主婦や主夫などの家事従事者の方が交通事故に遭ったら、どのくらいの休業損害を払ってもらえるのかご存知でしょうか?
実は休業損害の計算方法にはいくつか種類があり、保険会社からの提示額をそのまま受け入れると損をしてしまうケースも少なくありません。
今回は専業主婦、兼業主婦などの家事労働者の方が請求できる正しい休業損害の相場、計算方法をパターン別にご説明します。
交通事故に遭われた方やご家族の方はぜひ参考にしてみてください。


1.主婦にも休業損害が認められる
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休業損害は、交通事故でケガをしたために得られなくなった収入に対する補償です。
たとえばサラリーマンの方や自営業者の場合、事故で入院したらその日は働けず、減収が生じてしまうでしょう。その減収分を払ってもらうのが休業損害です。
主婦は実際に外で働いて収入を得ているわけではありません。
ただ「家事労働」に経済的な価値が認められるので、主婦であっても休業損害を請求できます。
たとえば主婦がいなければ、家政婦を雇わなければならないケースもあります。そうなったら家政婦へ労働の対価(報酬)を払わねばならないでしょう。このように家事労働には本来経済的な価値があると考えられているのです。
これまでお金を稼いでいなかった主婦や主夫の方であっても、交通事故で療養が必要となれば日数分の休業損害を請求できるので、まずは押さえておきましょう。

2.休業損害の計算方法
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休業損害は、以下の計算式によって算定します。
「休業損害=1日あたりの基礎収入×休業日数」
主婦などの家事従事者の方の場合、「1日あたりの基礎収入」をどうやって計算すべきかが問題になります。
休業損害の「1日の基礎収入」については、自賠責基準と法的な基準とで計算方法が異なるので、それぞれ確認しましょう。
2-1.自賠責基準
自賠責基準は自賠責保険や共済が保険金(共済金)を計算するときに適用する基準です。
自賠責保険は被害者への「最低限度の救済」を目的とする保険なので、自賠責基準で算定される補償金額も低くなっています。
基本の金額は以下の通りです。
- 1日あたりの基礎収入額=6100円
ただし実際の収入が6100円より高いことを証明できれば、最高19000円まで上げてもらえる可能性があります。
主婦の場合には実収入がないので、通常6100円として計算されるでしょう。
2-2.法的な基準(弁護士基準、裁判基準)
法的な基準とは、弁護士や裁判所が利用する賠償金の計算基準です。「弁護士基準」や「裁判基準」ともよばれます。
これらの法的基準を適用する場合、1日あたりの基礎収入は「実収入額」とします。
実収入が19000円を超える場合でも実際の収入額が適用されるので、自賠責基準より高くなる可能性があります。
2-3.主婦の場合には「女性の平均賃金」を適用する
法的基準の場合「実収入」を基礎とするので、主婦などの実収入のない方の場合どうやって計算するのか疑問に感じる方もおられるでしょう。
実収入のない方の場合には「賃金センサス」の平均賃金を使って計算します。
主婦などの家事従事者の場合には「全年齢の女性の平均賃金」を適用します。
令和2年の全年齢の女性の平均賃金額は381万9200円ですので、これを365日で割ると、1日あたりの基礎収入額は10463円となります。
以上より令和2年に交通事故に遭った主婦は「10463円×休業日数分」の休業損害を請求できることになります。
2-4.休業損害計算の具体例
専業主婦の方が交通事故で10日間入院し、その後20日間通院、自宅療養10日間となった例を考えてみましょう(休業日数は40日です)。
自賠責基準の場合
自賠責基準の場合、1日あたりの基礎収入額は自賠責基準の場合6100円となるので、休業損害額は6100円×40日=244000円となります。
弁護士基準の場合
弁護士基準の場合、1日あたりの休業損害額は10463円となるので、休業損害額は10463円×40日=418520円となります。
3.休業日数はどうやって計算する?
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休業損害を請求するには「休業日数」を証明しなければなりません。
サラリーマンや公務員の方であれば、勤務先に「休業損害証明書」を作成してもらうことにより、休業日数を容易に証明できます。
主婦の場合、誰かに休業日数を証明してもらうのは容易ではありません。
- 入院日数は休業日数に含まれる
入院した日数については問題なく休業日数に含まれます。病院に残った記録(診療報酬明細書、診断書、カルテ、看護記録など)によって証明します。
- 通院日数も基本的には含まれる
通院した日数も、基本的には休業日数に含めてよいでしょう。こちらについても病院に残った記録や交通費の領収証などによって証明できます。
ただしケガの具合が軽く自宅近くの病院に少しの時間通っただけなどの場合、1日分全額の休業損害が払われない可能性もあります。
- 自宅療養について
自宅療養期間については、争いになるケースも少なくありません。
被害者が「自宅で休んでいた」と主張しても、証明できなければ「普通に家事ができていたのではないか?」と思われるためです。
医師に診断書を作成してもらい「安静を要する」「自宅療養○日間」などと記載してもらうなどの対応が必要となるでしょう。
4.パターン別主婦の休業損害計算方法
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以下ではさまざまな主婦、家事従事者の休業損害計算方法をご紹介します。
4-1.兼業主婦の場合
パートや契約社員、あるいは正社員などで働いている「兼業主婦」の方の場合、全年齢の女性の平均賃金よりも実収入の方が高くなる可能性があります。
その場合、以下のいずれか高い方の金額を基準に休業損害を計算します。
- 全年齢の女性の平均賃金
- 実収入
たとえば給与の年間収入が400万円の方であれば「400万円」を基礎収入とします。
一方で年収200万円の方であれば平均賃金の方が高いので、平均賃金で計算します。
合算はできないので要注意
兼業主婦の場合、「仕事も家事もしているのだから、給料と平均賃金の合計額を基準にすべきでは?」と考える方もおられるでしょう。
しかし法的には「どちらか高い方」を採用するルールとなっています。
合算は認められないので注意してください。
4-2.1人暮らしの方の場合
一般に「主婦」という場合、1人暮らしの女性を含めるケースが少なくありません。たとえば、もともと夫と2人で暮らしていたけれど夫が死亡したために1人になった方など。
1人暮らしの主婦の場合には、基本的に休業損害が認められません。経済的な対価の認められる家事労働は、あくまで「他人のための労働」でなければならないためです。
自分のために家事労働をしても、それは当然のことであり対価性が認められません。

1人暮らしでも休業損害が認められるケース
ただし1人暮らしをしていても親の介護や単身赴任中の夫のために、出かけて行って家事労働をしている場合などであれば、休業損害が認められる可能性があります。
またシングルマザーで子どものために家事労働をしている場合、他人のために働いているといえるので休業損害を請求できます。
4-3.2世帯の場合
親世帯と子ども世帯が同居している場合など、2世帯で暮らしている場合には、1つの家庭内に「主婦が2人」いるケースが少なくありません。
たとえば母と娘が家事を分担しているケースを考えてみましょう。
この場合には、どちらかが交通事故に遭っても全額の休業損害が認められるとは限りません。
娘が母親の家事を手伝っているというように補助的な役割しか果たしていなければ、相当大きく減額されるでしょう。
また主に家事を担っている側であっても、補助を受けている以上一定額減額される可能性が高くなります。
どの程度減額すべきかはケースによって異なるので、疑問があれば弁護士までご相談ください。
4-4.男性の主夫の場合
近年では、男性であっても「主夫」として家事労働を行う方が増えています。
男性が交通事故に遭ったら、どうやって休業損害を計算するのでしょうか?
この点、裁判実務においては男性であっても「全年齢の女性の平均賃金」を適用して休業損害を計算すべきと考えられています。男性の平均賃金ではありません。
日本では男女間で賃金格差があり、男性の平均賃金の方が高額になっています。
参考までに、令和2年の男性の平均賃金は545万9500円であり、1日になおすと14957円程度。女性よりも4000円以上高くなってしまう計算です。
同じ家事労働をしているにもかかわらず「男性」というだけで休業損害額が高額になるのは不合理なので、男性の場合にも「女性の平均賃金額を適用すべき」と考えられています。
なおこの点については、「男女の平均賃金を適用すべき」という意見もあり、今後は変わっていく可能性があると考えています。
4-5.高齢の主婦の場合
主婦が高齢の場合、1日あたりの基礎収入が減額される可能性があります。
一般的に高齢者は労働能力が落ちると考えられるためです。
実際に賃金センサスの平均賃金をみても、高齢の女性の平均賃金額は全年齢の女性の平均賃金額額より低くなっています。
具体的に「何歳」になったら「どの程度の割合」減額されるかはケースバイケースですが、70歳を過ぎると休業損害を減額される可能性が高いでしょう。
4-6.夫婦で家事分担している場合
最近では、夫婦共働きで夫と妻が家事分担している家庭も増えています。
そういったケースでは夫が家事をしている分、妻の家事労働への貢献度が低くなり、1日あたりの基礎収入が減額される可能性もあります。
ただ兼業主婦の項目で説明したように「実収入が全年齢の女性の平均賃金額より高額」なら実収入を基礎収入とするのが休業損害計算の基本ルールです。夫の家事分担割合が高い場合、通常女性の収入も相当高額になると考えられるので、そういった場合には実収入を基準に休業損害を算定することになるでしょう。
5.保険会社から提示される休業損害額が適正とは限らない
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主婦の休業損害額は状況に応じて異なるので、それぞれ正しく計算しなければなりません。
ただ多くのケースでは、被害者の方は保険会社から提示された金額をそのまま受諾してしまうでしょう。一般の方には交通事故の損害賠償金計算方法について、専門的な知識はないので仕方がありません。
しかし保険会社の提示する休業損害額は「法的に適正」でないケースも多いので注意が必要です。調べないでそのまま受け入れると損をしてしまう可能性があります。
5-1.自賠責基準で計算される場合が多い
保険会社が主婦の休業損害を計算するときには「自賠責基準」を適用しているケースが多数です。
自賠責基準では、1日あたりの基礎収入額を6100円と計算します。
一方弁護士基準の場合、1日あたりの基礎収入額はおよそ10463円ですから「42%」程度も減額されてしまう結果になります。
30日間休業した場合、自賠責基準では183000円ですが弁護士基準なら313890円にもなります。本来なら313890円請求できるのに183000円しか払ってもらえなければ、被害者にとって大きな損失となるでしょう。
保険会社から示談金の提示を受けたら、休業損害の計算根拠をしっかり確かめてみてください。
5-2.弁護士基準を適用する方法
主婦の休業損害計算時に弁護士基準を適用するには、主に以下の2つの方法があります。
裁判を起こす
裁判を起こせば、裁判所は法的基準を適用して賠償金を計算します。
主婦の場合、一般的には全年齢の女性の平均賃金で計算されるでしょう。
弁護士に示談交渉を依頼する
弁護士に示談交渉を依頼すると、示談の段階であっても弁護士基準が適用されるのが一般的です。
訴訟を起こさなくても高額な休業損害金を払ってもらえるので、被害者にとってメリットが大きくなるでしょう。
なお被害者が弁護士に依頼せず自分で保険会社と示談交渉する際に法的基準を適用するのは、極めて困難です。保険会社からは「これ以上の金額を要求するなら訴訟を起こすか弁護士に依頼するかにしてください」などと言われるケースも少なくありません。
法的基準による正当な補償を受けるには、弁護士によるサポートがほとんど必須といえるでしょう。
当事務所では交通事故被害者への支援体制を整えており、これまで多数の示談や訴訟案件に対応してまいりました。弁護士に依頼して賠償金が大幅にアップした事例も少なくありません。事故に遭われて休業損害の計算方法に疑問のある方は、ぜひとも一度ご相談ください。

