売掛金を回収せずに放置していると、資金繰りに悪影響を及ぼします。時効が成立して回収できなくなってしまうリスクも発生するので、早めに回収して不良債権化を防ぎましょう。
自社で債権回収するのが難しい場合、専門家や専門業者へ委託できます。
債権回収の主な委託先は、債権回収業者、弁護士、認定司法書士の3パターンです。
今回は、上記3者の違いやそれぞれの特徴、メリット・デメリットをお伝えします。
売掛金の回収に悩む経営者やご担当者さまはぜひ参考にしてみてください。

1.債権回収業者とは

債権回収業者とは、他者の債権回収の代行を専門的に行う業者です。債権譲渡を受けたり、債権回収の委託を受けたりして債権回収を進めます。
弁護士法により、本来他人の債権回収代行業を行って良いのは弁護士のみとされています。ただそれでは大量に発生する企業の不良債権に対応できないので、「債権管理回収業に関する特別措置法(通称 サービサー法)」という法律が制定され、一定の企業に債権回収の代行業が認められました。
債権回収業者として他者の債権回収を行うには、法務大臣の許可を受ける必要があります。社名には「債権回収」という文字を入れなければならず、行政機関による監督を受けるなどの規制も適用されます。それぞれの業者に「許可番号」があり、法務省によって業者名が公表されています。


2.弁護士とは

弁護士は法律の専門家です。法律に関する資格にはいろいろありますが、弁護士は「他人の代理人」として交渉や訴訟などの法律事務を行える唯一の資格です。弁護士法により、弁護士以外のものが報酬をもらって他人の代理人として活動することは禁止されているからです。
弁護士は債権回収を合法的に行えるので、日頃から交渉や訴訟等の債権回収業務に力を入れている人も多数います。そうした弁護士は売掛金回収のノウハウを蓄積しており、頼りがいがあるでしょう。
3.認定司法書士とは

認定司法書士とは、一定の研修を受けて法務省の認定を受けた司法書士です。
司法書士は法律家の一種ですが、本来は登記の専門家であり他人の代理人としての交渉や訴訟はできません。ただし研修を受けて法務省の認定を受ければ、140万円までの金額の事件の交渉代理や簡易裁判所での代理人活動ができます。
自社で売掛金を回収できないとき、額面額が140万円までであれば認定司法書士に回収を依頼することができます。
4.債権回収業者、弁護士、認定司法書士の違い一覧
債権回収業者 | 弁護士 | 認定司法書士 | |
債権の金額 | 限定なし | 限定なし | 140万円まで |
債権の種類 | 一定のものに限定される(個人間の債権は委託できない) | どこの裁判所でも対応可能 | 簡易裁判所の手続きなら可能 |
訴訟など裁判手続きへの対応 | 簡易裁判所の手続きなら可能 | どこの裁判所でも対応可能 | 簡易裁判所の手続きなら可能 |
債権回収方法の柔軟性 | 画一的 | 柔軟に対応可能 | 柔軟に対応可能 |
債権の買い取り (債権譲渡) | 可能 | 不可能 | 不可能 |
以下でそれぞれの項目について、みていきましょう。
4-1.債権の金額

債権回収業者や弁護士の場合、回収委託できる売掛金の金額に限度額はありません。
認定司法書士の場合、1件について140万円までの債権しか回収を依頼できない制限があります。
4-2.債権の種類
弁護士や認定司法書士の場合、回収委託できる債権の種類の制限はありません。売掛金、リース債権、通信料、クレジットカードの未払、病院の未払診療報酬などの事業者が有する債権だけではなく、個人間の貸付金回収なども依頼できます。
債権回収業者の場合には法令で委託可能な債権が限定されており、個人間の借金の回収などは依頼できません。
4-3.訴訟など裁判手続きへの対応
債権回収業者が債権回収の委託を受けたとき、簡易裁判所であれば訴訟を提起できます。
弁護士は簡易裁判所だけではなく、地方裁判所や高等裁判所など、どの裁判所でも本人の代理人として訴訟を提起できます。
認定司法書士の場合、簡易裁判所でのみ訴訟代理が可能です。
4-4.債権回収方法の柔軟性

債権回収の際には、個別の事案に応じた対応を要するケースも少なくありません。
たとえば公正証書の作成、弁護士が立ち会って当事者同士が話し合う機会を設けるなど、状況に応じて臨機応変に対応した方が回収の成功率が上がります。
債権回収業者の場合、画一的な処理するので柔軟な対応は難しくなります。弁護士や認定司法書士であれば、事案に応じた適切な対応が可能となるでしょう。
4-5.債権の買取り(債権譲渡)
売掛金回収の方法として「債権譲渡」があります。債権譲渡とは、債権を第三者に売却して売却代金を得る契約です。債権回収業者に売掛金を譲渡すると、手数料を引かれた金額が入金されます。金額は減りますが、回収不能を避けられます。
一方、弁護士や認定司法書士は債権の買取りを行っていないので債権譲渡による解決はできません。

5.債権回収業者のメリットとデメリット
債権回収業者には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
5-1.債権回収業者のメリット

労力をかけずに売掛金を回収できる
自社で売掛金の回収を行うと、大変な労力がかかります。
特に社内に債権回収の専門部署を設けていない場合、ふだんは他の業務を行っている従業員に担当させなければなりません。従業員のモチベーションが下がり、企業全体の生産性も低下する可能性があります。
債権回収業者に売掛金回収を外注すれば、従業員のモチベーションも維持できて、生産性の低下も防げるでしょう。貴重な労力や時間を削減できるメリットがあります。
専門的なノウハウを駆使できる
債権回収には専門知識やノウハウが必要です。
督促や交渉の際にもスキルを要求されますし、時効にも注意しなければなりません。
債権回収業者は債権回収を専門に取り扱っているプロなので、必要な知識やノウハウを蓄積しています。安心して任せられますし、自社で取り組むより効率的に回収できるでしょう。
債権譲渡できる
債権の回収が困難で当面は支払を受けられそうにない場合、「債権譲渡」による回収方法が有効です。債権譲渡すれば、実際に債権を回収できなくても譲渡代金を手にして損失を回避できるからです。
弁護士や認定司法書士には債権譲渡できませんが、債権回収業者の場合には債権譲渡による売掛金回収が可能です。状況によっては大きなメリットとなるでしょう。
5-2.債権回収業者のデメリット

無許可、悪質業者がある
債権回収業を行うには法務大臣による許可を受けなければなりません。しかし実際には許可を受けずに違法に営業している業者も存在します。そうした悪質業者に引っかかると、高い手数料だけとられて回収はできないといった事態に陥る可能性もあります。
また債権回収業者が違法な取立方法を行って問題になり、刑事事件に巻き込まれるリスクも発生します。
債権回収業者に委託するときには、無許可や悪質業者に注意が必要です。必ず法務大臣の許可を受けた信頼性の高い業者を選定しましょう。
手数料が高い
債権回収業者に回収を委託すると、手数料が発生するので、実際に回収できる金額は額面額より大きく下がってしまう可能性があります。
全額を回収できるわけではないので注意しましょう。
利用できる債権が限られる
債権回収業者が対応できる債権の種類は法律で決まっているので、何でも委託できるわけではありません。回収の流れも画一的なので、「まずは自分で話し合いをしてから法的な手段に進みたい」「次に支払督促をしてほしい」など個別の要望を出しても断られるのが通常です。利用できる債権が限られており対応が画一的な点はデメリットの1つといえます。
6.弁護士のメリットとデメリット
次ぎに弁護士のメリットとデメリットをみていきましょう。
6-1.メリット

労力や時間を省ける
弁護士に売掛金回収を委任すると、弁護士が全面的に回収業を代行します。
債権回収業者に委託するのと同様、自社で対応する労力や時間を削減できて、従業員のモチベーションや会社全体の生産性を維持できるでしょう。
どのような法律問題にも対応できる
弁護士は債権回収以外の法律トラブルにも対応できます。債務者から詐欺取消や無効の主張を受けたり、債権回収の過程で予想外のトラブルが発生したりしても解決可能です。
柔軟な対応が可能
弁護士は債権回収業者と異なり、柔軟な対応が可能です。弁護士同席のもとで債務者と対面で話し合ったり、作成した合意書を公正証書にまとめたりもできます。依頼者の希望をより細かく実現できるでしょう。
金額や種類に制限がない
弁護士はどのような種類の債権回収にも対応できますし、金額の制限も受けません。高額な売掛金、売掛金以外の債権の回収も任せられます。
6-2.デメリット

弁護士費用がかかる
弁護士に依頼すると弁護士費用が発生します。
債権譲渡はできない
弁護士は債権の買取りをしていないので、債権譲渡による解決は不可能です。

7.認定司法書士のメリットとデメリット
認定司法書士に売掛金回収を依頼するメリットとデメリットは以下の通りです。
7-1.メリット

労力や時間を省ける
債権回収業者や弁護士と同様、司法書士に依頼する場合も自社で対応する必要がなくなるので、手間や時間を削減できます。
柔軟な対応が可能
認定司法書士は債権回収業者のような画一的な対応をしないので、できる範囲であれば柔軟な対応をしてくれるでしょう。たとえば「簡易裁判所で支払督促をしてほしい」「内容証明郵便を送ってほしい」など、個別の依頼者の希望を実現してくれます。
7-2.デメリット

金額や利用できる裁判所に制限がある
認定司法書士は「140万円以下の債権」しか回収できません。140万円を超える場合には対応できないデメリットがあります。
債権譲渡できない
認定司法書士も弁護士と同様債権の買取りをしていません。どうしても回収不能な債権の場合、認定司法書士に相談しても解決できないでしょう。
司法書士費用がかかる
認定司法書士に依頼した場合にも費用は発生します。
状況に応じた委任先を選択しよう

売掛金の回収が難しくなって専門家や専門業者に任せるなら、状況に応じた委託先の選定が必要です。債権額が高額な場合には認定司法書士には委任できませんし、柔軟な対応を求めたい場合には債権回収業者では難しくなるでしょう。
弁護士であればどのような債権にも対応できますし、金額や債権の種類にも制限がありません。ノウハウを蓄積している弁護士なら、効率的に売掛金を回収できます。当事務所では企業法務に力を入れて取り組んでいます。売掛金回収にお悩みの企業さまがありましたら有効な対処方法をご提案させていただきますのでお気軽にご相談ください。

