相続人、被相続人、法定相続人、代襲相続、遺言、遺産分割協議、遺留分・・・。
相続問題でお困りの方がその解決方法を調べようとした際に直面する問題の一つに法律用語が難解であることが挙げられます。法律系の学問を専攻していないと法律用語を学ぶ場面が少ないことから法的な知識が不足してしまうのは仕方のないことです。
今回の記事では、こと相続問題の分野において頻出する法律系の用語について、相続に強い弁護士が分かりやすく説明します。
基本的な用語
まずは、基本的な用語を確認しておきましょう。
01.相続人、被相続人
被相続人は、亡くなった人のことをいいます。また、相続人は、被相続人が残した相続財産を受け継ぐ人のことをいいます。
名称上の違いは「被」がついているかどうかなのでこんがらがってしまうかもしれませんが、しっかりと理解しましょう。
02.法定相続人
法定相続人とは、民法で定められている相続人のことをいいます。被相続人と一定の血縁関係にある人がこの法定相続人に該当します。
相続人と法定相続人の違い
相続人と法定相続人、同じことを意味しているように思われますが厳密には違います。
法定相続人は、民法で定められている被相続人と一定の血縁関係にある人を指します。血縁によって決まるものであるため、「自分は法定相続人ではありません」と主張することはできません。
他方で相続人は、実際に遺産相続した(することになった)人をいいます。たとえば法定相続人であっても、相続放棄をすれば遺産を相続することはありません。相続放棄をした法定相続人は「自分は法定相続人ではあるけれども(相続放棄したので)相続人ではない」と主張することができます。
03.相続財産
相続財産とは、被相続人が残した財産(遺産)の一切です。
ここでいう財産には、モノ(有体物)だけではなく、権利義務も含まれます。また、正の財産(プラスの財産、積極財産)も負の財産(マイナスの財産、消極財産)も含まれます。
典型的な相続財産としては以下のものが挙げられます。
- 現金、預貯金
- 不動産
- 株式
- ゴルフ会員権
- 著作権
- 貸付金債権
- 借金
- 住宅ローン
- 滞納税金
04.相続
相続とは、相続財産が被相続人から相続人に承継されることをいいます。
05.相続放棄
相続放棄とは、被相続人の財産についての権利義務の一切を放棄する意思表示のことをいいます。
相続放棄が認められた場合、その人は初めから相続人ではなかった扱いとなるので相続財産に一切関与しません。すなわち正の財産も負の財産も一切相続することはありません。
06.代襲相続
代襲相続とは、一定範囲の相続人が被相続人より先に亡くなっていて、相続人に子どもがいる場合に発生する相続のことをいいます。代襲相続する相続人を代襲相続人、代襲相続される人を被代襲者といいます。
遺言、遺産分割
01.遺言
遺言とは、遺言者たる被相続人が、自身の財産(遺産)について誰にどのように残すかを指示するための意思表示です。法的には口頭での遺言は無効とされており、書面で残す必要があります。
遺言には下記の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
各々の詳細・違いについては、下記のリンクを参照ください。
02.遺産分割協議、資産分割協議書
遺産分割協議とは、相続人全員で相続財産の分け方を話し合う手続きです。全員が同意するのであればどのように分けても構いません。
遺産分割協議の内容を書面化したものを遺産分割協議書と言います。
遺言と遺産分割協議
被相続人が遺産の分け方について取り決めた遺言と、相続人全員で話し合う遺産分割協議ではどちらが優先されるのでしょうか?
原則は遺言の方を優先します。亡くなった人の最後の意思を尊重するためにもそのように取り計らうのが相応でしょう。なお、相続人全員が同意するのであれば、遺言の内容に従わずに遺産分割協議の内容に従った相続をすることが可能です。
03.法定相続分
民法においては、被相続人の財産を相続するにあたっての各相続人の取り分の割合が定められています。法定相続分とは、民法が定める各法定相続人の遺産取得割合を言います。
被相続人が遺言を残していた場合は、その内容にしたがって遺産相続が行われますので、相続人全員での話し合いすなわち遺産分割協議は行われないのが通常です。
他方で、被相続人が遺言を残していなかった場合は、相続人全員で遺産分割協議を行ない、どのような割合で遺産を分割するするのかを話し合う必要があります。遺産取得割合について一切の基準・指標がないと遺産分割協議の場面で争いやいざこざが多発することが予見されます。基準となる割合が法で定められていれば、相続人としても納得しやすいものです。このときに割合の基準・指標となるのが法定相続分なのです。
法定相続割合について
法定相続割合は下記のとおり定められております。
- 配偶者と子ども(第一順位)が相続する場合:配偶者2分の1、子ども2分の1
- 配偶者と親(第二順位)が相続する場合:配偶者3分の2、親3分の1
- 配偶者と兄弟姉妹(第三順位)が相続する場合:配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1
また、同一順位の相続人が複数人いる場合、相続割合は同一順の相続人の頭数にて等分にします。
典型的なパターンについて一覧化しましたので確認しておきましょう。
配偶者 | 子ども | 親 | 兄弟姉妹 | |
配偶者 | 100% | - | - | - |
子ども(1人) | - | 100% | - | - |
子ども(2人) | - | 2分の1ずつ | - | - |
配偶者と子ども1人 | 2分の1 | 2分の1 | - | - |
配偶者と子ども2人 | 2分の1 | 4分の1ずつ | - | - |
片親 | - | - | 100% | - |
両親 | - | - | 2分の1ずつ | - |
配偶者と片親 | 3分の2 | - | 3分の1 | - |
配偶者と両親 | 3分の2 | - | 6分の1ずつ | - |
兄弟姉妹1人 | - | - | - | 100% |
兄弟姉妹2人 | - | - | - | 2分の1ずつ |
配偶者と兄弟姉妹1人 | 4分の3 | - | - | 4分の1 |
配偶者と兄弟姉妹2人 | 4分の3 | - | - | 8分の1ずつ |
法定相続分に従う必要はない?
法定相続分はあくまで基準に過ぎませんので、必ずしも従わなければならないものではありません。法定相続分とは異なる割合で分割することに相続人全員が納得している場合は、法定相続分に従わない割合で遺産相続してもかまわないのです。
04.遺留分
遺留分は、一定範囲の法定相続人に保障される最低限度の遺産取得割合です。被相続人の亡きあとに残された相続人の生活を保障するための制度といえます。
特定の人物に偏った遺言や不公平な贈与等が行われると、法定相続人であっても遺産を一切受け取れなかったりほとんどもらえなかったりすることがあります。
例を挙げてみてみましょう。
A氏:被相続人
Bさん:A氏の妻。法定相続人
Cくん:A氏とBさんの子ども。法定相続人
X氏:A氏の弟
もしAさんが「自分の遺産は全て自分の弟であるX氏に相続させる」と遺言を残していたらどうなるでしょうか。遺言がある以上、遺言に従って相続をするのが原則ですが、遺言に従ってX氏がすべて相続するとなると、法定相続人であるはずのBさん及びCくんは一切の遺産を受け取ることができません。
遺言においては被相続人の希望を尊重することも大切ですが、残された人々のことも考慮する必要があります。そこで法律は。被相続人の法定相続人のうち一定の範囲にある者に対して遺留分を保障することでこれらの者を保護しているのです。
なお、遺留分の割合は下記のとおりです。
配偶者 | 子ども | 親 | |
配偶者 | 2分の1 | - | - |
子ども(1人) | - | 2分の1 | - |
子ども(2人) | - | 4分の1ずつ | - |
配偶者と子ども1人 | 4分の1 | 4分の1 | - |
配偶者と子ども2人 | 4分の1 | 8分の1ずつ | - |
片親 | - | - | 3分の1 |
両親 | - | - | 6分の1ずつ |
配偶者と片親 | 3分の1 | - | 6分の1 |
配偶者と両親 | 3分の1 | - | 12分の1ずつ |
配偶者と兄弟姉妹1人 | 2分の1 | - | - |
このとおり、法定相続分と遺留分は制度の目的や問題となる場面が異なります。根本が異なるものですので混同しないように注意しましょう。
05.遺留分侵害額請求
不公平な遺言や贈与が行われることで、本来は法定相続人である人が財産を受け取れないケースがあります。これでは本来相続ができたはずの法定相続人にとって非常に不合理となります。この不合理を回避すべく遺留分が認められているのは先述のとおりです。
遺留分侵害額請求とは、侵害された遺留分をお金で取り戻すための請求のことであり、遺留分権利者は侵害者に対して遺留分侵害額請求を行うことで侵害された遺留分を取り戻すことが出来ます。先の例で言えば、BさんおよびCくんが遺留分権利者、X氏が侵害者となり、BさんおよびCくんはX氏に対して遺留分侵害額請求を行なうことができます。
相続排除、相続欠格等
01.相続欠格
相続欠格とは、法定相続人が一定の要件に該当する場合において、当然に相続人の資格を失うことです。相続欠格の要件に該当して相続資格を失った元相続人を「相続欠格者」といいます。
「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」や「詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者」等がこれに該当します。
相続欠格者になると、相続人ではなくなり、個人の財産を相続する資格を失うことになります。従って、故人(被相続人)の遺産を相続することはできません。
遺産分割協議にも参加できず、遺言による遺贈も受けることはできません。
02.相続人廃除
相続人廃除とは、被相続人の意思によって非行のある相続人から相続権を奪う制度です。
相続人が被相続人を虐待したり重大な侮辱行為をしたり著しい非行があった場合において、家庭裁判所へ申し立てることでその者を相続人から廃除することが出来ます。
さいごに
相続問題、相続トラブルに直面しているのであれば、相続問題に注力している専門家に相談しましょう。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、相続問題・相続トラブルの解決に力を入れて取り組んでおります。相続放棄から、遺産分割トラブル、遺言書の作成など広く受け付けておりますので、是非一度ご相談ください。