自己破産の申立を行なう際には、申立書を構成する「債権者一覧表」「資産目録」「報告書」「家計全体の状況」に記載されている内容が確からしい(=疎明)と判断できる書類を添付する必要があります。
特に資産目録については銀行口座の状況や収入証明、保険証券といった資料を添付することが原則です。
それではどのような資料を疎明資料として添付しなければならないのでしょうか?今回の記事では、自己破産の申立書に添付する疎明資料について解説いたします。
疎明資料を添付する理由
自己破産手続きにおいて疎明資料を添付する理由としては以下のものが挙げられます。
- 破産者が有する財産の価値の確認
- 返済不能状態となっているのかの確認
- 免責不許可事由がないかどうかの確認
- 不当な財産処分や資産隠しがなされていないかの確認
01.財産の価値の確認
①の「破産者が有する財産の価値の確認」の趣旨としては、換価配当に回すこととなる財産があるかどうかを確認するというものです。
破産者が自由財産の範囲を超える財産を有している場合には、超えた部分を債権者に対する配当に回さなけれななりません。そのため、破産者が現在有する財産の価値について疎明する資料が必要となります。
また、「破産者が有する財産の価値の確認」は、②の「返済不能状態となっているのかの確認」にもつながります。
たとえばですが、500万円の負債を負っている人が、売却すると1000万円の価値がある貴金属を有している場合、その貴金属を換価処分すれば負債を返済できてしまうわけですから返済不能状態にはなりません。
02.免責不許可事由の調査
通帳の取引履歴や消費者金融との取引履歴、クレジットカードの取引明細等を確認すれば、ギャンブルや買い物での浪費、キャバクラでの費消、換金行為といった免責不許可に該当する事由の有無を判断することができます(③)。
また、通帳で他人名義の口座に高額のお金を送金していたとか、クレジットの明細上では高額ブランド品を多数買っているにも関わらずそのブランド品が手元に残っていない、ということであれば不当な財産処分や資産隠し(④)がなされているかもしれません。
このような事情の有無を疎明するためにも疎明資料を添付することが必要といえます。
疎明資料の種類
添付する疎明資料としては、以下のものが挙げられます。
- 住民票
- 金融機関(銀行等)の通帳、取引履歴
- 受給している公的扶助の受給証明書
- 給与明細、賞与明細
- 源泉徴収票、課税証明書、確定申告書
- 退職金明細書
- 保険証券、解約返戻金証明書
- 自動車検査証、査定書
- 高額動産の査定書
- 不動産登記簿謄本、不動産の査定書
- 債権調査票
なお、上記の資料は個人再生を申し立てる際に必要となる資料とほぼ同一です。
01.住民票
破産者を確定させるために添付します。具体的には破産者の氏名、生年月日、住所、家族構成)等を確認するためです。また、この情報をもとに官報に情報が記載されます。
なお、ほとんどの裁判所では、申立3ヶ月前に取得した住民票を添付することとなっております。また、一部の裁判所では、住民票の他に戸籍謄本を要求されることがあります。
02.金融機関(銀行等)の通帳、取引履歴
破産者が開設した金融機関(銀行、信用金庫等)の口座について、取引明細を添付する必要があります。通帳であっても窓口で依頼して発行してもらって取引履歴であってもインターネットバンキング上のWeb明細であっても構いません。
取得範囲について
取得すべき取引履歴の範囲は管轄裁判所によって異なりますが、直近2年分を要求されることがほとんどです(一部の管轄では1年分で足りることもあります)。
直近の範囲
「直近2年分」については、原則は「申立を起点に過去2年」とされております。なお、弁護士への依頼日(受任日)を起点に過去2年とする解釈もあり、現状ではこちらが主流となっております。必要な範囲については依頼した弁護士にしっかりと確認しましょう。
合算記帳
長期間記帳していなかった通帳においては、合算記帳(一定の期間についての取引期間がまとめて1~2行で記載された記帳)がなされることがあります。このままだと当該期間の履歴が不明であるため、合算記帳のなされた期間については取引履歴を取得する必要があります。
使用していない口座
開設はしたけど過去2年において一切使っていない口座についても取引履歴は必要なのでしょうか?
答えは必要です。
「履歴を取得したところで取引履歴は一切記載されてないんだから意味がないのでは?」とお考えになる方がいらっしゃいますが、取引が無かったことを疎明するためにその履歴が必要となるのです。また、現在の残高を確認する目的でも必要となります。
03.受給している公的扶助の受給証明書
公的扶助とは、児童手当や失業給付、年金や生活保護などのことです。
これらを受給している場合は、疎明する書類として受給証明書(または受給者証)を添付します。
04.給与明細、賞与明細
申立前2ヶ月に支給された給与明細や過去1年間で支給された賞与明細を添付します。
05.源泉徴収票、課税証明書、確定申告書
直近2年分の源泉徴収票を添付します。源泉徴収票がない場合は、課税証明書(非課税証明書)や確定申告書を添付します。
06.退職金
退職金の有無が分かる資料、退職金がある場合は、現在自己都合で退職した際に支給される退職金額を疎明する資料(直近で定年退職などによる退職となる場合は、支給予定の退職金額を疎明する資料)を添付します。
何故添付しなければならないのか?
退職金も破産者が有する財産として評価されるためです。そのため、退職金があるのかどうか、退職金があるのであれば現在の価値(定年での退職が当面先であれば自己都合退職での金額、定年での退職が近い(満額の退職金の支給が近い)場合には通常支払われる退職金の金額)を疎明する必要があります。
疎明方法
退職金の有無の疎明方法としては、雇用契約書や就業規則類があります。これらの書面において「退職金は無い」と明記されていれば退職金が無いことを疎明できることとなります。
退職金がある場合には、額を疎明する資料が必要となります。①勤務先に「仮に今辞めた場合に支給される退職金額」を書面で発行してもらう、②(就業規則等から明確に算出できるのであれば)就業規則などを添付します。
07.保険証券、解約返戻金証明書
生命保険や損害保険などの保険商品には、解約した際に返戻金が発生するものがあります。この解約返戻金が潜在的な資産となるため、資料を添付する必要があります。
保険証券と、その保険を現時点で解約したときに発生する解約返戻金証明書、解約返戻金が無い場合は解約返戻金が無いことを証明する資料、を添付します。
08.自動車検査証、査定書
自動車やバイクを所有している場合は、車検証と査定書を添付する必要があります。
09.高額動産の査定書
所有している高額財産については、その評価額についての疎明資料を添付する必要があります。
例えば、高価な貴金属を所有していたり、ブランドバッグをたくさん所有している場合には、それらの現在価値を示す資料を添付します。
10.不動産登記簿謄本、査定書
不動産(土地や建物)を所有している場合、不動産の登記簿謄本、査定書2社分を添付する必要があります。
不動産はどうなるの?
不動産は処分されることとなります。残しておくことはできません。
処分方法は、①破産申立前までに任意売却する、②担保権者による競売により売却する、③破産手続きの中で管財人により売却される、のいずれかとなります。
相続不動産に注意
例えば、「実家の所有者であった父が数年前に死去。父の相続人は母と子である破産者。相続登記はしていない。現在は母が実家に住んでいる。」といった場合、実家については法定相続となり、2分1の持ち分を有することとなります。
この場合、実家は換価処分の対象となります。母が住居を失うことになるということです。実家の換価を回避するためには、持ち分評価額を他者(母ないし親族)に買い取ってもらうほかありません。
この処理については非常に難しいものであるため、処理方法については弁護士に相談しましょう。
11.債権調査票
債権者から開示された債権調査票を添付します。債権調査票は、弁護士が債権者から収集するものですので、破産者が手配するものではありません。
12.その他の資料
上記のもの以外にも、添付を要する資料は多々あります。また、破産者側から何かを主張したい場合、証明したい場合には、これを裏付ける資料が必要となります。
収集すべき資料の範囲、その取得方法について疑問点がある場合は、専門家である弁護士に相談しましょう。
さいごに
この記事をお読みになられている方の多くは、負債や返済について何かしらのトラブルや心配事を抱えていらっしゃるかと思います。
東京・恵比寿にある弁護士法人 鈴木総合法律事務所では、個人破産に注力しており、事件の解決実績も豊富です。債務や負債に関するトラブルをお抱えになっている方はお早めにご相談ください。