- 知人が金融機関から借入を行なうにあたり連帯保証人になった
- 経営する会社の借入について経営者が連帯保証人になった
- 住宅ローンを組むにあたり配偶者の連帯保証人となった
- 父が亡くなり、父が負っていた連帯保証債務を相続してしまった
連帯保証人(保証人)になった後に生じた諸事情から「連帯保証人から外れたい」と考える方は珍しくはありません。
連帯保証人になると、主債務者が支払いをしなかったときに債権者から督促を受けてしまいます。離婚や相続、M&Aなどの際には「今後は自分は(その債務に)関係ないんだから連帯保証人から外れたい」と考えるのが当然です。
はたして連帯保証人から外れることは可能なのでしょうか?
今回の記事では、連帯保証人から外してもらう方法をパターン別に解説します。保証人としての責任を逃れたい方はぜひ参考にしてみてください。
保証人とは
まずは、保証人や連帯保証人にはどのような責任があるのか、放っておくとどのようなリスクが発生するのか理解しておきましょう。
以下、下記のモデルを用いて説明します。
- Aさん:X銀行から100万円を借り入れた人。主債務者。
- Bさん:Aさんが上記の借入を行なうにあたり保証した人。保証人(連帯保証人)。
- X銀行:Aさんに100万円を貸し付けた銀行。
01.保証人とは
保証人とは、主債務者が支払いをしないときに代わりに支払う義務を負う人的な担保です。
ある債務の保証人(連帯保証人)になってしまうと、主債務者がその債務の返済を行なわない場合、債権者から直接請求されることとなります。保証人になったことで法的な支払い義務を負ってしまったため、債権者からの請求に対し「自分は関係ない」と拒否することはできません。
先のモデルでいえば、AさんがX銀行に返済しない場合は、BさんがX銀行に支払いを行なわなければならないということです。
02.保証人の抗弁権
保証人は、主債務者から請求を受けた際は、保証人は債権者に対して以下の主張(抗弁)をすることが出来ます。
催告の抗弁権
「先に主債務者に請求してください」と主張する権利のことです。先のモデルでいえば、X銀行から督促を受けたBさんは「私ではなくAさんにまずは請求してください。」と主張することができます。
検索の抗弁権
「主債務者に現金貯金などの資産があるので、先に本人の資産から取り立ててください」と主張する権利のことです。先のモデルでいえば、X銀行から督促を受けたBさんは「Aさんは財産を持っているので、私に請求するまでにAさんの財産に強制執行を掛けて回収してください。」と主張することができます。
03.保証人の負担割合
保証人は主債務について責任を負いますが、保証人が複数いるような場合においては、保証人の数で按分した負担割合以上の支払いをする必要はありません。
たとえば保証人が2名いて負担割合が2分の1の場合、保証人は債務の2分の1を支払うことで義務を免れます。
先のモデルケースにおいて、保証人としてBさんとCさんの2名がいるのであれば、BさんはX銀行に対し50万円を支払えば保証人としての義務を免れることとなります。
連帯保証人とは
連帯保証人は、単なる保証人よりも重い責任を負います。具体的には主債務者と同等の返済義務を課されます。以下、詳しく見てみましょう。
01.連帯保証人には抗弁権がない
連帯保証人には、先に述べた「催告の抗弁権」や「検索の抗弁権」はありません。たとえ主債務者に資産があっても債権者から請求を受けたら支払いに応じる必要があります。先のモデルで言えば、X銀行から督促を受けたBさんは、「Aさんに先に請求してください」と主張することなどができないのです。
02.連帯保証人には負担割合がない
連帯保証人には負担割合がありません。連帯保証人が複数名いたとしても全額を支払う義務を負います。
たとえば、モデルケースにおいて連帯保証人としてBさんとCさんの2名がいる場合、Bさんは50万円(100万円の2分の1)を支払っても連帯保証人としての義務を免れることはできません。連帯保証人が何人いようが全額を支払う義務を負うのです。
なお、日本において保証人を要求された場合、大多数が連帯保証人を意味します。金融機関からの融資、奨学金の借入、不動産賃貸借契約の場面において要求される保証人は、連帯保証人であることがほとんどです。
以下、連帯保証人と表記を統一して解説します。
連帯保証人であることのリスク
上述のとおり、連帯保証人には「債権者から請求されるリスク」が発生します。この事実はかなりの潜在的リスクをはらんでいます。
たとえば以下のようなケースを想定します。
- 夫婦居住のために、夫名義で住宅ローンを組んでマンションを購入
- 住宅ローンの連帯保証人は妻
- 離婚することに
- 住宅には元夫が住み続ける(妻は出ていく)
- 住宅ローンの返済は元夫が行なう
- 元妻は住宅ローンの連帯保証人から外れていない
このようなケースにおいて、怖いのは元夫が急に住宅ローンの支払いができなくなった場合です。元夫による支払いが止まれば住宅ローン債権者は残債務について元妻に一括請求をしてきます。連帯保証人である以上、元妻は請求を拒否することが出来ませんので一挙に窮地に追い込まれてしまいます。自己破産を余儀なくされるかもしれません。
そのようなことにならないよう主債務者との関係が切れる際には連帯保証人から外れておくのが得策です。
連帯保証人から外れておくべき状況
今後、主債務者に関わることがない場合や関わりたくない場合、債務について一切関与しない状況になったのであれば連帯保証人から外れておくべきでしょう。
たとえば以下のような状況です。
- 配偶者の住宅ローン借り入れについて連帯保証人となっているが、離婚する
- 知人への義理や親族へのつきあいで連帯保証人になったが、義務を逃れたい
- M&Aで会社を売却したので会社借入について連帯保証人から外れたい
連帯保証人から外れる方法
連帯保証人から外れる方法としては下記のものがあります。
01.債権者と交渉
オーソドックスな方法は、債権者と交渉をして連帯保証契約の解消に同意してもらうパターンです。
ただし、通常は無条件で連帯保証人を外してもらうのは不可能です。何らかの別担保を要求されます。たとえば以下のような対応が必要となるでしょう。
別の連帯保証人を差し入れる
主債務者が別の連帯保証人を差し入れることが出来れば連帯保証人を外してもらえる可能性があります。
とはいえ連帯保証人は誰でもよいわけではありません。十分な資力や収入がないと受け入れてもらえないでしょう。特に金融機関では年齢も含めて厳しく審査されるケースが多数です。収入があっても年齢が高いと連帯保証人のつけかえを認めてもらえない可能性があります。
別の担保物件を差し入れる
2つ目は、担保物件を差し入れる方法です。
主債務者が十分な資産価値のある不動産を抵当に入れることができれば、連帯保証人を外してもらえる可能性があります。ただしこちらについても審査がありますので、必ずしも認められるとは限りません。
なお、これらの方法はいずれも主債務者の協力が必要不可欠となります。
02.借り換え
債務のを借り換えるのも一つの方法です。借り換えとは、今抱えている負債と同額の金額を別の金融機関から調達し、負債を完済することです。
連帯保証付の債務の残債額と同額の金員を別の金融機関からの借入金を原資に完済することができれば、連帯保証付の債務がなくなるので当然に連帯保証債務もなくなります。
この手法は夫婦で住宅ローンを組んでいる場合などに有効な対処方法ですが、借り換えをするには借り換え先の金融機関で審査に通らねばなりません。
また、この手法も主債務者の協力が必要不可欠となります。
03.時効の援用
主債務や連帯保証債務について消滅時効が成立している場合は、保証人や連帯保証人は時効の援用をすることで負債を免れることができます。
消滅時効とは、債権者が一定期間権利を行使しないことによって権利が消滅する制度です。時効が成立した場合は、債務者が援用すれば確定的に権利が失われます。
債権の時効が成立するのは、以下の期間が経過したタイミングです。
- 債権者が請求できることを知ってから5年(主観的起算点)
- 債権者が請求できる状態になってから10年(客観的起算点)
時効の効力を発生させるには援用しなければなりません。援用とは時効の利益を受けますという意思表示です。
保証人が時効を援用したいのであれば、債権者あてに内容証明郵便を使って時効援用通知書を送りましょう。内容証明郵便を使うと確実に時効援用した証拠が残るので、後に援用がなされていないなどと主張されるトラブルが発生しにくくなります。
時効援用通知書には、債権の内容や時効を援用することなどを書き入れましょう。
03-02.時効援用ができない場合
上述の期間が経過していても時効援用ができないこともあります。時効が更新している可能性があるためです。時効の更新とは、時効の進行が停止して時効期間が当初に巻き戻ってしまう制度です。どういった場合に時効が更新されるのか、代表的な状況を見てみましょう。
主債務者が承認した
時効期間の進行中に主債務者が債務を承認してしまったら、保証人は時効を援用できません。債務承認は「時効の更新事由」となるからです。
保証債務は主債務に付随するので、保証人自身が承認しなくても主債務者が承認したら保証債務の時効も更新されます。主債務者が知らない間に債務承認していたら、保証人は時効を援用できなくなってしまうので注意しましょう。
保証人が承認した
保証人自身が債務を承認してしまった場合にも時効が更新されます。債権者から連絡が来て思わず「支払います」と答えたり、支払いに関する念書を差し入れたり、あるいは少額でも支払いをしたりすると債務承認とみなされます。
裁判を起こされた
債権者から訴訟を起こされた場合にも時効が更新されます。訴訟で判決が確定すると、判決確定時から10年間時効期間が延長されます。このような場合も連帯保証人(保証人)は時効を援用できません。
04.無効や取消を主張
事情によっては、無効や取り消しを主張することができます。
無効を主張できるケース
- 勝手に署名押印された
- 公序良俗に反する契約
①の例としては、主債務者や第三者に勝手に署名押印されて書類を偽造された場合です。自分では保証委託契約書に署名押印していない、契約に関与していないことを理由に契約の無効を主張できます。②の例としては、もともとの契約が法令違反の契約である場合です。もと契約が公序良俗違に反していることを理由に無効を主張できます。
取消を主張できる場合
- 詐欺、錯誤、強迫
- 未成年者が単独で保証人になった
- 成年被後見人が後見人の同意内に保証人になった
①の例としては、相手や第三者からだまされた(詐欺)、重大な勘違いをしていた(錯誤)、相手や第三者から脅されて無理やり保証人にされた場合です。このような場合には、保証契約を取消すことができます。ただし取消権にも時効が適用され、「取消原因に気づいて追認できる状態になってから5年以内」に取消の意思表示をしなければなりません。取消原因に気づかなかった場合でも「行為時から20年」が経過すると取消権は行使できなくなります。
②の例としては、未成年者が親権者や後見人の同意を得ずに単独判断で保証人になった場合です。このようなケースでは、親権者や未成年者本人が取消権を行使できます。なお、未成年者の取消権にも時効があり、行使できるのは成人になってから5年間に限られます。
同様に、成年被後見人が後見人の同意なしに単独で締結した保証契約も取消可能です。
05.相続放棄
保証債務を相続してしまった場合には、相続放棄をすることで保証人から外れることができます。相続放棄をすれば、保証債務を含めた一切の遺産を相続しないからです。
相続放棄の注意点
相続放棄の注意点として、相続放棄をすると負債だけではなく資産も承継できなくなってしまうという点が挙げられます。
遺産の内容として連帯保証債務があっても、他に多額の資産があるなら相続放棄せずに相続した方が経済的にメリットを得られる可能性があります。また主債務者が順調に支払いを続けている場合、本人が債務を完済することも期待できるでしょう。
安易に相続放棄をするのではなく、このあたりをしっかり検討する必要があります。
相続放棄の期限
相続放棄できるのは「自分のために相続があったと知ってから3か月以内」に限られます。
期限内に家庭裁判所へ「相続放棄の申述書」を提出して受理されなければ有効になりません。遅れると相続放棄の申述を受け付けてもらえなくなる可能性があるので、早めに対処しましょう。
特に事業を営んでいる人の相続人となった際には、すばやくかつ正確に資産や負債状況の調査を行い、相続放棄するかどうかの態度を決めなければなりません。迷われているなら、お早めに弁護士までご相談ください。
06.最終手段としての自己破産
上述のとおり、必ずしも連帯保証人から外れることができるとは限りません。主債務者の協力が得られない場合や代担保の提供ができない場合には連帯保証人から外れることは難しいでしょう。
連帯保証債務について債権者から請求がなさればいうちは実害はありませんが、されてしまえば最後、請求を拒むことはほぼ不可能です。請求された金額が払えない場合には自己破産を検討するほかありません。
自己破産を申し立て免責を得ることができれば負債を免除してもらうことができます。とはいえ、自己破産すると一定以上の資産が失われるなどのデメリットもあります。また手続きが複雑なので、弁護士によるサポートが必須となるでしょう。
連帯保証に関するトラブルでお悩みの場合には、東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所までご相談ください。