売掛金や貸付金についての弁済が履行されない場合、支払督促をすることは解決手段の一つとなります。
支払督促は他の法的手続きと比較すると手続きとしては容易であるため、少ない労力で債権を回収できる可能性があります。
とはいえ支払督促にはデメリットもあるので注意が必要です。
今回の記事では支払督促の特徴や訴訟との違い、活用方法について解説します。債権回収を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。
債権回収の方法
01.任意の交渉
- 売掛金を支払ってもらえない
- 貸したお金を返してもらえない
- 滞納している賃料を払ってもらえない
債務者が約束通り支払をしないときは、まず任意の弁済を求めるのが一般的です。口頭や書面等での交渉により債務の弁済を要求し、その弁済方法について合意を取り交わします。
02.すぐに強制執行できるわけではない
交渉によって弁済の約束を取り交わせなかった場合や弁済の約束したけど約束とおりの弁済がない場合、相手の口座や給与の差押えといった強制執行の手段で回収を図るほかないのですが、すぐに強制執行をすることはできません。
強制執行をするためには事前に債務名義を取得しておく必要があります。なお、債務名義にはいくつか種類がありますが、基本的には裁判所を介した諸手続きで取得します。。
支払督促
01.支払督促とは
支払督促とは、申立人の申立に基づいて裁判所書記官が相手方に対し金銭の支払いを求める制度です。申立後の一定期間の間に相手方からの異議が出なければ仮執行付宣言付支払督促を得ることができます。これは債務名義として用いることができますので、強制執行が可能となります。
02.手続きは簡易
支払督促の手続きは書面審理であり、債権債務について厳密な証明も不要であるため、時間も労力もそれほどかかりません。他の法的な請求手続きと比較すると非常に容易な手続きであるといえます。
03.対象は金銭債権のみ
支払督促は金銭債権にしか適用できません。金銭債権とはお金そのものを請求する債権のことであり、以下のようなものが挙げられます。
- 貸付金
- 売掛金
- 敷金
- リース料
- 未払の通信料
- 未払の宿泊費、飲食費
- 未払の家賃
そのため、支払督促では、建物の明渡しや物の返還請求、移転登記請求、離婚請求といった金銭債権ではない債権の履行を求めることはできません。
訴訟との違い
支払督促と訴訟手続き(通常訴訟、少額訴訟)との違いについてみてみましょう。
支払督促 | 少額訴訟 | 通常訴訟 | |
審理方法 | 書面審理 | 法廷での審理 (原則1回) | 法廷での審理 (複数回) |
証拠 | 厳密な証明は不要 | 証拠が必要 | 証拠が必要 |
対象となる債権 | 金銭債権のみ | 金銭債権のみ | 金銭債権以外も可 |
債権の限度額 | 限度なし | 60万円以下 | 限度なし |
債務名義 | 仮執行宣言付支払督促 | 確定判決 | 確定判決 |
審理方法や証拠の点で見ると、支払督促は少額訴訟や通常訴訟に比べて手間や労力が少なくて済むことがわかります。
支払督促の流れ(異議がでなかったパターン)
支払督促を申し立てた後の流れは、「相手から異議が出るかどうか」と、「異議が出たタイミング」によって大きく変わってきます。
まずは、相手から異議が一切出なかったパターンを確認しましょう。このパターンは支払督促が成功したケースと言えます。
01.支払督促の申立
裁判所へ支払督促申立書を提出し申立を行ないます。管轄は『相手方の住所地を管轄する簡易裁判所』です。訴訟手続きとは異なり、証拠の添付は不要です。
02.支払督促の発付、送達
裁判所が支払督促申立書の審査を行ないます。申立書に不備がなければ支払督促が発付され、相手方に送達されます。
03.仮執行宣言の申立
相手方へ支払督促申立書が送達されてから2週間の間に異議が出なければ、申立人は仮執行宣言の申立をできる状態となります。なお、支払督促に異議が出なくてもすぐに差押えができるわけではありません。差押えをするには必ず仮執行宣言を申し立てなければなりません。
仮執行宣言の申立てができるのは「相手方に支払督促申立書が届いて2週間が経過した日から30日以内」です。30日を過ぎてしまうと支払督促の効果が失われてしまうので速やかに手続きと取りましょう。
04.仮執行宣言つき支払督促正本の送達
申立人が期限内に仮執行宣言の申立をすれば、裁判所は相手方へ「仮執行宣言付支払督促(正本)」を送ります。なお、相手方はこれに対して異議を出すこともできますがこの時点で異議を出しても差押えそのものを止めることはできません。
05.強制執行(差押え)
仮執行宣言付支払督促正本が送達されて2週間が経過しても相手が支払をしない場合は、裁判所へ申し立てることで相手の資産や給料などの債権を差し押さえることができます。
なお、差押えの際には別途送達証明書が必要となります。これは裁判所に申請することで取得できます。
支払督促の流れ(当初の支払督促に異議がでたパターン)
当初の支払督促に異議が出た場合は以下のような流れになります。
01.支払督促の申立
裁判所へ支払督促申立書を提出し申立を行ないます。管轄は『相手方の住所地を管轄する簡易裁判所』です。
02.支払督促の発付、送達
裁判所が支払督促申立書の審査を行ないます。申立書に不備がなければ支払督促が発付され、相手方に送達されます。
03.異議申立
相手が2週間以内に異議を申し立てます。
04.通常訴訟へ移行
異議申立書が提出されると、手続きは通常訴訟へと移行します。訴訟は引き続き、支払督促を申し立てた相手方の住所地の裁判所で行われます。この場合、仮執行宣言が出ないので強制執行はできません。
支払督促の流れ(仮執行宣言付支払督促に異議がでたパターン)
仮執行宣言付支払督促に異議が出た場合は以下のような流れになります。
01.支払督促の申立
裁判所へ支払督促申立書を提出し申立を行ないます。管轄は『相手方の住所地を管轄する簡易裁判所』です。
02.支払督促の発付、送達
裁判所が支払督促申立書の審査を行ないます。申立書に不備がなければ支払督促が発付され、相手方に送達されます。
03.仮執行宣言の申立
相手方へ支払督促申立書が送達されてから2週間の間に異議が出なければ、申立人は仮執行宣言の申立をできる状態となります。なお、支払督促に異議が出なくてもすぐに差押えができるわけではありません。差押えをするには必ず仮執行宣言を申し立てなければなりません。
仮執行宣言の申立てができるのは、「相手方に支払督促申立書が届いて2週間が経過した日から30日以内」です。30日を過ぎてしまうと支払督促の効果が失われてしまうので、速やかに手続きと取りましょう。
04.仮執行宣言つき支払督促正本の送達
申立人が期限内に仮執行宣言の申立をすると、裁判所は相手方へ「仮執行宣言付支払督促(正本)」を送ります。
05.異議申立
相手方から仮執行宣言つき支払督促へ異議申立てが行われます。
06.通常訴訟へ移行
相手から異議申立てが出ると、通常訴訟へと移行します。管轄裁判所は相手方の住所地を管轄する裁判所です。
07.強制執行(差押え)
仮執行宣言つき支払督促に対し異議が出た場合は、差押えは可能です。訴訟で争いながらとはなりますが相手の資産を差し押さえることができます。
支払督促のデメリット
支払督促には以下のデメリットがあります。
01.異議を出されると訴訟に移行してしまう
支払督促を申し立てる方の多くは「訴訟と比較して労力がかからない」という理由で支払督促を選択されております。
しかし、支払督促の途中で相手が異議を出した場合は強制的に通常訴訟に移行します。訴訟になれば法律論に従った書面や証拠提出が必要になるので時間も労力もかかることとなります。弁護士なしでは対処が難しいこともあるでしょう。
支払督促を申し立てるときには「訴訟に移行することになってもかまわない」という覚悟をもっておくべきといえるでしょう。
02.訴訟で負ける可能性がある
支払督促を申し立てる段階では証拠は不要です。一切の証拠(資料)がないけど相手にお金を払ってほしいケースであっても支払督促が成功すれば差押えをする権利を得ることができます。
しかし、相手が異議を出した場合には強制的に訴訟に移行します。訴訟では証拠による立証が必要となりますので資料や証拠が手元になければ敗訴してしまうでしょう。
資料がない状況で闇雲に支払督促を申し立てるのはリスキーなので避けた方が良いでしょう。
03.相手の住所地の裁判所で審理が行われる
審理が行われる裁判所の管轄にも注意が必要です。
支払督促は『相手方の住所地の簡易裁判所』へ申し立てなければなりません。異議が出て通常訴訟に移行した場合の裁判所も『相手方の住所地の裁判所』です。
支払督促だけであれば書面審理となるので出廷不要なのですが、訴訟に移行した場合は出廷が必要となります。相手方の住所地が遠方の場合(管轄裁判所が遠方の場合)には、裁判の期日に出席するために多大な費用と労力がかかってしまうおそれがあります。
支払督促を申し立てる際は、相手方の住所地(管轄裁判所)についても慎重に検討すべきといえます。
8.さいごに
支払督促において相手が異議を出した場合は通常訴訟へ移行してしまいますが、異議が出されなければ手続きは非常に簡便です。「相手が争わない」「相手が無視する」ことが見込まれる場合には、支払督促は最良の方法となります。相手の態度を考慮して支払督促をするのかどうかを検討しましょう。
なお、債権回収には支払督促以外にもさまざまな手段・方法があります。どの方法がコストパフォーマンスが良いのかは事案によって異なるものであり、個人ではなかなか判断しづらいです。どの手法が最良かわからない場合には、弁護士に相談してみましょう。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、債権回収の事案について注力しております。支払督促を検討されている方は、個人・法人問わず是非一度お気軽にご相談ください。