認知症の人が作成した遺言書は有効!?無効!?

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弁護士 鈴木 翔太
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認知症になってしまった後でも有効な遺言書を作成できるのでしょうか?

法律上は認知症であっても有効な遺言書を作成できるとされております。しかし、状況によっては無効と判断されてしまうケースもありますので注意が必要です。

今回の記事では認知症の人が作成した遺言書が有効になるケース、無効になるケースについて解説します。認知症になった人が残した遺言書の取り扱いについて迷われている相続人の方は参考にしてみてください。

遺言書の作成には遺言能力が必要

法律上、有効な遺言書を作成するには遺言能力が必要とされています(民法963条)。

(遺言能力)
第963条

遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

遺言能力とは、遺言の内容や遺言を残した結果を理解できる程度の意思能力です。15歳以上であれば遺言能力が認められます(民法961条)。

認知症にかかっている場合であっても最低限の遺言能力が残っているのであれば有効に遺言することが可能です。すなわち遺言能力が残っている認知症の方が作成した遺言書は有効となります。

他方で遺言能力すら失われている方は有効な遺言書を作成することはできません。すなわち認知症により遺言能力がないと認められる方が作成した遺言書は無効となります。

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遺言能力の有無の判定基準

認知症にかかっていた疑いのある人が残した遺言書についての有効性(遺言能力の有無)については、以下のような基準・事情を総合的に勘案して判定されます。

01.長谷川式認知症スケールの点数

遺言者が、遺言作成時前後に長谷川式認知症スケールを受けていたということであればその点数を遺言能力の有無の判定に用いることができます。

長谷川式認知症スケールとは、人の認知力レベルを測るための知能検査の一つであり、その検査項目は9つの簡易な質問で構成されます。満点は30点です。

検査結果が20点以下である場合は、「認知症の疑いがある」と判定されます。また、10点以下である場合は「十分な意思能力が不足している」と判断される可能性が高くなります。

そのため、10点以下であると「遺言能力がない」と判断される可能性があります。

なお、上記の基準は絶対のものというわけではありません。10点以下であっても遺言能力が認められることもありますしその逆もあります。

長谷川式認知症スケールの点数のみによって遺言能力の有無を確定できるわけではありませんが、有効な一指標であることには間違いありません。

02.主治医の診断内容

遺言書が作成された当時の主治医の診断結果(診断書)も遺言者の遺言能力の判定に大きな影響を及ぼします。

医師が「有効に遺言書を作成できるだけの判断能力がある」と診断書に書いてくれていれば、遺言能力がある(あった)と認められる可能性が非常に高くなると考えましょう。

03.介護記録

遺言者が遺言を作成した当時の介護記録も有効な判断指標となります。

  • 他者とのコミュニケーションがどの程度できていたか
  • 金銭管理は自分で行っていたのか
  • どのような介護や看護を受けていたのかなど

遺言が作成された時期における遺言者の生活状況を介護記録をもって確認することは、遺言能力の有無を判定するための基準のひとつとなります。

04.遺言書の内容

遺言書の内容そのものも遺言書の有効性の判断に影響を与えます。

たとえば遺言書の記載内容が明朗・明確であれば、少々認知症が進行していたとしても遺言能力があったとして有効と判断される可能性が高いといえるでしょう。

他方で、遺言書の記載内容が不明確・支離滅裂であったり筆跡の乱れが大きい場合には、遺言能力が認められないほど認知症が進行していたと判断されてしまうこともあります。

公正証書遺言であっても無効になる可能性がある

一般的に「公正証書遺言は、自筆証書遺言より有効になりやすい」と考えられています。

公正証書遺言作成時には、公証人が遺言書の様式について専門的知識をもってしっかりとチェックしてくれるので、要式ミスを理由に無効となるケースが非常に少ないためです。

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それでは、認知症の方が公正証書遺言を作成した場合はどうでしょうか?実は無効と判断されてしまうケースがあります。

たとえば、公証人が遺言者本人に読み聞かせを行う際に、遺言者本人が「はい」「そのとおりです」などのごく簡単な肯定の返事しかしなかった場合(できなかった場合)、十分な意思確認がなされたとは言い難いため、遺言書が無効と判定される可能性があります。

実際に公正証書遺言が無効と判断された裁判例もあります(横浜地裁平成18年9月15日)。

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成年被後見人が書いた遺言書は有効?無効?

認知症が進むと、本人に成年後見人をつけられるケースが少なくありません。成年後見人をつけられた人を成年被後見人といいます。

成年被後見人が単独で作成した遺言書はどういった扱いになるのでしょうか?

原則として、成年被後見人は事理弁識能力をほぼ完全に失っていると考えられますので、遺言書を作成するだけの遺言能力を認めることはできないとされています。

ただし、成年被後見人であっても一時的に意思能力を回復する可能性はあります。そのため、民法では特定の要件を満たすことで成年被後見人であっても有効な遺言書の作成を認めています。

01.成年被後見人が遺言書を作成する方法

(成年被後見人の遺言)
第973条

成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

成年被後見人が一時的に意思能力を回復して遺言書を作成するときには、以下の要件を満たさねばなりません。

  1. 医師2人以上が立ち会う
  2. 医師が「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった」と遺言書に付記して署名押印する

成年被後見人が本当に意思能力を回復していたことを明らかにするため、2人以上の医師が遺言書作成に立ち会い、遺言書内に「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった」つまり「遺言能力を回復していた」と記載して署名押印する必要があります。

そのため医師2名以上の協力なしに成年被後見人が遺言書を作成したとしてもその遺言は無効となります。

02.秘密証書遺言の場合

作成された遺言書が秘密証書遺言の場合、医師が内容を確認できません。

その場合、2名の医師は遺言書を封入した封筒に貼り付ける封紙に「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった」と記載し、署名押印する必要があります(民法973条2項但し書き)。

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遺言書の有効・無効を確定する方法

認知症の人が作成した遺言書について無効であると争いたい場合はどうすればよいのでしょうか?以下見ていきましょう。

01.遺言無効確認調停

まずは家庭裁判所に遺言無効確認調停を申し立てます。遺言無効確認調停とは、トラブルの相手方と話し合って遺言書が有効か無効かを決めるための手続きです。

両者が遺言書は無効であると納得すれば、遺言書が無効であると確定されます。

02.遺言無効確認訴訟

遺言無効確認調停で話し合っても相手が納得しなければ遺言書の無効は確認できません。

その場合は地方裁判所で遺言無効確認訴訟を提起する必要があります。調停は家庭裁判所でしたが、訴訟は地方裁判所で行うので間違えないように注意しましょう。

遺言無効確認訴訟では、遺言者の当時の状況や遺言書の内容、筆跡などからして「遺言書は無効である(当時遺言能力が欠如していた)」と証明しなければなりません。法的な証明ができれば裁判所が「遺言書は無効である」という判決を下します。

03.遺産分割協議を行う

遺言書の無効が確認されたとしてもこれをもって相続問題が解決するわけではありません。

遺言が無効になった以上、遺産分割協議をしないことには相続手続きを進めることができません。遺言書の有効性に関して争っていた場合、相続人同士の関係が極めて悪化している可能性が高く、遺産分割協議もまとまりにくくなるでしょう。合意できない場合には、あらためて家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てなければなりません。

このように遺言書の有効性について争いが生じた場合、遺言書の有効性を確認するための手続きと遺産分割の両方を行わねばならず、非常に時間がかかる可能性があります。遺言書の有効・無効を確認すればすべてが解決する問題でもないので、腰を据えて取り組まねばなりません。

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弁護士に相談するメリット

さいごに弁護士に依頼した場合のメリットをお伝えします。

01.遺言書の有効性について見込みを確認できる

遺言書の有効性については、しっかりとした法的な知識がなければ判定するのは困難です。

この点、法律のスペシャリストである弁護士に相談すれば法的な観点から有効性についての見込みを聞くことができますので、状況を適切に判断し的確なな対応を取ることが可能となります。

02.相手との交渉を任せられる

相続人全員が「遺言書は無効である」と納得すれば、遺言書を無視して遺産分割協議を開始できます。ただ、遺言によって大幅な財産を享受できるような相続人がいる場合には、「遺言書は無効である」ということを受け入れてはくれないでしょう。

このような場合において、弁護士に手続きを依頼すると、弁護士が代理人として「遺言書は法的な観点から無効である可能性が高い」と打診すれば、相手も納得する可能性が高くなります。交渉で解決できれば調停や訴訟をする必要がなく、スムーズに遺産分割協議に入っていけるでしょう。相続問題をスピーディに解決しやすくなるメリットがあります。

03.調停や訴訟になっても安心

遺言書が無効であることについて相手と合意できなければ、調停や訴訟に進めなければなりません。特に訴訟で勝つには遺言能力が欠けていたことを証拠によって立証する必要があります。素人では対応が困難なので弁護士によるサポートが必須となるでしょう。

事前に弁護士に相談して交渉を依頼していれば交渉が決裂したときにもスムーズに調停や訴訟に進めることができて安心です。

さいごに

東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、相続トラブルに注力しており、多数の解決実績も有しております。遺言書の有効性を含め、相続の件でトラブルが生じてしまいお困りの方は、是非一度ご相談ください。

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