交通事故で人が亡くなると、遺族は加害者に対して慰謝料を請求することになるでしょう。
しかし、遺族が請求できるのは慰謝料だけではありません。交通事故に遭ったことで発生した費用や、その人が亡くなったことで得られなくなったお金も、慰謝料とともに請求できます。本記事では死亡事故の慰謝料や賠償金について、何が請求できるのか、相場はいくらなのか、どう計算すればいいのかをまとめて解説します。
【この記事がおすすめな方】
- 交通事故の被害者と、その家族の方
- 交通事故で家族を亡くした方
- 一家の支柱を失い、その後の生活が不安な方
交通事故に遭うと、慰謝料請求をはじめとする「加害者との示談交渉」をすることになります。それは、被害者が存命の場合でも、亡くなってしまった場合でも変わりません。
ただでさえ難しい話の多い示談交渉を、大切な人を失ったショックの中で進めるのは難しいです。
必要なことを調べようとしても、気力が奪われ、対応は進まないでしょう。加害者側の言い分をそのまま受け入れ、示談交渉を早く終わらせたいと感じることもあるかもしれません。
しかし、遺族にはその後の生活もあります。特に一家の支柱となる人を失った場合、正しく賠償金を請求できないと、生活が立ち行かなくなるかもしれません。
そこで今回は交通事故、特に死亡事故の慰謝料請求はどのように進めればいいのかを解説します。慰謝料の相場や、そのほかに請求できるお金の種類や計算方法も、まとめてお伝えします。
ほぼすべての交通事故において、慰謝料や賠償金は弁護士に相談した方が高くなります。死亡事故の場合は心のケアにも相当な時間がかかりますから、なおのこと弁護士に相談すべきです。
本記事がその後の生活への不安を減らすことや、弁護士への相談のきっかけとなれば幸いです。
死亡事故の慰謝料には2種類ある

交通事故で人が亡くなった場合、「遺族に対する慰謝料」と「本人に対する慰謝料」、2種類の慰謝料が発生します。まずは、それぞれどんな慰謝料で、誰が請求できるのかを確認しましょう。
遺族に対する慰謝料
交通事故で人が亡くなった場合、その人の遺族は加害者に対して慰謝料を請求できます。慰謝料を請求できる遺族は、次の通りです。
【死亡事故の慰謝料請求が認められている遺族】
- 被害者の父母
- 被害者の配偶者
- 被害者の子
なお、上記以外の続柄の人、例えば兄弟・姉妹や祖父母、孫などであっても、上記の遺族と実質的に同視できるような関係にあり、大きな精神的苦痛を受けた場合には、遺族としての慰謝料請求ができます。
本人に対する慰謝料
死亡事故の場合、亡くなった本人にも、加害者に慰謝料を請求する権利があります。
そもそも慰謝料とは、その事件や事故により受けた精神的苦痛を補完するために支払われるお金です。亡くなった人には本来、事故以降の未来もあったはずであり、それを失った精神的苦痛は計り知れません。当然、慰謝料を請求する権利も発生します。
とはいえ、亡くなってしまった人は慰謝料を請求する手続きができません。そのため、死亡者本人の慰謝料請求権は相続人に相続され、相続人が加害者に慰謝料を請求することとなります。
なお、相続人の決め方には優先順位があり、具体的には次のように決まります。
【相続人の優先順位】
1.配偶者と子は共に、必ず相続人になる
2.子がいなければ、配偶者とともに孫が相続人になる
3.子も孫もいなければ、配偶者とともに両親・祖父母が相続人となる
4.両親・祖父母もいなければ、配偶者と共に兄弟・姉妹が相続人となる
交通事故では、配偶者や子・孫なども車に同乗し、一緒に亡くなってしまうケースもあります。その場合、解説した優先順位に従って相続人が決まり、死亡した人たち本人に対する慰謝料を請求することとなります。

死亡事故の慰謝料相場

死亡事故の慰謝料相場には、「自賠責基準」「任意保険基準」「裁判所(弁護士)基準」の3種類があります。次からはそれぞれの基準で、具体的にいくらの慰謝料が請求できるのかを解説します。
自賠責基準
自賠責は、車に乗る人すべてに加入が義務付けられている保険です。自賠責基準の慰謝料は3つの基準の中で最も低く、一律で次のように決まっています。
死亡者本人に対する慰謝料 | 400万円 |
慰謝料の請求権を持つ人が1名の場合 | 550万円 |
慰謝料の請求権を持つ人が2名の場合 | 650万円 |
慰謝料の請求権を持つ人が3名以上の場合 | 750万円 |
死亡者に被扶養者がいる場合 | 別途200万円 |
※慰謝料の請求権を持つ人とは、「父母」「配偶者」「子」のことです
任意保険基準
加入者本人の自由意志で加入する任意保険では、保険会社それぞれが独自の慰謝料算定基準を定めています。ただし、裁判所(弁護士)基準よりは低く、自賠責基準とそう変わらないことが多いです。
裁判所(弁護士)基準
裁判所(弁護士)基準の慰謝料は、死亡事故の場合でもそうでない場合でも最も高いです。
裁判所基準での死亡慰謝料は、死亡した人の立場によって変わり、亡くなった本人と遺族の慰謝料を合算して計算されます。具体的には、次のように決まっています。
被害者の立場 | 弁護士基準 |
一家の支柱(家計を主に支えている人) | 2800万円 |
母親・配偶者 | 2500万円 |
独身の男女・子ども | 2000~2500万円 |
死亡事故の慰謝料が増額されるケース

死亡事故の慰謝料は3つの基準があり、金額もある程度は決まっています。しかし、事故の内容や加害者側の態度によっては、増額することもあり得ます。
増額の決め手となるのは、被害者本人や遺族の精神的苦痛の大きさです。慰謝料は精神的苦痛を補完するお金であるため、精神的苦痛が大きければ、慰謝料も増額されます。
具体的に慰謝料が増額するのは、次のようなケースです。
【死亡事故の慰謝料が増額するケース例】
- 加害者が違法な運転、極めて危険な運転をしていた
- 事故の状態が残酷なものである
- 複数人が死亡している
- 加害者側の態度が悪い、不誠実である
- 加害者側の主張が著しく不当なものである
- 死亡した本人が著しく幼い
- 被害者の死亡により、遺族の健康や仕事、学業に悪影響が出た

死亡事故で慰謝料以外に請求できるもの

交通事故で人が亡くなった場合、遺族は慰謝料のほかに「死亡した人の逸失利益」「死亡までの入通院慰謝料」「葬儀に関する費用」「死亡までにかかった治療費」等を請求できます。ここでは、「死亡した人の逸失利益」「死亡までの入通院慰謝料」をどうやって計算するのかを確認していきましょう。
逸失利益
交通事故で誰かが亡くなった場合、その人が本来得られるはずだった利益を加害者に請求することができます。この利益を「逸失利益」といいます。
逸失利益の基本的な計算方法は、「死亡した本人の1年あたりの基礎収入 × 本来稼動可能だった期間」です。
例えば年収400万円の人が30年間働く場合、その人が死亡したことで、単純計算で1億2千万円の損害が発生したことになるでしょう。
しかし、逸失利益を請求する場合、30年間かけて手にするはずだった1億2千万円を一度に得ることになります。いわば利息相当ともいうべき利益が発生すると考えられ、その分は逸失利益から控除されます(ライプニッツ係数)。
また、人が亡くなれば収入も発生しなくなる代わりに、生活費もかからなくなるでしょう。逸失利益を計算するときは、本来かかるはずだった生活費分も控除されます(生活費控除率)。
ただし、生活費やライプニッツ係数は考慮されるのに対し、昇給の可能性を考慮に入れることは困難です。昇給の可能性を考慮に入れるには相当の証拠が必要であり、仮に認められるとしても、その金額は控えめに計算されます。
これらのことを考慮し、逸失利益は次のように計算されます。
【逸失利益の計算方法】
年間基礎収入額 × (1 – 生活費控除率) × 稼動可能期間に対応したライプニッツ係数
【一般的な基礎収入額の求め方】
給与所得者:源泉徴収票により算出
事業所得者:死亡前年もしくは数年前まで遡った確定申告所得により算出
年金受給者:老齢年金、障害年金により算出
家事労働者(主婦・主夫):賃金サンセスの女子労働者の平均賃金により算出
【一般的な生活費控除率】
一家の支柱(被扶養者1人):40%
一家の支柱(被扶養者2人以上):30%
女性:30%
男性::50%
【一般的な稼動可能期間の計算方法】
18歳~66歳の人:67 – 死亡時の年齢
67歳を超えても就労する可能性の高い人:平均余命年数 – 死亡時の年齢 × 0.5
18歳未満の人:49年(18歳から働き始め、67歳で働くのを辞めると仮定)
死亡までの入通院慰謝料
交通事故の被害者がすぐに死亡せず、治療の末に亡くなってしまった場合、遺族は被害者の入通院慰謝料も加害者に請求できます。任意保険基準は各社独自の基準に基づき、自賠責と弁護士基準では次のように算出されます。
【自賠責の場合】
「治療期間」と「実治療日数」の内、短い方に4,300円を掛けて計算します。
治療期間:初診日~治療終了日までの日数
実治療日数:治療期間の間で通院した日数を合計し、2倍した日数
それぞれの治療日数を計算できたら、短かった方を「治療日数」として、次の計算式に当てはめましょう。
4,300円 × 治療日数 = 慰謝料額
【弁護士基準】
弁護士基準の入通院慰謝料は、次のような目安となります。
入院期間 | 治療費 |
1ヵ月 | 53万円 |
2ヵ月 | 101万円 |
3ヵ月 | 145万円 |
4ヵ月 | 184万円 |
5ヵ月 | 217万円 |
6ヵ月 | 244万円 |
死亡事故の慰謝料や逸失利益を請求する方法

死亡事故の慰謝料や逸失利益は、次のような方法で請求します。
【死亡事故の慰謝料などを請求する方法】
- 示談交渉
- 訴訟
- 調停
- 交通事故紛争処理センター
ほとんどは示談交渉で請求されていますが、中には訴訟に発展するケースもあります。示談交渉はうまくいかないが、訴訟を避けたいという場合は、調停や交通事故紛争処理センターが活用されます。
死亡事故の慰謝料は弁護士に任せ、自分と家族の心のケアに集中してください

交通事故で被害者が亡くなると、被害者本人の本来あるはずだった未来、そして遺族は「その人と一緒に居るはずだった未来」を失います。本人にとっても遺族にとっても精神的苦痛は計り知れず、そのため慰謝料も高額となります。
ただ、弁護士基準に比べ、自賠責基準や任意保険基準の慰謝料の金額は低いです。葬儀に関する費用や亡くなるまでの入通院慰謝料を請求できることを知らなかった方も、多いのではないでしょうか。
交通事故で大切な人を失い、気力が奪われているときに、本記事で解説したようなことを調べるのは容易ではありません。加害者側と適切な交渉をするのも、正当な金額の賠償金を受け取るのも、極めて困難でしょう。
だからこそ、死亡事故の示談交渉は弁護士に任せることをおすすめします。難しいことは法律の専門家に任せ、自分の、そしてほかの家族の心のケアに集中してください。
なるほど六法を運営する「鈴木総合法律事務所」では、大手損害保険会社と提携契約を結び、死亡事故を含む膨大な交通事故案件に携わってきました。
交通事故に関する依頼の着手金・初回相談は無料なので、まずはお気軽に相談してみてください。

