自己破産手続は、個人が負っている高額の負債をリセットすることができる法的手続きです。自己破産を申し立て免責を得ることができれば、抱えている借金を無くし人生の再スタートを切ることができます。
人生をリスタートするのに非常に有用な自己破産手続きに臨んだ場合、私生活にはどのような影響があるのでしょうか?
今回の記事では、自己破産手続きに臨んだことが私生活に与える影響について解説します。手続きの進捗状況(自己破産申立準備中、自己破産手続中、自己破産手続終了後)別に解説しますので、自己破産を検討されている方は是非参考にしてみてください。
破産とは、免責とは
01.破産とは
破産とは、破産者(債務者)が有している財産を換価処分し、債権者に対し平等に分配する一連の手続きのことをいいます。
破産者が所有する財産をお金に変えて、債権者で平等に分けるという手続きなので、債権者のために設けられた手続きといえますね。
なお、破産者は、個人、法人(会社)を問いません。破産者が個人である場合を「自己破産」、破産者が法人である場合を「法人破産」と言います。
02.免責とは
自己破産の場合は、破産の申立とセットで免責許可申立を行ないます。
破産手続きが、「破産者の有する財産を換価処分し、債権者に平等に分配する手続き」であることから、破産をすると破産者は財産を失ってしまうこととなります。
財産を失っても債務(借金)がなお残るようだと、破産者にとっては踏んだり蹴ったりです。そのため、法律は、破産手続きを終えた個人の破産者に対して、免責という「負債を返済する責任を免れさせる効果」を与えます。すなわち免責を得ることにより、個人の破産者は借金をゼロにすることができるのです。
03.残しておくことができる財産(自由財産)
「破産者の有する財産を換価処分し配当する」ことを文言通りに適用した場合、着用している洋服や財布の中の小銭も換価処分の対象となってしまいます。これだと生活することができません。
このような不都合を回避するため、法律で、所定の財産までは換価処分の対象にしないとしています。「ある程度の財産は換価しないから持っていていいよ」と許可されているのです。
この手元に残しておくことができる財産のことを自由財産と言います。代表例としては99万円以下の現金です。
自由財産については、下記のリンクを参照ください。
04.免責不許可事由
破産手続きを終えれば必ず免責が得られるのかというとそうではありません。免責不許可事由がある場合には、免責が与えられないことがあります。
免責不許可事由については、下記のリンクを参照ください。
05.非免責債権
破産手続によって、個人が負うすべての負債が免責されるわけではありません。
税金や不法行為に基づく損害賠償請求権、養育費といった債権は非免責債権として扱われ免責の効果が及ばないものとされております。すなわち破産手続きを終えて免責を得られたとしても、非免責債権に該当する負債については依然支払う必要があるということです。
非免責債権については、下記のリンクを参照ください。
破産手続きの種類
自己破産には、少額管財と同時廃止の2種類があります(東京地方裁判所管轄)。実は破産手続きはこれらは手続きの進め方が大きく異なります。
01.少額管財
自己破産は、原則として少額管財事件で処理されます。少額管財事件の場合は、管財人(弁護士)が選任され、管財人が財産の換価処分や配当、免責調査等を行ないます。
02.同時廃止
破産事件の中には、換価処分する財産がない、免責調査をする必要もない事案もあります。このような事案においては、管財人に担わせる業務がありません。このような事案では手続きの簡略化のため、管財人を選任せずに手続きを進めます。これを同時廃止といいます。
03.事件の判断は誰が決める?
少額管財 or 同時廃止の判断は、裁判所が行います。
申立人(申立代理人)側が「処分すべき財産はなく免責調査もない」と判断して同時廃止として申立てたとしても、裁判所が少額管財と判断した場合は少額管財となります。
自己破産手続きの流れ
弁護士に自己破産手続きを依頼した場合、以下のように進行します。
- 弁護士に自己破産手続きを依頼
- 弁護士による申立書の作成
- 管轄の地方裁判所に破産の申立
- 破産手続開始(開始決定)
- 破産手続終結(廃止決定)、免責許可
01.準備段階
①②は、破産申立の前段階(準備段階)となります。依頼した弁護士との間でやり取りを行い、申立書の内容(財産の一覧、負債を作った事情、家計の状況)について打ち合わせを行ったり、申立書に添付する書類を収集したりします。
02.手続期間
③~⑤は、裁判所に破産申立を行なった後の段階となります。破産手続が開始してから終結するまでの期間は、身分上は「破産者」となります。破産者であるこの期間は、様々な制限等が課されることとなります。
なお、破産の種類(少額管財 or 同時廃止)によって、③~⑤の期間で課せられる制限や出頭回数は異なります(後述)。
03.破産手続終了後
⑤より後が、自己破産および免責許可申立手続が終わった段階となります。
準備中に課されること
まず、自己破産の申立前の前段階すなわち申立準備中において課されること、やらなくてはならないこと等を確認しましょう。
01.依頼した弁護士に情報を引き継ぐ
破産の申立を行うためには、依頼した弁護士に以下の情報を引き継ぐ必要があります。
- 負債を負っているすべての債権者
- 所有するすべての財産
- 職歴や家族構成
- 負債を負うに至った事情
- 家計の状況 など
これらの情報は、漏れなく正直に引き継いでください。「個人の債権者がいるけど、手続きを知られたくないから伝えない」「財産を有しているけど換価処分されるのが嫌だから伝えない」といったことは絶対にしないでください。後に資産隠しや財産隠しが発覚した場合、免責不許可となることがあります。
また、家計の状況については、弁護士に手続きを委任してから手続きが終結するまでの間、作成を指示されます。毎月作成するのは大変ですが、しっかりと作成しましょう
02.資料を集める
破産申立書には、さまざまな書類を添付する必要があります。
- 住民票
- 通帳の履歴(過去2年分)
- 収入証明(給与明細、賞与明細)
- 退職金証明書
- 保険証券、解約返戻金計算書
- 自動車、自動車査定書 など
必要な書類については、事案によって異なります。依頼した弁護士の指示に従い、書類を収集しましょう。
資料によってが手配するのが大変なものもありますが、用意しないままでは申し立てることができませんので頑張って収集しましょう。
03.財産処分の事前確認
先述のとおり、破産手続きは、破産者の財産を換価処分して債権者に平等に配当する手続きとなります。
そのため、手続き準備中に財産を不当に処分してしまうと、「配当に回すべき財産を毀棄した」「財産を隠した」と判断されてしまい、免責が得られなくなる可能性が出てきます。弁護士に委任後に、財産の処分を行いたい場合は、事前に弁護士に確認をするようにしましょう。
04.財産調整
弁護士から「口座残高の合計は20万円以下となるよう調整してください」というような財産に関する指示がなされることがあります。このような指示は、財産を自由財産の枠内に抑えるため、すなわち債務者の経済的メリットのためになされるものです。
先の口座残高調整についていえば、口座残高の合計が20万円を超えてしまうと、自由財産と評価されなくなり口座残高全額を債権者の配当に回すこととなるため、これを回避するための指示となります。
弁護士から指示がなされた場合は、しっかりと対応しましょう。
05.信用情報に事故情報が載る
弁護士に債務整理を依頼すると、信用情報には事故情報が記載されます。
信用情報については下記のリンクを参照ください。
申立後に課されること
次に、自己破産の申立後の段階において課されること、やらなくてはならないこと等を確認しましょう。
01.官報に名前と住所が掲載される
破産手続の開始決定時と免責決定時の2回、官報に、破産者の名前と住所、管轄や事件番号等が掲載されます。
官報については、下記のリンクを参照ください。
個人を特定する情報として、名前と住所の2つが掲載されることとなります。なお、官報は一般の方が目にするようなものではありません。ここから破産手続きに臨んでいることが発覚してしまうことは非常に稀であるといえます。
02.出頭義務
少額管財(東京地裁)の場合
少額管財である場合は、破産者は以下の場に出頭しなければなりません。
- 管財人との面談(管財人打ち合わせ)
- 債権者集会
なお、基本的には各1回の開催となりますが、事案によっては複数回の期日が設けられることがあります。
同時廃止事件(東京地裁)の場合
同時廃止事件である場合は、破産者は以下の場に出頭しなければなりません。
- 免責審尋
03.郵便物の転送(回送嘱託)
少額管財では、破産者宛の郵便物が管財人に転送(回送嘱託)され、中身を確認されることとなります。これは資産調査、債権調査の一環としてなされるものであり、拒否することはできません。
なお、転送されるのは、「破産者」宛の「郵便物」となります。同居の家族宛の郵便物は転送されませんし、宅急便についても転送されません。
同時廃止の場合は転送されない
同時廃止では管財人が選任されないため、郵便物の転送は実施されません。
04.引越しや出張の制限
少額管財事件においては、引越しや宿泊を伴う出張、帰省等について、事前に管財人の同意を得てから裁判所に届け出なけばなりません。
管財人の同意を得ずにこれらのことを行なった場合、免責不許可とされる可能性があります。
引越しや出張をする場合には、必ず代理人弁護士を通じて管財人に同意を得ましょう。
同時廃止の場合
同時廃止においては、届出の必要はありませんが、依頼した弁護士には報告しておきましょう。
また、引越し等により住民票を移動させた場合には、免責審尋において移動後の住民票を提出する必要があります。
05.資格制限
破産手続の開始決定日(開始日)から、破産手続きの廃止決定日(終結日)までの期間は、身分としては「破産者」となります。
破産者である間は、資格制限や職業制限がかかり、以下のような職業に就くことができません。
- 行政書士
- 税理士
- 警備員
- 保険募集人
- 法人の取締役 等
この資格制限については、破産の種類(少額管財、同時廃止)に関係なく課せられるものとなります。
手続終結後に受ける影響
最後に、自己破産手続きが終結し免責許可を得られた後の生活状況を見てみましょう。
01.今まで課せられていたことがなくなる
今まで課せられていた制限等がなくなります。
- 毎月の家計の作成
- 財産の調整
- 郵便物の転送
- 引越制限、出張制限
- 資格制限
02.官報掲載による不利益
破産手続が終結するまでの間に、官報に2回、名前と住所が掲載されることは先述の通りです。官報に掲載されることによる不利益として、闇金業者などからDM(ダイレクトメール)が届くというものが挙げられます。
名前、住所、破産した事実の3つが官報から確認できることから、闇金業者は「信用情報がブラックでもお金貸します」といったDMを送ってくるのです。
これらのDMは無視するようにしましょう。また、同居の家族がいる場合、このようなDMから破産手続きを行なったことが発覚してしまうリスクがあります。
03.事故情報掲載による不利益
信用情報には、破産の免責決定を受けてから5年間、事故情報が掲載されます)KSCに限り、官報掲載から10年)。
事故情報が記載されている間は、以下の契約をする際に与信審査ではじかれる可能性が非常に高いといえます。
- 新たなキャッシング契約
- クレジットカードの作成
- スマホ端末の分割払い
- 賃貸契約の保証審査(信販系の保証会社の場合)
申込と与信審査について
免責決定後、5年を経過していない状態であっても、上記の申込自体はすることは可能です。申込はできますが、そのあとの与信審査(申込者に信用力があるかを判断する審査)において否決(はじかれる)こととなります。
なお、免責決定から5年を経過したとしても、クレジットヒストリー(クレヒス)がないといった理由や収入要件等により与信審査で否決される可能性はあります
クレジットカードの代替手段
クレジットカードの代替手段として、デビットカードを利用することができます。
デビットカードとは、銀行口座と連動し、支払いを行うカードです。デビットカードで決済すると、カードに登録した銀行口座から、決済しただけの金額が引き落とされます。簡単にいえば、銀行口座から直接お金を支払うようなイメージです。
デビットカードの作成、利用には与信審査はありませんので、免責決定から5年経過していない方でも利用することが可能です。なお、デビットカードは、電気代や携帯代等の継続的支払となるものやネットショッピングの一部では利用することができません。
どうしてもクレジットカードを利用したいのであれば、家族が契約しているクレジットカード会社で家族カードを発行し利用するという方法もあります。
スマホ端末の分割払いについて
信用情報に事故情報が載っている間は、スマートフォン端末の分割払いで購入することができなくなります。分割払いということで与信審査の対象となるためです。
なお、あくまで分割払いでの購入ができなくなるにとどまり、一括で購入する分には購入可能です。
賃貸契約の保証会社について
賃貸契約を取り交わす際、エポスカードなどの信販会社が保証会社として指定されていることがあります。このような場合、保証会社の審査で否決されることがほとんどであり、賃貸契約をかわすことができないということもあります。
このような場合は、管理会社や大家に「保証人(人的保証)を立てるから入居させてほしい」と交渉してみましょう。それでもダメと言われた場合は、別の物件を探すほかありません。
さいごに
今回の記事では、破産手続きが私生活の与える影響について解説しました。
この記事をお読みになられている方の多くは、負債や返済について何かしらのトラブルや心配事を抱えていらっしゃるかと思います。
債務や負債に関するトラブルをお抱えになっている方はお早めにご相談ください。