自分の死後、大切な人たちになるべく多くのものを遺したいと、遺言を書く人は多いです。
しかし、正しい書き方を知らなかったせいで遺言が無効になったり、遺言内容のせいで遺された人たちが揉めたりといったトラブルは枚挙に暇がありません。本記事では、公証人に依頼して作成する「公正証書遺言」について解説します。公正証書遺言のメリット・デメリット、作成の流れや注意点を、まとめてお伝えします。
【この記事がおすすめな方】
- 遺言を書きたいが、何から手をつけるべきかわからない方
- 遺言が原因で、自分の死後に家族が揉めないか心配な方
- より確実な遺言執行を望む方
自分がこの世を去った後、大切な人たちになるべく多くのものを遺したいと考えるのは自然なことです。そんなとき、遺言を書こうと考える方も多いでしょう。
しかし、遺言はただ書けばいいものではありません。書き方や内容のせいで遺言が無効になったり、遺言が原因で家族が揉めたりといったケースは少なくないのです。
そこで今回は、より確実な遺言執行を望む方におすすめの「公正証書遺言」について詳しくお伝えします。ほかの遺言と比べたときのメリット・デメリットから、作り方や作成時の注意点までを解説します。
正しい方法で遺言書を作れば、「死後の遺産相続」という悩みから解放され、心が軽くなるでしょう。本記事が少しでも役に立てば幸いです。
公正証書遺言とは?

公正証書遺言とは、「公証人」と「2名以上の証人」の立会いの下、公正役場で作成する遺言書です。遺言書の文書は遺言者本人ではなく、公証人が記述します。
公証人とは、裁判官や検察官の資格を持つ公務員のこと。公証役場とは、法務省の管轄する役場であり、遺言を含むさまざまな公正証書を作成できます。
公正証書遺言のほかにも、2種類の遺言書がある

「遺言書」と一口に言っても、実は次の3種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
次からは、自筆証書遺言と秘密証書遺言について、簡単に紹介します。

自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者本人がすべて自筆で記載する遺言書です。公証人や弁護士などの代理人による代筆、パソコンやスマートフォンなどの機械による作成はできません。
公正証書遺言と比べて自分一人で作れる反面、確実性には欠けると言わざるを得ません。

秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言執行まで内容を秘密できる遺言書です。自分で遺言書を作成した後、公証人と証人に「これは秘密証書遺言である」と確認してもらいます。
自筆証書遺言と異なりパソコンで作成できる、内容を秘密にしたまま「遺言書が発見されない」という事態を防げるなどのメリットはあるものの、実際に利用されることはあまりありません。

公正証書遺言の5つのメリット

公正証書遺言は、法律の知識がない人でも正しい要式で作れる遺言書です。次からは、公正証書遺言のメリットを5つに分け、それぞれについて詳しく解説していきます。
メリット1.無効になりにくい
公正証書遺言を作る1つ目のメリットは、ほかの遺言書と比べて無効になりにくいことです。
公正証書遺言の内容は遺言者本人が決めるものの、実際の作成は公証人が行います。遺言作成に精通した公証人が作るため、作成方法や要式上のミスはほぼ起こりません。
さすがに「絶対に無効にならない」とは言い切れないものの、自筆証書遺言と比べると、確実性は高いです。
メリット2.紛失や変造のリスクがない
公正証書遺言を作る2つ目のメリットは、紛失や変造のリスクがないことです。
公正証書遺言を作成すると、遺言者本人には謄本と呼ばれる写しが交付され、原本は公正役場で保管されます。遺言内容を良く思わない相続人によって変造される心配も、紛失の心配もありません。
なお、謄本は紛失しても再発行できます。
メリット3.発見されやすい
公正証書遺言を作る3つ目のメリットは、遺言が発見されやすいことです。公正役場には遺言書の検索サービスがあるためです。
相続人が公正役場で検索サービスを使うと、亡くなった人が書き残した公正証書遺言の有無を調べられます。遺言者から「公正証書遺言を作ったから、死後に公正役場で調べてくれ」と言い残しておけば、遺言書が見つからないということはまず起こりません。
メリット4.検認が不要
公正証書遺言を作る4つ目のメリットは、家庭裁判所での検認が不要なことです。
検認とは、遺言書を発見した後に必要な手続きのことです。遺言書を見つけた相続人は、遺言者の死後、家庭裁判所に遺言書の提出と検認の申し立てをしなければなりません。遺言の執行には「検認済み証明書」の申請も必要です。
また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人立会いの下で開封しなければなりません。
公正証書遺言では、検認の手続きは不要です。葬儀の準備や心の整理で余裕のない相続人たちに手間をかけずに、遺言を確実に実行できるでしょう。
メリット5.文字が書けなくても作れる
公正証書遺言を作る5つ目のメリットは、文字が書けなくても遺言書を作れることです。
公正証書遺言とよく比べられる自筆証書遺言は、遺言者本人が自筆で手書きしなければなりません。そのため、何らかの事情で文字が書けない人では作れません。
公正証書遺言なら公証人に遺言書を作ってもらえます。身体を動かせず公証役場に行けない場合も、公証人に出張してもらい、遺言書を作成できます。
公正証書遺言の3つのデメリット

どんな人でもほぼ間違いなく遺言を作成できるのが、公正証書遺言のメリットでした。しかし、公正証書遺言は確実な分、手間や費用がかかります。
次からは、公正証書遺言の3つのデメリットをお伝えします。
デメリット1.手間がかかる
公正証書遺言を作る1つ目のデメリットは、作成に手間がかかることです。
公正証書遺言を作るには、2名以上の証人を用意したり公正役場に通ったりと、ある程度の手間がかかります。自宅で、紙とペンだけで作れる自筆証書遺言と比べると、作成にかかる手間は大きいです。
デメリット2.費用がかかる
公正証書遺言を作る2つ目のデメリットは、費用がかかることです。
公正証書遺言の作成には、遺産の価額に応じて数万~数十万円ほどの費用がかかります。費用の内訳は公正証書手数料と証人の日当で、公正証書手数料は遺言の対象となる相続人の人数分かかります。
公正証書手数料は次の表の通りです。
遺言に書く価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超、200万円以下 | 7,000円 |
200万円超、500万円以下 | 11,000円 |
500万円超、1000万円以下 | 17,000円 |
1000万円超、3000万円以下 | 23,000円 |
3000万円超、5000万円以下 | 29,000円 |
5000万円超、1億円以下 | 43,000円 |
1億円超、3億円以下 | 43,000円に超過額5000万円までごとに13,000円を加算した額 |
3億円超、10億円以下 | 95,000円に超過額5000万円までごとに11,000円を加算した額 |
10億円超 | 249,000円に超過額5000万円までごとに、8,000円を加算した額 |
また、自分で証人を確保できない場合は、日当を支払い証人を用意しなければなりません。証人1人あたりの日当は、5,000~15,000円ほどです。
例えば8000万円の遺産を、遺言で妻1人と子ども2人に相続する場合は、次のような費用がかかります(自分で証人を確保できず、2名に日当15,000円を払うとします)。

相続人それぞれにかかる公正証書手数料
相続人 | 相続する価額 | 公正証書手数料 |
妻 | 4000万円 | 29,000円 |
子どもA | 2000万円 | 23,000円 |
子どもB | 2000万円 | 23,000円 |
合計 | 8000万円 | 75,000円 |
【計算式】
公正証書手数料の合計75,000円 + 日当の合計(15,000円 × 2) = 105,000円
1日で公正証書遺言を作成できた場合でも、合計105,000円の費用がかかります。なお、公証人に出張してもらった場合は公正証書手数料は1.5倍となり、公証人の日当や交通費も加算されます。
とはいえ、自分で作った自筆証書遺言が無効になったり発見されなかったりしては、遺言書そのものの意味がなくなってしまいます。
遺言を確実に実行したいなら、多少の費用がかかるとしても、公正証書遺言の活用をおすすめします。
デメリット3.証人2名が必要
公正証書遺言を作る3つ目のデメリットは、2名の証人が必要なことです。
公正証書遺言の証人になるために、特別な資格はいりません。ただし、次のような「証人になれない人」はいます。
- 未成年者
- 相続人になりうる人と、その配偶者・親族
- 遺言により相続を受ける人と、その配偶者・親族
- 公証人の配偶者と、四親等内の親族、書記・使用人
簡単にいえば、「相続とは無関係の成年者2名」に証人になってもらわなければなりません。
とはいえ証人の条件はそう難しいものではなく、自分で証人を確保できなくても、日当さえ支払えば公証役場で紹介してもらえます。
【5ステップ】公正証書遺言の作り方

公正証書遺言の最大のメリットは、公証人のサポートを受けながら作成できることでしょう。
しかし、公証人がサポートできるのは、あくまでも「遺言書の作成」そのものだけです。内容を決めたり必要書類を揃えたりするのは、遺言者本人がしなければなりません。
次からは、公正証書遺言を作るときの流れを、5つのステップに分けて解説します。
STEP1.遺言の内容を決める
まずはメモ程度で構わないので、遺言の内容を決めましょう。遺言の内容を決めるときは、相続させたい財産と相続させたい相手の一覧表を作るのがおすすめです。
相続したい財産は、各銀行の預金、不動産や保有する株式、生命保険など、項目と金額をそれぞれ箇条書きにしましょう。同様に、財産を相続させたい相手も箇条書きにします。
相続させたい財産と相手を洗い出したら、どの財産を、誰に、いくら相続させるのかを決めていきます。
STEP2.必要書類を用意する
遺言の内容がまとまったら、必要書類を用意します。具体的には、次のような書類が必要です。
【公正証書作成に必要な書類】
- 遺言者の印鑑証明書
- 遺言者と相続人の戸籍謄本と住民票(本籍と続柄の記載されたもの)
- 遺言執行者がいる場合、その人の名前・住所・生年月日がわかるメモ
- 証人の名前・住所・生年月日・職業がわかるメモ
【各財産の資料としてあると良い書類】
- 不動産登記簿(全部事項証明書)
- 預貯金通帳(コピー可)
- 株式や(仮想)通貨などの取引資料
- 生命保険証書
- 家具や芸術品などの動産の明細書
なお、お伝えしたのは必要書類の一例です。遺言内容によっては必要な書類が増えることもあるので、公証人と相談のうえ、漏れのないようにしましょう。
STEP3.証人2名を確保する
公正証書遺言を作るには、証人2名が必要です。証人になれるのはどんな人なのか、おさらいしておきましょう。
- 未成年者
- 相続人になりうる人と、その配偶者・親族
- 遺言により相続を受ける人と、その配偶者・親族
- 公証人の配偶者と、四親等内の親族、書記・使用人
公正役場に行く前に、証人を頼める人がいないか探してみましょう。思い当たる人がいなかったり、全員に断られたりした場合は、公正役場で証人2名を紹介してもらわなければなりません。
STEP4.公証人と打ち合わせする
遺言の内容が決まり、書類の用意ができたら、いよいよ公証人との打ち合わせです。面談予約を取ってから、最寄の公証役場に行きましょう。
打ち合わせでは、遺言の内容を書いたメモを法的に問題のない文言へと仕上げていったり、遺言を作る日を決めたりします。何らかの事情で公証役場に行けない場合は、公証人に出張してもらいましょう。
公正役場を探すときは「〇〇(地域名) 公証役場」でインターネット検索するといいでしょう。日本公証人連合会のWebサイトから、地域ごとの公証役場を探すこともできます。
STEP5.公証役場で遺言書を作る
遺言を作るすべての準備が整ったら、公正証書遺言を作成します。基本的には公証役場での作成となりますが、事情があれば自宅や病院での作成も可能です。
2名以上の証人の立ち合いのうえ、遺言者が口述した内容を、公証人が遺言として書いていきます。公正証書遺言が出来上がったら、公証人が内容を読み上げます。遺言者本人と証人で内容に間違いがないことを確認したら、それぞれ署名・押印しましょう。
その後、原本は公正役場で保管され、遺言者には写しである「正本」と「謄本」が渡されます。最後に作成費用を支払ったら、公正証書遺言の作成は完了です。

公正証書遺言を書くときの3つの注意点

公証人の手を借りれば、ほぼ間違いなく、法的に有効な遺言書を作成できます。
しかし、遺言書に関する最低限のルールを知らなければ、思わぬところで遺言が無効になってしまうかもしれません。最後に、公正証書遺言を作るうえで気を付けたい、3つの注意点をお伝えします。
注意点1.遺言内容は公証人に相談できない
公正証書遺言は公証人に作成してもらいますが、遺言の内容を公証人に相談することはできません。
公証人の役割は、遺言者の意思を確実に伝えるために、正しい方法で遺言書を作ることです。内容を相談したい場合は、弁護士や司法書士などの専門家を頼りましょう。
注意点2.遺留分に注意する
遺言さえあれば、すべての財産を思い通りに相続させられるわけではありません。法定相続人には、一定の割合(遺留分)で財産を相続する権利があるからです。
【法定相続人】
- 親
- 祖父母
- 配偶者
- 子ども
親と祖父母は「直系尊属」と呼ばれ、相続人に直系尊属しかいない場合は、遺産全体の3分の1を受け取る権利があります。配偶者や子どもなどの直系尊属以外の相続人には、遺産全体の2分の1を受け取る権利があります。ケースごとの遺留分は、次の表の通りです。
配偶者 | 子ども | 直系尊属 | |
配偶者のみの場合 | 2分の1 | – | – |
子どものみの場合 | – | 2分の1 | – |
直系尊属のみの場合 | – | – | 3分の1 |
配偶者と子どもの場合 | 4分の1 | 4分の1 | – |
配偶者と直系尊属の場合 | 3分の1 | – | 6分の1 |
配偶者と子どもと直系尊属の場合 | 16分の3 | 16分の3 | 8分の1 |
遺言の内容が遺留分に沿っていなくても、そのまま無効になることはありません。ただし、法定相続人が遺留分の権利を主張すると、内容通りに遺言を執行できないかもしれません。

注意点3.証人立会いの下、公証人に書いてもらう
公正証書遺言は証人立会いの下で、公証人に書いてもらわなければなりません。証人がいないときに書いたり、公証人以外が書いたりすると、遺言書が無効になることがあります。
証人が席を外すときは遺言書の作成を中断する、遺言者や証人は署名・押印以外の手を加えないなど、十分に注意して作成を進めましょう。
遺言の内容や執行に関する悩みは、法律の専門家に相談しよう

遺言さえ書けば、すべての財産を自分の思う通りに相続させられるわけではありません。遺言で決められる内容にも限界はあり、書き方を間違えれば、遺言そのものが無効になってしまいます。
遺言を正しく書き、確実に実行させたいなら、公正証書遺言を選びましょう。公証人に書いてもらえる公正証書遺言なら、書き方の間違いで無効になることはほぼありません。公正役場には原本が残り、遺言書の検索サービスもあるので、変造や紛失のリスクも最小限です。
とはいえ、公証人は遺言内容の相談に乗ることができません。
「どんな風に遺産を相続させるのがベストだろうか」
「遺言の内容がもとで、相続人たちが揉めないだろうか」
そんな不安を抱える方には、弁護士や司法書士への相談をおすすめします。
弁護士や司法書士になら遺留分のことも相談できます。遺言の内容相談や作成はもちろん、遺言執行者の依頼も可能です。
なるほど六法を運営する「鈴木総合法律事務所」でも、遺言書の作成や遺言執行を承っています。
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