法定相続分と遺留分の違いは何でしょうか?
両者は似たようなものに見えますが実際はまったく異なります。こと相続の場面においてはそれぞれの意味や違いを正しく知ったうえで適切な対応を進めなければ大きな不利益が及ぶ可能性もあります。
今回の記事では、法定相続分と遺留分の違い等について解説します。
法定相続分
法定相続分とは、民法が定める各法定相続人の遺産取得割合です。法律において、被相続人(亡くなられた方)の財産を相続するにあたり、各相続人(遺産を相続する人)の取り分(割合)が定められております。
被相続人が遺言書を残していた場合はその内容にしたがって遺産相続が行われますので、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)は行われないのが通常です。
他方で被相続人が遺言書を残していない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行ないどのように割合で遺産を分割するするのかを話し合う必要があります。この際に基準・指標となるのが法定相続分です。
遺産取得割合について一切の基準・指標がないと遺産分割協議の場面で争いやいざこざが多発することが予想されます。基準となる割合が法で定められていれば、相続人としても納得しやすいものです。
なお、遺産分割協議の場面において法定相続分とは異なる割合で分割することに相続人全員が納得している場合は、法定相続分以外の割合で遺産相続してもかまいません。あくまで法定相続分は基準に過ぎないので当事者が納得しているのであれば必ずしも法定相続分の基準に従う必要はないのです。
遺留分
遺留分は、一定範囲の法定相続人に保障される最低限度の遺産取得割合です。被相続人の亡きあとに残された相続人の生活を保障するための制度といえます。
特定の人物に偏った遺言や不公平な贈与等が行われると、法定相続人であっても遺産を一切受け取れなかったりほとんどもらえなかったりすることがあります。
配偶者と子どもが1人いる方が亡くなられたケースを想定します。この場合、配偶者と子どもが法定相続人となります。
もしAさんが「自分の遺産は全て自分の弟に相続させる」と遺言を残していたらどうなるでしょう。遺言書がある以上、これに従って相続をすることになりますが、遺言書に従いAさんの弟がすべてを相続するとなると、法定相続人であるはずの配偶者及び子どもは一切の遺産を受け取ることはできません。
遺言においては被相続人の希望を尊重することも大切ですが、残された人々のことも考慮する必要があります。そこで法律では被相続人の法定相続人のうち一定の範囲にある者に対しては遺留分を保障しているのです。
このとおり、法定相続分と遺留分は制度の目的や問題となる場面が異なります。根本が異なるものですので混同しないように注意しましょう。
認められる人と優先順位
法定相続分と遺留分では、認められる人の範囲や優先順位(順序)が異なります。
01.法定相続分が認められる人
法定相続分が認められるのは法定相続人です。具体的には配偶者と子ども、親、兄弟姉妹が法定相続人になる可能性があります。
02.法定相続人の順序
法定相続人には順序があり、以下の順で先順位者から相続権を取得します。
◆配偶者は常に法定相続人となる
◆第一順位:子ども(代襲相続人・再代襲相続人を含む)
◆第二順位:親(祖父母や曽祖父母などの直系尊属を含む)
◆第三順位:兄弟姉妹(代襲相続人となる甥姪を含む)
先順位者がいる場合は、後順位者が相続権を得ることはありません。たとえば配偶者と子ども(第一順位)が相続する場合には、第二順位である親には相続権はありません。
代襲相続について
代襲相続とは相続人となる予定の者が被相続人より先に死亡しているとき、相続人の子どもが代わって相続することです。
たとえば父Xと、Xの子A、Aの子B(Xから見ると孫の関係)を想定します。Xが亡くなった場合、Xの子であるAが法定相続人となります。ここで息子Aが父Xよりも先に亡くなっていた場合、X氏の孫にあたるBがX氏の相続人となります。このような相続のことを代襲相続、Bのことを代襲相続人といいます。
このケースで、BもXより先に亡くなっていてかつBに子C(Xからみるとひ孫の関係)がいる場合、CがXの相続人となります。この場合のCを「再代襲相続人」といいます。
なお、兄弟姉妹が被相続人より先に死亡しているケースでも代襲相続は発生します。その場合の代襲相続人は甥や姪です。ただし甥や姪が被相続人より先に死亡していたとしても再代襲相続は発生しません。兄弟姉妹は被相続人から遠い立場であるため、代襲相続は一代限りしか認められていないと理解しましょう。
親が被相続人である子どもより先に死亡している場合
子どもが死亡した事案において、親が被相続人である子どもより先に死亡している場合、親の親である祖父母が相続人になります。
祖父母も先に死亡していれば曽祖父母へ相続権が移りますが、このように世代を遡る場合には代襲相続とはいいません。
03.遺留分が認められる人
遺留分が認められるのは「兄弟姉妹以外の法定相続人」です。法定相続分と異なり兄弟姉妹には遺留分は認められません。兄弟姉妹に認められないことから、当然に甥姪にも遺留分は認められません。
割合の違い
法定相続分と遺留分では、割合も大きく異なります。
01.法定相続分の割合
下記のルールに沿って法定相続割合(法定相続分)が定められております。
- 配偶者と子ども(第一順位)が相続する場合:配偶者2分の1、子ども2分の1
- 配偶者と親(第二順位)が相続する場合:配偶者3分の2、親3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹(第三順位)が相続する場合:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
同一順位の相続人が複数人いる場合、相続割合は同一順の相続人の頭数にて等分にします。
典型的なパターンにおけるる法定相続分について表を作成しましたので確認しましょう。
配偶者 | 子ども | 親 | 兄弟姉妹 | |
配偶者 | 100% | - | - | - |
子ども(1人) | - | 100% | - | - |
子ども(2人) | - | 2分の1ずつ | - | - |
配偶者と子ども1人 | 2分の1 | 2分の1 | - | - |
配偶者と子ども2人 | 2分の1 | 4分の1ずつ | - | - |
片親 | - | - | 100% | - |
両親 | - | - | 2分の1ずつ | - |
配偶者と片親 | 3分の2 | - | 3分の1 | - |
配偶者と両親 | 3分の2 | - | 6分の1ずつ | - |
兄弟姉妹1人 | - | - | - | 100% |
兄弟姉妹2人 | - | - | - | 2分の1ずつ |
配偶者と兄弟姉妹1人 | 4分の3 | - | - | 4分の1 |
配偶者と兄弟姉妹2人 | 4分の3 | - | - | 8分の1ずつ |
02.遺留分の割合
遺留分は「最低限度の保障」であるため、その割合は法定相続分より少なくなります。
遺留分の割合は遺産全体の2分の1が基本です。親や祖父母などの直系尊属のみが相続人になる場合は遺産全体の3分の1となります。
複数の遺留分権利者がいる場合は遺留分全体の割合を法定相続分に従って分けます。
典型的なパターンにおける法定相続分について表を作成しましたので参考にしてみてください。
配偶者 | 子ども | 親 | |
配偶者 | 2分の1 | - | - |
子ども1人 | - | 2分の1 | - |
子ども2人 | - | 4分の1ずつ | - |
配偶者と子ども1人 | 4分の1 | 4分の1 | - |
配偶者と子ども2人 | 4分の1 | 8分の1ずつ | - |
片親 | - | - | 3分の1 |
両親 | - | - | 6分の1ずつ |
配偶者と片親 | 3分の1 | - | 6分の1 |
配偶者と両親 | 3分の1 | - | 12分の1ずつ |
配偶者と兄弟姉妹 | 2分の1 | - | - |
対象資産の違い
法定相続分と遺留分では、対象となる資産内容も異なります。
01.法定相続の対象資産
法定相続の場合は被相続人の遺したすべての遺産が対象になります。
不動産や預貯金、車や株式、動産類などの資産だけではなく、借金や未払い税などの負債も相続されます。
葬儀代はプラスの遺産額から差し引いて計算します。
02.遺留分の対象資産
遺留分の対象となるのは、以下の行為によって引き継がれた財産です。
- 遺贈
- 死因贈与
- 死亡前1年以内に行なわれた生前贈与
- 贈与者と受贈者が「遺留分を侵害する」と知って行われた生前贈与
- 法定相続人への特別受益となる生前贈与(ただし相続開始前10年間に限られる)
①は遺言によって遺贈された財産です。②は死亡を原因として行われる贈与です。③については、生前贈与のうち死亡前1年間に行われたものが遺留分の対象となります。④については、死亡の1年以上前に行われた生前贈与であっても贈与者と受贈者が「遺留分を侵害する」と知っていた贈与であれば遺留分の対象となります。⑤については、相続開始前10年以内のものが遺留分の対象になります。
なお、遺留分から借金などの負債を差し引くことができますが、葬儀代を差し引くことは認められません。法定相続の遺産からは葬儀代の差し引きができるので、この点でも両者に違いがあります。
権利行使方法の違い
法定相続分と遺留分では、権利行使方法(請求方法)も大きく異なります。
01.法定相続人の権利行使方法
法定相続人が遺産を取得するには、遺産分割をしなければなりません。
分割の方法としては、①遺産を現物のまま分けるか(現物分割)、②誰か1人が受け取って他の相続人へ代償金を払うか(代償分割)、③遺産を売却して現金で分けるか(換価分割)、④不動産などを共同で相続する(共有分割)、があります。
また、遺産分割手続きの進め方ですが、まずは法定相続人全員が参加する遺産分割協議を行うことで合意を目指すのが一般的です。
話し合っても合意ができず遺産分割協議が決裂した場合は、家庭裁判所で遺産分割調停や遺産分割審判を行わねばなりません。調停は話し合いの手続きですが、審判になると審判官が遺産分割の方法を指定します。審判では法定相続分に従って遺産分割方法が定められます。
02.遺留分権利者の権利行使方法
遺留分権利者が権利を行使する方法は、遺留分侵害額請求です。
遺留分侵害額請求とは、遺留分権利者が遺留分の侵害者に対し、遺留分に相当する金銭の支払いを求めることです。
遺留分の場合、遺産そのものの引き渡しは請求できません。基本的には金銭的な清算を求めることとなります。侵害者が合意すれば、遺産を返還したり他の物を交付したりする代物弁済による解決もできます。
遺留分侵害額請求は、遺留分権利者と侵害者が話し合って遺留分侵害額の返還方法を決めなければなりません。
合意できなければ遺留分権利者は家庭裁判所で遺留分侵害額調停を申し立てる必要があります。調停も決裂した場合には地方裁判所で遺留分侵害額請求訴訟を提起します。訴訟で認められれば、裁判所が遺留分侵害額を決定して侵害者に対し相当な金額の支払い命令を下します。
基準時の違い
法定相続にもとづく遺産分割協議と遺留分侵害額の計算では、財産価額の評価基準時も異なります。
評価基準時とは「いつの時点の評価額を基準に計算するか」というタイミングです。不動産や株式などの価額が変動する財産については基準時を明らかにしないと、正確な割合や金額の算定ができません。
01.遺産分割の基準時
遺産分割の場合は「遺産分割時」の時価を基準に遺産を評価します。
たとえば不動産の評価額が相続発生時には2500万円だったところ、遺産分割時には3000万円へ値上がっていたとします。この場合、不動産を3000万円の遺産として評価し、遺産分割協議を進めます。
02.遺留分計算の基準時
遺留分の計算時における基準時は「相続発生時」の時価を基準に遺産を評価します。
たとえば不動産の評価額が、生前贈与時は2000万円、相続発生時は2500万円、遺留分侵害額請求時は3000万円だったとします。この場合、不動産を2500万円と評価します。
このように遺産分割と遺留分では財産の評価基準時が異なります。間違えないように注意してください。
時効の違い
法定相続分にもとづく遺産分割と遺留分侵害額請求では、時効の有無も異なります。
01.法定相続にもとづく遺産分割
遺産分割に時効はありません。相続発生後、1年や5年ときには10年以上が経過した後で遺産分割協議を行っても法的には問題ありません。
ただし相続税の申告期限までに遺産分割できていないと控除を適用できず、相続税が高額になる可能性があります。近年中に相続登記も義務化されて3年の期限がもうけられる予定です。時効がないとはいえ早めに遺産分割を行うのがよいでしょう。
02.遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求権には時効があり、遺留分侵害と相続開始を知ってから1年以内に請求しないと時効によって権利が消滅してしまいます。遺言や贈与によって遺留分を侵害された事実が判明したら、早めに遺留分侵害額請求を行いましょう。
なお相続開始や遺留分侵害を知らなくても、相続開始後10年が経過すると遺留分侵害額請求ができなくなります。
まとめ
最後に法定相続分と遺留分の違いを一覧表でまとめておきます。
法定相続分 | 遺留分 | |
認められる人の範囲 | 法定相続人(配偶者、子ども、親、兄弟姉妹) | 遺留分権利者(配偶者、子ども、親) |
認められる人の順序 | 配偶者以外の法定相続人には順序がある | 法定相続人となった権利者にそれぞれの遺留分が認められる(法定相続人としての順序はあるが、遺留分権利者間には順序はない) |
割合 | 法定相続分(遺留分より多い) | 遺留分(法定相続分より少ない) |
認められる目的 | 遺産相続のため | 法定相続人への最低限の遺産を保障 |
対象資産 | すべての資産 | 遺贈や一定の贈与 |
請求方法 | 遺産分割協議で分け合う | 遺留分侵害額請求 |
基準時 | 遺産分割時 | 相続発生時 |
時効 | ない | ある |
さいごに
遺産相続の場面では、法定相続分や遺留分などさまざまな法的知識が必要となります。期限のある手続きも多く、自身で対応しようとすると予想外の不利益を受けてしまうことも往々にしてあります。
そのような不利益を避けるためにも弁護士に相談することを推奨します。
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