取引先の不払いを回避する方法の一つに債権譲渡担保を設定する方法があります。
債権譲渡担保とは、取引先が債務を支払わないときに、取引先が有する第三債務者に対する債権を譲渡してもらい、これを自社で直接取り立てる契約を取り交わすことです。
実は近年の民法改正により債権の流動化が推進され、債権譲渡担保は利用しやすくなりました。
今回の記事では、債権譲渡担保の方法やメリット、注意点について改正民法を踏まえて解説します。取引先による不払いリスクに備えておきたい方はぜひ参考にしてみてください。
債権譲渡担保とは
債権譲渡担保とは、債務者が約束通りの支払いを行なわないときに備えて、債務者の第三債務者に対する債権を担保に取る方法です。
以下のケースで考えてみます。
- A社とB社は継続的に取引を行なっており、A社は常時B社に対し債権を有している
- B社とC社は継続的に取引を行なっており、B社は常時C社に対し債権を有している
- B社の経営は悪化しており、今後支払不能状態に陥る可能性がある
A社は、B社と継続して取引をするうえで『B社の不払いリスク(倒産リスク)』というリスクを抱えております。A社としてはこのリスクを軽減したい・回避したいと考えますが、その解決策の一つが債権譲渡担保です。B社から「C社に対する将来の債権」を譲渡してもらう(債権譲渡担保)ことで、将来B社が支払できなくなった際に、A社は直接C社に対し債権の取立てを請求することができるようになります。
このように債権譲渡担保契約を設定しておけば、債務者(先の例ではB社)が不払いとなった際に第三債務者(先の例ではC社)から債権回収を図ることができますので、A社としては不払いリスクを避けることが可能となります。
用語の説明
債権譲渡担保を説明する際に出てくる当事者は以下の三者です。法律的な呼び名があるので確認しておきましょう。
- 債権者…債権の譲受人。先の例でのA社
- 債務者…債権の譲渡人。先の例ではB社
- 第三債務者…債務者に対して負債を負う人(法人)。債権譲渡が実行された際は、債権者(譲受人)から直接取り立てを受ける。先の例ではC社
債権譲渡担保のメリット
債権譲渡担保を設定すると、以下のメリットを享受することができます。
01.スピーディに債権を回収できる
1つめのメリットは、取引先が何らかの事情で不払いを起こした際、すぐに債権回収できることです。
債権譲渡担保を設定していない場合、相手が不払いを起こしたときには内容証明郵便で督促したり訴訟を起こしたりすることで回収を図らなければなりません。これには時間がかかりますしその間に相手が財産を隠してしまったり他の債権者に先を越されたりする可能性もあります。
債権譲渡担保を設定しておけば、相手方との交渉や訴訟をせずとも直接第三債務者へ支払を請求することができますので手早く債権回収を図ることができます。
02.取引先が経営破綻した場合であっても債権を回収できる
企業の経営状態が著しく悪化すると経営破綻して倒産することがあります。倒産した場合、債権の回収がほぼ困難となりますし、破産手続きにおける配当金も雀の涙ほどであることがほとんどです。満足できる金額の回収は望めないでしょう。
他方で債権譲渡担保を設定している場合は、相手の経営状況が悪化した時点で担保権を実行することで第三債務者から債権の回収を図ることができます。
このように相手の経営状況が悪くなったときに債権譲渡担保は大きな威力を発揮する可能性があります。
民法改正による影響
実は昨今の民法改正により債権譲渡担保制度は利用しやすくなりました。改正内容についてみてみましょう。
01.譲渡禁止つき債権を譲渡した場合の効力
債権には譲渡禁止特約をつけることができます。
譲渡禁止特約とは、当事者間で「この債権は譲渡してはならない」とする約束です。譲渡禁止特約つきの債権については相手の承諾なしに勝手に譲渡してはなりません。
旧民法では譲渡禁止特約つき債権を譲渡した場合、債権譲渡は基本的に無効と規定されていました。しかし、債権の流動性を考えるとこのように一律に無効にするのは合理的とはいえません。
そこで改正民法では譲渡禁止特約つきの債権譲渡も「基本的に有効」とされました(民法466条2項)。ただし、譲渡禁止特約について知っている、あるいは知らなかったことについて重過失のある債権者に対しては第三債務者は譲渡禁止特約を主張して履行を拒絶できるとされています(民法466条3項)。
先の例において、B社がC社に対して有する債権に譲渡禁止特約がついていたとします。B社がこの特約を無視してA社へ債権譲渡したとしても債権譲渡自体は有効とされます。ただし、A社が譲渡禁止特約が付いていることを知っていた場合(故意)、譲渡禁止特約が付いていることについて重過失によって気づかなかった場合(重過失)は、C社はA社からの請求を拒絶することができます。
また、C社は誰に支払をすればよいのかわからない場合には法務局に弁済供託することができます(民法466条の2)。
02.将来債権の譲渡の明記
改正民法では、将来債権の譲渡についても明確な規定がおかれました。将来債権譲渡とは債権譲渡契約の時点で発生していない債権を譲渡することです。
一般的な売買取引のケースでは、すでに対象物が存在するケースが大多数です。コンビニエンスストアでサンドウィッチを買う際、サンドウィッチは既に手元に存在してますよね。
債権譲渡担保の場合、『将来』の債権不払いに備えて担保するわけですから譲渡対象も将来の債権となる可能性があります。この「契約時には存在していない」債権を譲渡するのが将来債権譲渡です。
改正前の民法では将来債権譲渡の可否について明確な規定がありませんでしたが、改正民法においては将来債権の譲渡が可能であると明記されました(民法466条の6)。
03.異議をとどめない承諾の廃止
民法改正により第三債務者の異議をとどめない承諾に関する規定が抹消されました。
異議をとどめない承諾とは、「第三債務者が何の抗弁も主張せずに支払い義務を認めると、第三債務者が主張できたはずの抗弁を主張できなくなってしまう」というものです。
先のケースにおいて、C社がB社に対し契約の取消権を有していれば、A社がC社へ債権支払を要求した場合にC社は契約を取り消すことで支払いを免れることができます。ここでC社が何も異議をとどめずにA社に対し支払いますと答えてしまった場合、C社は契約の取消権を行使できなくなってしまいます。この際のC社の承諾を「異議をとどめない承諾」といいます。
異議をとどめない承諾によってC社による抗弁が全面的に切断されてしまうとするとC社にとってはあまりに酷です。そこで改正民法では異議をとどめない承諾による効果が否定されました。すなわち、改正法のもとでは、C社は「抗弁権を放棄します」という明確な意思表示をしない限りはA社に対して取消権を主張することで債権の弁済を免れることができます。
債権譲渡担保の設定方法
債権譲渡担保を設定するときには、以下の流れで進めましょう。
01.譲渡対象の債権を明らかにする
まずは譲渡対象の債権を明確化しましょう。
譲渡対象債権とは債権譲渡担保に入れられる債権のことです。先の例では「B社のC社に対する債権」が譲渡対象債権となります。
譲渡対象が明確でない場合は、債権譲渡担保契約自体が無効となってしまうので注意しましょう。たとえば契約書に「B社の有するすべての債権を譲渡する」などと記載した場合は、「B社のC社に対する債権」を明確に特定できないため、無効になる可能性が高くなります。
特に債権譲渡担保の場合は将来発生する債権を担保にするケースがほとんどです。将来発生する債権を特定することは容易ではありません。以下の内容を指定することで対象を明確にしておきましょう。
- 債権の種類:建築請負代金、運送料金など
- 第三債務者の特定:第三債務者の名称や本店所在地など
- 債権が発生する期間:2021年3月1日~2022年2月28日など
02.被担保債権を明らかにする
被担保債権も明らかにしましょう。
被担保債権とは債権譲渡担保によって担保される債権のことです。先の例では「A社のB社に対する債権」です。
被担保債権もなるべく特定しなければなりません。「A社のB社に対するすべての債権」というような漠然とした特定では債権譲渡契約の効果が認められない可能性があります。債権の種類や発生時期などをできる限り明確にしておきましょう。
03.債権譲渡通知や登記について定める
債権譲渡を行うときには債権譲渡の通知や登記に対する配慮も必要です。
債権譲渡の通知とは、第三債務者に対し「債権譲渡がありました」と通知することです。債権者⇄債務者間で債権譲渡を取り交わしたとしても、これが通知されなければ第三債務者は債権譲渡があったことを知る術がありません。事情が分からない中、突然債権者から請求を受ければ第三債務者は混乱してしまいます。そのため、債権譲渡があったことを第三債務者へ主張するために債権譲渡の通知が必要となります。
債権譲渡の通知者
債権譲渡の通知は債務者が行わなければなりません。先の例では「B社(債務者)」が「C社(第三債務者)」に対し通知しなければならないのです。債権者であるA社が直接C社(第三債務者)に債権譲渡通知を送っても対抗要件としては認められません。債権譲渡があったことをC社に伝えるためには債務者の協力が必要となることに留意してください。
債権譲渡の登記
債権譲渡を登記することによっても債権譲渡の通知と同様の効果が認められます。登記することで債権譲渡が公示されるのであえて通知をしなくても債権者は第三債務者へ債権譲渡を主張できる状態となります。ただ、債権譲渡の登記も債務者の協力が必要となります。
第三債務者に通知をしないとどうなる
「債務者から第三債務者に対し債権譲渡の通知を行なわない」「債権譲渡の登記をしない」場合、債権者(A社)は第三債務者(C社)に対し請求することができません。
実務上の対応
実務上では、債務者は「取引先からの信用を失いたくない」という理由で「債権譲渡通知」に拒否感を示すケースが多数です。他社から債権譲渡担保を設定されるということは経営状況が芳しくないと判断されてもおかしくありません。B社としてはC社には自社の経営状況を知られたくないので、自社から第三債務者に債権譲渡通知を送ることを避けたいという事情があるのです。
このような場合は、債務者の了承を得て債権譲渡登記で対応することを推奨します。
04.債権譲渡契約書を作成する
債権譲渡担保の条件が決まったら、合意内容を債権譲渡契約書にまとめます。
契約書には以下のような内容を記載してください。
- 譲渡対象の債権
- 債権譲渡登記について
- 債権譲渡通知について
- 債権者が自ら債権回収を実行できる条件について
債権譲渡契約書は公正証書の形で作成しておくと安心です。
債権譲渡担保の注意点
債権譲渡担保を設定するときには、以下の点に注意しましょう。
01.譲渡禁止特約に注意
債権には譲渡禁止特約がついているケースが少なくありません。
譲渡禁止特約がついていても債権譲渡は原則有効ですが、譲受人(債権者)が悪意または重過失の場合、第三債務者から支払を拒絶される可能性があります。
譲渡禁止特約を知っている場合はもちろんのこと、少し調べれば譲渡禁止特約の存在がわかる場合にもそういった債権を担保にとってはなりません。債務者と第三債務者との間で締結された契約書の内容を確認し、譲渡禁止特約がついていないかチェックしてから債権譲渡担保の契約を締結しましょう。
02.債権の特定性に注意
債権譲渡担保をとるときには、必ず対象債権が特定されていなければなりません。将来債権だからといってあいまいな記載をしていると、契約自体が無効になるリスクが高まります。
また、契約時点で債権が特定されていないからといって白紙にしておき、後から債権者が好きに記入できるといったこともしてはなりません。後に裁判になった際に無効となる可能性が高くなります。
将来債権をどのように特定すればよいかわからない方は弁護士に相談しましょう。
03.取立権限の消滅を明記
将来債権を担保として譲渡した場合でも債務者がきちんと債権者へ支払いを続ける限りは債権譲渡を実行する必要がありません。債務者自身が第三債務者へ支払を請求して回収することになります。
債務者の経営状況というのは外からはなかなか判断がつきません。場合によっては不払いを起こす寸前の債務者が先に第三債務者から回収してしまい、債権者が権利行使できないというケースもあるかもしれません。
このようなリスクを抑えるため、債務者が不払いを起こした時点で債務者自身の取立権限が失われるといった内容を明確化しておく必要があります。
債権譲渡担保の設定は弁護士へ相談を
債権譲渡担保を設定する際は、法律面からのさまざまな配慮が必要です。自身の判断で条件を決めたり契約書を作成したりしてしまうと後で無効になるリスクもあります。不利益を被ることを避けたいのであれば弁護士に対応を依頼されることを推奨します。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では企業法務に力を入れており、債権回収の支援についても積極的に取り組んでいます。
効率的な債権回収方法をお知りになりたい方はぜひお気軽にご相談ください。