多額の借金を抱えてしまい生活に悪影響が出てしまっている場合は、債務整理手続きを検討しましょう。債務整理を行なうことで借金問題を解決することができます。
実はこの債務整理手続きは、下記の3種に大別されます。
- 自己破産(借金をなくす)
- 個人再生(負債額を所定の割合に圧縮し、3~5年の分割で返済する)
- 任意整理(債権者と和解を締結し、3~5年の分割で返済する)
どの方針で借金問題を解決するのが妥当なのかはその人の抱える負債の総額や収入状況、財産の状況等に応じて変わってきます。
今回の記事では借金問題を解決する方針を決定する上での判断基準について、弁護士が解説します。借金問題にお悩みの方はぜひとも参考にしてみてください。
債務整理の3つの方針
借金問題を解決するための手続きのことを債務整理と言います。こと個人の債務整理手続きには、下記の3種類があります。
種類 | 手続きにより得られる効果 | 裁判所 |
自己破産 | 負債がなくなる | 裁判所を介した手続き |
個人再生 | 負債が所定の割合に圧縮される | 裁判所を介した手続き |
任意整理 | 現在の負債を分割して返済する(将来の利息はカットされることがほとんど) | 裁判所を介さない手続き |
手続により得られる効果としては、負債がなくなる自己破産が最も大きいといえるでしょう。負債が所定の割合まで圧縮(減額)される個人再生は、破産に次いで効果があるといえます。
他方で任意整理では現在の負債を無くしたり減らしたりすることは基本的にできませんので、債務整理3種のなかでは経済的メリットが最も低いといえます。
各々の手続きの詳細については、下記リンクをご確認ください。
方針の判断基準
メリット(効果)だけでいえば、負債をゼロにすることができる自己破産を選択するのが最良と言えるでしょう。しかし、債務者を取り巻く事情によっては自己破産が妥当ではないケース(適切ではないケース)、そもそも破産を選択することができないケースも往々にしてあります。
それでは債務整理の方針を決定する際は、どのようなポイントに着目して判断すればよいのでしょうか?
債務整理の方針を選択する際は、下記の点に着目して判断します。
- 負債総額や余剰金額はいくらか
- 介入先を絞るかどうか
- 保有財産を残すかどうか
- 不動産を残すかどうか
- 負債を負った理由
- 資格制限に該当するかどうか
- 必要書類の量
以下、これらの判断基準について確認していきましょう。
負債総額や余剰金額はいくらか
01.指標となる数値
債務整理を行なうかどうかを判断するための基本的な指標としては、下記の2つがあります。
- 負債総額
- 余剰金額
02.負債総額
負債の総額は、現在抱えている負債の金額の総額のことです。
借金に困っている方の中には、自身の現時点での負債総額を把握されていない方が多くいらっしゃいます。現実を直視するためにも、まずは自身の負っている負債の総額をしっかりと確認しましょう。
03.余剰金額
余剰金額とは、1ヶ月の収入から1ヶ月の支出を差し引いた金額のことです。1ヶ月の生活で余るお金とお考えいただいて結構です。
まず、借金が全部なくなって一切の返済が不要になったとした場合の生活状況を考えてみましょう。そのうえで1ヶ月で得られる収入(毎月の手取り給与等)から1ヶ月に要する日常支出(賃料や食費等、一般的な生活をするうえで要する費用)を差し引いた金額を算出してみてください。なお、この際、無駄遣いや浪費に当たる支出(支出を抑えようと思えば抑えられる金額)を含めてはいけません。たとえば知人との遊興費として月4万円を支出に計上するといったことはしないでください。
上記の計算により算出された金額が余剰金額です。余剰金額は、「生活を崩す(追い込む)ことなく使用することができる金額」のことです。
04.債務整理方針の判断方法
余剰金額に0.8を掛けてみましょう。余剰金額の8割に相当するこの金額は「無理なく返済に回すことができる金額」と考えることができます。
次にこの0.8掛けした金額を36~60倍してみてください。36~60倍した金額が負債総額に達しないようであれば、最長60回で分割弁済する任意整理では解決することは困難ですので、破産や個人再生を検討すべきでしょう。
逆に36~60倍した金額が負債総額に達するようであれば、いわゆる『支払不能』の状態までには陥っていませんので、任意整理で解決を図るのが相応と言えるでしょう(状況によっては個人再生も検討しましょう)。
また、0.8掛けした金額の30倍以下で負債総額に達するようであれば、返済を継続することが容易かと思われますので、債務整理を行なう必要はないものと考えられます。
介入先を絞るかどうか
破産や個人再生手続きを利用する場合、債権者のすべてについて介入する必要があります。特定の債権者だけ手続きに含めずに進めるということはできません。
他方で任意整理であれば、介入する業者を任意に選択することができます。
もし介入する債権者を選びたいということであれば任意整理を採用しましょう。なお、介入業者を選択するケースとしては以下のようなものが想定されます。
- 特定の債権者に手続きを知られたくない
- 特定の債権者には返済を続けていきたい
- 両親が連帯保証人となっている奨学金等の債務があって、両親には手続きを知られたくない(迷惑をかけたくない)
保有財産を残すかどうか
破産手続は、破産者が持っている財産を換価処分して、債権者に平等に配当する手続きです。そのため、持っている財産のうち一定の基準以上のもの(自由財産の範囲を超える財産)については換価処分する必要があります。
そのため、換価処分の対象となる財産を手元に残したいのであれば破産は妥当ではありません。任意整理か個人再生を選択しましょう。
他方でその財産が処分されてしまってもよい(失ってもよい)ということであれば、破産手続きを選択することができます。
不動産を残すかどうか
所有不動産も財産ですので換価処分の対象となります。所有不動産を失ってもよいということであれば破産を選択してもよいでしょう。
他方で今後も所有不動産を残したいということであれば、個人再生か任意整理を検討しましょう。なお、不動産の価値(評価額)が非常に高額である場合には、清算価値が高額になってしまい個人再生での手続きを進めることが妥当でなくなることもあります。清算価値の問題は多少ややこしい部分がありますので、専門家にしっかりと相談しましょう。
住宅ローンが残る持ち家を所有している場合
住宅ローンの残っている戸建てやマンションを所有しかつ現在も居住している場合で、持ち家を残したいということであれば、住宅資金特別条項を利用しての個人再生で手続きを進めることが最適となるケースがほとんどです。
負債を負った理由
こと破産手続においては、負債が増えてしまった理由が免責不許可事由に該当する場合には免責不許可すなわち免責(借金をゼロにする効果)を得られない可能性があります。
01.免責不許可事由に該当する負債増加原因
免責不許可事由に該当する負債増加原因としては、以下のものが挙げられます。
- ブランド品購入、ゲーム課金などに対する浪費
- 飲食やキャバクラ、風俗への費消
- パチンコや競馬等のギャンブル
- FXや株式投資
負債増加の主たる要因が免責不許可事由に該当する負債増加原因である場合、原則として免責を得ることができません。そのため、個人再生または任意整理を検討する必要があります。
02.裁量免責
なお、ギャンブルのような免責不許可事由に該当する行為で負ってしまった借金であっても必ずしも免責を得られないというわけではありません。
過去の行為を反省していること、現在はその行為を止めていることをしっかりと説明できれば、裁量免責といって裁判所が特別に(裁量で)免責を許可してくれることが大多数です。よほどの悪質な事情がない限りはギャンブルで作った借金等であっても免責を得ることができますので、免責不許可事由に該当する行為で負債を形成したとしても破産手続を選択肢から外す必要はないといえます。
資格制限に該当するかどうか
01.法律上の資格制限
破産手続きにおいては職務で利用している資格の資格制限に引っかかっているかどうかも検討しなければなりません。
実は、保険外交員や大半の士業、警備員等の職業は、身分が破産者であると資格が制限されてしまうため就くことができないと法律で定められております。そのため、資格制限にあたる職業についている方や資格を利用して職務を行なう方は破産手続きを選択することができませんので、個人再生や任意整理を選択することになります。
02.勤務先の就業規則
勤務先が金融機関や保険会社等である場合、勤務先の就業規則において破産することが懲戒事由に定められていることがあります。このような場合は破産以外の方法を選択する必要があります。
必要書類の量から判断
01.破産、個人再生の場合
破産や個人再生は、裁判所を介した法的手続きです。申立書に添付する書類は多々あり、これらをしっかりと用意する必要があります。添付する書類としては以下のようなものが挙げられます。
- 収入証明
- 過去2年間の通帳(取引履歴)
- 退職金に関する資料
- 保険証券・解約返戻金計算書
- 家計の状況
- (同居する家族の収入証明等)
基本的に、これらの書類は最新のものを用意する必要があるので、かなりの手間と労力がかかります。また、資料の中には、勤務先や同居人に協力してもらわないと用意できないものもあります。他人に一切バレずに手続きを進めたい方にはこの点は由々しき問題となります。
02.任意整理の場合
任意整理は裁判所を介さない私的な手続きですので、原則として資料を用意する必要はありません(債権者によっては収入を証明する資料等を要求されることがあります)。
書類の準備をしたくない、書類が用意できないということであれば任意整理を検討すべきでしょう。
さいごに
上記の判断基準はあくまで一例であり、方針判断の基準となる事情・材料はほかにも多々あります。個々の事情・状況に応じた最適な債務整理方法を選択するには、専門的な知識と経験を有した弁護士に相談するのが一番です。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、債務整理について注力しております。借金問題でお困りの方は、是非一度ご相談下さい。