自身のご家族(夫や妻、子)が、ひき逃げ事故や死亡事故といった重大な交通事故を起こしてしまったら・・・。
- 家族としてどう対処したらよいのか?
- 事故を起こした本人は刑務所に行くことになるのか?
- 賠償金は誰が払うことになるのか?
- 事故を起こした本人や自分の今後の生活はどうなってしまうのか?
- 事故を起こした本人は勤務先を解雇されたり退学となってしまうのか?
今回の記事では、家族が交通事故を起こした場合の法律的な責任や適切な対処方法を解説します。
交通事故の責任はだれが負う?
交通事故を起こしてしまった場合、事故に基づく賠償責任や刑事責任はだれが負うのでしょうか?
事故を起こした本人が負う
事故の賠償責任等を負うのは【事故を起こした本人】です。事故を起こした本人が、交通事故の加害者として被害者に対し損害を賠償したりしなければなりません。相手が怪我していたら治療費や慰謝料、休業損害などを支払わなければなりませんし、相手の車両等が故障していただら本件の賠償責任も負います。
家族には責任は及ばない
交通事故で賠償義務が発生するのは、民事上の不法行為が成立しているからです。
この不法行為責任は、原則として行為者のみに発生します。交通事故でいえば事故を起こした本人に不法行為責任が発生します。裏を返せば、加害者と同居している家族に対しては原則として不法行為責任が生じませんので、賠償金の支払義務等を負うこともありません。
家族が責任を負うことになるケース
原則として、交通事故の加害者の家族に対し事故についての責任が及ぶことは無いのですが、以下のような事情がある場合には賠償義務を負う可能性があります。
01.家族の所有する車で事故を起こした
家族の所有する車で交通事故を起こした場合には、車の所有者が運行供用者責任という賠償責任を負う可能性があります。
運行供用者責任とは、車の運行を支配し利益を得ている人に発生する自動車損害賠償保障法にもとづく責任です。
たとえば父が所有する車を子どもが運転し事故を起こした場合、所有者である父が運行供用者責任にもとづいて被害者へ賠償金を払わねばならない可能性があります。
02.12歳以下の子どもが事故を起こした
子どもが小さい場合、その判断能力は未成熟であり不法行為責任を負う能力もありません。親が適切に監督しなければならない状況です。そのため、子の親には「監督者責任」が発生しております。
それゆえ12歳以下の子供が起こした交通事故については監督者責任に基づき親が責任を負うこともあります。小学生の子どもが自転車を運転中に高齢者と衝突し大けがを負わせたような場合には、子どもの親が賠償金を払わねばならない可能性があるということです。
なお、子どもが13歳以上くらいの年齢になってくると基本的に子どもが自身で不法行為責任を負うので親の監督者責任は発生しません。とはいえ子どもが13歳以上の場合であっても親の監督不行届が直接的な事故原因となっている場合には親に責任が発生する可能性があります。
03.認知症の家族が事故を起こした
認知症が進行した人が交通事故を起こした場合も家族に責任が及ぶ可能性があります。
認知症が相当悪くなっていると家族に監督義務が発生するためです。
たとえば家族が車のカギをきちんと管理せず放置していたところ、認知症の親が自動車を運転し死亡事故などを起こしたような場合には、家族に損害賠償請求がなされる可能性があります。
04.飲酒運転の車に同乗した
近年では飲酒運転に対する罰則が非常に強化されています。家族がアルコールを摂取していると知りながら同乗した場合、同乗者にも罰則が適用されるので注意しましょう。
運転していた家族本人が「酒気帯び運転」だった場合、同乗者に適用される刑罰は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金刑」です。運転していた家族本人が「酒酔い運転」だった場合、同乗者に適用される刑罰は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑」となります。
飲酒運転の同乗者には民事賠償責任も及ぶ可能性があります。家族がお酒を飲んでいるのであれば絶対に同乗してはなりません。本人を説得して運転をやめさせましょう。
家族が交通事故を起こしたら生活はどうなる?
家族が交通事故を起こした場合、その後の生活に影響はあるのでしょうか?
01.民事賠償による悪影響
交通事故を起こした本人(加害者)は、被害者に対し賠償金を払わなければなりません。
任意保険に加入している場合
任意保険に加入しているのであれば保険会社険から賠償金を払ってもらえます。この場合、示談交渉も保険会社に委ねることになります。なお、重大事故の加害者となっている場合は、保険会社に任せきりにせず被害者のお見舞いに行くなどの一定の誠意はみせるべきといえるでしょう。
任意保険に加入していない場合
任意保険に入っていない場合、事故を起こした本人が自身で賠償金を払わねばなりません。重大事故であれば賠償金は数千万円単位となります。個人が用意するにはかなりの高額となるので任意保険への加入は必須といえるでしょう。
加害者に高額の金銭的負担が生じた場合、援助や補填等を理由として家族にも影響が生じるでしょう。直接の賠償責任は負わなくとも、金銭面で家族に影響が出ることが想定されます。
02.刑事事件になることによるリスク
交通事故の内容・態様によっては、刑事事件になる可能性があります。
道路交通法違反や自動車運転処罰法違反で有罪判決が出ると、刑罰を科されて前科がつきます。
特に、以下のような事情があると重い刑罰が適用される可能性が高くなるので注意しましょう。
- ひき逃げをした
- 飲酒運転していた
- 死亡事故を起こした
- 異常なスピード違反など、極めて危険な運転をしていた
刑事責任は事故を起こした当事者に及ぶものであり、家族に及ぶことはありませんが、事故を起こした本人が逮捕されたり刑務所に行かねばならなくなったりしたら家族には大きな影響が及ぶでしょう。また、事故の内容次第では家族がネットリンチに遭うこともあり得ます。
03.免許停止、取消になるリスク
交通事故を起こした本人に、免許の停止や取り消しのリスクが発生します。たとえば死亡事故を起こした場合は一回で免許取消になります。
業務を遂行する上で運転免許証を利用する職業、例えばタクシーや宅配、運送といったドライバー業に従事している場合には仕事ができなくなって生活に多大な悪影響が及ぶでしょう。職を失うことになってしまったら家族の生活も危ぶまれます。
04.マスコミ報道されるリスク
重大事故やセンセーショナルな事故を起こしてしまった場合、マスコミが交通事故を過剰と言ってもいいほど報道します。
- 高齢者が危険な交通事故を起こした場合
- 社会的地位の高い人が事故を起こした場合
- 有名人、著名人が不注意で事故を起こした場合
- 社会的地位の高い人や有名人、著名人がが事故に巻き込まれた場合
- 多数の負傷者が出た事故の場合
- 煽り運転からの死亡事故のような話題になりやすい事故の場合
実名報道がなされると交通事故の事実が世間に知れ渡り、事故を起こした本人だけではなくその家族にもさまざまな悪影響が生じます。
名前や顔写真から住所や電話番号等を割り出され、無言電話や脅迫電話、郵便などの嫌がらせが行われたり、子どもが学校でいじめられたりする可能性もあるでしょう。ネットリンチに遭うことも想定されます。
交通事故を起こしたことを理由に離婚できる?
重大な交通事故を起こしたことを理由に離婚に至るケースは少なくありませんが、そもそも「配偶者が交通事故を起こしたという事実」は離婚原因になり得るのでるのでしょうか?
答えはNoです。法律上、単に交通事故を起こしただけでは「法定離婚事由」になりません。
法定離婚事由とは、民法の定める裁判上の離婚原因です。法定離婚事由がある場合、相手が拒絶しても裁判所に離婚判決を出してもらって離婚できます。
なお、交通事故を起こしたことは、法定離婚離婚としては認められません。仮に配偶者が重大な事故を起こしたことを理由に離婚を要求しても、配偶者が離婚を拒絶するようであれば離婚することは困難といえるでしょう。
なお、できないのは「裁判による離婚」です。夫婦で離婚について話し合いをし合意する「協議離婚(調停離婚)」であれば法定離婚事由の有無は関係ありませんので、話し合いで合意できれば離婚することは可能です。。
交通事故後に離婚しているご夫婦は多くが協議離婚しているものと考えられます。交通事故がマスコミ報道されて家族に多大な悪影響が出ている場合には、あえて離婚して別居する方がよいという考え方もあるでしょう。ご家族で話し合って最善の選択をしてください。
交通事故を理由に解雇される可能性は?
「交通事故を起こしたら会社をクビになってしまうのでは?」と心配される方も多数おられますが、基本的には単に交通事故を起こしただけであれば解雇される可能性は低いといえます。法律上、解雇には厳しい制限が課されているためです。
なお、以下のようなケースではこの限りではありません。
- 職業ドライバーによる悪質な重大事故
- 会社の信用を大きく失墜させるような重大事故
タクシーやバス、トラック運転手などの職業ドライバーが飲酒運転で重大事故を起こしてしまった場合や社用車でひき逃げをしたという場合には、免停により業務を遂行することが不可能になった、ニュースになって会社の信用を大きく失墜させて損害を与えたとして懲戒解雇される可能性が高いといえるでしょう。
家族が交通事故を起こしたときの対処方法
家族が交通事故を起こしてしまった場合、どのように対応すべきなのでしょうか?
01.一緒に謝罪に行く
家族の事故により被害者にケガをさせてしまったり死亡事故を起こしてしまった場合は、必ず謝罪やお見舞いに行きましょう。
「保険に入っているので、保険会社に任せておけばよい」と考える方がいらっしゃいますが、そのような態度は必ずしも適切とはいえません。きちんと謝りに行かないと誠意が伝わりませんし、当初に被害者の心証を悪くするとその後の示談もこじれる可能性がありますし、刑事事件であれば被害者側から「厳重に処罰してください」などと厳しい意見を述べられてしまう可能性が高くなります。
できるだけ穏便かつスムーズに解決できるように事故発生後の早い段階で被害者に連絡を入れて謝罪に行くことをお勧めします。相手が入院していればお見舞いに、相手が死亡してしまっている場合にはお葬式に参列させて頂けるようお願いしてみてください。
02.利用できる保険を確認する
利用できる保険を確認し、しっかりと適用しましょう。
対物賠償責任保険は、相手に対する物損を賠償する保険です。また、対人賠償責任保険は、相手のケガや死亡、後遺傷害についての賠償を行う保険です。加害者本人がケガをした場合に受け取れる保険として、人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険があります。
さらに、弁護士費用特約が付いていれば、交通事故対応を弁護士に依頼するときに弁護士費用を保険会社に負担してもらえます(刑事事件には適用できないことが多い)。
本人加入の保険ではなく家族が加入している保険でこれらを適用できるケースもあります。まずは保険の加入状況を確認して、適用できるものがあれば保険会社へ申請しましょう。
03.すぐに弁護士に相談する
交通事故を起こしてしまったらすぐに弁護士に相談しましょう。被害者への賠償問題でも刑事事件の対応についても弁護士であれば適切な対応をアドバイスすることができますし、これら代行することもできます。
家族自身に監督者責任や運行供用者責任が及ぶ場合、何もせずに放っておくと賠償金を請求される可能性があります。家族に法的責任が及ばないケースでも、運命共同体である加害者本人になるべく不利益が及ばないよう、当初から適切な対応をしておくことが望ましいといえます。
弁護士に相談するときには、交通事故に積極的に取り組んでいる専門家を選定することが大切です。弁護士にもいろいろな取り扱い分野があり、交通事故に不慣れな方もおられます。
これまで多数の案件を解決してきて知識や経験を蓄積している人を探しましょう。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では交通事故加害者となった方のサポートに非常に力を入れて取り組んでいます。事故当事者はもちろん家族の方からの相談も受け付けております。
ご家族が交通事故を起こしてしまいどうしたらよいかわからないという方は、まずは一度ご相談ください。