離婚事件の相談者の方から、「調停前置主義とは何でしょうか?」「なぜ訴訟の前に調停をしなければならないのでしょうか?」といった質問を受けることがよくあります。
離婚問題の場合、相手方(配偶者)との対立が深く、話し合いでは到底解決できない状態に陥ってしまっていることは珍しくありません。父母の双方ともに子どもの親権を強く希望している場合、当事者間の話し合いでの解決は困難であるため、調停でも解決には至らないことはざらです。
このようなケースでも調停を飛ばしていきなり裁判(離婚訴訟)を提起することはできません。調停前置主義が適用されるからです。
調停前置主義とは、訴訟の前に必ず調停を行ない、調停が不成立となったときに初めて訴訟を提起することができるというルールをいいます。
今回の記事では、この調停前置主義の内容や適用されるケース、例外として調停なしで訴訟提起できるケースについて弁護士が解説します。
1.調停前置主義とは
調停前置主義とは、「訴訟を提起する前には、必ず調停をしなければならない」という法律上の原則です。
1-1.調停とは
調停とは、裁判所で調停委員を介して話し合うための手続きです。調停委員2名と調停官が間に入って当事者間の意見を調整します。
調停を利用すると、相手方と直接顔を合わせてやり取りする必要がありません。当事者同士が険悪な関係になってしまい話し合いができないケースであっても、調停委員会が介在してやり取りをすることになるので、事態を解決できる可能性は高くなります。
1-2.訴訟とは
訴訟とは、裁判所へ事件の申立を行ない、裁判官に一定の結論を出してもらう手続きです。調停とは異なり、話し合いの手続きではありません。
訴訟で有利な判決を得るためには、法律的に正しい主張や立証を行う必要があります。調停では法律論に従わずに感情論で希望を出しても通る可能性がありますが、訴訟では法律的に間違っている主張は100%とおりません。
そのため、調停と異なり専門的な知識や対応が必要となるため、有利に進めたいのであれば弁護士によるサポートが必須といえるでしょう。

1-3.調停前置主義の理由や根拠
なぜ離婚事件には調停前置主義が適用されるのでしょうか?
それは「家庭に関する問題はできるだけ家庭内で解決すべき」「家庭の問題は当事者が互いに譲り合って自分たちで解決すべき」と考え方が前提にあるためです。
離婚のような家族の問題に、最初から裁判所が介入して結論を押しつけるのは好ましくないと考えられています。また、訴訟手続は公開法廷にて行われますので、誰でも傍聴できる状況にあります。家庭内の問題を世間に公開することを望まない人も多いでしょう。
調停であれば話し合いで解決を図ることができるので、裁判所からのサポートを受けつつも柔軟な対応が可能です。また、手続きは非公開であるので、夫婦の問題を第三者に知られることはありません。
このように「家庭の問題は当事者が互いに譲り合って自分たちで解決すべき」という考え方があるので、調停前置主義が適用されています。
1-4.調停前置主義の根拠条文
調停前置主義の根拠条文は、家事事件手続法という法律にあります。
(調停前置主義)
第257条 第244条の規定により調停を行うことができる事件について訴えを提起しようとする者は、まず家庭裁判所に家事調停の申立てをしなければならない。
家事事件手続法第257条第1項では、離婚訴訟などの家庭に関する訴訟を提起する際にはまず調停を申し立てなければならないと規定されております。これが調停前置主義の根拠です。
なお、調停前置主義には例外があり、どのような場合でも絶対に調停を先にしなければならないというわけではありません。例外については、後の項目で詳しく解説いたします。
2.調停前置主義の対象となる事件

調停前置主義が適用されるのは離婚事件だけではありません。
以下のような事件においても調停前置主義が適用されますので、訴訟を提起する前に調停を行う必要があります。
- 夫婦の離婚
- 養子縁組の離縁
- 婚姻無効確認
- 婚姻取消
- 離縁無効確認
- 離縁取消
- 嫡出否認の訴え
- 認知の訴え


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3.調停なしで訴訟を提起したらどうなる?

3-1.調停をせずに訴訟を提起した場合の処理
調停をせずに離婚訴訟を提起した場合、すなわち調停前置主義を無視した場合、どうなってしまうのでしょうか?
家事事件手続法第257条第2項において以下のとおり定められております。
前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
つまり、調停をせずに訴訟を提起しても、裁判所が職権で調停にまわしてしまうということです。いきなり離婚訴訟を起こしても裁判所の判断で自動的に調停となり、調停手続きが開始されることとなります。
調停前置主義を無視して訴訟を提起しても、不適法却下(裁判所が「訴訟の要件を満たさない」として訴えを却下してしまうこと)とはならないことを理解しておきましょう。
3-2.管轄
離婚調停と離婚訴訟では、その管轄が異なります。
離婚調停は「相手方の住所地を管轄する裁判所」または「当事者が合意で定めた家庭裁判所」です。
他方で、離婚訴訟では「原告の住所地の家庭裁判所」または「相手方の住所地の家庭裁判所」です。合意管轄は認められておりません。
お互いの住所地が異なる場合、こと調停においては管轄が遠方となってしまうことに注意しましょう。
調停なしに訴訟提起した場合の管轄
調停前置主義を無視して離婚訴訟を起こした場合、どこの管轄の家庭裁判所で処理されるのか?
家事事件手続法第257条第3項において以下のとおり定められております。
裁判所は、前項の規定により事件を調停に付する場合においては、事件を管轄権を有する家庭裁判所に処理させなければならない。ただし、家事調停事件を処理するために特に必要があると認めるときは、事件を管轄権を有する家庭裁判所以外の家庭裁判所に処理させることができる。
つまり、基本的には管轄権のある裁判所で処理されることになります。自分の住所地と相手の住所地が異なる場合において、自分の住所地の家庭裁判所にいきなり訴訟を申し立てた場合、裁判所の判断により調停は相手の住所地にて行われます。なお、第3項では一定の例外を認めており、「特に必要があるとき」には、訴えを受けた家庭裁判所で調停を処理できるとされております。
調停や訴訟の管轄については専門的な知識を要することが多々あるので、迷ったときには弁護士へ相談しましょう。

4.調停前置主義の例外
調停前置主義により、離婚事件では基本的に訴訟前に調停をしなければならないのですが、例外もあります。根拠となる条文は、家事事件手続法第257条第2項但し書です。
前項の事件について家事調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、裁判所は、職権で、事件を家事調停に付さなければならない。ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、この限りでない。
この例外について、以下で具体例を示します。
4-1.相手が3年以上生死不明なケース
離婚訴訟においては、裁判上の離婚理由がないと離婚を認めてもらえません。
裁判上の離婚理由は民法によって5種類が定められていますが、そのうち1つに3年以上の生死不明があります。相手方が3年以上生死不明な状況下において、調停を申し立てたとしても相手が出頭する見込みはありません。
そこで、相手方が3年以上の生死不明であることを理由に訴訟提起する場合には、調停前置主義は適用されません。最初から訴訟を提起しても受け付けてもらうことができます。
4-2.相手が刑務所に長期間収容されている
相手が犯罪を犯して刑務所に長期にわたって収監されている場合、調停をして呼び出しても出頭できる見込みはありません。
よってこちらも調停前置主義の例外となり、いきなり離婚訴訟をしても受け付けてもらうことができます。
4-3.相手に強度の精神障害があって通常の判断ができない場合
法律上の離婚原因の一つに、相手方が強度の精神病にかかり回復の見込みがないことがあります。これは、パートナーの統合失調症や双極性障害などが極めて重度で医学的に回復しがたい状態をいいます。この場合、これまで献身的に看護してきたことや離婚後に病人側の生活が保障されていることなどを要件として離婚が認められます。
相手が強度な精神病にかかっていて通常の判断ができない場合には、調停をしても合意できる見込みがありません。そのため、調停前置主義の例外となる可能性があります。
5.調停前置主義の例外とはならないケース

以下のような事案は調停前置主義の例外とはならないので注意しましょう。
5-1.親権について深く対立しているケース
子どもの親権者は、父母のどちらか一方しかなれません。そのため、夫婦の双方が親権を希望している場合、十分に話し合ったとしても解決に至る可能性はほとんどないです。親権についての対立が深い場合には、離婚調停が1回で不成立となってしまうケースも少なくありません。
しかし、親権についての対立が深い事案であっても、このことが調停前置主義の例外となることはありません。離婚訴訟の前には必ず調停をしなければならないので注意しましょう。
5-2.DVのケース
DV(ドメスティック・バイオレンス)がある事案においては、相手から暴力を振るわれるおそれがあるので、調停を申し立てるのは困るという方もいらっしゃいます。
調停では、代理人を付けている場合であっても当事者の出頭を求められることが多数です。家庭裁判所への道中や裁判所内で相手方と鉢合わせしてしまうことを恐れるのもやむを得ないといえるでしょう。
しかし、DVがある事案であっても、このことが調停前置主義の例外となることはありません。調停を経なければ訴訟提起ができないので注意しましょう。
5-3.DVのある離婚調停における安全性確保のための施策
DV案件の場合、どのようにして当事者の身の安全を確保するのでしょうか?
別室調停
一つは「別室調停」という方法です。
別室調停とは、夫婦がそれぞれ別室で待機し、調停委員が部屋間を移動して話し合いを進める方式です。当事者には相手方がどの部屋にいるのか通知されないので、押し掛けられて暴力を振るわれるリスクは非常に低いです。
時間ずらし
当事者双方の家庭裁判所への呼び出し時間や帰る時間をずらす対応も多く採用されています。相手方と出頭時間、帰宅時間がずれていれば裁判所外で鉢合わせするリスクは少なくなります。
住所の非開示
現在の住所を知られてしまうと押し掛けられる可能性があるため、住所を非開示にするといった配慮が取られることがほとんどです。
弁護士に依頼するのがおすすめ
ことDV案件では、相手方からのDVリスクを低減するよう家庭裁判所が配慮・対処してくれますが、これは100%確実とはいえません。また、1人では心細い方も多いでしょう。
より安全に調停をすすめるには、弁護士へ依頼するのがおすすめです。弁護士がついていれば家庭裁判所内でも弁護士が一緒に行動するので安心感を得ることができます。万が一相手と鉢合わせしたときにも弁護士がそばにいることで危険が発生しにくくなります。
申立書の作成などの手続き的な部分も任せられますし、危険が高い場合には保護命令の申立代行なども可能です。DVによる離婚で調停前置主義に不安を感じているのであれば、お気軽に弁護士までご相談ください。

6.調停不成立と取下げの違いについて
以上のように、離婚事件には調停前置主義が適用されます。離婚の訴訟を提起するには、調停を行ない(調停が)不成立となる必要があります。
なお、調停の終了原因としては、不成立以外に取下げがあります。
取下げをしてしまうと、調停自体が初めからなかったことになってしまいます。そのため取下げをした場合は、調停前置主義の要件を満たしません。
不成立証明書も発行されないので調停したのと異なる裁判所へ離婚訴訟を提起できませんし、調停したのと同じ裁判所でもやはり訴訟をしてもらえなくなってしまいます。
調停後に訴訟をするのであれば、取り下げるのではなく不成立にするようにしましょう。合意が難しくなったケースにおいて、調停委員から「取り下げるように」といわれるケースがありますが従ってはなりません。
7.さいごに
離婚調停や離婚訴訟を有利に進めるためには専門的な知識が必要です。自身の判断で対応してしまうと、不利な条件を受け入れてしまったり取り下げてしまったりして不利益を受ける可能性があります。
恵比寿の鈴木総合法律事務所では離婚や男女問題に力を入れて取り組んでいます。
離婚問題にお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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