最近では、婚姻届を提出せずに「内縁」として同棲関係を継続する方が増えています。
内縁関係は、法律婚の夫婦と同様の取扱いをされる場面が多々ありますが、遺産相続や婚姻費用、子どもの親権などの点では、法律婚の夫婦とは異なる取り扱いをされてしまいます。
今回の記事では、法律上の内縁関係の取扱い、よくあるトラブルや不当破棄されたときの慰謝料について解説します。
内縁関係とは
内縁関係とは、婚姻届を提出しないまま夫婦として生活する事実上の婚姻関係です。互いに婚姻意思を持って生活をしていることが必要となります。
婚姻届を提出しないので夫婦の戸籍や名字は違いますが、生活の実態は法律婚と同様です。
お互いに婚姻の意思を持ち、同居して家計は一体となっていて、周囲からも「夫婦」と認識されている状態です。結婚式を挙げたり結婚記念撮影をしたり新婚旅行に行ったりするケースもよくあります。
一方、婚姻意思を持たない場合には、単なる恋人同士の「同棲」となり内縁関係にはなりません。
近年では、夫婦で別姓を使用するために内縁関係を選択するカップルも増えています。
「内縁関係解消」と「離婚」の比較
内縁関係を解消する場合、法律上の夫婦の離婚と「同じ取扱いを受ける項目」と「異なる取り扱いを受ける項目」があります。
【内縁関係と法律婚の離婚 比較表】
内縁関係 | 法律婚 | |
離婚成立時や離婚の手続き | 別居と同時に内縁関係解消 | 離婚届を提出したとき(調停成立時、訴訟終了時) |
財産分与 | あり | あり |
慰謝料 | あり | あり |
別居後の婚姻費用 | 請求できない | 請求できる |
親権 | 母親が親権者 | 協議で父母のどちらかが親権者になる |
養育費 | 認知していれば請求できる | 当然に請求できる |
面会交流権 | 認知すれば認められる | 当然に認められる |
年金分割 | 3号分割のみ | 合意分割と3号分割が可能 |
法律婚と同じ取扱いになる事項
内縁関係であっても、法律婚と同様に財産分与や慰謝料の請求は可能です。
内縁の夫婦として暮らしている間に共有財産ができたら、内縁関係解消時や解消後に相手に財産分与を求められます。相手が不倫した場合には慰謝料請求もできます。
法律婚と異なる取扱いになる事項
01.離婚の手続きと離婚成立時期
内縁関係と法律婚の夫婦では、離婚方法や離婚成立時期が異なります。
法律婚では離婚届を提出したときや調停成立時、離婚訴訟での判決によって離婚が成立します。
内縁関係の場合、別居と共に内縁関係が解消されるので、特別な手続きは不要です。
02.別居後の婚姻費用
法律婚の場合、別居後も離婚が成立するまでの間は婚姻費用を請求できます。
内縁関係の場合、別居と同時に夫婦関係が解消されるので、別居後の婚姻費用請求は認められません。
03.子どもの親権者
法律婚の場合、婚姻中は父母の共同親権です。
離婚後の親権者については離婚時に父母が話し合ってどちらか一方に決めなければなりません。話し合いで解決できなければ、調停や訴訟を行って裁判所に決定してもらう必要があります。
内縁関係の場合、内縁の当事者間に生まれた子どもの親権は母親の単独親権です。
内縁関係を解消した後も、母親が引き続いて子どもの親権者となります。父親が親権者となるのも不可能ではありませんが母親との協議が必要で、かなり難しくなります。
04.養育費
法律婚の場合、離婚後に親権者にならなかった別居親には当然に養育費の支払い義務があります。親権者は別居親に対し、相場にもとづいた養育費を請求できます。
内縁関係の場合、父親が認知していなければ父親と子どもの親子関係が明らかになりません。認知が成立しない限り、母親は父親へ養育費を請求できません。
05.面会交流権
法律婚の場合、子どもの親権者にならなかった別居親には当然に面会交流権が認められており、非親権者には子どもが成人するまで子どもとの定期的な面会を要求することが可能です。
親権者が会わせてくれない場合には、面会交流調停を申し立てることができます。
内縁関係の場合は、父親が子どもを認知していない限り親子関係が明らかにはなりません。そのため、認知が成立していないのであれば家庭裁判所で面会交流調停を申し立てるのも困難となります。
母親が任意に会わせてくれるのであれば問題はありませんが、そうでないのであればまずは認知をする必要があります。
06.年金分割
内縁関係と法律婚では「年金分割」についても取扱いが異なります。法律婚の場合には、「3号分割」と「合意分割」の両方が認められます。
3号分割
平成20年4月以降に一方の配偶者が「3号被保険者(被扶養者)」だったときに認められる年金分割です。相手の合意がなくても、離婚後に3号被保険者だった配偶者が単独で年金事務所へ行き、年金分割の手続きをできます。
合意分割
平成20年3月以前からの婚姻期間やどちらも被扶養者でなかった場合に適用される年金分割です。相手の同意が必要で、基本的に離婚後に2人で年金事務所に行って手続きをしなければなりません。(公正証書があれば単独で手続きできますが、どちらにしても相手の同意が必要です)
内縁関係の場合には、3号分割のみが適用されます。
07.遺産相続
内縁関係と法律婚では「遺産相続」の場面でも大きく取扱いが異なります。
内縁関係にあった男女の相続関係
法律婚の夫婦の場合、お互いに相続権が認められます。離婚していなければ、将来相手が死亡したときに遺産を受け取れます。
内縁関係の場合には、お互いに遺産相続権が認められません。相手が死亡するまで同居していても、遺言書がない限り遺産をもらえません。関係が破綻しているなら、我慢して一緒に住むメリットは法律婚より小さいといえるでしょう。
子どもの遺産相続権
法律婚の場合、子どもには当然親の遺産について相続権が認められますが、内縁関係の場合、認知が成立しない限り子どもは父親の遺産を相続することができません。
認知の方法
内縁の夫婦に子どもがいる場合、「認知」をしておく方が何かとメリットを受けられます。
認知が成立していれば、離婚後に養育費請求や面会交流権が認められますし、遺産相続も可能となるからです。戸籍にもきちんと父親の名が記載されるので、子どもは父親とのつながりを感じやすくなるでしょう。
01.父親が認知する方法(任意認知)
父親が認知するには、父親自身が役所に「認知届」を提出すれば足ります。内縁関係の継続中でも解消後でも手続きできます。ただし子どもが成人した後に認知するには子どもの同意が必要です。
02.子どもが認知を求める方法(強制認知)
父親が進んで認知しない場合、子どもの側から「認知請求」が可能です。
家庭裁判所で父親相手に「認知調停」を申し立て、合意ができれば認知が成立します。
調停で合意できない場合、子どもが家庭裁判所で「認知の訴え(訴訟)」を起こしてDNA鑑定などで父子関係を証明できれば認知が成立します。
内縁関係解消時によくあるトラブル
内縁関係を解消する際、以下のようなトラブルが発生するケースが多いので注意してください。
01.相手が不倫
内縁の夫や妻が不倫するパターンです。
内縁関係の場合にも慰謝料については法律婚と同様の取扱いになるので、不倫されたら相手に慰謝料請求できます。金額の相場についても法律婚と同じです。
02.相手が家出
内縁の夫や妻が家出して一方的に関係を破棄するパターンです。夫婦には同居義務があるので一方的に家出をされたら慰謝料を請求できます。
ただし内縁関係の場合、別居とともに関係が終了するので別居後の婚姻費用は請求できません。
03.暴力を振るわれる
夫が妻へ暴力を振るうので、妻が離婚を希望するケースやその逆です。
内縁の場合、法律婚の夫婦と異なり別居と同時に関係が終了するので、妻が家を出た時点で関係を解消できます。
同棲中の暴力については慰謝料を請求することが可能です。別居後にも相手が追いかけてきそうな場合には、法律婚と同様に「保護命令」を申し立てて身を守れます。
04.財産を分けてくれない
内縁関係中に協力して財産を形成したにもかかわらず、内縁関係解消時に財産分与をしてくれないトラブルもよくあります。
内縁関係でも財産分与請求権が認められるので、相手が財産を分与してくれないなら家庭裁判所で「財産分与調停」を申し立てましょう。
05.子どもの親権や監護権を巡るトラブル
内縁関係でも、子どもの親権や監護権、養育費などを巡ってトラブルが発生する可能性があります。
内縁の場合、たとえ認知していても父親には親権が認められません。父親がどうしても親権者になりたい場合、母親との協議によって父に親権や監護権を認めてもらう必要があります。
養育費や面会交流権については認知が成立していないと請求できないので、請求したいなら認知の手続きを進めましょう。
06.「内縁関係が成立していない」といわれる
内縁関係の夫婦が関係解消後に慰謝料や財産分与の請求をすると、相手から「内縁関係が成立していない」と反論されるケースが多々あります。「単に同居していただけだから夫婦ではなく、慰謝料や財産分与を行う必要はない」といわれるのです。
内縁関係解消時に内縁関係に基づいて慰謝料や財産分与を請求をするには、内縁が成立していた証拠が必要となります。
内縁を証明する証拠
- 住民票(続柄が「未届の妻(夫)」と書かれているもの)
- 結婚式の写真や記録
- 新婚旅行に行った写真や記録
- 夫婦で冠婚葬祭に出席した写真や記録
- 周囲の人の証言
- 生命保険証書(受取人が「内縁の妻(夫)」と書かれているもの)
- 健康保険証(配偶者が被保険者になっているもの)
内縁関係を不当破棄されたときの慰謝料
内縁関係が不当に破棄されたときに請求し得る慰謝料についてみてみましょう。
01.内縁関係破棄で慰謝料が発生するケース
内縁関係を不当破棄された場合は、当然に慰謝料を請求することができます。
ここでいう不当破棄とは、以下のような場合です。
- 不倫された(不倫相手と肉体関係があるケース)
- 一方的に家出された(家出に正当な理由がないケース)
- 専業主婦が一家の大黒柱の夫から生活費をもらえない
- 暴力を振るわれた
- モラハラ被害に遭った
02.慰謝料の相場
内縁関係不当破棄の慰謝料の相場は、慰謝料の発生原因や状況にもよりますが、100~300万円程度です。
なお、以下のような事情があると慰謝料が高額になります。
- 婚姻期間が長い
- 不倫の期間が長い、回数が多い
- 不倫相手に子どもができた
- 暴力が悪質、大けがをした
- モラハラが行われた期間が長い、悪質
- 未成年の子どもがいる
- 被害者が精神病になった
- 被害者に経済力がない
内縁関係解消時に決めておくべきこと
内縁関係解消時には、最低限以下の事項について取り決めをしておきましょう。
- 財産分与
- 慰謝料
- 養育費
- 面会交流
- 子どもの認知
話し合いで解決できない場合、以下の方法で取り決める必要があります。
- 慰謝料請求については訴訟
- 財産分与や養育費、面会交流については調停
- 認知についてはまずは調停、解決できなければ訴訟
内縁関係を解消するときには、法律婚の夫婦以上にトラブルが起こりやすく法律上の取扱いも複雑です。不利益を受けないため、弁護士によるサポートを受けながら対応しましょう。
当事務所では内縁関係を含む夫婦のトラブル、男女問題へ積極的に取り組んでいますので、お困りの際にはぜひご相談ください。