不払いの養育費を回収するにはどうすればいい!?

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弁護士 鈴木 翔太
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離婚の際に親権者とならなかった側は、その子どもが成人になるまで養育費を支払わなければなりません。

しかし、現実には、親権者とならなかった側が約束どおりの養育費を支払うことは少ないようです。7割超の方が取り決められた養育費を支払わないという調査結果もあります。

養育費が不払いとなってしまった場合に、不払いの養育費を回収するにはどうすればよいのでしょうか?

今回の記事では、養育費の不払いがあった場合の回収方法について解説します。

1.公正証書や調停調書があるか確認する

養育費を払ってもらえないときの対処方法は、公正証書や調停調書といった債務名義があるかどうかで異なります。

1-1.債務名義とは

債務名義とは、強制執行(差し押さえ)を申し立てる際に必要となる書面のことです。債務名義があれば、相手が不払いを起こした際に、すぐに相手の給与や預貯金を差し押さえることができます。

養育費のケースでいえば、公正証書や調停調書などの債務名義があれば、相手が養育費の不払いを起こした場合に、すぐに相手の給与や預貯金を差し押さえることができます。給与や預貯金を差し押さえ、ここから養育費を回収することとなります。

他方で一方で債務名義がない場合には、相手が任意に支払わなければ支払いを受けられません。

1-2.債務名義となる書面

こと養育費の不払いにおいては、下記のような書面が債務名義となります。

  1. 公正証書
  2. 調停調書
  3. 審判書
  4. 判決書
  5. 和解調書
  6. 認諾調書

公正証書

協議離婚(夫婦の話し合いのみで離婚合意に至った離婚)の際に、離婚の条件等について公証役場で作成した書面です。

調停調書

調停離婚を申し立て調停が成立した場合に家庭裁判所から送られてくる書面です。

審判書

養育費の審判があったときに、家庭裁判所から送られてくる書面です。

判決書

離婚訴訟で離婚した際に裁判所から送られてくる書面です。

和解調書

離婚訴訟の途中で当事者の和解が成立した際に裁判所から送られてきた書面です。

認諾調書

請求の認諾によって離婚訴訟が終わったときに裁判所から送られてきた書面です。

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1-3.債務名義とはならない書面

債務名義となる書面は、上述のような公的機関(裁判所や公証役場)が関与している書面です。

逆にいえば、当事者だけで作った離婚協議書や養育費に関する合意書は、債務名義とはなりません。当事者間で取り決めた書面があったとしてもこれを理由として強制執行をすることはできないということです。

1-4.協議離婚時に公正証書を作成していた方が良い理由

夫婦の協議で円満に離婚の合意が成立した(協議離婚)としても、その後の養育費の支払が約束どおりになされるとは限りません。

不払いの養育費を請求する際、公正証書を作成していた(債務名義を取っていた)のであれば2章の対応で足りますが、債務名義がない場合は別途債務名義を得なければなりません。

あらかじめ公正証書を作成しておけば訴訟提起の手間がなくなりますし、相手方も「不払いを起こしたら即強制執行される」という恐れから養育費の支払(債務の履行)をしっかりと行なうものと考えられます。

夫婦の協議で離婚の合意に至る協議離婚の場合において、公正証書を作成しておくことが推奨される理由はここにあるといえます。

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2.債務名義がある場合の養育費回収手順

公正証書や調停調書、審判書といった債務名義があるケースでの養育費回収手順は以下のとおりです。

2-1.履行勧告、履行命令を申し立てる

調停や審判など、家庭裁判所で決まった事項に相手が従わない場合には、履行勧告や履行命令を利用できます。なお、実効性が望めない部分もあるため、これらを経ずに強制執行される方が多いです。

履行勧告

履行勧告は、裁判所から相手に対し「裁判所で決まった約束を守ってください」と促してもらう制度です。書面だけではなく口頭でも履行勧告の申出ができます。

なお、履行勧告には強制力がありません。相手が従わない場合のペナルティはないので、相手が支払いを強く拒否している場合には効果を期待できません。

履行命令

履行命令は、裁判所から相手に対し「裁判所で決まった事項に従いなさい」と命令してもらう手続きです。

履行命令に従わない場合、相手は「10万円以下の過料」という制裁を受ける可能性があります。ただし、これはあくまで命令するだけなので、相手が命令に従わない(履行しない)可能性はあります。

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2-2.差し押さえ(強制執行)

相手が取り決められた養育費の支払いをしない場合は、差し押さえ(強制執行)の申立を行ないましょう。

差し押さえとは、相手の資産や債権を差し押さえて強制的に現金化する手続きです。

以下のような相手名義の資産や債権を差し押さえることができます。

  • 給与、賞与(ボーナス)
  • 退職金
  • 預貯金
  • 保険(解約返戻金のあるもの)
  • 不動産
  • 動産
  • 株式、投資信託

財産を差し押さえた場合、そこから未払いの養育費を回収できます(換価が必要なものである場合は、換価した後で回収することとなります)。

なお、給与を差し押さえると将来分の養育費も継続的に回収することができるので、相手が仕事をやめない限り養育費を継続して受け取ることができるというメリットがあります。

3.債務名義がない場合の養育費回収手順

債務名義がない場合、以下のような手順で回収することとなります。

3-1.相手に請求する

まずは相手にメールや電話などで支払いを求めましょう。相手が無視するようであれば、内容証明郵便を使って請求書を送ってみるのもよいかもしれません。

内容証明郵便は自分で送ることもできますが、弁護士が代理で送れば相手に強いプレッシャーを与えられますし、支払いを受けられる可能性が高まります。

3-2.公正証書を作成する

上記の請求で相手が支払いに応じるようであれば、養育費に関する合意書を作成して公正証書を作成しましょう。

公正証書を作成すれば債務名義を得たこととなるので、以後不払いがあった際は、3-3以下の手順を踏まずとも強制執行すること(2章参照)が可能となります。

3-3.養育費調停を申し立てる

任意の交渉で、相手方が支払いに応じない場合には、家庭裁判所で養育費調停を申し立てましょう。

養育費調停では調停委員が間に入って養育費の話し合いを進めていきます。養育費の金額には相場があり、調停委員は相手方に対し相場に従った金額を払うよう説得してくれます。

裁判所 養育費の法的な相場

養育費調停において、相手が支払いに納得し、お互いに合意できれば調停が成立します。調停が成立すると、数日後に当事者へ調停調書が送られてきます。

調停調書は債務名義となるので、以後、相手が約束を守らないときには差し押さえが可能です。

3-4.審判に移行

養育費の金額等について調停で合意できなかった場合には、調停は不成立になり審判に移行します。

審判では、裁判官が養育費の金額を決めて相手に支払い命令を下します。命令の内容は、審判所として当事者に送達されます。

審判書も債務名義となりますので、相手が従わないときには給料等の差し押さえができます。大切に保管しましょう。

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4.差し押さえの手順

差し押さえ(強制執行)は、裁判所への申立が必要な複雑な手続きです。具体的な手順をみてみましょう。

4-1.差し押さえ対象を確定する

差し押さえ対象とする財産は、債権者が特定する必要があります。この作業は簡単そうに見えますが実際には難しいことがあります。

給料を差し押さえる場合

相手方の勤務先を特定しなければなりません。離婚後に相手が転職していたりすると特定が難しいです。

預貯金を差し押さえる場合

相手がお金を入れている口座の金融機関名と支店名の情報が必要となります。相手がメイン口座を変えていたりすると特定が困難となることがあります。

保険を差し押さえる場合

相手が契約している生命保険会社を特定する必要があります。

不動産を差し押さえる場合

物件所在地や地番、家屋番号などを特定するための全部事項証明書を取得する必要があります。

株式を差し押さえる場合

取引している証券会社名を明らかにしなければなりません。

4-1-2.第三者からの情報取得手続

離婚してから時間が経過していると、相手が転職してしまったりメイン口座を変えたりしてしまい、給与や預貯金を差し押さえるための特定が困難となることが多々あります。

このようなときには、第三者からの情報取得手続を利用することで相手方の情報を取得しましょう。

第三者からの情報取得手続は、近年の法改正によって新たに導入された手続きであり、裁判所が、年金機構や市町村役場、金融機関、法務局等の各種機関に対し相手の情報を照会することで相手の勤務先や取引金融機関を明らかにする制度です。

第三者からの情報取得手続を利用すると、以下のような情報を入手できます。

相手の勤務先

日本年金機構や市町村役場へ照会し、相手の勤務先を特定します。

相手が取引している金融機関の支店名

金融機関へ照会し、相手が口座を有している支店名を特定します。

不動産に関する情報

相手が所有している土地や建物の情報を特定します。

4-1-3.第三者からの情報取得手続の注意点

万能にみえる第三者からの情報取得手続ですが、以下のような注意点があります。

保険は対象外

保険は第三者からの情報取得手続きの対象になっていません。そのため、相手が加入している生命保険会社や生命保険契約が不明な場合、自力で特定しなければなりません。

事前に財産開示手続きが必要

不動産や給与の情報を照会する場合は、初手から第三者からの情報取得手続を利用することはできず、事前に財産開示手続きをしなければなりません。

財産開示手続きとは、裁判所から相手本人に照会をして財産状況を明らかにさせる手続きです。

財産開示手続に対し相手が開示に応じない場合や虚偽報告をした場合は、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金刑が科される可能性があります。刑事罰を受けたくなければ正直に財産開示しなければなりません。

4-2.必要書類を準備する

差し押さえの対象が決まったら、強制執行を申し立てるための必要書類を集めなければなりません。

例えば以下のような書類が必要となります。

債務名義

調停調書や公正証書、審判書などの債務名義です。審判書や判決書の場合は、確定証明書も必要です。

執行文

執行文は債務名義を発行してもらった機関へ申請して発行してもらいます。たとえば調停調書であれば調停が成立した家庭裁判所へ申請しましょう。

送達証明書

送達証明書は、文書が相手に送達されたことを証明してもらう文書です。送達されていない場合には、先に送達を申請しなければなりません。

債務名義が発行させた機関へ送達証明書を申請すれば発行してもらえます。

差押命令の申立書

差押命令の申立書です。書式に従って自分で作成しましょう。

各種目録

当事者目録や差押債権目録、債権目録などを作成しなければなりません。必要部数も状況によって異なります。

商業登記簿謄本

第三債務者(銀行や保険会社、相手の勤務先など)が法人の場合、法人の商業登記簿謄本が必要となります。

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4-3.地方裁判所へ申立を行なう

書類が揃ったら、地方裁判所へ提出して差し押さえの申立をしましょう。

不備がなければ差押命令が発令されて、裁判所から相手の勤務先や金融機関などへ差押命令が送達されます。その後、裁判所から相手方本人にも差押命令書が送られます。

債権差押命令が出たら、第三債務者に連絡して取り立てを行いましょう。

給料の場合

相手の勤務先の会社へ連絡して、その後の給料やボーナスから滞納分を支払ってもらいます。

ただし差し押さえができるのは、相手の手取り額の2分の1(相手の手取りが66万円を超える場合には33万円を超える全額)です。相手の給料やボーナスを全額差し押さえられるわけではありません。

預貯金の場合

対象の金融機関へ連絡して差し押さえた預貯金から支払いを受けましょう。債権差押命令が送達された時点で口座は凍結され、相手本人は出金できない状態になっています。早めに連絡して取り立てましょう。

保険の場合

保険を強制解約して解約返戻金から取り立てを行います。

換価が必要となる財産の場合

不動産や動産、自動車などを差し押さえた場合には、競売を行って売却(換価)する必要がでてきます。競売手続きには手間と費用と時間がかかるため、給料や預金などの債権を先に差し押さえた方が良いでしょう。

4-4.取立届を提出する

取立が終わったら、裁判所へ取立届を提出しましょう。全額回収できた場合には取立完了届を提出します。

1回の差し押さえでは全額回収できなかった場合、別の機関へ新たに差し押さえの申立をしなければなりません。

5.養育費を滞納されたら早めに請求を

離婚後、相手が養育費を払わない場合は、できるだけ早く請求しなければなりません。なぜなら、債務名義がない場合の未払い養育費は、請求したときからの分しか支払ってもらえないためです。離婚時に養育費の約束をしなかった場合、一般的に養育費調停を申し立てるまでの分は支払われません。離婚時に養育費の取り決めをしても公正証書にしていなければ、養育費の調停を申し立てた月からの分しか払ってもらえない可能性があります。

また、滞納額が大きくなると相手の支払い意欲も落ちてしまうため、全額回収のハードルが上がってしまうといえます。

さらには、請求を何年も放置してしまうと、養育費の請求権が時効にかかってしまい回収できなくなってしまうこともあります。

恵比寿の鈴木総合法律事務所では、離婚や男女問題、子どもの法律トラブル解決に力を入れて取り組んでいます。養育費調停や相手方との交渉なども対応しております。養育費の不払いでお困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

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