う必要があります。意見が合わない場合は、活用も売却もできません。
トラブルを避ける目的で共有状態にしても、結局はトラブルの先延ばしにしかならないケースが多数です。
共有とするのはできるだけ避けて、現物分割、代償分割、換価分割のいずれかの方法を選択して相続することを推奨します。
不動産の相続トラブルを予防する方法
相続での不動産トラブルの発生を予防する方法についてみてみましょう。
01.被相続人に遺言書を作成してもらう
トラブル発生の予防方法の一つとして、被相続人が生きている間に遺言書を作成してもらう方法があります。
遺言書があれば、遺言書で指定されたとおりの方法で遺産分割するのが原則です。相続人同士で話し合わなくて良いので、遺産分割協議における相続トラブルを避けられるメリットがあります。
また、特別受益の持戻計算免除をしてもらっておけば特別受益の持戻計算を行わないので特別受益を受けた相続人がいてももめごとを避けることができます。
相続トラブルを避けるため、被相続人が元気なうちに遺言書を作成してもらっておきましょう。
02.民事信託を利用する
2つ目は民事信託を利用する方法です。
民事信託とは、財産を信頼できる家族に預けて管理してもらう信託契約です。親が元気なうちは親のために管理してもらい、親が亡くなった後は相続人がその他の人のために財産管理を依頼できます。
たとえば収益不動産がある場合、物件の管理を親族に依頼した上で、相続人全員を「受益者」としておけば、管理者が適切に物件を管理して相続人へと収益金を分配します。
相続人には管理の手間もかかりませんし、収益金の分配でトラブルになるリスクも低減できます。スムーズに賃料を分配できてトラブルにつながりにくくなるメリットがあるといえるでしょう。
03.被相続人の生前に被相続人を交えて話し合っておく
不動産の相続が予定される場合、被相続人を交えて相続人間で話し合いをしておきましょう。死後はもめてしまうケースでも、生前なら落ち着いて話ができるケースが多いためです。
その際、被相続人の意向も聞きながら誰がどのように遺産相続するか、できるだけ決めておくようおすすめします。
- 誰が不動産を相続するのか
- 相続税はどうやって支払うのか
このあたりをしっかりと話し合っておきましょう。また、決まったことを遺言として残してもらうようにすると間違いはないといえます。
04.生命保険に入る
相続税の支払い資金を捻出するためには、生命保険へ入っておく方法が有用です。
生命保険に加入しておけば、支払われら死亡保険金を相続税の支払いに充当することができます。また、生命保険金は遺産の範囲に入らないので、受け取っても相続人間で分け合う必要はありません。遺産分割トラブルのもとにはなりにくい性質があります。さらに死亡保険金には相続税控除も認められるので、現金のまま持っておくより相続税の節税にもつながります。
相続税の納付方法に不安のある場合には、被相続人の元気なうちに生命保険に入っておくと良いでしょう。
トラブルが起こった際の解決方法
実際にトラブルが起こってしまった際の解決方法についてみてみましょう。
01.他の相続人ともめたとき
相続人間でもめてしまった場合には、家庭裁判所で遺産分割調停や審判を利用しましょう。
遺産分割調停
遺産分割調停とは、相続人が家庭裁判所のサポートを受けて遺産分割の方法を話し合うための手続きです。
遺産分割調停を申し立てると、家庭裁判所の調停委員が当事者の間に入って意見を調整してくれます。裁判所から調停案を出してもらえるケースもあり、相続人全員がその案に合意すれば最終解決できます。
遺産分割審判
遺産分割審判とは、裁判所が遺産分割の方法を決定する手続きです。
遺産分割調停が不成立になった場合には手続きは自然に遺産分割審判へと移行します。審判になると裁判官が適切と考えられる遺産分割方法を指定してくれます。相続人同士の意見が合わなくても遺産分割できるメリットがるといえるでしょう。
ただし遺産分割審判の場合、必ずしも希望通りの分割方法が選択されるとは限りません。相手の言い分が通ると気に入らない内容の分割方法が指定される可能性もあります。
02.不動産を相続したくないとき
「不動産の相続トラブルに巻き込まれたくない」などの事情で遺産を相続したくないときには、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄すると、その相続人は初めから相続人ではなかった扱いになります。相続人ではないので、不動産も相続しませんし、遺産分割協議に参加する必要もありません。
ただし、相続放棄は特定の財産のみについてできるものではありません。相続財産の一切を放棄することとなるので、当然に不動産以外の資産も引き継げなくなってしまいます。「不動産は相続したくないけど現金は相続します」ということはできません。
また、相続放棄をしたいときには「自分のために相続があってから3か月以内」に家庭裁判所で申述しなければなりません。期限をすぎると相続放棄できなくなるので相続放棄したい場合には対応を急ぎましょう。
03.相続税を払えないとき
相続税を払えない場合には、延納や物納といった方法を検討しましょう。
延納
延納とは相続税を分割払いする方法です。
なお、延納すると利子税がかかってくるのでトータルでの支払金額は大きくなります。また、延納を利用するには担保を提供する必要があります。
物納
物納とは、不動産などの遺産そのものを相続税の代わりに納付する方法です。
物納の場合、不動産の評価額が相続税評価額と同様になるため時価での評価額よりも下がってしまうのが一般的です。自分たちで不動産を売却して相続税を支払う方が経済的といえるでしょう。
なお、相続税の申告と納付の期限は相続発生を知ってから10か月以内です。不動産を相続した場合には、早めに現況調査や評価などを行い、相続税申告と納付の準備を開始しましょう。
不動産を相続する場合の相談先
不動産を相続する際には、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。スムーズに解決するには専門家に相談する方法が有効です。
01.不動産登記については司法書士
司法書士は登記の専門家です。
相続した不動産がまだ登記されていない、相続登記したいなど登記に関する点は司法書士へ相談しましょう。
02.相続税については税理士
税理士は税務関係の専門家です。
相続税の計算や申告方法などについては税理士に相談しましょう。
03.相続トラブルが起きたら弁護士に相談
相続の場面では利害の対立等によりトラブルが起きることが往々にしてあります。他の相続人ともめて意見が合わないなどのトラブルが起こった場合には弁護士に相談しましょう。
弁護士はトラブル解決能力のある法律の専門家です。当事者の代理人となって相手と交渉したり遺産分割調停や審判の代理人となって活動できます。
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