個人の債務整理は、自己破産、個人再生、任意整理の3つに大別されます。
自己破産と個人再生については裁判所を介して行う法的手続きであるため、その手続きは厳格でありかなりの制約が課されます。資料を集めたり出頭したりする必要もあります。
他方で任意整理については裁判所を介した手続きではなく私人間の交渉手続きとなります。裁判所を介した手続きではないため、資料の準備や出頭をする必要はなく制約が課されることもありません。その代わり、破産や個人再生に比べると負債に対して与えられる効果が低いです。
今回の記事では、任意整理の内容、メリットやデメリットについて解説します。
任意整理とは
01.概要
任意整理とは、債務者が抱える負債について弁護士が債務者の代理人として債権者と交渉する手続きです。現在の負債をどのように弁済するのかを取り決め和解を締結します。
任意整理は当事者間の任意の交渉により成立するものであり、交渉方法等について法律に定めがあるものではありません。従って、裁判所を介して手続きを行なう自己破産や個人再生とはその性質を異とします。
02.合意ができないと成立しない
任意整理は和解の一種であるため、双方が和解条件(弁済方法)に合意しないことには成立しません。当事者のどちらかが弁済方法に合意しないのですから、債務者側が望む和解案が必ず通るとは限らないということです。
03.合意を得られない和解条件
負債額100万円について任意整理で和解を取り交わすケースを想定します。
このようなケースで以下のような条件を提案したとしても債権者側は合意しないでしょう。
- 返済額(和解額)を50万円に減額してほしい
- 毎月5,000円の200回払いにしてほしい
①についてですが、任意整理においては基本的に債務者側から減額を望むことはできません。本件だと半分にするようお願いしております。このような無茶な要求を呑む債権者はまずいません。
また、②については返済期間が約17年と長すぎます。最長5年で分割弁済するのがが基本とされております。
何を取り決めるのか
任意整理における債権者との交渉では主に下記の点を取り決めます。
- 負債総額
- 弁済期間
- 弁済額
- 将来利息の有無
01.負債総額
和解時点での負債総額を確認します。元金のみならず和解締結日までの利息や遅延損害金を含めて算出することがほとんどです。
なお、債権者側が元金部分をカット(減額)してくれることはほとんどありません。和解締結日までの利息や遅延損害金についてはカットに応じてくれることがあります。
昔から取引している場合は減額されることもある
グレーゾーン金利が適用されていた2010年以前から取引をしている場合は、法定利率に基づく引き直し計算を行うことで債権額が減ったり、逆に過払金が発生することがあります。
02.弁済期間
上記で確認した債権額を、どのくらいの期間で分割して支払うかを取り決めます。
基本的には最長5年(60回払い)とお考え下さい。債権者によっては6年(72回払い)、7年(84回払い)に応じてくれることもあります。
5年分割に応じてくれないこともある
今までの取引の期間や経緯次第では、信頼関係が築けていないとして債権者側から長期の分割を拒否されることがあります(1~2年での分割を要求されることがあります)。
たとえば以下の事情がある場合です。
- 取引開始から弁護士介入(任意整理の実行)までの期間が短い
- 債権者からの督促連絡を無視し続けた場合
- 長期滞納をしていた場合
03.弁済額
弁済期間と併せて弁済額を決めます。基本的には毎月1回払いです。
こちらの収支状況や返済原資等を開示したうえで妥当な返済額を取り決めます。状況次第では賞与時に増額弁済することを約束することもあります。
04.将来利息の有無
確定した負債総額(債権額)に対し、利息(将来利息)を付与するかどうかを取り決めます。任意整理の場合、ほとんどの債権者において和解締結後についての利息をカット(免除)してもらうことができます。
この将来利息の免除が任意整理の最大のメリットといっても過言ではありません。その効果については後述します。
どれ程度カットしてもらえるのか
利息のカットについてですが、一切の利息を付与しない全面カットに応じてくれる債権者がほとんどです。
将来利息の全面カットに応じてくれないこともある
大多数の債権者は将来利息のカットに応じてくれるのですが、一部の債権者は社の運用で利息の全面カットに応じてくれません。また、取引期間が短い場合や督促連絡を無視し続けた等の事情がある場合にも将来利息のカットには応じてくれないことがほとんどです。
なお、そのような場合でも約定利率(契約時の金利)よりかは低いものを適用してくれることがほとんどなので或る程度の経済的メリットを享受することはできます。
任意整理できるのはどんな人?
任意整理手続は、現在の負債額を継続して弁済していく手続きです。現在の負債額を減額することは基本的にはできません。
また、債権者側も「和解を締結したとして本当に払ってもらえるのか?」という点を非常に重視します。継続した返済が見込めないようであれば和解を締結してくれません。
そのため、任意整理をするには、和解内容に従った弁済を安定して、継続して行うことができる資力を有している必要があります。
目安となりますが、自身の収入額から生活費等を差し引いた金額(返済原資)に0.8掛けした金額が、現在の負債額を60(5年での弁済回数)で割った金額に達しないのであれば任意整理での解決は難しいとお考えいただいて結構です。
収入が少なく毎月の弁済が見込めない方、負債額が高額すぎて継続した弁済が見込めない方は、任意整理以外の方法を検討しましょう。
任意整理のメリット
任意整理のメリットを見てみましょう。
01.将来利息をカットできる
任意整理手続を行なう一番のメリットと言っても過言ではありません。例を挙げて説明します。
毎月15.0%の利息が付される100万円の負債について、毎月1.7万円を返済するとします。この条件で100万円を完済するには、111ヶ月後、延べ183.7万円を支払ってようやく完済に至る計算になります。元本100万円に対し、83.7万円もの利息を払わないとならないことが確認できます。
他方で100万円の負債について将来利息カット、5年60回払いで弁済するという和解を取り交わすことができた場合、毎月1.7万円を60回弁済したら完済に至ります。利息が付与されないので総額は100万円です。
和解を取り交わさずに返済を継続した結果と比較すると、期間は約半分になっており、総支払額の点でも83.7万円減らすことができております。
このように和解を取り交わした方が、時間的にも返済額的にもメリットが大きいことは一目瞭然です。もちろん、将来利息を完全カットできなかったとしても、利率を下げることができれば経済的なメリットは発生します。
02.面倒な手続きがない
任意整理は私的な手続きであるという点で、法的な手続きである破産や個人再生手続きとその性質を異とします。
任意整理と、破産・個人再生とを比較すると、下記の点がメリットとなります。
申立書を作成する必要がない、資料を集める必要がない
破産や個人再生を行なうためには、裁判所の指定する書式に則った申立書を作成する必要があります。財産の一覧(資産目録)や申立が増えてしまった事情等の報告書、月単位の家計の状況等を作成する必要があるので大変です。また、申立書には、住民票や金融機関の取引履歴、収入証明や保険証券等の資料を添付しなければなりません。これらの収集も手間となります。
任意整理の場合は、これらの作業は必須となりません。弁護士に任意整理を依頼すれば後は弁護士側で対応してくれます。基本的には資料の提出も不要です(場合によっては多少の資料を要求されることもあります)。
特定の債権者を含めないことができる
破産や個人再生では、全債権者に介入する必要があります。そのため、「保証人に迷惑をかけたくないから奨学金については債権者に含めずに手続きを行なう」といったことはできません。
他方で任意整理ではそのようなことはありません。介入する債権者を任意に選択することができます。
財産を調整する必要がない、持ち続けることができる
破産の場合、所定の財産を持っているとその財産の換価処分をする必要があります。任意整理ではそのようなことはないので、財産を保持し続けることができます。
裁判所や管財人事務所等に行く必要がない
破産や個人再生では、その進行過程において裁判所裁判官や管財人、再生委員との面談が必要となります。仕事をしている方にとってこれはかなりの面倒となります。
任意整理は弁護士と債権者との交渉で手続きが完結しますので、債務者本人が裁判所等に出向くことはありません。
官報に名前が掲載されない
破産や個人再生では、手続きの過程において官報に名前と現住所が記載されることになりますが、任意整理の場合は官報に名前が掲載されることはありません。
任意整理のデメリット
任意整理のデメリットも見ておきましょう。
01.3~5年間は返済する必要がある
任意整理は現在の負債について和解を取り交わし、これに従って弁済していく手続きです。向こう3~5年間弁済を継続する必要がありますので、すべてが終わるまでにはかなりの時間を要します。
02.こちらの希望する条件で和解が締結出来ないことがある
任意整理で和解を取り交わすためにはお互いの合意が必要となります。
弁護士側の提案に強制力があるわけではないので、必ずしも希望に沿った和解を取り交わすことができるとは限りません。こちらが「将来利息のカット」を提示したとしても債権者がこれに応じなければ和解は成立しないこととなります。
こちらの要望を全て通した和解が取り交わされるというものではないということはしっかりと理解しておきましょう。
03.事故情報が10年近く記載されてしまう
信用情報機関に事故情報が掲載される期間は、任意整理による返済を終えてから5年間です。
仮に5年の分割弁済和解を取り交わした場合、分割弁済(5年)を終えてから5年間登録されるので事故情報が完全に抹消されるまでには10年近くかかることとなります。
04.すでに強制執行されている場合は和解の締結が困難
すでに債務名義を取られ、給与差押え等の強制執行がされている場合には、任意整理で和解を取り交わすことは困難と言えます。債権者側からすれば、債務名義に従い利息込みで強制回収できる状況にある以上、これを取りやめての和解交渉に応じる道理がないためです。
さいごに
この記事を読まれている方の多くは、債務や返済について何かしらのトラブルや心配事を抱えているかと思われます。
債務についての問題は、時間の経過によって良い方向に向かうことはほとんどありません。利息や遅延損害金が付与されることを考慮すると状況は悪化する一方です。また、お金の問題は自身の生活に直結します。ちゃんとした生活を送りたいのであれば、借金のトラブルは早急に解決しておく必要があります。
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