債権回収を進めるうえで注意しなければならない点のひとつに時効が挙げられます。時効が成立してしまえば債権の回収をすることができなくなってしまうためです。
そのため、債権回収を達成したいのであれば時効が成立する前に債権を回収する必要がありますし、時効完成が近いようであれば時効の完成を阻止する手続きを取る必要があります。
今回の記事では時効とはなにか、時効の成立を阻止するには(時効を止めるには)何をすればよいのか等について解説します。
債権
債権とは、契約やその他の法律上の理由にもとづいて相手に何かを求める権利です。
他人にお金を支払ってもらう権利も「相手に対し正当な理由に基づいて金銭の支払いを要求できる権利」といえるので債権にあたります。お金を支払ってもらう権利(債権)のことを一般に金銭債権と言います。
金銭債権としては以下のものが挙げられます。
- 知人に貸し付けた金銭
- 賃借人が滞納している家賃
- 未払の売掛金
- 未払の診察報酬 等
時効
01.時効とは
時効とは、一定の期間継続している状況を尊重し、その状態が法律的に正当でなくてもその状態を認める制度です。
民事上の時効には、消滅時効と取得時効の2種類がありますが、本記事では消滅時効について説明します。
02.消滅時効とは
債権の消滅時効とは、債権を行使できる状態になってから一定期間が経過した場合には、その債権は消滅するというものです。
たとえばお金を返してもらうという金銭債権を有する人が相手方に対し所定の権利行使をしない場合、一定の期間の経過をもってその債権が消滅してしまうこととなります。
債権者側は債権の消滅により経済的損失を被ることとなりますので、消滅時効については常に気をつけておかなければなりません。
債権ごとの時効期間
消滅時効が成立するまでの期間は債権の種類によって異なります。
なお、2020年4月の民法の一部改正により、消滅時効に関する規定が変わりました。そのため、債権の成立時(一部改正前か後か)によって消滅時効の成立要件が異なりますのでご留意ください。
01.改正前に成立した債権
民法の一部改正前(2020年3月31日以前)に成立した債権についての時効期間の原則は、債権者が権利を行使できるときから10年です。
但し、以下のような債権については10年よりも短い期間で消滅時効にかかるものとされております(短期消滅時効)。
5年の短期消滅時効
- 商事債権
- 退職金請求権
1年の短期消滅時効
- タクシー料金などの運送賃
- 旅館や飲食店、娯楽施設などの宿泊料、飲食料、入場料などの債権
2年の短期消滅時効
- 弁護士や公証人などの請求権
- 卸売や小売の商人の売買代金請求権
- クリーニング店や美容院、洋裁などの債権
- 塾や家庭教師、学校の債権
- 賃金、残業代
3年の短期消滅時効
- 医師や助産師、薬剤師などの診療費、調剤費
- 工事の請負代金
- 不法行為にもとづく損害賠償請求権
上述の債権は、10年よりも短い期間で消滅してしまいます。該当する債権を有する場合は早めに回収を図ることが必要です。
02.改正後に成立した債権
民法の一部改正後(2020年4月1日)に成立した債権については、債権者が権利を行使することができることを知ったとき(主観的起算点)から5年、または債権者が権利を行使することができるようになったとき(客観的起算点)から10年で消滅時効にかかることとなりました。
また、短期消滅時効に関する規定はなくなりました。
大半のケースにおいて、主観的起算点で時効期間をカウントすることとなりますので、時効期間は一律5年になったとお考えいただいて差し支えありません。
時効を止める方法(時効の更新)
時効期間が成立すれば債権が消滅するとなれば、債務者は支払いを免れるために逃げてしまうかもしれません。逃げ続けるだけでも債権が消滅するのであれば債権者側にとって不利といえます。
この不利益を解消するため、民法では時効の進行をリセットする方法が用意されております。それが「時効の更新」です。なお、民法改正前は「時効の中断」と呼称されておりました。
時効の更新は、進行した期間を巻き戻す効果を与えます。すなわち時効期間をリセットすることができます。
時効を更新させる方法としては以下の3つがあります。
01.債務承認
債務承認とは、債務者本人が「負債があります」と認めることです。
債務者が負債の存在を認めるのであればその時点で時効の進行をリセットさせていいよね、ということで債務承認は時効の更新事由となります。
債務承認の方法には特に制限はありません。相手が「必ず支払います」と口頭で言った場合も債務承認したことになります。また、利息や元本の一部を支払うなど債務を認める行為をした場合も債務承認となります。
なお、実務上は債務承認をした証拠をとっておかないと後でと誤魔化される可能性があります。債務承認をさせるのであれば書面など証拠に残る形で対応させましょう。
02.判決、仮執行宣言付支払督促
裁判上の請求によって判決の確定や仮執行宣言付支払督促の確定が得られれば、時効は更新されます。
03.強制執行
債権にもとづいて相手の資産に対し強制執行をすれば時効は更新されます。
時効の完成猶予
時効の更新と混同しやすい概念として時効の完成猶予があります。民法改正前は「時効の停止」と呼称されておりました。
時効の完成猶予は、進行している時効を一定期間先延ばしにするものです。時効成立までの期間を延長するとイメージしていただければ結構です。
時効の完成猶予はあくまで時効成立までの期間を延長させるだけです。延長できる期間はあまり長くなく、ほとんどが時効の更新に係る手続きを進める際に行なわれるものであることから、時効の完成猶予はあくまで補助的なもの、主として行使するものではないものとご理解下さい。
時効の完成猶予をする方法の一つとして催告があります。
催告とは、相手に権利を請求する行為のことです。債権者側からの一方的な意思表示で時効の完成猶予を達成することができます。
なお、催告の方法には法律上制限はありません。極端な話、口頭で要求するだけでも催告にはなります。しかし、これでは後に裁判になった際に証拠がないことになってしまいます。そのため、実務上では内容証明郵便を使って相手に催告します。
時効の完成猶予の方法には催告のほかにも裁判上の請求や仮差押え等がありますが、本記事ではその説明を割愛します。
さいごに
債権について時効が成立してしまうと回収する手立てがなくなってしまいます。時効成立前であれば早急に手立てをとり時効の更新を図りましょう。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では債権回収に注力しております。債権回収でお悩みの方は是非一度ご相談ください。