DV(ドメスティック・バイオレンス)と聞くと、ほとんどの方は「家庭内で殴る・蹴るなどの身体的暴力の被害を受けること」を思い浮かべるでしょう。
しかし、DVは身体的暴力だけではありません。精神的暴力や経済的暴力についてもDVに該当します。かなり酷い精神的DVや経済的DVを受けているにもかかわらず、身体的な暴力を受けていないために自分がDVを受けていると自覚できていない方も多いのが実情です。
今回の記事では、DVにはどのような種類があるのか、DVを理由に離婚する方法、別居中の生活費を受け取る方法等について解説します。
DV(ドメスティックバイオレンス)とは?
DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、配偶者もしくは事実婚のパートナーによるあらゆる暴力・支配のことです。
一般的には殴る・蹴るなどの直接的・身体的な暴力がDVとされていますが、暴力はあくまでも相手を自分の思い通りに動かす(支配する)ための手段にすぎません。
たとえ身体的な暴力がなくても、家庭内でのモラハラがあればそれはDVです。
デートDV
事実婚を含めた婚姻関係にない間柄(内縁関係、カップル関係)におけるDVは、デートDVと呼ばれています。
本記事では婚姻関係におけるDVについての慰謝料の請求方法や離婚する方法を解説しておりますが、デートDVでも慰謝料を請求することは可能です。
01.DVは刑事罰に問われる犯罪
DVは罰則を伴うれっきとした犯罪であることを知ってください。
2007年7月に公布された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」では、DVの加害者は1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑に処されると定められております。
また、身体的暴力を伴うDVでは暴行罪や傷害罪、強制性交等罪などの犯罪も成立します。すなわち、DVを受けているということはDV防止法違反のほかにもさまざまな犯罪の被害に遭っていることになります。
02.DVは法律上の離婚原因として認められている
DVは、法律上の離婚原因としても認められております。具体的には民法第770条に規定されている法定離婚事由の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当します。
03.DVで離婚した場合の慰謝料相場
DVが原因で離婚した場合、被害者は加害者に対して慰謝料を請求できます。DVの内容や期間にもよりますが、慰謝料の相場は50万~200万円ほどです。
04.日本はDVへの認識が甘い国
DVはれっきとした犯罪行為であり、加害者が逮捕される可能性もあれば被害者は慰謝料を請求することもできます。
しかし、日本は、DV防止法こそあれどDVへの認識が甘い国だと言わざるを得ません。
例えば、DVに対して最も先進的な国であるアメリカでは、DV行為が明らかになればまず通報されます。加害者はそのまま逮捕され裁判にかけられます。裁判では、罰金や禁錮刑のほか、加害者に対して保護命令が言い渡されたり、DV加害者更生プログラム(加害者が2度とDVをしないように訓練する、全52回のプログラム)への参加が義務付けられたりします。
他方で日本では、DVで逮捕されたとしても拘留期間はせいぜい3日ほどです。保護命令や更生プログラムへの参加を言い渡されることはほぼなく戻ってきた加害者が逆上しDVが悪化するケースも後を経ちません。
また、「自分はDVを受けているのではないか?」と思った被害者が周りに相談したとしても、「どの家もそんなものだ」「重くとらえすぎじゃない?」などと取り合ってもらえないケースがほとんどです。
DVを受けているかもと思ったら、まずはきちんとした知識のある地域の相談窓口に連絡するようにしてください。
DVには6つの種類がある
多くの人は、DVのことを家庭内で起こる身体的暴力のことだと考えておりますが、DVには身体的暴力のほかにもさまざまな種類があります。かなり巧妙に行われるDVもあり、被害者が「自分はDVを受けている」と自覚できないケースも多いです。
以下、DVを6種類紹介します。配偶者の態度や行動に漠然とした違和感がある方は、身体的暴力以外のDVを受けているかもしれません。当てはまるものがないかチェックしながら読み進めてみてください。
01.身体的DV
DVと聞いて一般的に思い浮かべられるのは身体的DVでしょう。
殴る蹴るなどの暴行、物を投げつけてケガをさせたり、髪の毛を引っ張ったり首を絞めたりするなどが当てはまります。ほかにも、「包丁を突きつけて脅す」「ケガをしているのに病院に行かせない」といった行為も身体的DVに該当します。
02.精神的DV
精神的DVは、相手を無視をしたり大声で怒鳴ったりするような行為です。ほかにもあからさまに不機嫌になってみせる、物に当たるなどの行為があります。いわゆる「いじめ」のようなものだと考えるとわかりやすいかもしれません。
精神的DVによりPTSD(心的外傷後ストレス障害)をはじめとする精神障害を発症した場合は、加害者を傷害罪に問うこともできます。
03.性的DV
性的暴力もDVの一種です。夫婦間であっても性行為を強要した場合には性的DVに相当します。ほかにも中絶の強要、避妊に協力しない、ポルノを見ることを強要するといった行為が性的DVに相当します。
また、不貞行為をしている人がほかの異性との関係を配偶者に認めさせることも性的DVにあたります。
04.経済的DV
配偶者を経済的に困らせる行為は経済的DVにあたります。たとえば収入はたくさんあるにもかかわらず十分な生活費を渡さなかったり、家計を必要以上に厳しく管理したり、配偶者のお金に手を付けたりするといった行為が経済的DVに相当します。
また、相手に仕事を辞めさせたり、働かせないようにしたりといった相手から収入源(=生活力)を奪い自分の下から逃げられないようにする卑劣な行為も経済的DVにあたります。
05.社会的DV
社会的DVは、配偶者の交友関係や家族関係を監視したり制限したりする行為です。相手の社会的なつながりを断ち孤立させることで逃げ場をなくしていきます。
日本では「恋人・夫婦は互いのことを最優先にするもの」「相手を独占したいと考えるのは愛が深いからだ」などの考え方が蔓延しており、そのような内容の歌や映画が流行ることも多いです。
日本においては、社会的DVは特に根深い問題かもしれません。
06.子どもを使ったDV
DVの中で最も卑劣といっても過言ではないのが子どもを使ったDVです。子どもに配偶者の悪口を吹き込んだり育児や教育に関わらせなかったりするケースがあります。DVであると気付かないことも多いです。
子どもにDVの現場を見せたりDVに巻き込んだりすることはれっきとした虐待です。子どもを使ったDVは子どもの心にも深刻な傷を残します。事実、DV加害者の約7割がDVのある家庭で育ったこともわかっています。
DVから逃れるために対応すべきこと
DVから逃れるために対応すべきことを見ていきましょう。
01.加害者から逃げる
DVを受けているのであれば、離婚する・しないを判断する前にまずは一刻も早く加害者から逃げましょう。
話し合いをしても相手のDVが止まるということはありません。一時的には収まるかもしれませんが、少し時間が経てばほぼ確実に再びDVが始まります。
経済的な事情で逃げることができないという方は、実家や友人を頼れるならそちらを頼りましょう。暴力が伴うDVを受けている場合にはDVシェルターを活用してください。
DVシェルターとは、DVの被害者を加害者から隔離するための保護施設です。加害者に自分の居場所が知られることなく、子どもも一緒に匿ってもらえます。
なお、逃げるときに警察を頼るのはあまりおすすめできません。たとえ警察官でもDVへの認識がしっかりしている人はそういません。諭されて家に帰されるだけならまだマシで、配偶者に逃げ出してきたことを話されてはDVはより酷くなるでしょう。
02.証拠を集める
後の離婚手続きや慰謝料請求を有利に進めるために、DVの証拠を集めておきましょう。また、財産分与に関する証拠も集められているとベストです。
DVや財産の証拠としては以下のようなものが挙げられます。
【DVの証拠】
- DVを受けているときの録音
- 手書きのメモや送られてきたメール、LINE
- 今まで受けてきたDVの内容とだいたいの日時 など
【財産の証拠】
- 配偶者名義の通帳
- 給与明細や確定申告書
- 不動産登記簿(不動産を所有している場合)
- 証券口座の明細
- 保険証券 など
DVを受けているときの録音はたしかに証拠として強力ですが、録音していることが相手にバレるリスクもあるでしょう。もしも録音をするなら、絶対にバレないよう、慎重に行ってください。
財産の証拠については、各書類をコピーしたり、写真に撮ったりして確保しましょう。相手が仕事などに行っている間に証拠を集め、触ったものは元の位置に戻して相手に悟られないようにします。なかなか見つけられないなら、もう少しだけ家に留まり数日に分けて探してみるのもいいでしょう。
なお、財産の証拠となる書類がどこにあるのか相手に聞いたり、離婚を考えているのを伝えたりするのは避けてください。財産を隠すことはそこまで難しくありません。財産を隠したことが後からわかっても相手を刑事罰に問うことはできませんし、離婚成立から2年が経過すると再度の財産分与請求はできなくなります。
証拠集めはほどほどでもOK
証拠があれば後の手続きを有利に進めることはできますが、身体的な危険が差し迫っている場合には証拠集めは二の次で早く逃げ出しなしょう。メールやLINEのメッセージはスマートフォンがあれば確認できます。今まで受けてきたDVの内容とだいたいの日時を箇条書きにするだけでも数が揃えば十分な証拠となります。
03.婚姻費用と離婚の調停を申し立てる
加害者の下から逃げて生活が落ち着いてきたら、離婚に向けての交渉をします。とはいえ当事者同士で話し合うことはお勧めできません。加害者である相手と1対1で対峙した時点で何をされるかわかりませんし、精神的に追い詰められて不利な回答をしてしまう可能性もあります。
なので直接の離婚交渉等はせずに、家庭裁判所に婚姻費用分担調停と離婚調停を申し立てましょう。
婚姻費用分担調停
婚姻費用分担調停とは、別居した相手に対して月々の生活費を支払うように求める調停です。家族の生活費は夫婦で負担しあう義務があります。別居した場合は夫婦のうち収入が高い方が収入の低い方に生活費を支払わなければなりません。
しかしながら、DV加害者が自らの意思で婚姻費用を払ってくれる可能性は非常に低いです。調停で金額を決め法的に有効な証拠を残したうえで請求することをおすすめします。
離婚調停
離婚調停とは調停委員を交えて離婚の話し合いをすることです。調停で話し合いを進めれば加害者と直接交渉せずに済むので言いたいことをハッキリと伝えられるでしょう。
04.弁護士を立てる
調停を申し立てる前に弁護士を立てて相手と交渉することも可能です。弁護士から交渉すれば相手が真剣に対応する可能性が高くなります。
わからないことや不安なことがあったときも弁護士に相談することが可能です。
05.訴訟を起こす
調停が不成立となった場合には、訴訟を起こさなくてはなりません。訴訟になってしまった場合には弁護士に依頼することを推奨します。訴訟の場において、離婚や慰謝料請求を認めてもらうには、DVや財産の証拠と法律論に従った的確な主張をする必要があるからです。
どうやって証拠を集めればいいのか、どんなことを主張すればいいのかなど、弁護士と相談しながら訴訟の準備を進めましょう。
DVから逃げたいが離婚は迷っているとき
「DVからは逃げたいけど離婚するかどうかはまだ迷っている」「DVをやめてもらってもう一度関係をやりなおしたい」
最後に、離婚せずにDVのない家庭を取り戻す方法をお伝えします。
なお、DVを止めさせることは非常に難しいです。夫婦で長い茨の道を歩み続けることになるでしょう。このことを念頭においてお読みください。
01.まずは逃げる
まず、現時点で離婚する意思がなかったとしても加害者の下からは逃げてください。以下の2つが理由です。
- 多くのDV被害者は洗脳状態に陥っている
- 別居せずにDVをやめさせるのはほぼ不可能
長い間DVを受けていると、被害者は「自分に至らないところがあるからだ」と思うようになります。社会的DVにより世の中と隔絶され、家の中が世界のすべてになっているのならなおさらです。別居により洗脳状態が解ければ、「離婚したい」と考えるかもしれません。
また、加害者は自分のDVを正当化していることがほとんどです。この認識を改めさせなければ変わりませんが、認識を変えることは非常に困難です。話し合いで一時的に良くなったとしても、それが離婚や別居をされないようにするためのパフォーマンスであることもザラです。
家を出ることは、相手が変わるための精神的ショックを与えるうえでも必要なことです。
02.DV加害者更生プログラムを受けさせる
家を出る際(逃げる際)に、以下の書置きを残しておきましょう。
- DVをやめない限り家には戻らないこと
- DV加害者更生プログラムを受けること
更生プログラムは、加害者にDVをやめさせる唯一の手段といっても過言ではありません。2021年現在、日本で行われている更生プログラムの数は10未満ですがリモート参加できるものも増えてきています。
その後は、調停委員や弁護士を通して毅然とした対応を取りましょう。婚姻費用も支払ってもらいます。更生プログラムに参加し続けること、婚姻費用を支払い続けることも必須です。加害者にとって「DVをしない自分」に変わるための訓練にもなるでしょう。
さいごに
DV被害者の多くは自分がDVを受けていることを自覚できていません。ほとんどのケースにおいて被害者は行動を起こす気力を奪われ、何もできないまま辛い毎日を過ごし続けることとなります。
なんか変だなと感じたら、まずは地域の相談窓口に連絡してみてください。公共の相談窓口なら無料で利用できますし秘密も守られます。この先どうしていいのかわからないなら対処方法も教えてもらいましょう。
相談し最低限の準備を整えたらなるべく早く加害者の下から逃げてください。離婚するかしないか、婚姻費用や慰謝料はどうするのかなどは逃げてから考えても遅くありません。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では、DVやモラハラ事案の解決サポートに積極的に取り組んでいます。このような被害にお悩みの方はまずは気軽にご相談ください。