相続手続きを進める際は、遺言書の存否を明らかにしなければなりません。遺言書を無視して遺産分割協議を進めてしまうと、後から遺言書が見つかった際にトラブルになる可能性があります。
とはいえ生前の故人が、遺言書の有無や遺言書の保管場所について秘密にしているケースは多いです。どこを探してよいかわからず途方に暮れてしまう相続人も多数いらっしゃいます。
今回の記事では遺言書の探し方について解説します。併せて遺産分割協議が成立した後に遺言書が発見された場合の対処方法についても解説しますので、相続人となった方はぜひ参考にしてみてください。
遺言書の種類
まずは遺言書の種類についてみてみましょう。遺言書には下記の3つの種類があります。
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
- 公正証書遺言
01.自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者が自筆で書き残す遺言書です。財産目録を除きすべて自筆で作成しなければなりません。
自筆証書遺言は、遺言者自らが保管しているか法務局に預けているかのどちらかの方法で保管されています。
前者であれば遺言者の自宅や貸金庫等で保管されている可能性が高いです。後者であれば法務局に保管されています。
02.公正証書遺言
公正証書遺言は公証人に作成してもらう遺言書です。公文書の一種なので信用性が高く他の2つに比べて無効になりにくいといったメリットがあります。
公正証書遺言を作成した場合、遺言書の原本が公証役場にて保管され、遺言者には正本や謄本とよばれる写しが交付されます。そのため遺言者の自宅に正本や謄本が保管されていることが多いです。原本が保管されている公証役場に対し照会を求めることも可能です。
03.秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言書の存在を公証役場で認証してもらうものです。公証役場が確認するのは遺言書が存在することのみであり遺言の内容については確認しません。
また、公証役場はあくまで存在を確認するにとどまります。遺言書自体を預かることはしませんので、遺言書は遺言者の手元に保管されています。
遺言書の探し方
遺言書を探す際は、以下の手順で対応することを推奨します。
01.故人の自宅を調べる
まずは故人の自宅などを調べましょう。以下の場所を重点的にチェックしてみてください。
- 金庫
- 書斎の机
- 通帳や保険証券といった財産に係る資料の保管場所
- 日記やアルバムなどがある棚
- 棚やタンスの中
- 鍵の付いた引き出し
- 仏壇の中や仏壇の周辺
02.故人の自宅以外を調べる
自宅ではない場所で遺言書が保管されていることもあります。
- 貸金庫
- 遺言書の作成に携わった弁護士に預けている
- 遺言執行者に預けている
貸金庫についてですが、貸金庫を利用していたかどうかが分からない場合は通帳の取引履歴をチェックしてみましょう。貸金庫を利用している場合、口座から貸金庫の利用料金が引き落とされていることがほとんどなのでこれをもって貸金庫の利用があるかどうかを判断することができます。
なお、貸金庫を開ける際は相続人全員に声をかけることを推奨します。一部の相続人だけが立ち会って貸金庫を開けた場合には後でトラブルになる可能性があります。
また、遺言書の作成に携わった弁護士、遺言執行者については故人の訃報を知った時点で遺言を保管している旨を申し出てくるのであえて相続人の側から対応する必要はありません。
03.法務局に確認する
自筆証書遺言の場合、法務局に預けられている可能性があります。法務局へ遺言書保管事実証明書の交付を申請してみましょう。遺言書が保管されている場合はその旨が記載された証明書が交付されます。
遺言書保管証明書の申請方法
遺言書保管事実証明書の請求は全国どこの法務局でも申請ができますので、お近くの法務局で申請しましょう。
なお、遺言書保管事実証明書の請求には事前の予約が必要となります。予約自体は電話や専用ホームページからできますし窓口でも受け付けてもらうことができます。
予約した日に以下の書類を法務局へ提出すれば遺言書保管事実証明書を発行してもらうことができます。
- 交付請求書
- 遺言者の死亡が確認できる戸籍謄本、または除籍謄本
- 請求者の住民票写し
- 請求者が遺言者の相続人であることが確認できる戸籍謄本
- 請求者の顔写真付きの身分証明書
- 800円分の収入印紙
遺言書の内容を知る方法
上記の照会について一点注意すべきことがあります。それは遺言書保管事実証明書には遺言書が保管されていることしか記載されません。この証明書では遺言内容はわからないということです。
遺言の内容を知りたい場合には、別途遺言書情報証明書を受け取るか保管されている遺言書を閲覧する必要があります。
相続人へ通知がくることもある
遺言者が通知サービスを利用している場合、遺言者の死後、特定の相続人に対し法務局から遺言を法務局で預かっている旨の通知が送られます。
通知を受け取った場合は、法務局に出向いて遺言情報証明書の交付請求または遺言の閲覧をしましょう。
04.公証役場に確認する
公正証書遺言であれば原本が公証役場に保管されています。また、秘密証書遺言であれば、遺言があるかどうかについて(遺言の認証があったかどうか)の情報が登録されています。
公証役場の遺言検索システムで遺言書の有無を確認しましょう。なお、遺言検索システムは全国どこの公証役場でも利用ができますのでお近くの公証役場で申請しましょう。
事前の予約を必要とする場合もありますので事前に公証役場に確認することを推奨いたします。
遺言検索システムを利用できる人
遺言検索システムを使えるのは、以下の人に限られます。
- 相続人
- 受遺者
- 遺言執行者
- 上記の人の代理人
遺言検索システムを利用する上での必要書類
遺言検索システムを利用する上で必要となる書類は下記の通りです。
- 申請者の本人確認書類
- 申請者の印鑑
- 除籍謄本
- 相続人の戸籍謄本
- 委任状(代理人が申請する場合)
遺言検索システムを利用できるタイミング
遺言検索システムを利用できるのは遺言者の死後のみです。遺言者の存命中は遺言者本人かその代理人しか遺言検索システムを利用することはできません。
公正証書遺言が存在することが判明した場合
公証役場の遺言検索システムの紹介結果通知書では公正証書遺言の存否が通知されます。すなわち公正証書遺言の内容までは明らかになりません。
遺言内容を知りたい場合には遺言書の保管されている公証役場に謄本の請求を行う必要があります。必要書類(本人確認書類等)や費用(遺言書1ページについて250円)もかかるので注意しましょう。
秘密証書遺言が存在することが判明した場合
秘密証書遺言の場合、公証役場はあくまで認証したにとどまり遺言書そのものの保管はしておりません。遺言書の現物は故人の手元に保管されているということになります。改めて故人の自宅等を探してみてください。
検認について
見つかった遺言書について家庭裁判所による検認が必要となるケースがあります。検認とは遺言書の存在や状態を保存するための手続きです。
01.検認が必要となるケース
故人の自宅等で遺言書が見つかった場合は、「法務局に預けられていない自筆証書遺言」または「秘密証書遺言」である可能性が高いです。
これらである場合には家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
検認を申し立てると家庭裁判所で期日が設定され、相続人立会のもとで遺言書を開封します。検認が終わると検認済証明書を交付してもらえます。検認済証明書があってはじめて遺言書により相続登記や預金払い戻しなどができるようになります。
なお、検認を受けずに遺言書を開封すると5万円以下の過料の制裁を受ける可能性があります。また、検認せずに遺言書をずっと持っていると、後で遺言書を確認したときに他の相続人から「手を加えたのではないか?」などと疑われるリスクも生じます。
遺言書が見つかった際は速やかに検認の申請をしましょう。
02.検認が不要なケース
法務局で保管されていた遺言書や公正証書遺言の場合は検認の手続きは不要です。検認なしでそのまま相続登記や預金払戻し、各種財産の名義変更を進められます。
遺産分割後に遺言書が見つかった際の対処方法
遺言書で遺産分割の方法が指定されている場合、その内容に従って遺産分割を行うのが原則です。
「遺言の内容に従った遺産分割」>「遺産分割協議による遺産分割」
それでは、故人の遺言はないものとして遺産分割協議や調停等で遺産分割を終えたあとで遺言書が見つかった場合はどのように対処することになるのでしょうか?遺言書に従って相続手続きをやり直さねばならないのでしょうか?
以下、パターン別にみてみましょう。
01.相続人が遺産分割の内容を優先すると合意した場合
法律的には「相続人が全員納得するのであれば、遺言書と異なる方法で遺産分割してもかまわない」と考えられています。言い換えれば、相続人が全員合意しているのであれば遺言書を無視した遺産分割協議を行っても良いということです。
したがって後で遺言書が見つかったとしても、相続人全員が「遺産分割協議を優先する」と同意するのであれば遺産分割のやり直しは不要です。遺産分割協議で決めた内容のとおりに手続きを進めて問題ありません。
02.遺言執行者が選任されていた場合
遺産分割協議後に選任されていた遺言執行者が現れる場合もあります。
遺言執行者は職務として遺言内容を執行しますので、相続人全員が遺産分割協議の内容に合意していたとしても遺言に従った相続を進める可能性があります。
遺言執行者が選任されているケースにおいて相続人全員の合意によって遺言書を無視したい場合には、遺言執行者へその旨伝え相続人同士で決めた方法で遺産分割を行うことについて同意してもらうように話をしましょう。
03.相続人の合意があったとしても遺言書が優先されるパターン
以下のような事情がある場合は、遺言の内容が相続人以外の方の権利に関わってくるため、相続人全員が遺産分割を優先すると合意したとしても遺言書の内容の方が優先されます。
遺言認知が行われている
認知によって新たに相続人が発生しますので、認知された子どもを交えて遺産分割協議をやり直す必要があります。
相続人以外の第三者へ遺贈がある
相続人以外の第三者へ遺贈がある場合、受遺者を無視することができないので受遺者への遺贈を行わねばなりません。包括遺贈の場合には、受遺者を交えて遺産分割協議をやり直す必要があります。
遺言による廃除がある
相続人の一部が遺言によって廃除されたり、廃除されていた相続人が廃除の取り消しによって復活している場合は相続人の構成が変わってきます。遺言書の内容に従った正当なメンバーで遺産分割協議をやり直さねばなりません。
04.遺言書の分割方法の方がよいと主張する相続人が出た場合
遺産分割協議による遺産分割よりも遺言書の内容に従った遺産分割の方がメリットがある相続人は、遺産分割協議による遺産分割に対する同意を取り消すでしょう。
このように遺産分割協議に従った分割内容に相続人全員の合意が得られない場合は、遺言書の内容が優先されることとなります。
なお、いったん遺産分割が成立している以上、遺言書が見つかったからといって当然にすべてが無効になるわけではありません。判例では「相続人が遺言を知っていれば遺産分割の合意をしなかったといえる場合」に限り錯誤があるとして無効になると判断されています(最高裁平成5年12月16日)。
05.やり直しができるケース、できないケース
以下のケースでは遺産分割のやり直しができない可能性があります。
- 遺言で指定された遺産分割方法と相続人で決めた遺産分割方法に大きな違いがない
- 遺言内容が不明瞭
また、以下のケースでは遺産分割のやり直しができる可能性が高いと考えられます。
- 遺言で指定された遺産分割方法と相続人たちが取り決めた遺産分割方法が大きく異なる場合
- 遺言によって利益を受ける相続人に不利な遺産分割方法となっている場合
さいごに
遺言書の捜索、法務局や公証役場での情報照会サービスの利用、遺産分割協議などの場面において、トラブルが発生するケースは少なくありません。トラブルなく安全に進めるには専門家によるサポートが必要です。
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