交通事故における慰謝料や賠償金を算出する際に使用する基準には、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)があります。自賠責基準及び任意保険基準は保険会社が使用する基準、弁護士基準は弁護士が使用する基準とお考え下さい。
実は弁護士基準とその他の基準には大きな差があり、弁護士基準を用いて算出した方がベースが高くなります。保険会社は保険基準を用いて示談金を提示してくることがほとんどですので、保険会社からの提示額をそのまま受け入れてしまうと、不本来受け取れるはずだった適正な金額を放棄してしまうことになってしまうので注意が必要です。
今回の記事では、交通事故の被害者が請求できる慰謝料・賠償金の種類とそれぞれの計算方法をお伝えします。
交通事故の被害者が請求できる慰謝料・賠償金
治療費や通院交通費以外で、交通事故の被害者が請求できる慰謝料や賠償金には以下のものがあります。
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
- 休業損害
01.入通院慰謝料
まず一つ目は入通院慰謝料です。入通院慰謝料は、入院や通院の日数、ケガの重さなどをそれぞれの算定基準に照らし合わせて算定されます。
入通院慰謝料はケガの治療費等とは別途請求することができます。
02.後遺障害慰謝料
2つ目は後遺障害慰謝料です。後遺障害慰謝料は、交通事故後の治療が終わり後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対して支払われます。
後遺障害慰謝料は入通院慰謝料とは別に請求することができます。
03.死亡慰謝料
3つ目は死亡慰謝料です。交通事故の被害者が亡くなってしまった場合、近親者は死亡慰謝料を請求できます。
原則として下記の近親者が死亡慰謝料を受け取れますが、相続人の合意や裁判によって、他の親族が慰謝料を受け取ることも可能です。
- 配偶者
- 子
- 父
- 母
- 兄弟姉妹
04.休業損害
4つ目は休業損害です。
休業損害は、交通事故の影響で生じた減給や減収を補償するものです。
交通事故でケガを負い、治療のために入院した場合、その間は仕事ができず収入がストップすることがほとんどです。この減給・減収は交通事故がなければ発生し得なかったものですから、少なくなった収入分の賠償金を加害者に請求することができます。
交通事故における基準
交通事故における慰謝料・賠償金を算出する際に用いられる基準について確認しておきましょう。
交通事故において慰謝料などを算定する際には下記の3つの算定基準があります。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準(裁判基準)
①の自賠責基準は自賠責保険会社が使用する基準であり、他の2つの基準に比べ慰謝料の相場はもっとも低いものとなっております。
②の任意保険基準は任意保険会社が使用する基準であり、自賠責基準よりも少し高い程度のものです。
③の弁護士基準(裁判基準)は、弁護士や裁判所が使いう基準です。過去の判例に基づくものであり、基準としてはもっとも高いものとなります。
保険会社は自社の保険基準(①②)で慰謝料を提示してきます。その金額は弁護士基準で算出される金額よりも低額になることがほとんどといえます。保険会社の提示してきた金額を鵜呑みにしないようにしましょう。
入通院慰謝料について
まずは入通院慰謝料について確認していきましょう。
01.自賠責保険基準での計算方法
自賠責基準の場合、慰謝料の金額は治療日数で計算されます。治療日数は「治療期間」と「実治療日数の2倍」の短い方を慰謝料の計算に用います。
- 治療期間:初診日~治療終了日までの日数
- 実治療日数:治療期間の間で通院した日数
それぞれの治療日数をカウントし、短かった方を「治療日数」として次の計算式に当てはめて算出します。
4,300円 × 治療日数 = 慰謝料額
02.任意保険基準での計算方法
任意保険の慰謝料基準は、保険会社により異なります。
03.弁護士基準での計算方法
弁護士基準(裁判基準)では、ケガの程度と治療日数を基に算定します。
ケガの程度は、むちうちや打撲、すり傷などは「軽傷」、それ以上のケガは「重症」として評価します。治療日数は、「もうこれ以上治療を続けても症状は改善されない(症状固定)」と判断されるまでの期間です。
具体的な慰謝料金額は、次の表において入院期間(横軸)、通院期間(縦軸)を参照して評価します。
【軽傷の場合】
↓通院/入院→ | 0ヶ月 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 |
0ヶ月 | 0万円 | 35万円 | 66万円 | 92万円 | 116万円 | 135万円 | 152万円 |
1ヶ月 | 19万円 | 52万円 | 83万円 | 106万円 | 128万円 | 145万円 | 160万円 |
2ヶ月 | 36万円 | 69万円 | 97万円 | 118万円 | 138万円 | 153万円 | 166万円 |
3ヶ月 | 53万円 | 83万円 | 109万円 | 128万円 | 146万円 | 159万円 | 172万円 |
4ヶ月 | 67万円 | 95万円 | 119万円 | 136万円 | 152万円 | 165万円 | 176万円 |
5ヶ月 | 79万円 | 105万円 | 127万円 | 142万円 | 158万円 | 169万円 | 180万円 |
6ヶ月 | 89万円 | 113万円 | 133万円 | 158万円 | 162万円 | 173万円 | 182万円 |
7ヶ月 | 97万円 | 119万円 | 139万円 | 152万円 | 166万円 | 175万円 | 183万円 |
8ヶ月 | 103万円 | 125万円 | 143万円 | 156万円 | 168万円 | 176万円 | 184万円 |
9ヶ月 | 109万円 | 129万円 | 147万円 | 158万円 | 169万円 | 177万円 | 185万円 |
10ヶ月 | 113万円 | 133万円 | 149万円 | 159万円 | 170万円 | 178万円 | 186万円 |
11ヶ月 | 117万円 | 135万円 | 150万円 | 160万円 | 171万円 | 179万円 | 187万円 |
12ヶ月 | 119万円 | 136万円 | 151万円 | 161万円 | 172万円 | 180万円 | 188万円 |
【重症の場合】
↓通院/入院→ | 0ヶ月 | 1ヶ月 | 2ヶ月 | 3ヶ月 | 4ヶ月 | 5ヶ月 | 6ヶ月 |
0ヶ月 | 0万円 | 53万円 | 101万円 | 145万円 | 184万円 | 217万円 | 244万円 |
1ヶ月 | 28万円 | 77万円 | 122万円 | 162万円 | 199万円 | 228万円 | 252万円 |
2ヶ月 | 52万円 | 98万円 | 139万円 | 177万円 | 210万円 | 236万円 | 260万円 |
3ヶ月 | 73万円 | 115万円 | 154万円 | 188万円 | 218万円 | 244万円 | 267万円 |
4ヶ月 | 90万円 | 130万円 | 165万円 | 196万円 | 226万円 | 251万円 | 273万円 |
5ヶ月 | 105万円 | 141万円 | 173万円 | 204万円 | 233万円 | 257万円 | 278万円 |
6ヶ月 | 116万円 | 149万円 | 181万円 | 211万円 | 239万円 | 262万円 | 282万円 |
7ヶ月 | 124万円 | 157万円 | 188万円 | 217万円 | 244万円 | 266万円 | 286万円 |
8ヶ月 | 132万円 | 164万円 | 194万円 | 222万円 | 248万円 | 270万円 | 290万円 |
9ヶ月 | 139万円 | 170万円 | 199万円 | 226万円 | 252万円 | 274万円 | 292万円 |
10ヶ月 | 145万円 | 175万円 | 203万円 | 230万円 | 256万円 | 276万円 | 294万円 |
11ヶ月 | 150万円 | 179万円 | 207万円 | 234万円 | 258万円 | 278万円 | 296万円 |
12ヶ月 | 154万円 | 183万円 | 211万円 | 236万円 | 260万円 | 280万円 | 298万円 |
04.入通院慰謝料を適切に受け取るための注意点
入院慰謝料を適切に受け取るには、次のようなポイントに気を付けましょう。
- 弁護士基準で計算する
- 医師作成の診断書を用意する
- 医師の指示に従い適切な頻度で通院を続ける
- 医師が完治もしくは症状固定の判断をするまで治療を続ける
ケガの程度やケガと交通事故との因果関係を証明するには診断書が欠かせません。主治医にはケガの症状を詳しく伝え、きちんとした内容の診断書を作ってもらいましょう。
後遺障害慰謝料について
交通事故によっては治療ではケガが完治せず、後遺症が残ってしまうことも往々にしてあります。後遺症が残った場合は、入通院慰謝料とは別に、後遺障害慰謝料を請求しましょう。
01.まずは後遺症等級認定を受ける
後遺障害慰謝料を請求するには、後遺症としての認定を受け後遺障害等級をつけなければなりません。
後遺症等級とは後遺症を内容に応じて14段階に分類したものです。等級が高くなるほど受け取れる慰謝料も高くなるため、きちんと認定を受け等級を明確にしたうえで適切な賠償金を請求しましょう。
02.後遺症等級ごとの慰謝料
慰謝料額は、入通院慰謝料と同じく保険基準・弁護士基準で異なります。等級ごとの慰謝料額は以下のとおりです。
後遺症等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
1級かつ要介護 | 1650万円 | 2800万円 |
2級かつ要介護 | 1203万円 | 2370万円 |
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
03.後遺症による逸失利益
交通事故で後遺症が残った場合、逸失利益を請求することもできます。
逸失利益とは後遺症により本来の労働能力を発揮することができなくなったことで発生する将来的な減収のことです。どのくらいの労働能力が失われたかについては後遺障害等級によって割合が決まっています。
後遺障害等級ごとの労働能力喪失率(「どのくらいの労働能力が失われたか?」という評価)は、次の表の通りです。
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
後遺障害等級が高いほど逸失利益は高くなります。ほかにも、収入が高い場合や若い労働者であるほど逸失利益も高くなるので請求できる金額も大きくなります。
死亡慰謝料について
交通事故の被害者が死亡した場合は、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料ではなく、死亡慰謝料を請求することになります。
死亡慰謝料は、遺族のその後の生活を支えるための大切なお金です。ショックで慰謝料のことまで頭が回らないかもしれませんが、基本的な計算方法や注意点だけは抑えておきましょう。
01.2種類の慰謝料
交通事故の被害者が亡くなってしまった場合に受け取れる慰謝料には、以下の2種類があります。
- 死亡者本人に対する慰謝料
- 死亡者の遺族に対する慰謝料
慰謝料とは、人が受けた精神的苦痛に対して賠償金を支払い、その回復を図ろうとするものです。死亡者本人も本来あったはずの未来を失い大変な精神的苦痛を受けていると考えられるので、死亡者本人も慰謝料の請求権を持っているのです。この死亡者本人の請求権は遺族に相続されます。遺族が死亡慰謝料を請求する場合は、死亡者本人の分と自分自身の分の2つの慰謝料を請求することになるのです。
02.保険基準の死亡慰謝料の相場
保険基準の死亡慰謝料の相場も自賠責保険と任意保険で異なります。任意保険の基準は保険会社ごとに異なるため、ここでは自賠責基準の慰謝料額を確認しましょう。
自賠責基準の死亡慰謝料は、次の表の通りです。
死亡者本人に対する慰謝料 | 400万円 |
慰謝料の請求権を持つ人が 1名の場合 | 550万円 |
慰謝料の請求権を持つ人が 2名の場合 | 650万円 |
慰謝料の請求権を持つ人が 3名以上の場合 | 750万円 |
死亡者に被扶養者がいる場合 | 別途200万円 |
たとえば配偶者1人、未成年の子ども1人がいる人が交通事故で亡くなった場合、請求権を持つ人は2人(うち1人は未成年=被扶養者)となるため、次の計算式で慰謝料額を求めます。
400万円(死亡者本人)
+ 650万円(慰謝料の請求権を持つ人が2人)
+ 200万円(別途200万円)
= 1250万円
なお、自賠責保険では『死亡者1人につき、死亡慰謝料は3000万円まで』という上限があります。また、死亡者の過失が大きい場合や事故と死亡の因果関係を証明できない場合、慰謝料が減額される可能性もあります。
03.弁護士基準の死亡慰謝料の相場
弁護士基準で死亡慰謝料を計算する場合、死亡した人の「立場」で金額が変動します。
具体的な金額は次の表の通りです。
被害者の立場 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
一家の支柱 (家計を主に支えている人) | 400万円 | 2800万円 |
母親・配偶者 | 400万円 | 2500万円 |
子ども | 400万円 | 2000~2500万円 |
死亡慰謝料もほかの慰謝料と同じく弁護士基準が最も高額です。請求できる金額が大きい分、保険基準との差額も大きいので必ず弁護士に相談しましょう。
休業損害について
交通事故でケガを負い仕事ができなくなった場合、休業損害を請求することができます。休業損害を請求できるのはどんな人なのか、どのくらいの金額を請求できるのかを確認しましょう。
01.休業損害が認められる人
休業損害が認められるのは、仕事をしていて休業により減収・減給が発生する人です。具体的には次のような人には休業損害が認められます。
- サラリーマン
- 契約社員、派遣社員
- アルバイト、パート
- 公務員
- 個人事業主
- フリーランス
- 主婦や主夫
簡単に言えば労働収入のある人が休業損害の対象となります。雇用形態により休業損害が受け取れなくなることはありませんし、自営業者も給与所得者と同じように休業損害を受け取れます。
なお、労働の対価として実際にお金を受け取っているわけではない主婦や主夫であっても休業損害の対象です。主婦や主夫の行う「ほかの働く家族のための家事労働」には経済的な対価が認められているためです。
02.休業損害が認められない人
休業損害は、交通事故により減収や減給が生じた場合にできることから、交通事故による減収・減給がない方は請求できません。
具体的には次のような人です。
- 無職の人
- 不動産収入をはじめとする不労所得で生活している人
- 年金は受け取っているが、仕事はしていない人
- 会社役員(例外あり)
上記のうち無職の人を除く方々の収入は労働によるものではありません。たとえばマンションを運営し家賃収入で生活している人の場合、ケガの治療で動けなくても家賃収入は入ってきます。この場合、交通事故によって減収・減給は生じないと考えられるため休業損害は発生しません。
また、会社役員も労務の対価として収入を得ているのではなく会社の利益配当により報酬を得ていると考えられていますので、こちらも減収・減給が生じないとされております。なお、労務の対価としての報酬を受け取っている場合や役員や社長が実務に携わっている場合は報酬の一部が休業損害の対象となることもあります。
03.休業損害の計算方法
休業損害の計算方法も保険基準と弁護士基準で異なります。それぞれの計算方法は次の通りです。
≪自賠責基準≫
6,100~19,000円 × 休業日
≪弁護士基準≫
実際に得ていた1日あたりの収入 × 休業日数
自賠責基準の休業損害は、基本的に1日あたり一律6,100円とされています。給与明細や確定申告書などでそれ以上に多いことを証明できれば休業損害の増額もできますが、1日あたり19,000円が上限です。1日10万円を稼いでいる人であっても、自賠責基準では1日あたり19,000円までしか受け取れないのです。
他方で弁護士基準では実際に得ていた収入を基に休業損害を計算します。1日あたり1万円の収入があった人なら1万円を、10万円の収入があった人なら10万円を休業日数の分だけ請求することができます。
さいごに
交通事故に遭うと、ケガの治療や加害者への対応、仕事を休むなら会社への最低限の引き継ぎなどさまざまなことをしなければなりません。事故直後の対応が終わったからといって「後は安静にしているだけ」というわけにはいかないのです。
もちろん慰謝料や賠償金の請求もしなければなりません。本来請求できるお金を請求し忘れたり保険基準と弁護士基準の違いを知らなかったりするだけで受け取れる金額はかなり少なくなってしまいます。
とはいえケガの痛みや精神的なショックで気が滅入っている中で適切な対応を取るのは大変です。慰謝料や賠償金を増額するためにも加害者側とやりとりする負担を減らすためにも交通事故の対応は弁護士に依頼することを検討しましょう。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では、交通事故トラブルにおける保険会社との示談交渉について注力しております。保険会社からの提示内容や計算方法に疑問、不満等がございましたら、お気軽にご相談ください。