取引先の不払いを回避する方法として「債権譲渡担保」があります。
債権譲渡担保とは、取引先が債務を支払わないときに、取引先の第三債務者に対する債権を譲渡してもらい、自社が直接取り立てるための契約です。
実は近年の民法改正により「債権の流動化」が推進されており、債権譲渡担保は利用しやすくなっている状況といえます。
今回は債権譲渡担保の方法やメリット、注意点について改正民法を踏まえて解説しますので、取引先による不払いリスクを抑えて確実に債権回収したい方はぜひ参考にしてみてください。


1.債権譲渡担保とは

債権譲渡担保とは、債務者が約束通りの支払いが行われないときに備えて債務者の第三債務者に対する債権を譲渡する契約です。
1-1.債権譲渡担保の具体例
たとえばA社がB社と継続的に取引しており、A社は常時B社に対する債権を有しているとしましょう。ただB社の経営状況は悪化しつつあり、今後支払不能状態に陥る可能性があります。一方でB社はC社と継続的に取引があり、C社に対して債権を有しているとしましょう。
こういった状況において、A社はB社からC社に対する将来の債権を譲渡してもらいます。
万一B社がA社に対して支払ができなくなれば、A社が直接C社へ債権の取り立てを行います。これが債権譲渡担保です。
債権譲渡担保契約を設定しておけば、B社が払えないときにC社から取り立てができるので、A社はB社の不払いリスクを避けることが可能となります。
1-2.債権譲渡担保の登場人物と呼称
債権譲渡担保の登場人物は以下の3者です。法律的な呼び名があるので確認しておきましょう。この記事でも以下の呼称を用いて説明します。
- A社…債権者、債権の譲受人
- B社…債務者、債権の譲渡人
- C社…第三債務者、債務者に対して負債を負う人(会社)。債権譲渡が実行されると債権者(譲受人)から直接取り立てを受ける
2.債権譲渡担保のメリット

債権譲渡担保を設定すると、以下のようなメリットがあります。
2-1.取引先が不払いを起こしたとき、スピーディに債権回収できる
1つは取引先が何らかの事情で不払いを起こしたとき、すぐに債権回収できることです。
債権譲渡担保がなければ、相手が払わないときには内容証明郵便で督促したり訴訟を起こしたりして回収しなければなりません。
時間がかかりますし、その間に相手が財産を隠してしまったり他の債権者に先を越されたりする可能性も高まります。
債権譲渡担保を設定しておけば、相手方との交渉や訴訟をせずに直接第三債務者へ支払を請求し、すぐに取り立てができるメリットがあります。


2-2.取引先が経営破たん、倒産しても債権回収できる
取引先の経営状態が著しく悪化すると、経営はたんして倒産するリスクが生じます。
何の対処もしなければ他の債権者にどんどん先を越され、相手が破産してほとんど何の配当も受けられなくなってしまうリスクが現実化するでしょう。
債権譲渡担保を設定しておけば、相手の経営状況が悪化した時点で担保権を実行し、第三債務者から債権回収できます。相手の経営状況が悪くなったとき、債権譲渡担保は大きな威力を発揮する可能性があります。
3.民法改正による債権譲渡に対する影響

近年の民法改正により債権譲渡を利用しやすくなっているので改正内容を確認しましょう。
3-1.譲渡禁止つき債権を譲渡した場合の効力
債権には「譲渡禁止特約」をつけられます。譲渡禁止特約とは、当事者間で「この債権は譲渡してはならない」とする約束です。譲渡禁止特約つきの債権は、相手の承諾なしに勝手に譲渡してはなりません。
旧民法では譲渡禁止特約つき債権を譲渡した場合「債権譲渡は基本的に無効」と規定されていました。
ただ債権の流動性を考えると、このように一律に無効にするのは合理的とはいえません。そこで改正民法では、譲渡禁止特約つきの債権譲渡も「基本的に有効」とされました(民法466条2項)。ただし譲渡禁止特約について知っている、あるいは知らなかったことについて重過失のある債権者に対し、第三債務者は譲渡禁止特約を主張して履行を拒絶できるとされています(民法466条3項)。
たとえばB社がC社へ債権を有しており、譲渡禁止特約がついていたとしましょう。
B社は特約を無視してA社へ債権譲渡してしまいます。この場合でも債権譲渡は有効です。
ただしA社が譲渡禁止特約を知っていた場合や重過失によって気づかなかった場合には、C社はA社への支払を拒絶できます。
またC社は誰に支払をすればよいのかわからない場合、法務局に弁済供託すれば支払いの遅延を免れます(民法466条の2)。
3-2.将来債権の譲渡を明記
改正民法では、将来債権の譲渡についても明確な規定がおかれました。「債権譲渡契約の時点で発生していない債権」を譲渡するのが将来債権譲渡です。
一般的に売買取引の際には、すでに対象物が存在するケースが多いでしょう。ただ債権譲渡担保の場合、将来の債権不払いを担保するのですから譲渡対象も将来債権となる可能性があります。このように「契約時には存在していない債権」を譲渡するのが将来債権譲渡です。
改正前の民法では将来債権譲渡の可否について明確な規定がありませんでしたが、改正民法では将来債権の譲渡が可能であると明記されました(民法466条の6)。
3-4.異議をとどめない承諾の廃止
民法改正により、第三債務者の「異議をとどめない承諾」に関する規定が抹消されました。
異議をとどめない承諾とは、第三債務者が何の抗弁も主張せずに支払い義務を認めると、第三債務者が主張できたはずの抗弁を主張できなくなってしまう、というものです。
たとえばB社がC社に対する債権をA社へ譲渡したケースにおいて、C社はB社に対し「契約の取消権」をもっていたとしましょう。A社がC社へ債権の支払を要求してきたら、C社は契約を取り消して支払を免れるはずです。
ところがC社が何も異議をとどめずにA社に対し「支払います」と答えると、C社は取消権を行使できなくなってしまいます。これが「異議をとどめない承諾」です。
結局C社はA社へ支払をしなければなりません。
このようにC社による抗弁が全面的に切断されると酷であることから、改正民法では「異議をとどめない承諾による効果が否定」されました。改正法のもとでは、C社は「抗弁権を放棄します」という明確な意思表示をしない限り、A者に対して取消権を主張して債権の弁済を免れます。
4.債権譲渡担保の設定方法

債権譲渡担保を設定するときには、以下の流れで進めましょう。
4-1.譲渡対象の債権を明らかにする
まずは「譲渡対象の債権」を明確化しましょう。譲渡対象債権とは、債権譲渡担保に入れられる債権です。
たとえばB社のC社に対する債権をA社に譲渡する場合であれば、B社のC社に対する債権が譲渡対象債権です。
譲渡対象が明確でなければ、そもそも債権譲渡担保契約自体が無効となってしまうので注意してください。たとえば契約書に「B社の有するすべての債権を譲渡する」などと記載しても、契約が無効になる可能性が高くなります。
特に債権譲渡担保の場合、将来発生する債権を担保に入れるケースが多いでしょう。その場合、債権の特定は容易ではありません。以下のような項目により、なるべく上と対象を明確にしましょう。
- 債権の種類
建築請負代金、運送料金など
- 第三債務者の特定
第三債務者の名称や本店所在地など
- 債権が発生する期間
2021年3月1日~2022年2月28日まで、などなるべく期間も明確にしましょう。
4-2.被担保債権を明らかにする
次に被担保債権を明らかにしましょう。被担保債権とは「債権譲渡担保によって担保される債権」です。
たとえばA社のB社に対する債権を担保するのであれば、被担保債権はA社のB社に対する債権となります。被担保債権はなるべく特定しなければなりません。「A社のB社に対するすべての債権」などとしても債権譲渡契約の効果が認められない可能性があります。
債権の種類や発生時期などを明記してできる限り明確にしましょう。

4-3.債権譲渡通知や登記について定める
債権譲渡を行うときには、「債権譲渡の通知」や「登記」に対する配慮も必要です。
債権譲渡の通知とは、第三債務者へ「債権譲渡を行いました」と知らせる通知。債権譲渡が行われても通知されなければ、第三債務者は債権譲渡を知るきっかけがありません。そこで債権譲渡を第三債務者へ主張するには通知が必要となります。
また債権譲渡の通知は「債務者」が行わねばなりません。債権者が直接第三債務者へ債権譲渡通知を送っても対抗要件として認められないので注意が必要です。
同じような効果は債権譲渡の「登記」にも認められます。登記すると債権譲渡が公示されるので、通知をしなくても債権者は第三債務者へ債権譲渡を主張できる状態になります。
ただし債権譲渡の登記も、債務者の協力が必要です。
債権譲渡の通知も登記もしなかったら、債権譲渡を受けてもいざというときに第三債務者へ取り立てができません。実務上、債務者は「取引先の信用を失いたくない」という理由で「債権譲渡通知」に拒否感を示すケースが多数です。その場合には、債務者の了承を得て債権譲渡登記をしておくのがよいでしょう。
4-4.債権譲渡契約書を作成する
債権譲渡担保の条件が決まったら、合意内容を「債権譲渡契約書」にまとめましょう。
契約書には最低限、以下のような内容を記載してください。
- 譲渡対象の債権
- 債権譲渡登記について
- 債権譲渡通知について
- 債権者が自ら債権回収を実行できる条件について
債権譲渡契約書が完成したら、できるだけ公正証書にしておくと安心です。
5.債権譲渡担保の注意点

債権譲渡担保を設定するときには、以下のような点に注意しましょう。
5-1.譲渡禁止特約に注意
債権には「譲渡禁止特約」がついているケースが少なくありません。
譲渡禁止特約がついていても債権譲渡は原則有効ですが、譲受人(債権者)が悪意または重過失の場合、第三債務者から支払を拒絶される可能性があります。
譲渡禁止特約を知っている場合はもちろんのこと、少し調べれば譲渡禁止特約の存在がわかる場合にも、そういった債権を担保にとってはなりません。債務者と第三債務者との間で締結された契約書の内容を確認し、譲渡禁止特約がついていないかチェックしてから債権譲渡担保の契約を締結しましょう。
5-2.債権の特定性に注意
債権譲渡担保をとるときには、必ず対象債権が特定されていなければなりません。
将来債権だからといってあいまいな記載をしていると、契約自体が無効になるリスクが高まります。
また契約時点で債権が特定されていないからといって白紙にしておき、後から債権者が好きに記入できる、といった対応もしてはなりません。後に裁判になると無効になる可能性が高くなります。
将来債権をどのように特定すればよいかわからない方は、弁護士に相談してみてください。
5-3.取り立て権限の消滅を明記
将来債権を担保として譲渡した場合でも、債務者がきちんと債権者へ支払いを続ける限りは債権譲渡を実行する必要がありません。債務者自身が第三債務者へ支払を請求して回収することになります。
ただし債務者が不払いを起こして譲渡担保を実行する段階になれば、債務者が第三債務者へ直接請求すると不都合が発生するでしょう。債権者が権利行使しようとしたところ、先に債務者が回収してしまうかもしれません。
このようなリスクを抑えるため、債務者が不払いを起こした時点で債務者自身の取り立て権限が失われることを明確化しておく必要があります。
6.債権譲渡担保の設定は弁護士へ相談を

債権譲渡担保を設定するときには、法律面からのさまざまな配慮が必要です。自己判断で条件を決めたり契約書を作成したりすると、無効になるリスクもあるので注意してください。
当事務所では企業法務に力を入れており、債権回収の支援にも積極的に取り組んでいます。
効率的な債権回収方法をお知りになりたい方は、お気軽にご相談ください。

