離婚するときには、将来のトラブルを予防するためには財産分与や慰謝料、養育費などさまざまな条件を決めなければなりません。正しい知識を持っておかないと、不利な条件を押しつけられてしまうおそれもあります。「財産分与の方法」「慰謝料の相場金額」「養育費や婚姻費用」など、充分に理解した上で、離婚協議を進めましょう。
この記事では離婚の際に具体的にどのようなことが問題になるのか、離婚するまでの協議や調停の流れについて弁護士がご説明します。
1.離婚条件として定めるべきこと

離婚の話し合いをするときには、以下の条件を取り決めましょう。
1-1.財産分与

財産分与は夫婦の「共有財産」を分け合う手続きです。婚姻中は夫婦の財産の一部が「共有」になりますが、離婚後に共有のままにすると不都合があります。そこで財産分与により、離婚時に分け方を決めます。
財産分与の対象になるもの
財産分与の対象になるのは、「夫婦共有」の以下のような財産です。
- 現金、預貯金
- 保険
- 不動産
- 車
- 株式、債券
- 投資信託
- 貴金属、時計、絵画などの動産
- 退職金(離婚時期が10年以内で支給される蓋然性が高い場合)
財産分与の対象にならないもの
以下のようなものは「特有財産」なので財産分与の対象になりません。
- 独身時代から持っていた財産
- 親からもらった財産、相続した財産
財産分与の割合
財産分与の割合は、基本的に「夫婦が2分の1ずつ」です。ただしどちらか一方の特殊なスキルや資格によって通常より著しく高い収入を得ていたり資産を築けたりした場合、そちらの配偶者の取得割合を多くされる可能性があります。
相手が財産を隠す場合の対応
財産分与を行う際、配偶者が財産を隠すケースが少なくありません。その場合、金融機関や保険会社、証券会社などに情報照会する必要があります。
弁護士であれば「弁護士照会」によって詳細な調査が可能ですし、調停や訴訟を申し立てれば裁判所から職権で調査してもらえる可能性があります。
財産隠しをされてお困りであれば、お早めに弁護士までご相談ください。
1-2.慰謝料

相手に「有責性」があれば、離婚慰謝料を請求できます。「有責性」とは婚姻関係を破綻させた責任です。
たとえば以下のような場合に「有責性」が認められて慰謝料が発生します。
- 不倫した(肉体関係がある場合)
- 暴力を振るった
- モラハラ行為を行った
- 家出した
- 専業主婦に生活費を渡さなかった
一方で「性格の不一致」などどちらにも有責性がない場合には慰謝料は発生しません。離婚するとしても慰謝料を必ずしも請求できるとは限らないので、注意しましょう。

慰謝料の相場
慰謝料の金額はケースによりますが、50~300万円程度となるケースが多数です。
- 婚姻期間が長い
- 相手の対応が悪質
- 未成年の子どもがいる
- 被害者が精神病になった
- 被害者に収入がない
上記のような事情があると高額な慰謝料が認められやすくなります。
慰謝料請求には証拠が必要
慰謝料請求するには「証拠」が必要です。証拠がなければ相手に否定されたときに反論できませんし、訴訟を起こしても証明できず、負けてしまいます。
たとえば不倫の場合には「肉体関係を証明できる資料」、DVの場合なら「暴力を振るわれた証拠」が必要です。
集めるべき証拠はケースによっても異なりますので、自分では適切な証拠の集め方がわからない場合、お早めに弁護士までご相談ください。

1-3.年金分割

夫婦のどちらかまたは双方が「厚生年金」に加入している場合には、年金分割についても話し合いましょう。年金分割とは、婚姻期間中に払い込んだ年金保険料を夫婦で分け合う手続きです。年金分割しておくと、将来年金を受給できる年齢になったときに受給金額が調整され、支給額の少ない方の金額が増えて支給額の多い方の金額が減らされます。
専業主婦の方などは、年金分割をしておくと高齢になったときに年金を増やしてもらえます。特に熟年離婚する場合、増額幅が大きくなりやすいので、必ず手続きしましょう。
なお「3号分割」の場合には話し合いは不要で、請求者が一人で手続きできます。
3号分割とは
平成20年3月以降「3号被保険者(被扶養者)」だった方が行う年金分割
3号分割以外のケースにおける年金分割は「合意分割」です。合意分割のためには相手と話し合って年金分割に同意してもらう必要があるので、離婚協議の際にきちんと取り決めて書面化しましょう。
1-4.子どもがいる場合

未成年の子どもがいる夫婦が離婚するなら、以下の3つの条件を話し合って決めましょう。
親権
まずは「親権者」を決めなければなりません。親権者が決まらないと離婚届も受け付けてもらえません。子どもの親権は「どちらが育てるのが子どもにとって最善か」という観点から判断すべきです。親の都合よりも子どもの将来を優先し、冷静に話し合って決定しましょう。

裁判所の判断基準
訴訟になったとき、以下のような事情があると、裁判所から優先的に親権者として指定されやすくなります。
- これまでの養育実績が高い
- 離婚後子どもと一緒に過ごせる時間が長い
- 離婚時に子どもと同居していて子どもが落ち着いて生活している
- 子どもが乳幼児の場合、母親が指定されやすい
- 現在、子どもとの関係姓が良好
- 予定している離婚後の居住環境が良好
- 健康状態が良好、経済力がある
男性が親権を取得できるケースは昔より増えていますが、比較的不利な状況です。
また男女ともにいえることですが、親権争いが発生する事案では、当初に自己判断で動いたために親権を取得できなくなる方が多数おられます。確実に親権者になりたいなら、可能な限り早めに弁護士に相談しましょう。
養育費

未成年の子どもがいる場合、養育費の金額や支払い期間も決める必要があります。養育費は当事者の話し合いによって自由に金額を定められますが、法的な相場も存在します。
迷ったときにはこちらを参考に取り決めると良いでしょう。
養育費の支払い期間(始期と終期について)
養育費の支払い開始時期は、基本的に「離婚後すぐ」です。離婚したら翌月から養育費を払ってもらえるよう取り決めましょう。
支払い終期については基本的に「子どもが成人する月まで」ですが、「大学卒業時」「子どもが22歳になった次の3月まで」などと定めてもかまいません。高卒で就職したら18歳の4月で養育費を打ち切るケースもあります。子どもの状況や希望に応じて適切な期間を定めましょう。
養育費の未払い対策
離婚後、養育費を途中で払ってもらえなくなるケースも少なくありません。不払いに備えるには、養育費の取り決め事項を「公正証書」にしておくようお勧めします。離婚公正証書があれば、相手が滞納したときに給料や預貯金を差し押さえて未払い金を回収できます。
また2020年4月から「民事執行法」の改正により養育費の取り立てをしやすくなっています。裁判所への申請により、金融機関や市町村役場、年金事務所などに情報照会をして「預金口座」や「勤務先」に関する情報を得られるようになりました。養育費を払ってもらえずお困りであれば、弁護士がサポートしますのでお気軽にご相談ください。
面会交流
未成年の子どもがいる夫婦が離婚するなら、別居親と子どもの面会交流も定める必要があります。面会交流は子どもが「親に見捨てられた」と感じないで健全に成長していくためにも重要な権利です。親同士が相手に対して悪感情を抱いていても、できるだけ積極的に実現しましょう。
2.離婚するまでの婚姻費用について

離婚の際には「婚姻費用」も請求できる可能性があります。婚姻費用とは「夫婦の生活分担金」です。夫婦にはお互い「扶養義務」があり、たとえ別居していても離婚が成立するまでは相手へ生活費を支払わねばなりません。
婚姻費用は、収入の高い側が低い側へと支払います。専業主婦の方は「別居すると生活できなくなるから別居はできない」と思い込んでいるケースがよくありますが、別居したら法的に婚姻費用を請求する権利が認められるので心配しすぎる必要はありません。
また子どもがいると、子どもの生活費がかかる分、婚姻費用が加算されます。
婚姻費用の法的な相場はこちらにまとまっているので、参考にしながら取り決めましょう。
相手が支払ってくれない場合
相手が婚姻費用を払ってくれない場合、家庭裁判所で「婚姻費用分担調停」や「審判」を利用すれば払わせることができます。
調停や審判で婚姻費用が決まるまでには数か月かかりますが、急ぎのケースでは「仮払い」によって先にいくらか支払ってもらう方法もあります。
離婚前に別居して生活費にお困りであれば、お早めに弁護士までご相談ください。
なお、婚姻費用は離婚が成立したら払ってもらえなくなりますが、子どもがいる方の場合には引き続き「養育費」を受け取れます。

3.離婚の流れ

離婚するときには、以下の流れで進めましょう。
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3-1.証拠や資料を集める
離婚協議を始める前に、不倫の証拠や財産分与に必要な資料をできるだけ集めましょう。
別居や弁護士費用などのお金がかかる可能性もあるので、できるだけ貯めておくと安心です。
3-2.離婚協議を持ちかける
証拠集めなどの準備ができたら、相手に「離婚したい」と協議を持ちかけましょう。
3-3.話し合って合意する
相手が離婚に同意するなら、慰謝料や財産分与、親権などの離婚条件について話し合います。
離婚に応じない場合には、離婚したい理由などを示して説得しましょう。
3-4.別居する

以下のような場合、離婚前にいったん別居するようお勧めします。
- 相手が離婚を拒絶しており、説得してもどうしても離婚に応じない場合
- 離婚協議が長びいてお互いに強いストレスがかかっている場合
- 相手から暴力を振るわれる場合
- 両親の不和によって子どもの様子がおかしくなった
別居したら「婚姻費用」を請求しましょう。
3-5.協議離婚合意書を作成し、離婚届を提出する
相手と話し合って合意ができたら離婚条件をまとめた「協議離婚合意書」を作成しましょう。
養育費などの支払いを確実に受けるため、公証役場に申し込んで「離婚公正証書」にしておくようお勧めします。
役所で「離婚届」の用紙をもらってきて、必要事項を埋めて提出すれば離婚が成立します。
3-6.離婚調停、婚姻費用分担調停を申し立てる
話し合いでは合意できない場合、家庭裁判所で「離婚調停」を申し立てましょう。別居中に生活費を払ってもらえないなら、同時に「婚姻費用分担調停」も申し立てて、離婚と生活費の話し合いを同時進行で行えます。
調停では、2人の調停委員が間に入って話し合いを進めてくれます。合意ができたら調停が成立し、条件を定めて離婚できます。
調停でも不成立になってしまったら、最終的に離婚訴訟を起こさねばなりません。訴訟を有利に進めるには法律を正しく理解した上での適切な主張と立証が必要なので、必ず弁護士に依頼しましょう。
当事務所では、離婚を検討されている方へのサポートに力を入れています。相手に不倫されて離婚したい方、熟年離婚をご検討の方など、お困りの際には是非ご相談ください。

