相続に関する法律が大きく改正されたことをご存知でしょうか?
昭和55年(1980年)以来の大幅な改正であり、高齢化社会の進展や現在の家族関係の変化といった現代社会のニーズに応じて見直されております。
具体的には下記の点が改正されております。
- 自筆証書遺言の「財産目録」の記載方法の修正
- 自筆証書遺言保管制度の新設
- 配偶者居住権の新設
- 預貯金の早期払い戻し
- 遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への変更
- 特別寄与料の新設
- 特別受益の範囲の変更
- 不動産所有権の対抗要件
今回の記事では、相続法改正の概要について解説します。
自筆証書遺言の「財産目録」の記載方法の修正
従来の法律では自筆証書遺言は遺言者が全文を自筆で書く必要がありました。遺産の内容を一覧化した財産目録についても同様に手書きが要求されておりました。
すべてを自筆することにはかなりの体力的負担を強いられます。遺言書を作成する方の大多数が老齢の方であることを考慮するとこの取り決めは好ましいものとはいえません。また、遺産が多岐にわたる場合にも自筆を求めることは記載漏れや記載不備が発生する要因ともなっておりました。
この点について今回の法改正により自筆証書遺言の財産目録の部分のみ下記の対応でも認められることになりました。
- パソコンでの作成
- 代書
- 預貯金について通帳の写しの添付
- 不動産について登記簿謄本の写しの添付
なお上記の書類に対し遺言者の署名押印は必要です。また自筆以外の方法が認められるのはあくまで財産目録の部分のみです。財産目録以外の部分は依然自筆であることが要求されており、自筆でない場合には遺言自体が無効となります。
この規定は平成31年(2019年)1月13日から有効となっています。
自筆証書遺言保管制度の新設
自筆証書遺言を法務局で預かってもらえる新制度(自筆証書遺言保管制度)が始まりました。
遺言書を法務局が預かってくれるので、遺言紛失や変造、破棄・隠匿などを予防することができます。また、相続が発生した際、相続人に対し「法務局で遺言書を預かっています」という通知をするサービスも提供されているので、遺言書が発見されないというリスクも避けることができます。
この制度の詳細については下記のリンクを参照してください。なお、自筆遺言保管制度は令和2年(2020年)7月10日から運用が開始されています。
配偶者居住権の新設
配偶者居住権という権利が新設されました。これは、被相続人の配偶者が被相続人名義の家に住み続けることができるという権利です。遺産分割協議の際、被相続人の配偶者が配偶者居住権を相続した場合は、被相続人の配偶者は所有権を取得しなくてもその家に住み続けることができます。
「これの何がメリットなの?」という疑問をお持ちの方も多いかと思いますので、少し詳しく解説します。
被相続人の配偶者は、配偶者居住権を相続せずとも家の所有権を相続することで家に住み続けることは可能です。
他方で一般的な相続の場面において家の資産価値は他の財産に比べて高額であることがほとんどです。そのため配偶者が家の所有権を相続した場合、他の財産の相続がほとんどできないことがあります。家を相続できたとしても現金・預貯金を受け取ることができなかったとしたらその後の生活が立ちいかなくなってしまう可能性があります。
この不合理を回避するために配偶者居住権という権利が新設されました。配偶者居住権の評価額は家の時価より低く設定されおり、配偶者が配偶者居住権と現金・預貯金を取得し、子どもが家の所有権を取得するといった相続を行なうことで配偶者が現金・預貯金を得ることが可能となります。
また、被相続人の配偶者には、配偶者短期居住権という権利も認められるようになりました。これは被相続人の死亡後6ヶ月または遺産分割成立時の遅い方の時期のいずれかまで、配偶者が家に住み続けられるという権利です。
配偶者以外の相続人に家が遺贈されたような場合であっても配偶者はすぐに家を出て行く必要はありません。
この配偶者居住権・配偶者短期居住権は令和2年(2020年)4月1日から運用されています。
預貯金の早期払い戻し
被相続人の預貯金について遺産分割前に払い戻しができるという制度が新設されました。
以前までの金融機関は、被相続人が亡くなった場合は、被相続人名義の預貯金口座を一旦凍結し遺産分割協議(調停、審判)が成立するまで一切の払い戻しに応じないという運用を取っておりました。
しかしこれだと相続人が葬儀費用を捻出できない可能性があります。また、被相続人の預貯金に頼って生活してきた相続人の生活自体も危うくなります。
そこで遺産分割協議成立前であっても預貯金の一部について払い戻しが認められるようになりました。
この預貯金の早期払い戻しの制度は令和1年(2019年)7月1日から運用されています。
遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求権への変更
相続人が複数人いる場合において「ある相続人1人に対しすべての財産を相続させる」という内容の遺言が残されていた場合、他の相続人は一切の財産を相続できないという不公平な状態となってしまいます。
このような不合理を避けるために遺留分という権利が認められております。遺留分とは一定の被相続人と近しい相続人に最低限補償される遺産取得割合のことで、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められています。
相続人は遺留分を請求することで最低限の取得分を取り戻すことが可能となっております。
今までの法律では遺留分は遺産という現物を取り戻す権利でした。このことを法律用語で遺留分減殺請求権と言います。たとえば不動産なら不動産そのものを取り戻し、株式なら株式そのものを取り戻していたのです。この遺留分減殺請求を行なうと、当事者(相続人)が望まなくても遺産が共有状態になってしまうという不都合がありました。共有状態を解消したいのであれば共有物分割請求という別の請求をしなければならないという大変面倒なシステムになっていたのです。
改正法ではそういった問題点を見直し、遺留分の請求権は基本的に金銭請求に変更されました。これに伴いこの請求権の名称も遺留分侵害額請求権に改められました。遺留分侵害額請求を受けた側はお金で賠償すれば良いこととなったので遺産が共有となることはなくなりました。また、対価(相当額)の一括払いが難しい場合には分割払いをすることも認められることとなりました。
この規定は令和1年(2019年)7月1日から有効となっております。
特別寄与料の新設
寄与分とは被相続人の財産の維持や形成に特別に貢献したことによって遺産を多めにもらえる分です。
今までは、相続人以外の人には寄与分が一切認められていませんでした。相続人が献身的に介護した場合には寄与分をもらえるので遺産を増やしてもらえましたが、長男の嫁や孫などはどんなに介護に尽くしても遺産取得が認められなかったのです。
改正法ではこの点が変更されました。具体的には、一定範囲の親族が被相続人に対して介護などの労務を提供したり相続財産の維持や形成に特別に貢献した場合には特別寄与料を認めることとしたのです。これにより相続人以外の人であっても遺産の一部を受け取ることができるようになりました。
この規定は令和2年(2020年)7月1日から有効となっています。
特別受益の範囲の変更
今までは相続人が被相続人から生前贈与を受けた場合、どんなに古い生前贈与でもすべて特別受益と評価されておりました。この評価方法が原因で遺産分割協議の際に何十年も昔の学費の支援等を特別受益として取り上げて争うといったケースが発生していました。
改正法では、相続人が生前贈与を受けた場合にも特別受益の範囲は相続開始前10年間に限定されることとなりました。特別受益の対象となる生前贈与の範囲が限定されることとなったので遺産分割協議の際にこの点での争う必要がなくなります。
この規定は令和2年(2020年)7月1日から有効となっています。
不動産所有権の対抗要件
これまでは不動産を相続した場合、相続人は登記をしなくても第三者へ所有権を主張できました。そのため登記をせずに放置する人が増えていたという実情がありました。
この点が改められ、今後は登記をしないと第三者に対し権利主張をすることができなくなりました。
これにより不動産を相続したらその登記をしておかないと誰かに取られてしまうリスクがでてきました。このようなリスクを避けるためにも相続登記は速やかに実行しましょう。
この規定は令和2年(2020年)7月1日から有効となっています。
最後に
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、相続問題に注力しております。
相続の件でお悩み事をお抱えの方は、是非一度当事務所までご相談下さい。