未婚のまま妊娠し、相手が結婚してくれないまま出産することになった場合、養育費や出産費用を請求できるのでしょうか?
また、結婚してもらえないまま1人で子どもを産むことになった場合、精神的にも金銭的にも打撃を受けるであろうことから中絶の選択をせざるを得ないケースも想定されます。中絶をした場合、慰謝料や医療費を請求することはできるのでしょうか?
今回は未婚のままで出産ないし中絶した場合に、養育費や慰謝料、医療費等をどを請求できるのかどうかについて解説します。ぜひ参考にしてみてください。
1.未婚で妊娠した場合の養育費
未婚で妊娠・出産した場合、相手方の男性に養育費を請求できるのでしょうか?
実は、子どもが産まれても、何の手続きもしなかったら養育費は請求できません。
確かに子どもと父親には血縁関係があります。しかし未婚の場合、当然には「法律的な親子関係」が明らかにならないので注意が必要です。法律的な親子関係とは、「戸籍」において親子である事実が明らかになっている状態をいいます。
未婚で出産すると子どもの「母親」は明らかになりますが、父親は不明のままです。
子どもと父親の親子関係を明らかにするには、父親に「認知」してもらわねばなりません。
認知の方法にはいくつかあるので、以下でそれぞれみてみましょう。
1-1.任意認知
任意認知はもっとも簡単で基本的な認知の方法で、相手が役所へ「認知届」を提出すれば完了します。認知届の書式は役所においてあるので、相手に役所へ出向いてもらって書類を提出してもらいましょう。
任意認知は妊娠中(出産前)でもできますが、その場合「母親の同意」が必要になります。
子どもが成人した後に認知するときには子ども本人の同意が必要ですが、未成年の間は子どもの同意は要りません。
1-2.強制認知
相手が任意で認知してくれない場合には、子どもや母親の側から認知を求める必要があります。
このように強制的に認知させる方法を「強制認知」といいます。
強制認知を成立させるには、家庭裁判所で認知調停を申し立てなければなりません。相手が同意しない場合には調停は不成立となり、認知の訴え(裁判)を起こす必要があります。
DNA鑑定などで父子関係が明らかになれば、裁判所が判決で認知の決定を出してくれます。
で離婚!後悔するパターンや損しないための対処方法を弁護士が解説!-320x180.jpg)
1-3.認知が成立した後養育費を請求する方法
認知が成立したら、以下の手順で相手に養育費を請求しましょう。
話し合い
まずは相手に「養育費を払ってほしい」と打診してみてください。相手が応じるようであれば、話し合って金額を決定しましょう。
金額については自分たちで自由に決められますが、こちらの家庭裁判所の「養育費算定表」が法的な基準となります。
合意書を作成する
話し合って養育費について合意ができたら「合意書」を作成しましょう。
なお養育費は「毎月定額払」にするのが基本です。将来払われない不安があっても、一括払は基本的にできないと考えましょう。
支払を確保したいなら、合意書を「公正証書」にする方法がお勧めです。公正証書があれば、相手が将来養育費を払わないときにすぐに相手の給料や預貯金などの資産を差し押さえられるからです。
相手の立場になって考えると、公正証書があるのに支払わない場合、給料や預貯金などを差し押さえられるリスクを負うことになります。そのようなリスクを避けるため自然と支払おうとする人が多いので、滞納されにくくなるメリットもあります。
養育費の合意書は、手間と費用をかけても公正証書化しましょう。

養育費調停を申し立てる
話し合っても相手が養育費の支払に応じない場合や金額面で折合いがつかない場合には、家庭裁判所に「養育費調停」を申し立てましょう。
子どもが認知されていれば、戸籍謄本で親子関係を証明できるので、離婚後の夫婦と同じように、調停で養育費の取決めができます。相手が支払を拒否しても調停委員が説得してくれるので合意しやすくなるでしょう。
なお、調停でも、養育費の基準額は上記でご紹介した「養育費の算定表」に準じたものとなります。
双方が合意したら調停が成立し、家庭裁判所で調停調書が作成されます。調停調書にも強制執行力があるので、相手が支払わないときにはすぐに差押さえが可能です。
養育費審判で支払命令が出る
調停で話し合っても合意できない場合には、調停から「審判」という手続きに移行します。
審判では審判官が養育費の金額を決めて、相手に支払命令を出してくれます。相手が拒否しても審判を避けることはできません。
過去分の滞納がある場合には、申立時からの分をまとめて支払うよう命じてくれます。
また審判にも強制執行力が認められるので、相手が支払わない場合には給料などを差し押さえて回収できます。
このように、未婚のまま出産してもきちんと認知を成立させて手続きを踏めば養育費を請求できます。お1人で対応するのが難しければ、弁護士にご相談ください。
2.未婚で妊娠した場合の慰謝料

未婚で妊娠し、結婚してもらえないまま1人で子どもを産むことになったら精神的にも打撃を受けるでしょう。
中絶の選択をせざるを得ないケースもあります。
そんなとき、相手に慰謝料を請求できるのでしょうか?
2-1.妊娠しただけでは慰謝料は発生しない
実は未婚で妊娠しただけでは、慰謝料は発生しません。
男女が双方合意の上性交渉を行ったのであればそこに精神的苦痛は認められませんし、それによって妊娠したとしても通常の流れといえるからです。
また中絶すると女性側は大きく傷つきますが、必ずしも男性の違法行為によるものとはいえません。
2-2.慰謝料を請求できる場合
未婚で妊娠したとき、以下のような状況であれば相手に慰謝料請求できる可能性があります。
性交渉を強要された
相手に性交渉を強要された場合には、人格権の侵害となりますので慰謝料を請求できます。
金額的には100~500万円程度となるでしょう。
暴行や脅迫の手段によって性交渉を強要されたのであれば「強制性交等罪」という刑法上の犯罪も成立します。刑罰は「5年以上の懲役刑」とされ、大変重い犯罪です(刑法176条)。
ただし、相手が刑事罰を受けても必ずしも慰謝料が支払われるとは限りません。
慰謝料請求については刑事手続とは別途行う必要がありますので、お1人で対応するのが難しければ弁護士にご相談ください。

婚約破棄された
結婚の約束をしていたから性交渉に応じたのに婚約を破棄された場合「婚約破棄」を理由に慰謝料請求できる可能性があります。
婚約破棄の慰謝料は、だいたい50~300万円程度となるケースが多いでしょう。

婚約破棄で慰謝料が高額になる条件
慰謝料が高額になりやすいのは、以下のような場合です。
- 婚約期間が長い
- 子どもができた(中絶、流産、出産した)
- 婚約破棄した側の対応が不誠実
- 婚約破棄された側が退職した
- 婚約破棄された側の年齢が高い
- 婚約破棄された側がうつ病などの精神疾患にかかった
婚約破棄で慰謝料が発生する条件
婚約破棄で慰謝料が発生するには以下の要件を満たす必要があります。
◆婚約が成立していた
結婚指輪や婚約指輪を交換した、結婚式や新婚旅行の準備をしていた、結納式を終えていた、双方の親に挨拶を済ませていたなど、客観的に婚約成立を確認できる事情が必要です。
当事者間の口約束だけでは婚約成立が認められない可能性が高いので注意しましょう。
◆正当な理由なく相手が破棄した
慰謝料が発生するのは婚約破棄に「正当な理由がない場合」です。たとえば「相手から暴言を吐かれた」「非常識的な行動をとられたのでやむをえず婚約を解消した」「病気になった、障がい者となった」など、正当な理由があれば婚約破棄されても慰謝料を請求できない可能性があります。
◆相手が不倫した、暴力を振るった
相手が浮気したり暴力を振るったりしたのでやむなくこちら側から婚約を解消した場合には慰謝料を請求できます。
不誠実な対応をされた場合
子どもの出産や中絶の際、相手が不誠実な対応をすると慰謝料を請求できる可能性があります。
裁判例でも「男女が共同で行った性行為の結果としての妊娠については、男女が等しく不利益を分担すべき」と判断されています(東京高裁平成21年10月15日)。
つまり妊娠という結果には相手にも責任があるので、誠実に対応しなければならない、という意味です。
たとえば妊娠を告げたとたんに相手が音信不通となり、一切の費用負担に応じなかった場合には、慰謝料を請求できる可能性が高いでしょう。

3.未婚で妊娠した場合の出産費用、中絶費用

未婚で妊娠した場合の出産費用や中絶費用は相手に請求できるのでしょうか?
最低限、半額は請求しましょう。
出産費用や中絶費用は男女が行った性行為にもとづいて発生するものです。それであれば男女が等しく負担するのが公平といえるでしょう。実際にも未婚で子どもを出産するときには、費用を折半にするケースが多くなっています。
また男性側に経済力がある場合には、全額の負担を求めてもかまいません。
4.未婚で妊娠したときの対応の流れ

以上を前提に、未婚で妊娠したときにやるべきことの流れ、手順をまとめます。
STEP1:まずは相手に妊娠を告げる
妊娠したら、まずは相手に妊娠した事実を告げましょう。
相手に伝えなければ何も始まりません。関係が壊れるのがこわくて言い出せない方もおられますが、遠慮する必要はありません。
相手が誠実に対応してくれるなら、トラブルに発展することもないでしょう。
STEP2:医療費を請求する
次に相手に医療費を請求します。
妊娠すると、定期健診や出産、中絶にかかる費用など高額な医療費がかかります。
相手には最低限半額の負担を求めましょう。状況によっては全額支払ってもらってもかまいません。
このとき相手が不誠実な態度をとると、慰謝料が発生する理由となります。
STEP3:認知を求める
子どもを産むのであれば、早めに相手に認知してもらうべきです。
認知が成立すると、養育費を請求できるだけではなく、将来相手が死亡したときに遺産相続も可能となります。
妊娠中に認知してもらうなら母親の同意が必要となるため、所定の書類に署名押印しましょう。出産後であれば母親の承諾は不要です。
相手が任意に認知しない場合、家庭裁判所で認知調停や認知の訴えを申し立てましょう。
認知手続きで困ったことがあったら、早めに弁護士に相談してください。
STEP4:養育費を請求する
認知が成立したら養育費を請求します。合意ができたら公正証書にまとめましょう。
任意で養育費を払おうとしない場合には、家庭裁判所で養育費調停や審判を利用して支払わせる必要があります。
調停や審判が出ても相手が支払わない場合、地方裁判所へ「強制執行(差押え)」の申立てをすれば、給料や預貯金などから強制的に養育費の取立てができます。
STEP5:場合によっては慰謝料を請求する
妊娠発覚後の相手の対応が不誠実だった場合や婚約破棄された場合、性交渉を強要された場合などには、相手に慰謝料を請求しましょう。
まずは話し合いで慰謝料の支払を求めてください。合意ができたら「慰謝料支払いに関する合意書」を作成し、できれば公正証書にしましょう。
任意で払ってもらえないときには地方裁判所で「慰謝料請求訴訟」を起こす必要があります。
訴訟で支払命令が出たら、相手の資産や給料を差し押さえることも可能です。
ただし慰謝料請求権には時効があります。「損害と加害者を知ったとき」から3年が経過すると慰謝料は請求できなくなってしまいます。
慰謝料請求に際しては証拠集めなどの準備も必要になるので、できる限り早めに対応を進めるのがよいでしょう。
お子様の世話や児童扶養手当の申請などの行政手続きで忙しくしていると、3年などすぐに経過してしまいます。慰謝料請求の準備や交渉などは、弁護士にお任せください。
5.未婚で妊娠してお悩みのなら弁護士へご相談を

未婚のまま妊娠してしまったら、さまざまなことが心配になるでしょう。認知請求や養育費の請求など、婚姻中の夫婦以上に複雑な対応が必要です。お1人だけでは適切に権利を実現できず、不利益を受けてしまうおそれも高くなるでしょう。
弁護士に相談すれば「今何をすればよいのか」が明らかになります。相手方との交渉や調停、訴訟なども任せれば、最終的にきちんと養育費の支払を受けられるものです。
お困りの方がおられましたら、お早めに恵比寿の弁護士までご相談ください。


