「有責配偶者からは離婚を請求することはできないのでしょうか?」といったご相談を受けることがあります。
有責配偶者ができないのは、訴訟による判決離婚です。有責配偶者であっても単に離婚を要求することは可能ですし、このこれに相手が応じるのであれば離婚は成立します。
今回の記事では、有責配偶者とはなにか、有責配偶者側が離婚をしたい場合どうすればよいのか、について解説します。
1.有責配偶者とは
有責配偶者(ゆうせきはいぐうしゃ)とは、離婚の原因を作ったことについて責任のある配偶者のことです。
以下のような人が典型例です。
- 不倫して婚姻関係を破綻させた人
- 暴力を振るって婚姻関係を破綻させた人
- モラハラ行為を行って婚姻関係を破綻させた人
- 生活費を払わない、家出したなど悪意の遺棄によって婚姻関係を破綻させた人
離婚しても有責配偶者にならない場合
以下のようなケースでは、離婚に至ったとしても、どちらか一方が悪いわけではないので、双方とも有責配偶者とはなりません。
- 性格が合わずに離婚した
- 宗教や政治思想が合わずに離婚した
2.有責配偶者からは離婚請求できない
有責配偶者から、相手方に対し離婚を請求することはできるのでしょうか?
法律上は、有責配偶者からは離婚を請求することはできないと考えられています。有責配偶者は、自ら離婚原因を作った人です。離婚原因について責任があります。相手方が離婚を拒否している場合においては「相手方が離婚を拒否しているにも関わらず有責配偶者の一方的な意思表示で離婚を認めてしまう」という相手側に不公平な結論となってしまいます。
そのため、有責配偶者からの訴訟による離婚は認められないのが原則です。仮に有責配偶者が離婚訴訟を起こしても、裁判所は離婚を認めません。
不倫をしたり暴力を振るったりして離婚原因を作った側の人は、自ら訴訟提起することで離婚を実現するのは難しいといえます。

3.有責配偶者から離婚請求できるケース
有責配偶者からの離婚請求が認められないのは、あくまで訴訟によって離婚を求める場合です。そのため、訴訟以外の方法であれば有責配偶者側であっても離婚請求をすることができます。

以下、見ていきましょう。
3-1.相手と話し合う(協議離婚)
有責配偶者であっても、相手と話し合いをし相手が納得してくれれば離婚することができます。お互いの協議(話し合い)で離婚の合意をするので、協議離婚といいます。
婚姻関係を破綻させられた被害者自身が話し合いによって離婚を受け入れることにしたのであれば、有責配偶者からの離婚請求であっても不公平とはならないからです。
3-2.調停で話し合う(調停離婚)
有責配偶者であっても離婚調停の申立は可能です。
離婚調停において、調停委員による調整によって両者が離婚に合意することができれば、離婚が成立します。
調停も話し合いの手続きであり、有責でない配偶者が離婚を受け入れるなら離婚を認めても特段の不利益はないと考えられるからです。
3-3.離婚訴訟を提起する(裁判上の和解による離婚)
有責配偶者であっても、離婚訴訟を提起すること自体は可能です。有責だからといって訴えそのものができなくなるわけではありません。
ただし訴訟手続きが進行し判決が出る段階になると、裁判所は離婚判決を認めてはくれないので離婚はできません。
これでは訴訟を起こすメリットがないように思われます。有責配偶者側から離婚訴訟を起こすメリットは何なのでしょうか?
それは、裁判上の和解で離婚を成立させることができることです。
裁判上の和解とは、訴訟の最中に当事者間の話し合いによってトラブルを解決する方法です。
有責でない方の配偶者が話し合いによって離婚を受け入れるということなので、協議離婚や調停離婚と同様、離婚を認めても特段の不利益がないと考えられます。
3-4.訴訟において相手が離婚そのものを受け入れている
有責配偶者側からの離婚訴訟の提起であっても、相手が離婚そのものを受け入れているのであれば離婚は成立します。たとえば相手が離婚については争っておらず、慰謝料額や親権などが争点となっている事案等です。
以上のように、法の建前としては、有責配偶者からの離婚請求は認められない、となっておりますが、協議や調停等であれば有責配偶者からの離婚請求も認められております。
不倫や暴力などの離婚原因を作ってしまっても、必ずしも離婚をあきらめる必要はありません。

4.有責配偶者からの離婚訴訟が認められる条件
不倫や暴力、生活費不払いなどで離婚原因を作ってしまった場合、有責配偶者となるのが原則なります。前述のとおり、有責配偶者側からの離婚請求は認められませんので、判決で請求棄却されてしまいます。
なお、例外として、有責配偶者からの離婚請求であっても判決で離婚が認められるケースがあります。それは、長期にわたって別居状態が続いており夫婦関係が形骸化して実態が失われているなどの条件を満たす場合です。
こういったケースでは、もはや夫婦関係を継続させる意味がないと考えられるので、不倫などをした配偶者からの離婚請求でも離婚判決を出してもらえる可能性があります。
有責配偶者からの離婚訴訟において、判決による離婚が認められるには、以下の3つの条件を満たさねばなりません。
- 別居期間が長期に及んでいる
- 未成熟の子どもがいない
- 離婚によって相手配偶者が過酷な状況に陥らない
それぞれの条件について詳しく確認してみましょう。
4-1.別居期間が長期に及んでいる
夫婦の別居が長期にわたって継続していること、が1つ目の条件です。
別居が長期にわたって継続し夫婦関係が形骸化していてはじめて有責配偶者からの離婚請求が認められるのです。
10年以上別居している等の事情があれば有責配偶者からの離婚請求であっても認められやすくなります。
4-2.未成熟の子どもがいない
夫婦の間に未成熟の子どもがいないことが2つ目の条件です。
未成熟とは「経済的に自立していない」という意味です。中学生や高校生などの子どもはもちろんのこと、大学生で成人していても経済的に自立していなかったら未成熟と判断される可能性が高いといえます。他方で、未成年であったとしても経済的に自立しているのであれば未成熟子には該当しないとされております。
未成熟の子どもがいる場合、親が離婚すると経済的に困窮し満足に教育を受けられなくなる可能性があります。子どもの生活・教育を保護する必要性が高いことから、未成熟の子どもがいる場合はm有責配偶者からの離婚は認められにくくなります。
4-3.離婚によって相手配偶者が苛酷な状況に陥らない
3つ目の条件は、離婚によって相手方(有責ではない配偶者)が苛酷な状況に陥らないことです。経済的な側面だけではなく、社会的にも精神的にも苛酷な状況にならないことが必要です。
たとえば、相手配偶者が有責配偶者から経済的にも精神的にも自立しており、離婚によって社会的にも特段の不利益を受けることがないのであれば離婚は認められやすいといえます。

相手配偶者が有責性の証拠を持っていない
上記①~③までの条件とは異なる視点ですが、相手方が有責事実の証拠を持っていないのであれば有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があります。
有責配偶者が離婚訴訟を起こしたとき、相手が「原告は有責配偶者である」と主張するのであれば、相手方が有責原因となる事実が存在することを証明しなければなりません。たとえば「原告は不貞しているので離婚を認めるべきではない」と主張する場合、相手側が不貞(不倫相手との肉体関係)の存在を立証しなければならないのです。
証拠が不足していて証明できないのであれば、原告が有責配偶者とは認定されませんので訴訟でも離婚が認められる可能性があります。
有責配偶者が離婚したい場合には、相手の手持ち資料にどういったものがあるのかに着目しましょう。
5.有責配偶者側から離婚をする際の流れ
もし自分が有責配偶者だとして、相手と離婚するにはどうしたら良いのでしょうか?
5-1.相手に離婚協議を持ちかける
まずは相手と話し合いをしてみましょう。当事者間の話し合いで相手が離婚に合意すれば協議離婚が成立します。
なお、離婚の話し合いにおいては、離婚条件の取り決めもしっかりと行ないましょう。取り決めるべき離婚条件は主に以下の5つです。
- 財産分与
- 年金分割
- 慰謝料
- 親権
- 養育費
- 面会交流
相手が離婚を渋る場合、慰謝料の支払いを申出たり財産分与を多めに譲ったりすると、相手も応じやすくなる傾向にあります。
また、離婚の交渉を有利に進めたい場合は、弁護士に任せることもできます。弁護士に交渉を依頼すれば自分で対応せずに済みますし、ストレスもかかりにくいなどのメリットがあります。

5-2.別居する
相手と話し合ったけど合意に至らなかったのであれば別居をはじめてみるのも手です。
別居をすることで、相手が「離婚を受け入れようか」と考えるきっかけになることがよくあります。
なお、こちらが一家の大黒柱である場合、相手より収入が高い場合は、別居したら必ず婚姻費用を払いましょう。婚姻費用を払わないと、悪意の遺棄とみなされて、有責性の上塗りになってしまうおそれがあります。相手と離婚するためにも、婚姻費用の支払いが重要です。
別居の際には、婚姻費用の支払いについても取り決めてから家を出るとスムーズです。

5-3.離婚調停を申し立てる
別居したら、家庭裁判所に離婚調停(夫婦関係調整調停)を申し立てましょう。
調停では、調停委員が間に入って夫婦間の意見を調整してくれます。相手と直接話しをしなくて済むので、相手も感情的になりにくく離婚へ向けて前向きな話し合いができるケースも多々あります。
なお、こちらが有責配偶者の場合、調停委員が相手側の肩を持つケースが多々あります。調停で不利にならないためには、弁護士によるサポートが必要といえるでしょう。有責配偶者側から調停を申し立てるのであれば弁護士に依頼することをお勧めいたします。
5-4.調停が不成立になったら訴訟を検討する
調停が不成立になってしまったら、離婚訴訟を提起するかどうかを検討します。
相手が有責性を証明するだけの証拠を持っていないなら、離婚訴訟で離婚が認められる可能性があります。また、訴訟の途中で和解離婚できる可能性もあります。
一方、離婚訴訟における離婚ができる見込みがほとんどないなら、いったん離婚はペンディングにして別居を継続するのも一つの手です。
調停が不成立になった後、有責配偶者が具体的にどのように対応すべきかは状況によって異なります。迷ったときには弁護士へ相談しましょう。
6.離婚の際の権利関係について
6-1.有責配偶者は慰謝料を支払う必要がある
不倫や暴力などによって夫婦関係を破綻させた場合、有責配偶者は慰謝料を支払わなければなりません。
慰謝料の金額はケースによっても異なりますが、離婚の場合100~300万円程度です。婚姻年数が長いと慰謝料は高額になる傾向がみられます。

6-2.有責配偶者でも財産分与をもらうことはできる
有責配偶者であっても財産分与はもらえます。
財産分与は離婚時に夫婦の共有財産を分け合う制度であり、夫婦関係を破綻させた配偶者にペナルティを与える制度ではないからです。
なお、財産分与の割合は夫婦で2分の1ずつとするのが基本なのですが、相手が離婚を渋っている場合などには、相手の取得分を多くしたり相手にすべての財産を分与したりすることで、離婚を促す手段として使うことができます。
6-3.有責配偶者でも親権者になれる
世間では「有責配偶者は親権者になれない」などといわれております。
これは誤解で、有責配偶者であっても親権者にはなれますし、養育費も請求できます。夫婦関係を破綻させたとしても「良き父」「良き母」である人は少なくないからです。
相手とよく話し合い、「どちらが育てるのが子どものためになるのか」という視点から親権者を決定しましょう。
父母の両方が親権を希望するともめてしまいますが、有責配偶者であっても親権を獲得できるケースはあります。あきらめる前に弁護士へ相談しましょう。
7.最後に
一般的に有責配偶者からの離婚請求は認められないといわれますが、それは「相手が離婚を拒否していて判決で離婚が判断される場合」のみです。
協議離婚や調停離婚、和解離婚の場合や相手が離婚を争っていない場合には有責配偶者からの離婚請求も認められます。
ただ有責配偶者から離婚を請求すると、慰謝料や財産分与、親権などの問題でトラブルが大きくなるケースも多々あります。交渉や調停、訴訟を有利に進めるため、離婚問題に詳しい弁護士の力を借りましょう。
恵比寿の鈴木総合法律事務所では離婚や男女問題に力を入れて取り組んでいます。不倫してしまったけれどもどうしても離婚したい方は、お早めにご相談ください。


