「不倫相手の女性と結婚するために離婚してほしい」
突然、夫からこんな身勝手なことを切り出されたら、深く傷ついてしまいます。
法律的には不倫した側(有責配偶者側)からの離婚請求は認められないこととなっておりますので夫からの離婚要求を断ることはできます。
今回の記事では不倫した夫から離婚を切り出された場合の対処方法等について弁護士が解説します。
有責配偶者とは
有責配偶者(ゆうせきはいぐうしゃ)とは、離婚の原因を作ったことについて責任のある配偶者のことです。
不倫して婚姻関係を破綻させた人は当然有責配偶者となります。
不倫した側が離婚を希望する事情
妻を裏切って不倫(不貞)をしておきながら、自ら妻へ離婚を求める男性は少なくありません。
このような男性が離婚を求める背景・事情としては以下のようなものが挙げられます。
- 不倫相手に魅力を感じてしまい、現在の婚姻関係を継続することに嫌気がさした
- 不倫相手と結婚したい
- 不倫相手から妻と離婚するよう強く迫られている
- 不倫相手との間に子供ができてしまった
いずれも身勝手な主張といえるでしょう。
離婚に応じた方がいい?
01.安易に離婚に応じると不利益を被る可能性が高い
不倫した配偶者からの離婚請求を受けた際に安易に受け入れてしまうと、あとで悔しい思いをするケースが多いので注意が必要です。
十分な慰謝料を受け取れないケースもありますし、財産分与や親権・養育費の取り決め等で不利益を被る可能性もあります。
離婚直後に元夫と不倫相手が再婚し、自分を差し置いて幸せになるということもあります。
離婚を切り出された悲しみや怒りの感情からすぐに離婚に応じるのではなくまずは冷静になって今後のことなどをしっかりと検討しましょう。
02.離婚するにせよしないにせよまずは拒絶するのがベスト
今後のことを検討するにも時間が必要です。離婚するにせよしないにせよ有責配偶者からの離婚請求には安易に応じず拒絶するようにしましょう。
03.拒絶していれば離婚は成立しない?
有責である夫側からの離婚請求に対し帰責性のない女性側が離婚を拒否し続けた場合、女性側の意に反して離婚が成立することはないのでしょうか?
有責性を疎明できる証拠があるのであれば、有責配偶者である夫側からの請求で離婚が成立することはありません。
以下、この点について具体的に確認していきましょう。
離婚の種類
離婚の種類についてみてみましょう。離婚は大まかに分けて下記の3種類に大別できます。
- 協議離婚
- 調停離婚
- 裁判離婚
01.協議離婚
協議離婚は、夫婦の話し合いによって離婚する方法です。調停委員や裁判所といった第三者機関を介在させることなく当事者間の話し合いにより離婚を決めるものとなります。
協議離婚による離婚は、⑴当事者間の同意、⑵子どもがいる場合は親権者の決定、⑶役所への離婚届の提出により成立します。
02.調停離婚
調停離婚は、家庭裁判所の夫婦関係調整調停を利用して離婚の話し合いを進める離婚方法です。
裁判所の調停委員が間に入って話し合いをするので、夫婦がお互いに顔を合わせる必要がなく感情的な対立を避けることができます。
調停で合意ができた場合は、裁判所から調停調書が発行されます。調停調書と離婚届を役所に提出することで離婚が成立します。
03.裁判離婚(判決離婚)
裁判離婚は、離婚訴訟によって離婚する方法です。当事者間の話し合い、調停委員を間に挟んでの話し合いで離婚についての合意ができなかった場合に、裁判において離婚を成立させるかどうかの判断を下すものとなります。
裁判により離婚の判決が出た場合は、判決書と離婚届出書を役所に提出することで離婚が成立します。
04.そのほかの離婚
上記の3種の他に、和解離婚、認諾離婚、審判離婚という種類があります。これらは裁判の進行途中(調停終了後)に成立する離婚となりますが、今回の記事ではその詳細の説明を省略いたします。
有責配偶者からの離婚請求は認められない
離婚の種類を確認したところで、話を本題に戻します。
不倫した側(有責配偶者側)から離婚を請求するというのはかなり身勝手な請求です。加害者側であるにも関わらず自分のために離婚をしてくれと要求してくるのは虫の良すぎる話です。
有責配偶者側からの離婚請求は法律上できるのでしょうか?また、これに応じなければならないのでしょうか?
以下、確認していきましょう。
01.協議離婚
協議離婚すなわち当事者間の話し合いで完結させる離婚の場合、双方が合意・納得すれば離婚は成立します。つまり、不倫した夫が離婚を請求し、妻側がこれに応じるのであれば離婚は成立します。
離婚原因について当事者が納得しているのであれば、法は離婚の成立を認めますというスタンスを取っているといえます。
協議離婚は当事者間の話し合いにすぎないので、有責配偶者であっても協議離婚で離婚を請求することは可能です。
なお、妻側はこの請求を拒絶することができます。離婚に同意しなければ離婚が成立することはありません。
02.調停離婚
夫婦の協議で離婚についての合意が得られなかった場合、離婚を成立させたい側は夫婦関係調整調停(調停離婚)を利用することが想定されます。
有責配偶者側は、この夫婦関係調整調停を申し立てることはできるのでしょうか?
「(後述する)裁判離婚については有責配偶者から申立をすることができないルールになっている以上、調停離婚も有責配偶者から利用することはできないのではないか?」と考えるのはもっともです。
この点についてですが、有責配偶者であっても調停離婚を利用することは可能です。調停離婚も協議離婚と同様、あくまで話し合いの手続きと評価されているからです。調停委員が介在するものの当事者の話し合いが前提である以上、有責配偶者からの請求はできるものとされています。
なお、協議離婚同様、妻側は調停でも離婚を拒絶することはできますし、調停で合意に至らなければ離婚が成立することはありません。意思に反して無理に離婚させられる可能性はないので安心しましょう。
03.裁判離婚
協議や調停で離婚できない場合、離婚したい側は家庭裁判所に対し離婚訴訟を提起します(裁判離婚)。
離婚訴訟では法律上の離婚原因のいずれかがあれば、当事者の意思に反しても裁判所が判決で離婚を認めます。法律上の離婚原因の詳細については下記のリンクをご覧ください。
有責配偶者側は離婚訴訟を提起することはできるのでしょうか?
離婚原因を作った有責配偶者が自身の都合だけを考えて請求した離婚訴訟において、離婚を拒否している妻側の意思を鑑みずに離婚を認めてしまった場合、著しく社会正義に反し不合理といえます。
そのため法律では有責配偶者による訴訟による離婚請求は基本的に認めないものとされております。
すなわち有責配偶者は裁判によって離婚を成立させることはできません。
不倫をした夫が離婚を切り出した後の行動パターン
不倫をした夫が離婚を切り出した後の行動パターンとその対応方法を見てみましょう。
01.離婚を切り出す
まずは話し合い(協議)で離婚を切り出してきます。開き直って「離婚届に署名押印しろ」と強要してくる男性も多数存在します。
相手から何と言われようとその場で離婚届に署名押印してはなりません。感情に流されて行動しては後で不利益を被る可能性が高くなります。冷静に考える時間が欲しい等と回答し離婚についての即決はしないようにしましょう。
02.家を出ていく
話し合いにおいて離婚を拒絶し続けていると夫側が家を出ていくことがあります。
新たに賃貸住宅を借りて暮らし始める人もいますし不倫相手と同棲を始める人も少なくありません。
不倫相手と同棲を始めたようであれば、尾行して写真を撮影するなど同棲の証拠を集めておきましょう。探偵事務所に調査を依頼するのも一つの手です。
03.生活費を支払わなくなる
話し合いにおいて離婚を拒絶し続けていると、生活費を払わなくなる夫が多数います。
給与振込口座を変えてしまったり家出と同時に生活費を渡さなくなったりする人もいます。妻が専業主婦の場合には生活に困窮してしまうでしょう。
この点についてですが、法律上、収入の高い側は低い側へ婚姻費用(生活費)を払わねばならないルールとなっています。相手が生活費を払わないなら家庭裁判所で婚姻費用分担調停を申し立てましょう。調停では調停委員から相手に生活費を払うようにと説得してもらえます。
調停でも支払われない場合には審判となり裁判所が夫側に生活費の支払命令を下します。
04.離婚調停を申し立てる
夫婦間の話し合いで離婚の協議(合意)ができないことに業を煮やした夫側が家庭裁判所で離婚調停を申し立ててくることがあります。
なお、調停も話し合いで解決する手続きなので、離婚を望まないのであれば離婚合意をする必要はありません。拒否し続けていれば離婚は成立しません。
05.離婚訴訟を申し立てる
調停が不成立になった場合、夫側が離婚訴訟を申し立ててくる可能性があります。
訴訟を起こされたときには、夫側が有責配偶者であることすなわち夫が不貞している事実を証明することとなります。不貞の事実を証明できれば夫側が有責配偶者と認定され、離婚請求が棄却される可能性が濃厚となります。
他方で夫が不貞している事実を証明できなかった場合は、夫側の主張する離婚原因に基づいて離婚が認められてしまう可能性があるため注意が必要です。
離婚する場合の対処方法
離婚するのであれば、慰謝料や財産分与、親権、養育費等についてしっかりと取り決めておきましょう。相手方が有責であることもあってこれらについては有利に進められる立場にあります。
正当な請求をしっかりと行ない手続きを優位に進めましょう。相手が請求に応じない場合は、離婚を拒絶すれば済む話です。
離婚したくない場合の対処方法
不倫した夫と離婚したくない場合は、以下の対応をしましょう。
01.離婚を拒否し続けて夫に離婚をあきらめさせる
夫からの離婚請求は明確に拒否し続けましょう。拒絶していれば協議離婚や調停離婚は成立しません。
協議や調停の段階で強く離婚を拒絶する態度を見せていれば夫側も離婚をあきらめざるを得なくなるものです。
02.離婚届不受理申出を行う
夫側が勝手に離婚届を偽造して役所へ提出してしまうケースもありえます。
離婚届が受理されてしまうと戸籍が書き換わってしまいます。離婚をなかったことにするには家庭裁判所で離婚無効確認調停や離婚無効確認訴訟を申し立てなければならず、多大な手間も時間がかかるでしょう。
こうしたトラブルを予防するためにも事前に離婚届不受理申出をしておくようお勧めします。早めに役所に出向き離婚届不受理申出をしておきましょう。
03.不倫の証拠を集めておく
夫側が不倫している証拠がない場合、夫が有責配偶者であることを証明できません。
離婚訴訟を申し立てられた際、夫が有責配偶者であることを証明できなければ相手の主張する離婚原因が認められて離婚判決が出てしまう可能性もあります。
また、不倫の証拠がなければ不倫相手に対し慰謝料を請求することもできません。仮に離婚する場合であっても、不倫の証拠を押さえておくことは交渉の場で非常に有用となります。不倫の証拠を集めておくことは必須と言えるでしょう。
証拠の具体的内容
不倫(不貞)の証拠を集める際は肉体関係を証明できるものを収集するようにしましょう。
法律上離婚原因となっている「不貞」とは配偶者以外の人と肉体関係をもつことだからです。仮に交際があったとしてもプラトニックな関係に留まるのであれば、不貞に該当せず有責配偶者と認められない可能性があります。
肉体関係を証明できる証拠としては以下のようなものを収集しておきましょう。
- 動画や写真
- LINEやメール、SNSのメッセージ
- クレジットカードの利用明細書
- スケジュール帳や日記の記録
- 交通ICカード
夫や不倫相手が不貞行為を認めているようであれば不貞しましたと認める自認書を書かせることや自白音声を録音するのも有効な対処方法となります。
不倫されたら弁護士へ相談を
不倫した夫から離婚請求されたケースにおいて、離婚に応じるかどうかは悩ましい問題です。特に小さなお子さまがいらっしゃる場合は自分一人の問題だけでは済まされません。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では離婚や不倫トラブルに巻き込まれた方へのアドバイスや法的サポートに力を入れております。離婚するかどうかでお悩みの方には、状況に応じたアドバイスをさせていただきますし、夫との離婚交渉、不倫相手への慰謝料請求も対応致します。
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