会社を経営している場合や個人で事業を行なっている場合、売掛金等債権が所定の期日までに支払われない場合は要注意です。
放置してしまうと相手方が破綻してしまったり行方不明になったりして回収が困難になってしまうことが往々にしてあります。また、債権には時効があり、所定の期間を経過してしまうと請求が出来なくなってしまう点にも気を付けなければなりません。
そのため、相手方の債務不履行があった際には、自発的に回収を図ったほうが良いといえるでしょう。
実は債権回収の方法についてはさまざまな手法があり、各手法には一長一短があります。
今回の記事では、債権回収の手法や手順、時効等について、改正民法の内容を踏まえ弁護士が解説します。
債権回収の手順
売掛金などの債権が支払われなかったら、以下のような流れで回収を進めましょう。
01.期日を過ぎたらすぐに請求する
何はともあれ請求することが第一です。期日を過ぎても支払がなされないようであればまずが請求しましょう。
期日を過ぎても請求を放置してしまうと、適当な姿勢、債権回収に真摯でない態度が相手側に伝わってしまいます。こちらの厳しい態度を明確にするためにも、相手に真剣に対応させるためにも、期日を過ぎたら電話や書面、メールなどで請求をしましょう。
02.話し合い
相手型(債務者)とコンタクトが取れた場合には、なぜ入金が行われていないのか確認しましょう。不履行の理由が手違いや失念などが理由であれば即座の入金を促しましょう。そうでないのであれば、いつまでに支払ってもらえるのか等をしっかりと話し合いましょう。
03.話し合いができなければ内容証明郵便の送付
電話や書面、メールなどで督促しても相手が対応しない場合には、内容証明郵便を使って未払い金を請求しましょう。内容証明郵便で督促を受けることでプレッシャーを感じ、支払いに応じてくれる債務者も中にはいます。
相手型と連絡が取れた場合には、いつまでに入金するかなどの具体的な支払い方法を話し合って決めておきましょう。
04.合意書の作成
相手と話し合い、今後の支払い方法について合意することができた場合は、合意書を作成しましょう。口約束だけだと言った言わないの問題やそもそもの約束を反故にされる可能性もあります。後々のことを考慮しても必ず書面化しておくべきといえます。
公正証書の作成について
金額が高額で分割払いにする場合や相手が信用できない場合には、合意書を公正証書にしておくことを推奨します。公正証書を作成しておけば、相手が支払いをしなかったときにすぐに差押えをすることが可能となります。
なお、差押えの対象となる財産としては以下のものが挙げられます。
- 預貯金
- 現金
- 不動産
- 車
- 保険
- 賃料債権
- 売掛金債権
- 動産類(在庫品など)
相手の資産状況をある程度把握しておくとよいでしょう。
05.支払督促
話し合いでは解決できない場合や内容証明郵便を送っても無視される場合は、支払督促によって回収できる可能性があります。
支払督促では、債務者が一定期間内に異議を述べない場合には、債権者が債務者の財産を差し押さえられることが可能となります。具体的には、支払督促申立書が債務者に届いて2週間以内に債務者が異議が申し立てなければ、裁判所から発令される仮執行宣言によって相手の資産を差し押さえることが可能となります。
支払督促は裁判よりも迅速な手続きであり、2ヶ月程度で差押えまで進められます。また、手続きがそこまで難しくもないので、手間と労力、費用を抑えられます。弁護士に依頼する必要もないといえるでしょう。
支払督促のデメリット、注意点
なお、支払督促には以下のようなデメリットがあるので注意が必要です。
- 相手が異議を出すと通常訴状に移行する
- 訴訟の管轄が相手方の住所地の裁判所となる
- 財産が判明していないと差押えができない
①についてですが、支払督促に対し相手方が異議を出せば通常訴訟に移行してしまいます。通常訴訟に移行した場合は、時間と労力をかけて裁判の対応をしなければならず、費用対効果でマイナスとなることもあります。また、訴訟対応を弁護士に依頼した場合には、費用の負担という経済的マイナスも生じますので、費用倒れになる可能性が高くなります。
②についてですが、支払督促に異議が出されて通常訴訟に移行した場合、裁判所の管轄が相手方の住所地となってしまいます。始めから訴訟で申し立てていれば、自社近くの裁判所を利用できるケースがあるのに対し、支払督促から入った場合は相手方住所地の裁判所が通常訴訟の管轄となってしまうのです。
そのため、相手が遠方のケースでは安易に支払督促を行ってしまうと管轄変更によるデメリットを受けてしまうこととなります。
③についてですが、支払督促によって仮執行宣言が出た後、実際に債権回収するために相手の資産へ強制執行することが必要となりますが、強制執行は相手の資産を判明できていないと行うことができません。また、特定の口座に対し差押えをしようとしても残高が雀の涙ほどしかなく差押えが空振ってしまうことも往々にしてあります。債権回収をするのであれば、事前に相手方の資産状況を把握しておく必要があるといえるでしょう。
上述のとおり、支払督促にはデメリットがあります。支払督促の申し立てを検討する際は、以下の事情をしっかりと検討しておくべきといえるでしょう。
- 相手が異議を出しそうかどうか
- 相手の住所地はどこか
- 相手の資産状況を把握できているか
支払督促が最良の手なのかどうか自身では判断が難しいということであれば、債権回収に強い弁護士に相談してみましょう。
06.仮差押
話し合いによっては合意できないケース、内容証明郵便を送っても無視されるケースなどでは、訴訟を起こして債権回収手続きを進めなければなりません。
しかし、訴訟は決着がつくまでに長い時間がかかります。その間に相手に資産を隠されてしまうと、せっかく勝訴判決が出ても取り立てができなくなってしまうことでしょう。
このような不合理を回避するため、手続きに先んじて仮差押を行なっておくことをお勧めします。
仮差押とは、裁判が確定するまでの間、仮に相手の資産を差し押さえて凍結する手続きです。以下のようなものを仮差押することができます。
- 不動産
- 預貯金
- 保険
- その他の債権
- 動産類
仮差押が発令されると、債務者は不動産の売却や抵当権の設定、預貯金口座からの出金や振込、保険の解約などが一切できなくなります。
なお、仮差押には順序があり、通常は「最初に不動産」「不動産がなければ預貯金等の流動資産」を差し押さえるよう裁判所から指定されます。流動資産を差し押さえてしまうと債務者の生活に大きな(悪)影響を及ぼしてしまうため、まずは不動産から差し押さえるべきという考え方に基づいています。
07.訴訟
仮差押を行ったら訴訟を起こしましょう。
訴訟で債権の存在と相手が支払い遅延している事実を証明できれば、裁判所が相手に支払い命令の判決を下してくれます。判決後も相手が支払をしなければ、判決書を使って強制執行(差押え)できます。
なお、訴訟を申し立てることで裁判所に支払い命令の判決を出してもらうためには、債権者側がきちんと証拠を揃えて法律的な主張を行うことで裁判所を納得させなければなりません。また、その手続き期間も長くなる傾向にあり、半年以上かかることがほとんどです。
①しっかりとした立証、適切な法的主張をする、②半年以上かかる手続きを他者(代理人)に一任する、といったあたりを考慮すると、訴訟対応については法律のスペシャリストである弁護士に依頼した方が良いといえるでしょう。
和解について
裁判の途中で和解合意に至るケースも多々あります。和解とは、当事者の話し合いによって裁判を終わらせる方法です。
判決では必ず「遅延損害金を含めた一括払い」の支払命令となりますが、和解であれば相手が支払いやすいような分割払いでの約束もできますので、相手が任意で支払う可能性が高くなるかもしれません。
また、和解調書にも判決書と同様の強制執行力を有しております。そのため、支払いが行われない場合には、和解調書を債務名義として相手の資産を差し押さえることが可能です。
08.強制執行
裁判で判決が出たら、相手に連絡をして判決に従った支払いをするように求めます。それでも相手が支払に応じないな場合は、判決書を使って強制執行を行います。
強制執行とは、相手の資産を差し押さえて現金化し取り立てることです。先に仮差押を行っていた場合には、仮に差し押さえていた財産に強制執行を行い債権回収します。
強制執行の手続きは対象資産の種類によって変わります。預貯金や保険などの債権であれば費用もかからず比較的短期間に簡単に取り立てができますが、不動産や車、その他の動産の場合には競売をしないとお金が入ってこないので時間も費用もかかってしまいます。
いずれにしても強制執行を行うのであれば、相手の資産を把握しておく必要があります。判決が出ても相手の資産を把握できていなかったり相手に資産がなかったりすると結局取り立てができず、判決が「絵に描いた餅」となってしまうおそれが高まります。債権回収を成功させるには事前に相手の資産内容を把握して仮差押えしておくことが重要です。
債務者が倒産しそうな場合の対処方法
債務者が倒産しそうなケースでは、上記の流れとは別の方法で債権回収を進める必要があります。
倒産しそうな企業には他の債権者も殺到しますので、対処が遅くなってしまうと他の債権者にめぼしい資産をすべて回収されてしまいます。
また、債務者が破産や民事再生等の法的手続に入ってしまうと債権者は個別の取り立てができなくなってしまいます。このような場合、破産であれば配当しか受け取ることができなくなり、事実上債権回収が困難となってしまいます。
それでは、相手方が倒産しそうなケースではどのような流れを踏めばよいのでしょうか?答えとしては、先の流れにおける話し合いのステップをすべて飛ばして、すぐに法的手続をとるべきといえます。倒産寸前の債務者と話し合いをしたところで意味はありません。それであればいち早く債務名義を取る方向で動いた方が良いといえます。
適切な対処方法がわからない場合には弁護士に相談しましょう。
債権の時効について
債権回収するときには、時効(消滅時効)も意識しておく必要があります。
この時効期間については、近年の民法改正によって大幅に変更されておりますので注意しましょう。
01.改正民法施行前に発生した債権
改正民法施行前に発生した債権には旧来の時効が適用されます。改正民法の施行が2020年4月1日ですので、2020年3月31日までに発生した債権は旧来の時効制度が適用されます。
具体的には、債権の種類によって時効期間が異なります。
- 飲食店、宿泊費、運送費などは1年
- 学校や塾の授業料、弁護士の債権などは2年
- 工事代金などは3年
- 一般的な商取引による債権は5年
02.改正民法施工後に発生した債権
2020年4月1日以降に発生する債権には新しい民法が適用され、基本的には請求できることを知ってから5年で時効にかかります。
03.時効が成立するとどうなるのか
時効(消滅時効)が成立してしまうと、その債権は消滅してしまうので債権を回収することができなくなってしまいます。
なお、訴訟を起こせば時効が完成猶予され、一時的に時効が成立しなくなります。また、その後判決が確定すれば、時効期間は更新されます。
時効が成立しそうなのであれば、時効完成を阻止するためにも早めに訴訟を起こすべきでしょう、訴訟の申し立てが間に合わないようであれば、先に内容証明郵便を送ることで時効の完成猶予を図ることも可能です。
債権回収会社について
債権回収を達成する手段として、債権回収会社を利用する方法もあります。
債権回収会社とは、債権回収を専門的に請け負う会社です。債権管理回収業に関する特別阻止法(通称、サービサー法)にもとづいて国から許可を受けていれば債権回収業ができます。
債権回収会社を利用する際は、債権回収の委託と債権譲渡の2種類の方法を選択することとなります。
債権回収の委託は、債権回収会社に債権回収を任せる方法です。債権者は委託会社のままで変更しません。債権が回収できた場合、回収できた債権額から債権回収会社の手数料が差し引かれることとなります。
債権譲渡は、債権そのものを債権回収会社に譲ってしまう(買い取ってもらう)方法です。債権者としての地位は債権回収会社に移り、もとの債権者は権利を失います。
01.メリット
債権回収会社に債権回収を委託すれば自社で対応しなくて良くなるので労力を省けます。また、専門業者のノウハウを使って回収できるので回収可能性が高まる可能性もあるでしょう。
また、債権譲渡した場合は、その後現実には回収できたかどうかに関わらず一定の金額を得ることができます。
02.デメリット
債権回収会社を利用した場合、相応の手数料がかかります。また、債権譲渡の場合には、かなり買いたたかれることとなります。コスト面を考慮すると、自社で対応ができるのであれば自社で対応した方が良いでしょう。
また、債権回収業者の中には国の許可を得ていない違法な業者もあります。そのような業者を利用してしまうとトラブルに発展することがありますので注意が必要です。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、債権回収の相談を広く受け付けております。債権回収にお悩みの方は是非一度ご相談ください。