未婚の状態で生まれた子どもの父親は法律上当然に確定はせず不明として扱われます。
父親が不明の場合、子どもは以下のデメリットを被ることとなります。
- 養育費を請求できない
- 扶養義務に基づく支援を受けられない
- 父親が死亡したときに遺産相続を受けられない
これらのデメリットを避けるためにも、婚姻していない状況で子どもを産むのであれば父親を確定させるべく男性側に認知をしてもらうべきでしょう。
男性側に認知してもらうにはいくつか方法があり、そのうちの一つに強制認知があります。強制認知をすればたとえ父親が認知を拒否していても強制的に認知させることも可能です。
今回の記事では、子どもの認知についての必要性や認知をしてもらう方法等について解説します。
嫡出子
01.嫡出子とは
婚姻中の男女(夫婦)の間に子どもが生まれた場合、その子どもは当然に『父母の子ども』と推定されます。
この推定のことを嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)といいます。また、嫡出推定される子どもを嫡出子(ちゃくしゅつし)といいます。
嫡出子については、認知の手続きを取らずとも当然に父親の名前が子どもの戸籍に記載されます。
02.嫡出子として扱われるケース
下記のケースでは子どもは嫡出子として扱われます。
- 婚姻中の男女間に生まれた子ども
- 離婚後300日以内に生まれた子ども
①については当然に嫡出推定が及びますので子どもは嫡出子となります。生まれた時点で嫡出推定が働いて父子関係が確認されますので、出生後に父母が離婚したとしても父子関係がなくなることはありません。
②についてですが、法律上、離婚後300日以内に生まれた子どもについては離婚前の夫婦間の性交渉によって懐胎したと考えるため、元夫との間で嫡出推定が及びます。そのため生まれた子どもの戸籍には元夫が父親として記載されます。
なお、元夫側が離婚後300日以内に生まれた子どもについて側が自身の子どもではないことを争うには(主張するには)、嫡出否認の訴えの手続きをとる必要があります。
非嫡出子
01.非嫡出子とは
婚姻していない男女の間に生まれた子どもには嫡出推定がはたらきません。出産した母親は生物学的に当然に明らかとなりますが、父親は明らかではないためです。
このような子どもを非嫡出子(ひちゃくしゅつし)といいます。
非嫡出子の場合、戸籍に父親は記載されず、法律上の父子関係も明らかになりません。何らの手続きも取らないと父親不明の状態になってしまいます。
02.非嫡出子として扱われるケース
下記のケースでは嫡出推定が及ばないため、生まれた子どもに非嫡出子となります。
- 結婚していない男女間に生まれた子ども
- 内縁関係にある男女間に生まれた子ども
- 離婚後300日を経過してから生まれた子ども
①②についてですが、婚姻関係にない男女間に生まれた子どもについては嫡出推定が及ぶことはありません。結婚を前提とした交際をしている男女間であっても、事実婚状態にある内縁関係の男女間であっても嫡出推定は及ばないのです。
また、③についてですが、離婚後300日を経過してから生まれた子どもについて、元夫との関係で嫡出推定が及ぶことはありません。
認知とは
(子どもの)認知とは、非嫡出子について、父親との父子関係を明らかにする手続きのことをいいます。
認知が成立すれば、非嫡出子であっても法律上父子として扱われることとなり、子どもの戸籍に父親の名前が記載されることになります。
認知をすると、以下の法律上の効果が発生します。
01.養育費の請求が可能となる
父子関係が明らかになっていない状態では、父は子どもの養育費を払う義務を負いません。家庭裁判所に対し養育費調停を申し立てても受け付けてもらうことが出来ないのです。
他方で非嫡出子について認知が成立した場合は父子として扱われます。父親は子どもの養育費を払う義務を負うこととなり、親権者である母親は父親に対し養育費を請求できることとなります。
なお、「父は非嫡出子に対して養育費を支払う『義務がない』」のであって、当事者間の協議に基づく合意があれば認知がなくとも養育費を取り決めることは可能です。とはいえ任意で養育費を支払ってもらえるようなことは滅多にありません。「認知してもらわないと養育費は請求できない」と考えてよいでしょう。
02.扶養義務に基づく支援を要求できる
親族は互いに扶養義務を負います。扶養義務とは、自力による生活が苦しい親族がいる場合に経済的な援助をすべきという義務です。
親子は当然に扶養義務を負いますので、父親の生活が苦しければ子どもは仕送りなどの支援をしなければなりませんし、子どもの生活が苦しくなったら親が子どもを助けなければなりません(民法877条1項)。
非嫡出子を認知してもらうことが出来れば、子どもが経済的に困窮した際に父に対し支援を要求することが出来ます。
なお、扶養義務は相互に発生するため、将来、父側から支援を要求されることもあることにご留意ください。
03.遺産相続権が発生する
非嫡出子に関しては父子関係が存在しないので遺産相続権もありません。そのため、父親が認知しないまま死亡した場合、非嫡出子である子どもは父親の遺産を一切相続することはできないのです。
他方で認知によって父子関係が成立した場合には、子どもは父親の遺産について相続権を取得することが出来ます。
なお、子どもが先に死亡した場合には、父親が子どもの遺産を相続するということもあり得る点にご留意ください。
認知と親権者
父親が非嫡出子を認知すると父子関係が認められることとなりますが、父親は当然には親権者とはなりません。非嫡出子の親権は母親が単独で取得します。
父親が親権者となるためには、父母間の協議で父を親権者として定める必要があります。
認知は成立させるべき?
未婚のままで生まれた子ども(非嫡出子)について認知を成立させたほうが良いのでしょうか?
基本的には認知を成立させることをおすすめします。
父子関係がない場合、父側に養育費の支払い義務がありませんので子どもの養育費を払ってもらえないリスクがあります。父親が死亡した場合に子どもが遺産を相続できずに困ってしまうことも想定されます。
また、戸籍上父親が不明な状態であると、子どもが大きくなった際に疑問を抱いたり「父に捨てられた」と受け止めたりする可能性もあります。
タイミングを計らざるを得ないケースもありますが、基本的には早めに認知してもらいましょう。
認知の種類
認知の方法には、下記の4種類があります。
- 任意認知
- 強制認知
- 遺言認知
- 死後認知
01.任意認知
任意認知は、父親に子どもとの父子関係を認めてもらう認知方法です。父親が役所へ行って「認知届」を提出すれば任意認知が成立します。
父親が自由意思で行うものですので、父親の意に反して強制して行わせることはできません。
出生前の段階(妊娠中)であっても任意認知は可能ですが、この場合は母親の承諾が必要です。これを胎児認知といいます。
また、成人後の子どもについて任意認知する場合には、子ども本人の承諾が必要です。
02.強制認知
強制認知は、子どもの側から強制的に認知させる方法です。子どもが未成年の場合には、親権者である母親が代わりに認知請求を行います。
父親が任意に認知しないときにはこの方法を選択しましょう。
強制認知するには、家庭裁判所で「認知調停」や「認知の訴え」を申し立てなければなりません。
03.遺言認知
遺言認知とは、父親が遺言によって認知する方法です。
生前に認知すると家族との間でトラブルになる可能性が高くなるので、死後に認知の効果を発生させるため遺言で認知します。既婚者が妻以外の女性との子どもを作っていたケースで見受けられます。
遺言認知するには、必ず遺言執行者を選任しなければなりません。遺言書で遺言執行者が指定されていれば、その人が認知届けを提出して認知します。遺言書において遺言執行者が選任されていなかった場合は、相続人などの利害関係者の申立によって遺言執行者を選任し、認知手続きを行う必要があります。
04.死後の強制認知(死後認知)
父親が生前認知せず遺言認知もしなかった場合、死後に子どもの側から認知請求することもできます。これを死後認知といいます。
死後認知請求は強制認知の一種ですが、調停前置主義が適用されません。父親は既に死亡していて話し合いができないからです。
死後認知請求をするときには、検察官を相手に認知の訴えを提起する必要があります。DNA鑑定などによって父子関係が明らかになれば裁判所が認知の決定を出してくれて死後認知が成立し、子どもは父親の遺産を相続できる状態になります。
父親に認知を求める手順
父親に子どもの認知をさせるには、以下のステップで進めましょう。
01.任意認知するよう求める
まずは子どもの父親に対し任意認知するよう求めましょう。父親が素直に応じ認知届を提出してくれたら認知が成立します。
なお、この請求は子どもが生まれる前でもかまいません。出生前(妊娠中)でも母親が承諾していれば役所に認知届を受け付けてもらえます。
任意認知の場合、父子関係を証明する証拠は特に必要ありません。
02.認知調停を申し立てる
父親が認知を拒否する場合、家庭裁判所に認知調停を申し立てましょう。
認知調停では、調停委員を介して父親と認知について話し合います。DNA鑑定などを行って父子関係が確認され、相手が納得すれば審判によって認知が成立します。
審判書と確定証明書を役所へ持参すれば、相手が認知届を提出しなくても戸籍に父親名を書き込んでもらえて父子関係を明らかにできます。
認知調停の申立方法、必要書類、費用
認知調停は、父親の住所地の家庭裁判所へ申し立てます。必要書類は子どもの戸籍謄本と父親の戸籍謄本です。費用としては、収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手が必要となります。
調停前置主義
認知の訴えには調停前置主義が適用されます。調停前置主義とは『いきなり裁判をすることはできません。まずは調停で話し合わって下さい』という決まりです。
父親が調停で合意しそうにない場合でもまずは認知調停を申し立てなければなりません。認知の訴えは調停不成立後にしか提起できないので注意しましょう。
調停が不成立になる場合
認知調停が成立するには相手の合意が必要となります。相手が拒絶する場合や納得しない場合は調停は不成立となり父子関係は確認されません。
また、家庭裁判所から呼び出しをしても父親が連続して出頭しない場合も調停では解決ということで不成立となります。
03.認知の訴えを提起する
認知調停が不成立になってしまった場合には、家庭裁判所で認知の訴えを提起しましょう。
認知の訴えは訴訟の一種であり、父子関係を証明できれば裁判所が判決で認知を認めてくれます。
父子関係を証明する証拠
裁判所に認知を認めてもらうには父子関係を証明しなければなりません。
一般的には父子のDNA鑑定を行い、鑑定結果にもとづいて父子関係が判断されます。父親がDNA鑑定に協力すれば、証明は難しくありません。子どもを妊娠した当時の父母の交際状況など、補足できる資料もあれば提出しましょう。
一方、父親がDNA鑑定に協力しないケースでは、鑑定書を用意できません。
父親側の親族(兄弟姉妹や親など)の協力を得られるのであれば、親族と子どものDNA鑑定を行うことで間接的に父子関係を認定できる可能性があります。
また、母親の陳述書や母親への尋問、父母の交際状況がわかる資料の提出などによって父子関係を証明する方法もあります。
父親がDNA鑑定に協力しなくても諦める必要はありません。弁護士までご相談ください。
認知の期限
認知はいつまで行うことができるのでしょうか?
父親が生きているのであれば、認知に期限はありません。どのタイミングでも行うことができます。
他方で、父親の死後に子どもの側から死後認知請求する場合には、「死後3年間」の期間制限が及びます。3年が経過してしまうと認知を成立させられず子どもは遺産相続できないままとなってしまうので早めに対応しましょう。
さいごに
認知してもらえないと様々なデメリットが生じます。
特にシングルマザーとして一人で子どもを育てるということであれば、養育費をもらうことができないことは大きなデメリットになります。できるだけ早めに認知請求を行って法律上の父子関係を明らかにすべきです。
認知請求しても無視するような父親であっても、弁護士が代理人となって認知を求めると認知届の提出に応じるケースが少なくありません。それでも無視や拒否をする場合は、専門知識を有した弁護士が認知調停や認知の訴えを代理で進めることができます。
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