自己破産手続の手続きが終結した際、破産者個人には免責が許可されます。
免責とは、債務を支払う責任を免れるという効果です。
免責を得ることができれば、債務を支払う責任(義務)がなくなる、すなわち負債がなくなる、ということになりますので、破産手続に臨む破産者にとってはこの効果を得ることがゴールとなります。
しかし、すべての負債が免責の対象となるものではなく、免責の効果が及ばない負債、すなわち手続きが終結しても依然として支払い義務が残る債権が存在します。
これを専門用語で「非免責債権」といいます。
それではどのような債権が「非免責債権」に該当するのでしょうか?今回の記事では、破産手続きにおける「非免責債権」について解説します。
- 1.免責とは
- 2.非免責債権とは
- 2-1.住民税や国民健康保険料等の租税等の請求権
- 2-2.破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 2-3.暴行をして傷害を与えた被害者に対する損害賠償金など破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
- 2-4.生活費など夫婦間の相互協力扶助義務に基づく請求権
- 2-5.婚姻費用など夫婦間の婚姻費用分担義務に基づく請求権
- 2-6.養育費など子の監護義務に基づく請求権
- 2-7.生活費など親族間の扶養義務に基づく請求権
- 2-8.個人事業主の従業員の給料など雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
- 2-9.意図的に債権者一覧表に記載しなかった債権者に対する債権など破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
- 2-10.罰金等の請求権
- 3.さいごに
1.免責とは
破産手続とは、破産者が有する財産を換価処分して債権者に対し平等に分配(配当)する手続きです。従って、破産手続自体は債権者のためにある手続きと考えることができます。
これに対し、こと自己破産(個人の破産)においては、破産手続きを終えた破産者に対し免責という法的効果を与えることが通常です。
免責とは、債務を支払う責任(義務)を免除する効果を与えるものです。
「免責が許可される」イコール「債務を支払う責任を免れる」イコール「負債がなくなる」ということになりますので、自己破産に臨む破産者としてはこの効果を得ることが目標となります。


2.非免責債権とは
破産手続において負債として計上した(債権者として挙げた)負債については、すべて免責の対象となるのでしょうか(免責の効果が及ぶのでしょうか)?
この答えは、「No」です。次にあげる債務については、法律上「非免責債権」に該当し、免責されません(破産法第253条第1項)。そのため、破産手続が終了し免責対象の債権について免責が得られたとしても、非免責債権については支払いをしていかなければならないこととなります。
2-1.住民税や国民健康保険料等の租税等の請求権
住民税や国民健康保険料、自動車税、固定資産税等がこれに該当します。
2-2.破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
破産者が他者に対し、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は非免責債権となります。
「悪意で加えた」とは「その人を害する意思を有して」、「わざと」と理解していただいて結構です。
逆に、悪意を有さずになした行為(過失行為)による損害賠償請求権について免責の対象となるものとされています。
例を挙げると、知人の作成した芸術作品をわざと壊したことにより知人から請求された損害賠償金については非免責債権となりますが、誤って落としてしまい壊してしまったことにより請求された損害賠償金である場合免責の対象となります。
2-3.暴行をして傷害を与えた被害者に対する損害賠償金など破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
他者を殴るなどして暴行し傷害を与えたことによる損害賠償請求については、故意または重過失である場合は非免責債権となります。
2-4.生活費など夫婦間の相互協力扶助義務に基づく請求権
夫婦間の協力義務、相互扶助義務、同居義務に基づいて生じた債権も非免責債権にあたります。
夫婦で暮らしていくための生活費や医療費等が対象となります。
2-5.婚姻費用など夫婦間の婚姻費用分担義務に基づく請求権
結婚から離婚するまでの夫婦関係にある間、夫婦関係を維持するために必要となる費用である「婚姻費用」についても非免責債権に該当します。
婚姻費用が問題となる場面としては、不倫や浮気に基づいての別居が挙げられます。別居中に請求を受けた婚姻費用については非免責となり支払わなければなりません。

2-6.養育費など子の監護義務に基づく請求権
子どもの養育費も非免責債権となります。そのため、支払を滞納している養育費は破産手続き終結後に支払わなければなりません。

2-7.生活費など親族間の扶養義務に基づく請求権
親族間の扶養義務に基づく請求権についても非免責債権となります。なお、ここでいう親族の範囲は、直系血族、兄弟姉妹、3親等内の親族です。

2-8.個人事業主の従業員の給料など雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
個人事業主で従業員を雇っていた場合、未払の給料は非免責債権となります。
2-9.意図的に債権者一覧表に記載しなかった債権者に対する債権など破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権
破産手続において、破産者は負債全てについて債権者一覧表に記載しなければなりません。
これに反し、わざと(存在を知っていて)記載しなかった場合は、非免責債権となります。
なお、債権者側が破産者の破産手続きの開始を知っていた場合はこの限りではありません。
2-10.罰金等の請求権
刑罰としての罰金、科料、刑事訴訟の費用等についても非免責債権となります。
3.さいごに
今回の記事では、非免責債権について大まかに説明いたしました。
この記事をお読みになられている方の多くは、負債や返済について何かしらのトラブルや心配事を抱えていらっしゃるかと思います。
債務や負債に関するトラブルをお抱えになっている方はお早めにご相談ください。


