子どもがいる状況で離婚した場合、非監護親は子供に対し、養育費を支払わなければなりません。養育費とは、子ども(未成熟子)の監護や教育のために必要な費用のことであり、離婚の際に金額や支払期間を取り決めるのが通常です。
とはいえ取り決めた後に生じた事情によっては、養育費の減額を希望したくなることもあります。はたして一度取り決めた養育費を減額することは可能なのでしょうか?
今回の記事では、養育費の減額方法、減額できるパターン等について弁護士が解説します。
養育費
01.養育費とは
養育費とは、子ども(未成熟子)の監護や教育のために必要な費用のことです。
子どもが経済的・社会的に自立するまでに要する費用全般を指すものであり、衣食住に必要な経費、教育費、医療費などがこれに含まれます。
02.離婚しても親は親
Aさん(夫)、Bさん(妻)、Cくん(夫妻の子。小学生)の3人家族において、AさんとBさんが離婚し、BさんがCくんの親権者となったケースを想定します。
Bさんは、親権者として以後Cくんと生活を共にし、日常の世話や教育を行なう監護親です。Aさんは、Cくんと生活を共にしないので非監護親です。
なお、離婚により親権者でなくなったAさん(非監護親)も、今なおCくんの親であることには変わりはありません。そのため、親として養育費を支払う義務を負います。
03.養育費の額
実は、養育費の額は法律で明確に定められてはいません。当事者間(養育費を支払う側ともらう側。非監護親と監護親)で養育費の合意があればその金額に定まります。これは裏を返せば、双方が合意しなければいつまで経っても養育費が定まらないということです。
お金の問題に係るものである以上、ある程度の基準は必要です。この点を解決するため、家庭裁判所は実証的研究から導きだされた算定表を養育費の相場を提案しており、実務上ではこれを養育費の相場としております。
04.養育費の支払期間(支払終期)
養育費の支払期間についても、法律で「いつまで払わなければならない」と定められているものではありません。双方の合意で取り決めます。
なお、その支払期間は以下のいずれかとすることがほとんどです。
- 18歳まで(高校卒業まで)
- 20歳まで
- 22歳まで(大学卒業まで)
養育費を減額する方法
01.養育費は減額できる
結論から申し上げますが、取り決めた養育費を減額することは可能です。養育費が双方の合意に基づいて定まった金額である以上、双方が合意するのであれば養育費を減額することは当然に可能なのです。
もちろん双方の合意があれば養育費を減額するだけでなく、増額することも可能です。本記事では増額については触れておりませんのでご了承ください。
02.減額する方法
養育費を減額するためには、下記のいずれかの方法で対応する必要があります。
- 当事者同士で話し合う
- 裁判所を介して決める
養育費は双方の合意で決まるものである以上、当事者同士でしっかりと話し合いを行ない双方が納得すれば(合意すれば)、養育費を減額することが可能です。当事者間の話し合いで解決できるのであれば、裁判所を介した手続きを取る必要はありません。
なお、実際には当事者間の話し合いだけで決着できるケースは少数です。養育費を受け取る側(親権者側)からすれば養育費の減額に納得することはがほとんどないためです。
当事者間の話し合いで決着がつかないのであれば、家庭裁判所に対し養育費減額調停を申し立てて減額を図るほかありません。調停を申立てることで、裁判所が養育費を減額すべきかどうかを判断してくれます。
なお、裁判所に養育費の減額を認めてもらうためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 合意の前提となっていた事情に変更が生じたこと
- 事情の変更が予測できなかったこと
- 事情の変更が当事者の責任ではないこと
- 合意を強制することが公平に反すること
ケース別解説
2000年10月
・Aさん(男性)とBさん(女性)が結婚2002年04月
・AさんBさん夫妻の間にCくんが生まれる2008年02月:
・AさんとBさんが協議離婚する
・Cくんの親権者はBさん
・養育費については、Cくんが20歳になるまでAさんが月6万円を支払うと約束
上記のモデルケースにおいて以下の事情が生じたときに、非監護親(Aさん)が養育費を減額できるかどうかみていきましょう。
- Aさんの収入が減少した場合
- Bさんの収入が増加した場合
- Cくんが成長した場合
- Aさんの再婚による扶養家族の変動があった場合
- Cくんが養子縁組した場合
- 合意時に多額の養育費の支払を約束してしまった場合
なお、上記の事情を理由に非監護親が養育費の減額を監護親に希望した場合において、監護親が納得すれば減額は可能です。養育費はお互いの合意によるものであるためです。
ここでは、上記①~⑥の事情が、調停・審判において主張できるかどうかをみていきます。
01.Aさんの収入が減少した場合
養育費の金額を決めるにあたっては、養育費を支払う側(義務者・Aさん側)の年収および受け取る側(権利者・Bさん側)の年収は重要な考慮要素です。実際、先に説明した養育費算定表においても、双方の年収額が基準額を算定する上で重要な指標となっております。
そのため、Aさんの収入が減少した場合は、養育費を減額できる可能性があります。
ただし、収入が減少したからといって必ず養育費を減額してもらえるものではありません。実務上では、合意時から20%程度年収が減少している場合には減額を認めてくれる傾向にあります。
また、合意時から30%年収が減少していても養育費の減額を認めてくれない事例もありました。年収が下がったことだけが養育費の減額を認めるかどうかの判断要因ではないという点にご留意ください。
02.Bさんの収入が増加した場合
上述のとおり、養育費の金額を決めるにあたっては支払う側と受け取る側の年収は重要な考慮要素ですので、Bさんの収入が増加した場合も養育費を減額できる可能性があります。
ただし、Bさんの収入が増加したからといって必ずしも養育費を減額してもらえるというものではものではありません。Bさんの収入の上り幅やその他の要因により判断されます。
03.Cくんが成長した場合
養育費の支払対象は未成熟子です。未成熟子とは、自己の資産又は労力で生活できる能力のない者のことです。そのため、養育費の支払いの対象となっている子どもが就職するなどして自己の資産又は労力で生活できる能力を得た場合、減額できる可能性があります。
先のモデルケースにおいて、Cくんが高校卒業後、進学せずに社会に出て、自立できるだけの収入を得るようになった場合には、Cくんを未成熟子として扱うのは妥当ではないため、養育費の減額や支払い終期の変更が認められる可能性があります。
04.Aさんの再婚による扶養家族の変動があった場合
AさんがDさんと再婚し、Aさんが扶養する家族に変動があった場合、養育費を減額できる可能性があります。ただし、AさんBさんの離婚合意からAさんDさんの再婚までの期間、AさんとDさんの間に子が生まれたかどうかといった事情に応じて減額できるかどうかの判断は変わります。
05.Cくんが養子縁組した場合
BさんがEさんと再婚し、EさんとCさんが養子縁組をした場合、Eさんが第一次的な扶養義務者となりますので、Aさんは養育費を減額できる可能性があります。
06.合意時に多額の養育費の支払を約束してしまった場合
離婚の際の条件取り決め時に、多額の養育費を支払うことに合意してしまった場合にも減額できる可能性があります。
なお、いったん多額の養育費を支払うことに合意してしまっている以上、これを覆すのはかなり困難です。合意に至った事情や合意後の期間、その間の履行についてどれほど尽力したか(努力したか)等をしっかりと主張し認めてもらうことができれば減額できる可能性があります。
東京・恵比寿にある弁護士法人鈴木総合法律事務所では、養育費の減額交渉について注力しております。収入減や新たな家族ができたといった事情により、離婚時に取り決めた養育費の支払いが困難となってしまった方は、是非一度当事務所までご相談ください。