借金や負債の問題を解決するために債務整理手続きに臨もうと考えたとき、気になるのはデメリットの部分です。債務整理をすると私生活上で不利益を被るのでは、と懸念される方は多数いらっしゃいます。
今回の記事では、債務整理手続きに臨んだ際に生じるデメリットについて解説します。
債務整理の種類
個人の債務整理手続きには、下記の3種類があります。
種類 | 手続きにより得られる効果(結果) | 裁判所 |
自己破産 | 負債がなくなる | 裁判所を介した法的手続き |
個人再生 | 負債が所定の割合に圧縮される | 裁判所を介した法的手続き |
任意整理 | 現在の負債を分割して返済する(将来の利息はカットされることがほとんど) | 裁判所を介さない私的手続き |
手続により得られる効果は、負債がなくなる自己破産が最も大きいといえます。各々の手続きの効果については、下記リンクをご確認ください。
債務整理に共通するデメリット
債務整理手続きに臨むのであれば覚悟しておかねばならないデメリットがあります。それは信用情報機関に事故情報が登録されてしまうことです。これは、自己破産、個人再生、任意整理、いずれの手続きにも共通です。
CICやJICCといった信用情報機関に事故情報と呼ばれるネガティブな情報が登録されると、その後一定期間、ローンやクレジットカードの審査に通らなくなります。詳細は下記のリンクを参照ください。
なお、世間では『ブラックリストに名前が載った(登録された)』などと表現されることがありますが、実際にはブラックリストなるものは存在しません。
事故情報は5~10年間記録されるので、キャッシュレス推進が謳われる現代社会においては不便な生活を強いられるようにも考えられます。
しかし、クレジットカードの代わりとして、銀行(金融機関)が発行するデビットカード(その銀行の口座残高を利用限度額とし、カード利用時に口座残高から即時引落しがなされるカード)や事前チャージタイプの電子マネーなどを利用することはできます。ETCカードについても、銀行口座と紐づけるETCパーソナルカードという代替手段を使用することができます。
このように現代社会ではクレジットカードの代替手段といえるものは多々あるので、致命的なデメリットにはなりません。
自己破産のデメリット
自己破産手続きによるデメリットとしては以下のものがあります。
- 申立準備(書類の収集等)が大変
- 官報に名前と住所が掲載される
- 高額の費用が掛かる
- 一定の資格や職業が制限される
- 引越しや長期旅行が制限される
01.申立準備(書類の収集等)が大変
自己破産は裁判所を介した法的手続きですので、申立書にはちゃんとした様式があります。弁護士に破産申立を依頼した場合、基本的には弁護士が申立書を作成してくれますが、家計の状況などの書類については、自身でしっかりと作成する必要があります。
また、申立書には添付しなければならない書類がたくさんあります。例えば以下のようなものです。
- 住民票
- 開設口座(所有口座)の取引履歴
- 収入証明
- 退職金明細書
- 保険証券、解約返戻金証明書
これらを収集するのはかなりの手間と時間を要します。
02.官報に名前と住所が掲載される
官報に名前と住所が掲載されます。ここから他人に手続きが発覚する可能性はありますが、官報のすべてに目を通す人は稀なのでこれにより他人バレするのはレアケースと言えます。
03.高額の費用が掛かる
破産手続きを弁護士に依頼した場合、弁護士に対する費用(着手金など)で30万円以上のお金がかかります。また、予納金(管財人への引継ぎ費用)として最低20万円がかかります。
04.一定の資格や職業が制限される
身分が破産者となっている期間、具体的には破産の開始決定が出てから免責許可決定の確定までの期間は、所定の資格(宅建士、税理士といった士業等)を利用したり所定の職業・地位(株式会社の取締役等)に就くことが制限されます。
05.引越しや旅行が制限される
身分が破産者である間は、引越しや宿泊を伴う旅行を行なう場合、管財人や裁判所の許可が必要となります。
自己破産についての勘違い
破産手続に対するよくある勘違いについてみてみましょう。
01.所有する財産を全て失うことになる?
よくある誤解の一つに、「自己破産をすると所有している全ての財産を失う」というものがあります。
破産手続きが、破産者が有する財産を換価処分して、債権者に平等に配当する手続きであることから、破産者が有する財産は換価処分の対象となります。この点から「自己破産すると財産がなくなる」と考えられているようです。
しかし、実際にはすべての所有する財産が換価処分の対象となるわけではなく、一定の範囲の財産については、換価処分の対象とはなりません。
例えば、以下のものは換価処分の対象とはなりません(東京地裁基準)。
- 99万円以下の現金
- 20万円以下の預貯金
- 20万円以下の保険解約返戻金
- 所定の家財、家電
- 洋服等
「99万円以下の現金は換価されない」というのは、99万円までは現金を有していても問題ないということです。99万円を超えた金額については配当原資に回されることとなります。
また、換価対象となるような財産であっても、それを維持しなければならない特別な事情がある場合には残すことができることもあります(ex.高齢者の生命保険)。このあたりの判断基準はケースバイケースです。
なお、上記の運用は東京地方裁判所の運用ルールであり、東京以外の裁判所では基準が異なることがあります。
02.住民票や戸籍謄本に記述される?
もう一つの誤解として、「破産したことが住民票や戸籍謄本に載る」というものがあります。
これは明らかに誤りです。住民票や戸籍謄本には、「破産をしたかどうか」を記載する欄はありません。従って、破産したという情報がこれらの公的書面に記載されることはありません。
なお、破産の開始決定が出たタイミングで、破産者の本籍地の市役所に通知され、破産者名簿にその事実が記載されますが、この破産者名簿は、破産者でないことの身分証明書を発行する際に使用されるものであり、第三者(一般の人)が閲覧する事はできません。
また、免責決定が確定し、復権すれば、破産者名簿からは抹消されます。
個人再生のデメリット
個人再生は、破産手続と同じく、裁判所を介した法的手続きになります。デメリットについては、自己破産手続とほぼ同一なのですが、異なる部分もあります。
01.自己破産と共通のデメリット
- 申立準備(書類の収集等)が大変
- 官報に名前と住所が掲載される
- 高額の費用が掛かる(管財人費用20万円は不要ですが、個人再生委員への報酬(15万円~)がかかります)
02.破産手続と異なるポイント
資格制限がない
破産手続では破産者である間は資格制限が課されますが、個人再生手続きでは資格制限はありません。そのため、宅建士等の資格を利用して仕事をしている方に影響を与えることは在りません
引越しや旅行は制限されない
旅行については制限されません。なお、引越しすることについて制限自体はないものの、引越しの届け出は必要となります。手続き中に引っ越しを希望する場合は、弁護士としっかりと打ち合わせをしましょう。
財産が換価処分されない
破産手続においては所定の財産を除き、財産は換価処分されることが原則です。しかし、個人再生手続きにおいては、財産は換価処分されることはありません。なお、あくまで換価処分されないだけであって清算価値には計上されることになります。
また、住宅ローンを支払中の自宅についても、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することで維持することが可能です。
任意整理のデメリット
任意整理とは、弁護士と債権者とで交渉し、負債の返済方法を取り決める手続きです。
①長期の分割支払、②将来利息のカット、等を盛り込んだ和解を成立させることを目的としますので、任意整理をする前よりも毎月の返済額や将来的な総返済額を抑えることが可能となります。
01.自己破産、個人再生と異なる点(メリット)
任意整理は、裁判所を介した手続きではありません。そのため、自己破産や個人再生手続きにあった以下のデメリットはかかりません。
- 所定の財産が換価処分される
- 申立準備(書類の収集等)が大変
- 官報に名前と住所が掲載される
- 一定の資格や職業が制限される
- 引越しや長期旅行が制限される
また、費用についても、ほとんどの弁護士事務所において、「介入する業者数×4万円」といった費用体系を取っており、管財人や個人再生委員に支払う費用もないため、費用面でも少額となります。
02.任意整理のデメリット
自己破産手続や個人再生手続きと異なり、ただし負債の元本を減らすことはできません。この点が、他の債務整理手続きと比較してのデメリットと言えます。
抱えている負債の元本を減らすことができないことから、多額の借金のある方、収入が少ない方は任意整理で問題を解決することは困難と言えます。
さいごに
この記事を読まれている方の多くは、債務や返済について何かしらのトラブルや心配事を抱えているかと思われます。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、個人の借金トラブルの解決に力を入れて取り組んでおります。債務や返済に関するトラブルにお悩みの方はぜひ鈴木総合法律事務所にご相談下さい。