テレビドラマや映画において法廷や刑事裁判のシーンを目にすることがあります。
検察官による真相追及、弁護人による無罪の主張、白熱する討論、相手の主張に対し「異議あり」と横やりを入れる、裁判官が木槌をたたいて場を静かにさせる等・・・。裁判のシーンはその作品において手に汗握る場面となることが多いのではないでしょうか。
とはいえドラマや映画はフィクション作品です。実際の法廷や刑事裁判の流れとは異なっている部分も多々あります。
それでは、実際の法廷の様子や刑事裁判の流れはどのようなものなのでしょうか?今回の記事では法廷内の様子や刑事裁判の流れなどについて刑事事件に強い弁護士が解説します。
法廷内の様子
最初に、刑事裁判が行われる法廷には「何があるのか」「どういう人がいるのか」についてみていきましょう。
01.つくり(席の配置)
法廷のつくりを上からみたものが下記の図となります。
①の傍聴人席には裁判を傍聴する方が座ります。席数はまちまちです。なお、刑事事件はだれでも傍聴することが出来ます。
傍聴人席と法壇等があるスペースを仕切る柵のことをバーと呼びます(②)。なお、司法試験のことを英語で「Bar Exam(バーイグザム)」と言うのですが、このBarは②の柵のことを指しています。
バーの向こうには証言台(③)が置かれ、その左右に弁護人席(④)、検察官席(⑤)が置かれます。弁護人席には被告の弁護人が、検察官席には検察官が着席します。なお、弁護人席、検察官席の配置サイドに決まりはありません。右側が弁護人席であることもあれば左側が弁護人席であることもあります。おもしろいことに同じ裁判所内でも法廷によって左右逆となっていることもあります。
弁護人席と検察官席の見分け方としては、被告人の座るベンチ(⑥)の有無です。被告人が座るベンチのある側の席が弁護人席となります。
証言台の奥には書記官席(⑦)が置かれ、書記官がここに着席します。
書記官席の後方には法壇(⑧)が置かれ、裁判官がここに着席します。法壇は書記官席より一段高い造りとなっています。
02.裁判官はガベル(木槌)を持たない
ドラマなどで法廷内がざわついたりすると裁判官が木槌を叩いて「静粛に」と周りを窘めるシーンがあります。この木槌のことをガベルと言いますが、実際の法壇にはガベルは備え付けられておりません。もちろん裁判官がガベルを持ち歩いていることもありません。
映像作品でよくみるガベルをたたいて「静粛に」と述べる裁判官の一連の行動は現実では見ることはできないのです。
03.法廷内にいる人
刑事裁判の法廷内にいる人は下記の方々です。
- 裁判官
- 書記官
- 検察官
- 弁護人
- 被告人
- (刑務官・警察官)
- (証人)
- (傍聴人)
裁判官、書記官、検察官、弁護人の数は、事件の種類や規模によります。大きい事件であれば複数人となります。他方で1回の期日で完結してしまう裁判の場合は各1名であることがほとんどです。
また、被告人が身体拘束されている場合、被告人は、裁判当日に拘置所や警察署から法廷に連れてこられることとなりますので、刑務官や警察官が同席します。
裁判の流れ
下記の架空の事件についての刑事裁判(一審)の流れを解説します。
【事件の概要】
被告人はXさん(男性、35歳、会社員)
罪名は道路交通法違反(普通乗用自動車によるスピード違反)
Xさんに前科前歴、交通違反歴なし
Xさんは事件後逮捕はされず、在宅で捜査されていた
Xさんはスピード違反をした事実を認めており十分に反省している
Xさんは私選で弁護人を付けた
Xさんは弁護人と十分な打ち合わせを行なったうえで裁判に臨んだ
ここで「え?たかがスピード違反で裁判にかけられるなんてことあるの?」と思われた方が多くいらっしゃるかと思います。
たかがスピード違反だと思って甘く見てはいけません。前科前歴や交通違反歴がなくとも超過した速度やその他の事情次第では正式裁判にかけられることもあり得ます。
自動車運転をする際は、スピードを出し過ぎないようくれぐれも注意しましょう。
01.入室
多くの場合、書記官、検察官、弁護人、被告人が揃った後に、裁判官が法廷に入ってきます。裁判官を起立して迎え礼をします。なお、この動作は傍聴人を含めた法廷にいる全員で行います。
Xさんの事案では、裁判官、書記官、検察官、弁護人はそれぞれ1名ずつでした。また、Xさんは在宅で捜査を受けていたため、裁判当日は刑務官・警察官の同席はありませんでした。
02.人定質問
刑事裁判において最初に行なわれるのは人定質問です。「じんていしつもん」と読みます)。
人定質問は、検察官が起訴した人物と法廷に来ている人物が同じかどうかを確かめるための手続です。
裁判官が被告人であるXさんに対し起訴状が届いているか確認をした後、氏名、生年月日、本籍、住所、職業を確認します。
03.起訴状の朗読
人定質問の後、検察官が起訴状を読み上げます。これは、何が今回の裁判の審理の対象なのかを明確にするための手続です。
「今回の裁判は、Xさんが無免許で車を運転した疑いでも、Xさんが車で人を撥ねた疑いでもなく、あくまでXさんのスピード違反の疑いで裁判にかけたものとなります。そのことについて裁判しましょうね。」ということを説明しているのです。
04.黙秘権等の告知
検察官が起訴状を読み上げた後、裁判官が被告人であるXさんに対し黙秘権等の告知を行います。具体的には「被告人には黙秘権があります。裁判中ずっと黙っていることや個々の質問に対してのみ黙っていることができること、話をした場合には有利不利を問わず証拠になる」といったことを説明します。
05.被告人及び弁護人の被告事件に対する陳述
黙秘権等の告知後、裁判官は、被告人であるXさんとその弁護人に対し、起訴状について何か意見がないか確認をします。
Xさんは弁護人との事前の打ち合わせ通り、「起訴状の記載について間違いありません。」と述べ、弁護人も「被告人と同意見です。公訴事実は争いません。」と述べました。
06.冒頭陳述
次いで検察官による冒頭陳述(ぼうとうちんじゅつ)が行われます。
冒頭陳述は、検察官が証拠により証明すべき事実を明らかにする手続のことです。公訴事実について掘り下げた説明がなされるものとお考えいただければ結構です。
本件でも、冒頭陳述によって、Xさんがスピード違反をした疑いについてより掘り下げた説明がなされました。
07.検察官による証拠調べ請求
冒頭陳述後、検察官は証拠調べ請求を行います。これは、検察官が裁判官に対し、「Xさんがスピード違反をした事実」を立証するために用意した証拠を見るように求める手続です。
08.弁護人の証拠意見
検察官の証拠調べ請求に対し、弁護人は証拠意見を述べます。
これは、検察官が請求した証拠のうち、これは裁判官が見るべきではない、これは見ても構わないという意見を弁護人が裁判官に述べる手続とお考え下さい。
裁判官は、弁護人の証拠意見を踏まえて証拠を採用するか否か(見るかどうか)を決めます。
09.検察官による証拠の要旨の告知
裁判官が採用することを決めた証拠について検察官が説明を行います。
検察官が提出する証拠には「甲1号証、甲2号証…」と番号が振られた甲号証と「乙1号証、乙2号証…」と番号が振られた乙号証があります。
検察官はそれぞれの証拠について主に口頭で説明していき、最後に証拠を裁判官に提出します。
10.弁護人による証拠調べ請求
検察官が証拠の説明を行った後、今度は弁護人が証拠調べ請求を行います。
11.検察官の証拠意見
弁護人の証拠調べ請求に対し、検察官がその証拠意見を述べます。
12.弁護人による証拠の要旨の告知
裁判官が採用することを決めた証拠について、弁護人が証拠の説明を行います。
弁護人が提出する証拠は「弁1号証、弁2号証…」と番号が振られ、弁号証と呼ばれます。
弁護人はそれぞれの証拠について主に口頭で説明していき、最後に証拠を裁判官に提出します。
上記の「07~09」と「10~12」のやり取りは、同じ手続きをサイドを変えてやっております。まるで野球の試合のようですね。
13.被告人質問
弁護人による証拠の提出後、裁判のクライマックスとでも言うべき被告人質問があります。
被告人が裁判官に促されて証言台の前のイスに座り、弁護人、検察官、裁判官の順で質問を受けていきます。
Xさんは、弁護人、検察官、裁判官から、スピード違反をしてしまった理由等を質問され、これに対し適切な回答を行ないました。また、現在は反省していること、再犯防止策等についても述べました。
なお、事案によっては、被告人質問の前に情状証人として被告人の家族にお話をしてもらうこともあります。
14.論告・求刑
被告人質問が終わると、検察官がこの裁判についての意見を述べます。
本件では、検察官はXさんのスピード違反の事実に対し懲役刑が相当であると述べました。
15.弁論・最終陳述
検察官の論告・求刑に対し、弁護人が意見を述べます。本件では、弁護人は懲役刑については執行猶予を付けるべきであると述べました。
弁護人が意見を述べた後、最後に被告人が意見を述べる機会を与えられます。Xさんは「もう二度とスピード違反はしません。」と述べました。
16.判決
判決は、当日に言い渡される場合と当日には言い渡されない場合があります。
当日に言い渡される場合には、弁護人と被告人が意見を述べた後にそのまま言い渡されます。当日には言い渡されない場合には翌週に言い渡されることが多いです。
本件事案では当日中に、執行猶予付き懲役刑の判決が言い渡されました。
17.補足
今回の記事では、刑事裁判の流れをざっくりイメージしてもらうため、1回の期日で完結する架空の裁判を例に挙げて説明をしました。どんな刑事事件であっても基本的な流れは一緒ですが、規模が大きいものや複雑な事案であれば流れが変わることもあることをあらかじめご承知おきください。
ちなみに上記の流れの中において、弁護人が検察官に対して、または検察官が弁護士に対して「異議あり」と相手の主張を遮るような発言をすることはありません。この点もフィクションの世界とは違いますね。
さいごに
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では刑事事件に注力しており、広く刑事弁護事案を受け付けております。
自身やご家族が被告人になってしまい刑事裁判に臨むことになりそうだが対応できるか心配という方は是非一度ご相談ください。