複数の貸金業者や金融機関、信販会社に対し、借入やショッピング残を抱えており、その返済が困難になっている方を多重債務者と言います。
多重債務者の方のほとんどは、自身の収入だけでは毎月の約定返済額を捻出することが困難な状況に陥っております。そのため、返済をするために借入を行なうという自転車操業状態に陥っていることがほとんどであり、いつまで経っても多重債務の状況から抜け出すことができません。
このような方を救済するための制度として自己破産手続きが用意されておりますが、手続きの流れ、メリットやデメリットについてご存じでない方がほとんどです。
今回の記事では、自己破産手続きの流れ、メリットやデメリットについて弁護士が解説します。
自己破産とは
01.手続きの内容
まずは自己破産とはどういった手続きなのかを見てみましょう。
自己破産は、債務整理手続きの一つであり、裁判所に申立てを行ない手続きを進めます。
破産手続きが終えると、裁判所から免責決定と呼ばれる決定が出されるのですが、これが出ると、『抱えていた債務(負債)を支払う「責」任を「免」除する』という効果が破産者に付与されます。
「支払う責任を免除する」とはすなわち負債がゼロになるということです。
銀行カードローンからの借入、サラ金からの借入、クレジットカードのショッピング残、住宅ローンなどの債務はもちろんのこと、滞納していた家賃や光熱費(一部を除く)、電話代なども免除してもらえます。
また、免除される負債について限度額はありません。数千万円や数億円の負債であっても免除されますので得られる効果は絶大と言えます。
非免責債権はゼロにはならない
破産手続を行えば全ての負債が免除されるわけではありません。一定のものについては非免責債権とされているので免責の効果が及ばないのです。非免責債権の詳細については下記のリンクを参照ください。
02.自己破産手続きの種類
自己破産には、少額管財事件と同時廃止事件の2種類があります(東京地裁)。
基本は少額管財事件で処理されますが、所定の要件を満たす場合(財産がない、免責不許可事由がない等)には少額管財事件よりも手続きが簡略化された同時廃止事件となります。
なお、少額管財事件であっても同時廃止事件であっても申立書の内容、申立する上で必要な書類、手続き終結による効果(免責)については、変わりありません。
自己破産の流れ
次に自己破産の流れについてみてみましょう。
なお、以下の説明のうち、「債務者」は負債を抱え破産に臨もうとしている人のことを指します。破産の申立後は「破産者」となります。
また、以下の流れは、弁護士に依頼して、東京地方裁判所管轄で申立を行ない、少額管財事件として受理された場合のものです。管轄が異なる場合や同時廃止事件で受理された場合とは手続きの流れが異なることにご留意ください。
01.弁護士への相談、依頼
まずは抱えている借金問題について弁護士に相談をします。
債務者は、自身の負債の状況や財産の状況、収入状況等を伝え、適切な債務整理の方針を弁護士に教えてもらいましょう。問題解決に自己破産が適切ということであれば、弁護士に自己破産手続を依頼します。
02.申立ての準備
自己破産を申し立てるうえで申立書を作成する必要があります。
申立書そのものは弁護士主導で作成してくれますが、添付書類については債務者自身で集めなければなりません。弁護士から必要書類の収集を指示されるので指示されたものを用意しましょう。
なお、必要書類としては以下のものが挙げられます。
- 住民票
- 所有口座の通帳、取引履歴(2年分)
- 給与明細、賞与明細
- 源泉徴収票
- 退職金(見込額)証明書
- 保険証券、解約返戻金計算書
- 車検証、自動車の査定書
- 居住証明
もちろん上記の書類は一例です。債務者の所有財産や家族構成等によって必要となる書類は増減します。弁護士から指示されたものはしっかりと収集しましょう。
03.申立
書類が全てそろい、申立書の作成が完了したら申立を行います。また、即日面接といって申立内容について弁護士と裁判官が面談することになります。
この申立手続き及び即日面接は、全て弁護士が対応するものであり、債務者がなにか対応することはありません。
04.開始決定
自己破産の申立をし事件が問題なく受理されると、破産手続開始決定が出ることになります。開始決定とは「手続きが始まりますよ」という決定、すなわちスタートの合図です。
この開始決定は、通常、申立を行なった日には出ません。東京地方裁判所の場合、申立をした日の属する週の翌週の水曜日の17時に出ることになります。なお、所定の事情がある場合には特別に開始決定を早く出してもらうことが可能です。
開始決定が出たタイミングで、債務者は「破産者」となります。破産者である間は、「所定の資格について制限がかかる」、「郵便物が転送される」といった制約がかかることとなります。
05.破産管財人の選任、管財人面談
即日面接が終わった段階で、破産管財人が指名されます(選任は開始決定と同時になされます)。
なお、東京地方裁判所管轄の場合、破産者は、開始決定日までに管財人と面談をする必要があります。弁護士とともに破産管財人の事務所を訪問し、面談するのが一般的です。
06.財産の換価・配当、調査
破産手続の一環として、破産者(債務者)が有している所定の財産が管財人によって換価処分されます。換価が済むと債権者への配当原資に充てられます。
07.債権者集会
開始決定が出たタイミングで債権者集会の日程が指定されます。債権者集会は、開始決定日の2ヶ月~3ヶ月後の日程で設定されることがほとんどです。
破産者は、この集会に出頭する必要があります。弁護士を代理人としている場合は弁護士が同行してくれます。
08.免責決定
財産の換価処分、配当が滞りなく終わり、免責を与えても問題ないと判断された場合は、破産手続きは終結となります。破産手続きが終われば、債務者の身分は破産者ではなくなります。
手続き終結に併せて免責許可決定が出されます。これにより抱えている負債について支払う責任を免れることとなります。
メリット
弁護士に依頼して自己破産手続きに臨むと、以下のようなメリットがあります。
01.弁護士が介入により督促が止まる
弁護士に自己破産手続を依頼すれば、債権者からの督促を止めるることがことができます。
これは、貸金業法の規定により、弁護士の介入後、貸金業者は債務者に直接督促してはならないとされているからです。それゆれ、弁護士介入後は督促の電話も通知書もありません。
また、弁護士介入後は、毎月の弁済を止めてしまったOKなので、返済に追われていた生活から解放されることとなります。
02.負債がゼロになる
自己破産をし免責を得ることができれば、(非免責債権を除く)すべての借金・負債が免責によってなくなります。債務整理手続きには、個人再生や任意整理といった手続きもありますが、負債がゼロになるのは自己破産のみです。
返済の必要がなくなるので、個人再生や任意整理等と比べて、その後の生活の再建を図りやすいといえます。
03.強制執行を止めることができる
債権者に債務名義を取られ、給与差押え等の強制執行を受けている場合、自己破産の開始決定が出れば、強制執行を止めることができます。
デメリット
自己破産手続には、以下のデメリットもあります。
01.一定以上の財産を処分する必要がある
20万円以上の解約返戻金がある生命保険、自動車、有価証券等、については管財人による換価処分の対象となります。
特別な事情がない限り、換価処分の対象から外すことはできません。
02.信用情報に事故情報が載る
弁護士に依頼した時点で、信用情報上には事故情報が載ります。いわゆるブラックリストに載るというものです。
また、自己破産をして免責を得た場合、免責日から5~10年間、事故情報が載り続けます。
事故情報が載っている間は与信審査が通らないので、新たにカードを作成することは困難といえます。また、携帯端末の分割購入にも悪影響を与えることがあります。詳細は以下のリンクを参照ください。
03.官報に掲載される
自己破産に臨んだ場合、官報に2回ほどに情報が掲載されます。
官報とは、政府が発行している機関紙(新聞)であり、氏名や住所などの情報が掲載されます。詳細は以下のリンクを参照ください。
04.資格制限を受ける
破産者である期間は、警備員や生命保険外交員、士業の資格、後見人の資格など、一部の資格が制限されます。そのため、これらの資格を使用する職に就いている方などは破産手続きに臨むことが妥当でないことがあります。
なお、破産者である期間は、破産の開始決定が出てから、免責決定が確定するまでの期間です。
05.破産者であることによる制限がある
少額管財事件の場合、破産者である間は以下の制限を受けることとなります。
- 破産者宛の郵便物が全て管財人に転送される
- 引越しについて管財人の許可が必要
- 出張や帰省を含む宿泊を伴う移動に管財人の許可が必要
さいごに
負債のトラブルは、時間の経過によって解決に向かうものではありません。放置しても百害あって一利なしです。また、お金に関する問題ということで自身の日常生活に直結します。借金問題を苦にして自ら命を絶ってしまう方も少なくはありません。
この借金の問題については、弁護士に相談すると嘘のように解決できることがほとんどです。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では、借金問題の解決に力を入れて取り組んでおります。多重債務でお困りの方は、お早めに弁護士にご相談下さい。