離婚するには、離婚することに対し当事者間の合意が必要となります。
当事者間での協議(話し合い)や調停(調停委員を間にいれての話し合い)でも離婚の合意ができない場合には、離婚訴訟で解決するほかありません。
しかし、訴訟(裁判)で離婚を認めてもらうには法定離婚事由が必要となります。法定離婚事由とは、民法が定める5種類の離婚理由のことです。
離婚訴訟を提起しても法定離婚事由がなければ離婚させてもらうことはできません。事前にしっかり離婚理由の有無を検討しましょう。
今回の記事では、法定離婚事由について、具体例を挙げつつわかりやすく解説します。
1.離婚の流れ
離婚をする際には、まず当事者同士が協議(当事者間の話し合い)を行ないます。ここで離婚の合意ができれば協議離婚が成立することとなります。
当事者間の協議において、一方が離婚に反対している場合や、離婚の条件(財産分与や親権等)に折り合いがつかない場合は、離婚の合意には至りません。このようなケースでは、離婚調停を申し立て、調停委員を間にいれて話し合いを行ないます。ここで離婚が決まれば調停離婚が成立します。
離婚調停でも離婚の合意に至らなかった場合すなわち話し合いでは決着ができなかった場合には、離婚訴訟を提起して裁判所に離婚を認めてもらったり、慰謝料や財産分与、親権等の離婚条件を決めてもらうこととなります。これを裁判離婚といいます。裁判所に決めてもらうこととなるので終局的な方法といえます。
1-1.調停前置主義
離婚をする際、最初から離婚訴訟を提起することはできません。事前に調停を経ていることが必要となります。
この、訴訟の前に必ず調停を行ない、調停が不成立となったときに初めて訴訟を提起することができるというルールのことを調停前置主義といいます。
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1-2.法定離婚事由
離婚訴訟を提起するためには、最低一つの法定離婚事由が必要となります。
法定離婚事由とは、民法第770条に規定されている訴訟で離婚を認めてもらうために必要となる5つの事由(事情、理由)のことです。
仮に離婚訴訟を提起したとしても法定離婚事由が立証できない場合、離婚原因がないと判断されてしまいます。この場合は請求が棄却されてしまうため訴訟を継続することができません。
法定離婚事由なしに離婚できるケース
法定離婚事由は、あくまで裁判所による判決で離婚させてもらう場合に必要となります。そのため、自分たちで話し合って離婚できる場合には法定離婚事由は不要となります。たとえば、当事者の話し合いで離婚の合意ができた場合(協議離婚)、調停委員を間に入れて離婚の合意ができた場合(調停離婚)には、法定離婚事由は不要です。

2.法定離婚事由

民法770条1項各号には、法定離婚事由が定められております、訴訟による判決で離婚するのであれば、以下の1つ以上の存在を証明しなければなりません。
- 配偶者による不貞
- 配偶者による悪意の遺棄
- 配偶者の3年以上の生死不明
- 配偶者が回復しがたい精神病を患っている
- その他婚姻関係を継続し難い重大な事由
それぞれの事由について詳しく見ていきましょう。
2-1.配偶者による不貞
不貞とは、「既婚者が、配偶者以外の人と、肉体関係をもつこと」をいいます。
肉体関係(性的関係)がポイントです。肉体関係のないプラトニックな関係で留まっている場合には不貞は成立しないのです。
たとえば、以下のような事情を立証できるのであれば不貞があったと判断されやすいです。
- 不倫相手とホテルに行った
- 不倫相手と旅行にでかけた
- 不倫相手と同棲している
- 不倫相手の家に泊まって一夜をともにした
逆に以下の事情しか立証できない場合は、肉体関係があったことを証明できないので不貞があったと判断されません。
- デートをした
- 食事をした
- 高価なプレゼントを贈り合っている
- LINEやメールで親しげに連絡をとりあったり愛の告白をしたりしている
法定離婚事由として不貞があったことを主張するのであれば、配偶者と不倫相手の肉体関係を証明できる証拠を収集しておきましょう。
不貞の慰謝料
パートナー(配偶者)に不貞をされた場合は、慰謝料を請求することができます。不貞は重大な裏切り行為であり、婚姻関係を破綻させるおそれの高い不法行為だからです。
慰謝料の金額は、慰謝料の婚姻年数や不倫の態様などのさまざまな事情で変動しますが、100~300万円程度が相場です。
また、不貞の慰謝料は配偶者に対してだけではなく、不倫相手に対しても請求することが可能です。不貞は、配偶者と不倫相手が共同で行う共同不法行為であるためです。
なお、不貞の慰謝料には時効があります。請求したいのであれば早めに行動しましょう。

2-2.配偶者による悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、「婚姻関係が破綻してもかまわない」という意図をもって配偶者を見捨てる行為です。
具体的には以下のような場合に悪意の遺棄になります。
- 一家の大黒柱である夫が、専業主婦である妻に対し生活費を支払わない
- 正当な理由なく家を出る(別居)
- 正当な理由なく同居を拒否
- 里帰りしたまま戻ってこない
悪意の遺棄と慰謝料
パートナーから悪意の遺棄をされた場合も、慰謝料を請求することができます。
請求できる金額は事情によって変動しますが、50~200万円程度が相場です。なお、以下のような事情があると高額になる傾向にあります。
- 生活費不払いや家出の期間が長い
- 未成年の子供も一緒に見捨てられた
- 不倫相手の家で同棲している
2-3.配偶者の3年以上の生死不明
配偶者が3年以上生死不明の状態にあれば、法定離婚事由となります。
以下のような事情があれば、生死不明であることが認められやすいです。
- 3年以上前に相手が事故などに遭い生死がわからない場合
- 3年以上前に相手が家を出ていって完全に音信不通になっている
逆に以下の事情がある場合には、生きているといえるため生死不明は認められません。
- ときどき電話やメールが来る
- SNSで情報発信をしている
調停前置主義の例外
1-1.において調停前置主義について解説しましたが、相手が3年以上生死不明の場合は、相手を呼び出す方法がなく調停で話し合いができる見込みもありません。そのため、3年以上生死不明の法定離婚事由によって離婚する場合には調停を経ずとも訴訟を提起できる可能性があります。これは調停前置主義の例外となります。
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離婚か失踪宣告か
長期に渡って配偶者が行方不明になったときの対処方法としては、3年以上生死不明を理由で離婚する方法以外に失踪宣告で解決する方法もあります。
失踪宣告とは長期に渡る行方不明者の死亡を擬制する制度です。失踪宣告が認められた場合、対象者は死亡した扱いとなります。
配偶者と離婚するのか、配偶者が死亡したことにするのかによって、その後のことが大きく変わってきます。以下見てみましょう。
【財産の分配】
離婚の場合は財産分与を行い、夫婦が婚姻中に共同で形成した共有財産を2分の1ずつに分け合います。このとき独身時代から持っていた財産など、お互いの「特有財産」は対象になりません。
失踪宣告の場合は、配偶者が死亡したとされるので、遺産相続となります。
相続の場合は、相手名義のすべての資産が相続対象になり、独身時代に持っていた資産も含めて相続できます。なお、相続割合は家族構成によって異なります。

以上のとおり、家族構成や独身時代の資産等に応じて恩恵が変わってくるため、離婚と失踪宣告とどちらの方が良いとは一概にはいえません。
【年金】
年金の取り扱いも異なります。
離婚の場合、相手が厚生年金に加入している場合には、年金分割ができます。年金分割をした場合、将来老齢になったときの受給額が調整されるので、年金受給額が上がる可能性があります。
他方で、失踪宣告をし、配偶者が死亡したことになると、遺族年金を受給できる可能性があります。厚生年金だけではなく国民年金にも遺族年金の制度があり、受け取り時期や受給額の点でも年金分割より有利になるケースが多くなっています。
離婚訴訟を起こして相手と別れる、失踪宣告をして死亡した扱いにする、どちらを選択すべきかは夫婦の婚姻年数や共同財産の金額、加入している年金、家族構成などによって異なります。
判断に粉った場合は、弁護士に相談して対応を決めましょう。

2-4.配偶者が回復しがたい精神病を患っている
法定離婚事由の4つ目として、配偶者が回復しがたい精神病を患っているというものがあります。配偶者が重度の精神病にかかり回復が困難と診断されている場合は、訴訟で離婚できる可能性があるのです。
なお、どのような精神症状でも離婚が認められるわけではありません。単に相手が精神病であるというだけではなく、これまでの経緯や離婚後に予想される状況なども問題になってきます。
離婚が認められる可能性がある精神病としては以下のようなものが挙げられます。
- 統合失調症
- 双極性障害
- 認知症
- 偏執病
これらの中でも強度で回復困難なものだけが離婚事由として認められます。
他方で、以下のような精神症状だけの場合は、離婚原因として認められません。
- アルコール依存
- ヒステリー
- ノイローゼ
これまで献身的に看護や介護をしてきた事実が必要
回復しがたい精神病を理由に離婚するには、これまで病気の配偶者を献身的に看護介護してきた事実が必要です。訴訟提起する前に、これまでの看護や介護を示す資料を準備しておきましょう。
なお、今までほとんどケアをせずに放置してきた場合、離婚訴訟を申し立てても認められる可能性は低いといえます。
離婚後の配偶者が過酷な状況におかれないことが必要
精神病の相手と離婚する際には、離婚後の配偶者が過酷な状況におかれないことも必要とされます。相手が生活できる基盤を用意しなければなりません。訴訟を起こすなら以下のような手立てを検討しましょう。
- 相手が実家に戻る
- 施設に入る
- 障害年金や生活保護をもらって自活する
2-5.その他婚姻関係を継続しがたい重大な事由
上記2-1.~2.4の内容に準じるようなにその他婚姻関係を継続し難い重大な事由によって、夫婦関係が破綻し復縁が不可能と判断されるのであれば、訴訟による離婚が認められます。
その他婚姻関係を継続しがたい重大な事由としては、以下のようなものが挙げられます。
DV(ドメスティックバイオレンス)

配偶者から継続的に一定程度以上の暴力を受け続けている場合(DV)、離婚訴訟で離婚を認めてもらえます。
暴力は違法な人格権の侵害行為ですし、被害を受けると身体や生命にも危険が及びます。
暴力を受けているなら早めに相手と別居して離婚を進めましょう。

モラハラ
- 暴言をはく
- 本人や実家を侮辱する
- 異常に束縛する
- 異常に金銭に細かい
- マイルールを強要する
- 親族や友人にあわせない
- 物に八つ当たりをする
DVが直接的・物理的な暴力であるのに対し、モラハラは間接的・精神的な暴力といえます。
もちろんモラハラの被害を受けていることも離婚原因になります。モラハラ被害を受けているのであれば我慢せずに第三者へ相談しましょう。

長期間の別居
長期に渡って別居状態が継続している場合、夫婦関係が破綻しているとみなされやすくなります。婚姻費用や子供との面会交流以外のやり取り以外は一切していない等の状況であれば、別居を理由とした離婚が認められやすいでしょう。
他方で、たとえば別居していてもしょっちゅう会って食事をしたり遊びに出かける、親しくメールやLINEで連絡をとりあっている、といった場合は、夫婦の実体がなくなっているとはいえず、離婚は認められにくくなります。
なお、「長期間の別居」の期間については、法律上の決まりはありません。ケースバイケースで裁判所によって判断されるのが実情です。一般的には5年以上別居していれば離婚が認められやすくなるといえるでしょう。
なお、不倫した有責配偶者の場合が長期間の別居を理由に離婚訴訟を提起する場合、10年程度の別居期間が必要といわれています。
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3.さいごに
離婚問題について、当事者間で話し合っても合意できないとき、弁護士を間に入れて交渉する方法が有効です。
弁護士が交渉をリードすることにより相手も譲歩し、合意がまとまって協議離婚しやすくなります。そうすれば調停や訴訟を申し立てる必要はありません。万一協議が成立しなくても、弁護士に調停や訴訟の代理人を依頼すればスムーズに離婚を進められるメリットがあります。
当事務所は恵比寿エリアを拠点として離婚問題に積極的に取り組んでいます。相手が離婚に応じない、話し合っても合意できない場合には、お気軽にご相談ください。

