債権、債務、保証、連帯保証、時効、支払督促、少額訴訟、通常訴訟、債務名義、仮差押え・・・。債権回収を検討している方が自身でいろいろと方策を検討する際に直面する問題の一つに、法律系の用語の知識が不足していることが挙げられます。
法律系の学問を専攻しない限り法律用語を学ぶ場面は少ないことから知識が不足してしまうのは仕方のないことです。
今回の記事では、こと債権回収の分野において頻出する法律系の用語について弁護士が分かりやすく説明します。
債権と債務
債権と債務、似たような名称であることもあって、なじみのない人にはややこしく感じてしまいます。まずはこれらの違いについて見ていきましょう。
01.債権
債権とは、特定の人に、特定の行為や給付を請求することができる権利のことです。
例えば一方がサービスの提供を行ない、もう一方が対価として料金を支払う(※)という関係を想定します。
この関係においてサービスを提供した側は、相手方に対し「お金を払って」と請求できる権利を有しております。この権利のことを債権といいます。
なお、債権は「特定の行為や給付を請求することができる権利」ですので、「お金を払って」と請求できる権利以外のものを内容とすることも多々あります。たとえばお金の貸し借りの関係において、お金を貸した側が「お金を返して」と請求する権利も債権にあたります。
02.債権者
債権者とは、債権を有する人のことをいいます。
※の関係において、サービスを提供した側は相手方に対して「お金を支払って」という債権を有しておりますので、相手方との関係では債権者となります。
なお、債権者は「債権を有する人」のことですが、ここでいう人は人間(自然人)だけではありません。会社のような法人も人として扱います。
03.債務
債務とは、特定の人に特定の行為や給付をする義務のことです。
※の関係において、サービスの提供を受けた側は、サービス提供者に対して「お金を支払う義務」を負っております。この義務のことを債務といいます。
なお、債務は「特定の行為や給付をする義務」ですので、「お金を支払う義務」以外のものを内容とすることも多々あります。たとえばお金の貸し借りの関係において、お金を借りた側が相手方に「お金を返す義務」も債務にあたります。
04.債務者
債務者とは、債務を負う人のことをいいます。
※の県警において、サービスの提供を受けた側は、サービス提供者に対して「お金を支払う義務」を負っているので、相手方との関係では「債務者」となります。
なお、債務者は「債務を負う人」のことですが、この「人」は人間(自然人)だけではありません。会社のような「法人」も含みます。
債務の履行、債務の不履行
01.債務の履行
債務の履行とは、債務者が債権者に対し、債務の本旨に従った履行を行なうことを言います。簡潔に説明すれば、債務の履行とは債務の内容をちゃんと行なうこと(実現すること)です。
例えば一方があるサービスを提供し、他方がこれに対し10万円を支払うという関係にある契約においては、サービスの提供を受けた側はサービス提供者に対し10万円を支払う必要があります。このお金を支払うことが債務の履行です。「月末に10万円を支払う」という債務を負っている場合には、「月末までに10万円を支払う」ことで債務を履行したことになります。
02.債務不履行
債務不履行とは、債務者が債権者に対し、債務の本旨に従った履行を行なうことをしなかったことをいいます。簡潔に説明すれば債務の内容を実現しなかったということです。
例えば「月末までに10万円を支払う」という債務を負っているケースにおいて、債務者が以下のような対応をした場合は、債務不履行となります。
- 翌月2日に10万円を支払った場合
- 月末に5万円だけ支払った場合
- 一切返済しなかった場合
保証債務
01.保証(保証債務)
保証(保証債務)とは、主たる債務者が債務を履行しない事態に備えて、債務者以外の者(保証人)との間で取り交わす債務のことです。主となる債務者に債務不履行があった場合、債権者は保証人に対し請求することができます。
02.保証人
保証人とは、保証債務を負う人のことをいいます。主債務者が債務を履行しなかった場合、保証人は債権者から請求を受けることとなります。
03.連帯保証・連帯保証人
連帯保証は、単なる保証よりも重い責任を課せられる保証とお考え下さい。また、連帯保証人は連帯保証債務を負う人のことをいいます。
今回の記事では、重い責任の具体的な説明については割愛します。詳細については下記のリンクを参照してください。
時効
時効とは『ある出来事から一定の期間が経過した事実状態を尊重し、今の状態が法律的に正当でないとしてもこれを正当な法律関係と認めること』を言います。簡潔に言い換えれば『一定期間継続した事実があればその状態を正しいものとして認めましょう』ということです。
時効には、取得時効と消滅時効の2種類があります。
01.取得時効
取得時効は、一定の期間以上モノを持っている(占有している)と、そのモノの所有権を得ることができる制度です。
たとえば他人の所有するマンションを自分のマンションだと疑わずに所有していた場合、時効期間の経過でマンションの所有権を時効取得することができます。法律的には他人のマンションですが、長年継続した事実関係を根拠として所有権を時効取得することになるのです(取得時効の成立にはほかにも要件がありますが、本記事では割愛します)。
02.消滅時効
消滅時効とは、一定の期間請求をしなかった場合に、その請求権が消滅してしまう制度です。
たとえば他人にお金を貸してこれを返してもらう権利を有していたとしても、時効期間の経過をもってその権利が消滅し、他人にお金を請求することができなくなってしまいます。正確には請求すること自体はできますが、他人から「時効の援用(消滅時効が成立してますという主張)」をされてしまうため、請求しても払ってもらうことができなくなります。
正当な権利に基づいて他人にお金を払ってもらうことが出来る債権を「金銭債権」と言いますが、日常生活の中で他人に対して金銭債権を取得する場面は多々あります。
- 知人にお金を貸した → お金を返してもらう権利
- ある会社で労働した → 賃金(給料)を支払ってもらう権利
- 取引先にモノを卸した → 売掛代金を支払ってもらう権利
これらの金銭債権を有していたとしても、支払を受けることもなく請求もせずにいた場合は、時効(消滅時効)が成立してしまいます。時効が成立してしまうとその債権の回収が困難となってしまいますので未回収の債権の回収には早めに着手する必要があります。
時効については、下記リンクで詳細を説明しておりますのでご確認ください。
裁判所を介した手続き
01.支払督促
支払督促とは、申立人の申立に基づいて金銭の支払いを求める制度です。簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。
申立後の一定期間の間に相手方からの異議が出なければ仮執行付宣言付支払督促を得ることができます。これは債務名義として用いることができますので、強制執行が可能となります。
支払督促の手続きは書面審理であり、債権債務について厳密な証明も不要であるため、時間も労力もそれほどかかりません。他の法的な請求手続きと比較すると非常に容易な手続きであるといえます。
なお、支払督促は金銭債権にしか適用できません。金銭債権とはお金そのものを請求する債権のことであり、以下のようなものが挙げられます。
- 貸付金
- 売掛金
- 敷金
- リース料
- 未払の通信料
- 未払の宿泊費、飲食費
- 未払の家賃
そのため、支払督促では、建物の明渡しや物の返還請求、移転登記請求、離婚請求といった金銭債権ではない債権の履行を求めることはできません。
02.少額訴訟
少額訴訟とは、簡易裁判所に申立てを行なう手続きです。60万円以下の金銭の支払いを求める場合にのみ利用が可能です。
少額訴訟は、判決までの手続きを1日で終えることができてスピーディに解決できますし、さほど難しい手続きではないので弁護士に代理を依頼しなくても進めることが可能です。
なお、少額訴訟も支払督促同様、金銭債権のみが対象となります。
03.通常訴訟
通常訴訟は、その名のとおり通常の訴訟手続きです。訴額が140万円以上であれば地方裁判所、140万円未満であれば簡易裁判所が管轄となります。
少額訴訟と異なり、判決が出るまでには複数回の審理は必要となります。他方で支払督促や少額管財と異なり、金銭債権以外の債権も対象とすることができます。
証拠やきちんとした主張立証が必要
少額訴訟も通常訴訟も訴訟手続きであるため、主張する事実を証拠をもって証明しなければなりません。きちんと法的な根拠を示して主張立証ができれば問題ないのですが、相応の知識を有していないときちんとした主張立証ができないこともあります。
法的な根拠をしっかりと示して主張立証することが必要であること、その後の仮差押えや強制執行等を考慮すると、専門家である弁護士に対応してもらうことを推奨いたします。
債権回収の実現
01.強制執行
強制執行とは、債務者が債務の履行を行なわない場合に、裁判所等がその債権の内容を強制的に実現する手続きです。相手の財産を差し押さえることで、強制的に金銭の回収を図ります。
差押えを行なう目的の財産によって以下のように分類することができます。
- 不動産・自動車:相手の土地や建物等の不動産や自動車を差し押さえて売却し、その代金を債権回収に充てる
- 給料・預貯金等:相手の給料や預金等を差し押さえて、それを会社や銀行等から取り立てて債権回収に充てる
- 家財道具等:相手の家財道具、貴金属等を差し押さえて売却し,その代金を債権回収に充てる
なお、強制執行は何らの下準備なしにできるものではなく、事前に債務名義を取得しておく必要があります。
また、強制執行を行なう際は、差押えの目的となる対象財産は自身で探す(見つけ出す)必要があります。裁判所等の執行機関が対象財産を探してくれることはありません。実はこの点が非常に重要で、債務名義等を取得したとしても「相手方の勤務先がわからない」「相手方がメインで使用しているであろう口座が分からない」と対象財産が特定できずに差押えができないということが往々にしてあります。
なお、相手方の財産を調査する方法としては「第三者からの情報取得手続き」があります。詳細は下記の記事をご確認ください。
02.債務名義
債務名義とは、債務者に強制執行を行なうために必要となる、公的機関が作成した文書のことを言います。
- 確定判決
- 仮執行宣言付き支払督促
- 裁判所の和解調書
- 調停調書
- 公正証書 等
上記のようなものが債務名義となります。裁判所や公証役場といった公的機関で作成した書面が債務名義に該当すると理解していただければ結構です。
03.仮差押え
仮差押とは、債務者が金銭債権を払わないときに裁判所に申立てをして、債務者の財産を仮に差し押さえるための手続きです。仮差押が実行されると債務者は仮差押された財産を処分できなくなります。
たとえば不動産を仮差押すると債務者は不動産の譲渡や抵当権の設定などができくなりますし、預金を仮差押すると債務者は預金口座からの出金や振込などの操作が一切できなくなります。
仮差押の目的は、訴訟を進めている間に債務者が財産処分するのを防ぐことです。訴訟を起こしたとしても判決を獲得するまでは強制執行することはできないのですが、裁判が終わるまでにはかなりの時間を要します。判決がでるまでの間に債務者に不動産や預金などの財産を処分されてしまえば、いざ強制執行しようとしても差し押さえるものがなくなっていることもあります。
このような事態を防ぐ目的で、訴訟の間の債務者による勝手な処分を禁止しその資産を保全する仮差押という制度が存在します。
仮差押えの詳細は下記の記事を参照ください。
その他の用語
01.弁護士会照会
弁護士会照会とは、弁護士が法律の規定(弁護士法23条の2)にもとづいて、事件の解決に必要な情報を取得できる手続きです。「弁護士照会」「弁護士法23条照会」「23条照会」等と呼ばれることもあります。
弁護士が事件の解決を図る際、相手方についての情報が必要となることがほとんどです。相手の居場所がわからなければ示談交渉の申し入れや訴訟提起もできません。また、債権回収事件において支払い命令の判決を得ても差し押さえ対象の財産が不明のままであれば債権回収を達成することはできません。
弁護士会照会制度はこの点に資するために設けられた制度であり、事件解決に必要な限度で弁護士が相手方の情報を入手できるようになっております。
弁護士会照会では、相手方の電話番号やメールアドレス、勤務先といった情報から相手方の氏名や住所を取得することができます。また、照会できる情報はこれ以外にもあります。
詳細は下記の記事を参照ください。
02.債権回収会社
債権回収会社とは、他者の債権回収の代行を専門的に行う会社です。債権譲渡を受けたり債権回収の委託を受けたりして債権回収を進めます。
弁護士法において、他人の債権回収代行業を行って良いのは弁護士のみとされていますが、それでは大量に発生する企業の不良債権に対応できないことから、「債権管理回収業に関する特別措置法(通称 サービサー法)」という法律が制定され、一定の企業に債権回収の代行業が認められました。
債権回収会社として他者の債権回収を行うには法務大臣の許可を受ける必要があります。社名には「債権回収」という文字を入れなければならず、行政機関による監督を受けるなどの規制も適用されます。それぞれの会社に「許可番号」があり、法務省によって会社名が公表されています。
詳細は下記の記事を参照ください。
さいごに
債権回収を検討しているのであれば、債権回収に注力して取り組んでいる弁護士に相談しましょう。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、債権回収の事案を広く受け付けております。債権回収を検討されている方は、是非一度当事務所までご相談ください。