未婚のまま子どもが生まれた場合、子どもと父親の「親子関係」が明らかにはなりません。そのため、このままでは養育費を払ってもらうことができません。
養育費を請求するためには「認知」が必要となります。
今回の記事では、認知とは、認知のメリットやデメリット、認知の方法などについて弁護士が解説します。未婚で子どもが生まれた方は是非参考にしてください。
結婚している夫婦の間に生まれた子ども
結婚している夫婦の間に子どもが生まれた場合、その子どもは「夫の子どもである」と推定されます。
これを「嫡出推定」といいます(民法772条)。
未婚の男女の間に生まれた子ども
未婚のまま子どもが生まれる典型的なケースは、以下のような場合です。
- 交際中に子どもが生まれて結婚しなかった
- 内縁の夫婦に子どもが生まれた
- 愛人に子どもが生まれた
このような未婚の男女の間に生まれた子どもについては母親は明らかですが父親が誰であるかは推定されず、父子関係は不明とされます。そのため、未婚の男女の間に生まれた子供は、法律上「父親のない子ども」となり、戸籍にも母親しか載りません。
子どもの父親が特定できない以上、母親は父親に対し養育費を請求することができません。子どもの父親にあたる人に心当たりがあったとしても、その人は法律上当然に父親になるものではないため養育費の支払い義務は発生しないのです。
父子関係を確定させるためには、次に説明する認知が必要となります。養育費を支払ってもらうためにはまず認知が必要となるということを理解しましょう。
認知とは
認知とは、父親と子どもの関係を明らかにする法律的な手続きです。
嫡出推定が及ばない子どもであっても、父親が自ら自分の子どもと認めた場合、すなわち認知した場合は、法律上父子関係が明らかになり、戸籍にも記載されることとなります。
父親には子どもに対する養育費の支払義務があるので、認知がなされれば父親に対し養育費を請求することが可能となります。
未婚のまま生まれた子どもに対し養育費を支払ってほしいのであれば、まずは認知をしてもらいましょう。
認知の方法
認知を成立させる方法はいくつかあります。
01.任意認知
任意認知は、父親が自ら子どもを認知する方法です。父親が市町村役場で「認知届」を提出すれば認知が成立します。
まずは父親に「役所へ行って認知届を提出してほしい」と促してみましょう。
承諾が必要となる場合
妊娠中の子どもを認知する場合には、母親の承諾が必要です。
子どもが成人しているのであれば、子どもの承諾が必要となります。なお、子どもが生まれてから成人するまでの間であれば誰の承諾も要りません。
また、子どもが死亡した場合は、基本的に認知することはできませんが、死亡した子どもに子どもや孫がいる場合は認知が可能です。
02.生前の強制認知
父親へ任意認知を求めても応じてもらえない場合、子どもから父親に対し、認知を請求できます。これを「強制認知」といいます。
強制認知が成立した場合、仮に父親が認知を拒絶したとしても認知の効果が発生し、戸籍上も父子関係が明らかになります。
認知調停を申し立てる
強制認知したい場合には、子どもが家庭裁判所で父親に対し「認知調停」を申し立てます。
認知請求は「調停前置主義」といって、訴訟の前に調停をしなければならないルールになっているのでいきなり裁判はできません。先に「認知調停」で父親と話し合う必要があります。
調停では、調停委員を介して父親との間で「父子関係があるか、認知するかどうか」について話し合います。DNA鑑定などを行うケースもあります。
結果的に父親が認知を承諾すれば、裁判所の審判によって認知が決定されます。
認知の訴えを起こす
調停でも合意ができなかった場合には、子どもは父親に認知の訴え(訴訟)を起こす必要があります。訴訟において父子関係を証明できれば、裁判所が判決で認知を認めてくれます。
子どもが未成年の場合には、母親が親権者として認知調停や認知の訴えの手続きを進めます。どのようにすれば良いかわからないときには、弁護士までご相談ください。
03.死後の認知
認知は、父親の死後でも可能です。この場合、以下の2つの方法があります。
認知の訴えによる方法
父親の死後であっても、子どもの側から認知請求ができます。この場合、父親は存在しないので「検察官」を相手に認知の訴えを起こします。
認知請求は基本的に「調停前置」ですが、死後認知の場合、検察官と話し合いによる解決はできないので、認知調停は不要です。最初から訴訟を申し立てることとなります。
訴訟内でDNA鑑定などを行い父子関係が証明されれば、判決によって認知が成立します。
遺言による方法
死後に認知するもう1つの方法は「遺言」です。
父親が遺言書で子どもを認知していたら、死後にその遺言内容を実行して子どもの認知が成立します。
生前に認知すると父親の家族とトラブルになりそうな場合などには、遺言で認知が行われるケースが少なくありません。
なお、遺言によって子どもを認知する場合には、必ず「遺言執行者」が必要です。遺言によって遺言執行者が指定されていたらその人が認知の手続きを行いますし、指定されていなければ死後に裁判所に申し立てて遺言執行者を選任しなければなりません。
認知の効果
子どもを認知してもらったら、法律上以下の効果が発生します。
01.養育費支払義務が発生する
認知が成立したら、父子関係が明らかになるので、父親は子どもに対して養育費を払わねばなりません。未婚の母が父親に養育費を請求するためには、認知してもらう義務があります。
02.互いに扶養の義務が発生する
法律上の親子には、お互いに「扶養義務」が認められます。扶養義務とは、一定範囲の親族が子どもや高齢者、障害者などを経済的に援助しなければならない義務です。
親と子どもはお互いに扶養義務を負うので、相手が生活に困っていたら助けなければなりません。
認知によって父子関係が明らかになれば、どちらかが生活できなくなったときに他方が経済的な援助をする必要があります。
03.相続権が認められる
認知が成立すると「相続権」が発生します。相続権とは、相手が死亡したときに遺産を相続する権利です。子どもは第1順位、親は第2順位の相続人なので、父親が死亡すると認知された子どもは必ず相続人になります。子どもが死亡したとき、父親が相続人になる可能性もあります。
認知のメリット
子どもが父親から認知されると、以下のメリットがあります。
01.父親が明らかになる
戸籍に父親の記載がない場合、子どもの精神に悪影響を与える可能性があります。父親に見捨てられた、と悲観的に受け止める子どももいることでしょう。
父親が認知して戸籍上も父子関係が明らかになっていれば、子どもも「父親に認められた」感覚を持てて、自己肯定感を保ちやすくなります。
02.養育費を払ってもらえる
認知が成立したら父親から養育費を払ってもらえます。経済的に安定しやすくなるのはメリットといえるでしょう。
03.遺産相続できる
認知されていれば、父親の相続開始時に子どもは相続人として遺産を相続することが可能となります。
認知のデメリット
01.遺産相続トラブルになる可能性
認知されると子どもは父親の遺産相続権を取得します。
父親が死亡したときに、父親に配偶者やその配偶者との間の子どもがいたら、その家族らと共同で遺産分割協議に臨まなければなりません。この遺産分割協議の場においてトラブルが発生することが往々にしてあります。
02.父親と関わりたくない場合にはデメリットとなる
状況によっては、父親と関わりたくない方もいます。たとえば、父親に大きな借金があったり、犯罪を犯していたり、社会的地位が高くスキャンダルになったりするような場合です。
父親とは関わりたくないと思っていても、父親が認知した場合には父子関係が明らかとなるため一生ついてまわることとなります。
03.扶養義務が発生する
認知によって父子関係が成立した場合には、お互いに扶養義務が発生します。
将来父親が生活に困ったときには子どもが経済的な支援をしなければなりません。父子関係が良好であれば問題になりにくくても、没交渉や不仲の場合には子どもにとって負担となってしまいます。
父親が養育費の支払を免れる方法はあるのか?
父親側が養育費の支払いを免れる方法はあるのでしょうか?
確かに認知をしていない状態であれば、養育費を支払う義務はありません。任意認知をしなければ父子関係がないため養育費の支払いを免れることができます。
しかし、父親側が任意認知をしなくとも、子どもの側から認知請求をされてしまえば話は別です。
裁判において父親がDNA鑑定用の検体を提供しなくても、親族からの検体によって鑑定することもできます。最終的には父子関係が明らかになる可能性が高いので、養育費支払を確実に避ける方法はないといってよいでしょう。
逆を言えば、ちゃんとした手順を踏めば、認知を拒否する父親に認知させ、養育費を請求することは可能ということです。父親側が認知や養育費の支払を最後まで拒否することはできないので、養育費を請求したい場合はしっかりと手順を踏んで対応しましょう。
さいごに
東京・恵比寿にある鈴木総合法律事務所では、認知についての任意交渉や調停、訴訟等の対応を受け付けております。
相手が認知してくれない、相手と連絡がつかないといった事情でお困りの方は是非一度ご相談ください。