公務員は、国(国家)や地方自治体のもとで、「公共の利益」のために働いております。
その公務員が、「盗撮」や「痴漢」、「万引き」などの刑事事件を起こしてしまった場合、免職となってしまうのでしょうか?
職を失うことになるのかどうかは、犯してしまった犯罪の種類や個別的な事情によって変わってきます。
今回の記事では、公務員が刑事事件を起こした場合のリスク、被る不利益を最小限にとどめるための対処方法を解説します。
1.個人が犯す犯罪の典型例
.jpg)
個人が犯す犯罪の典型例としては以下のものが挙げられます。
- 盗撮
- 痴漢
- 児童買春(18歳未満との援助交際)
- 万引き
- 器物損壊
- 暴行・傷害
こと公務員が上記のような犯罪を起こし立件されてしまったら、内容や状況によっては職を解かれる可能性があります。


と対処方法-320x180.jpg)

2.逮捕された場合
「公務員は、逮捕されたら失職するのではないか?」とお考えになっている方が多いと思われます。
しかし、逮捕されただけでは公務員の職を解かれることはありません。
逮捕された段階ではあくまで「被疑者」であり、罪を犯したと確定はしていないからです。
国家公務員法や地方公務員法においても、『逮捕された時点で懲戒や免職にできる』とは書かれていません。




3.起訴された場合
公務員が逮捕されたのちに起訴されると、「起訴休職」という処分が下される可能性があります。
起訴休職とは、起訴された公務員について、仕事をさせずに休ませる制度です。
起訴休職は、国家公務員、地方公務員を問わず適用されます。また、身柄事件(被疑者が身体を拘束されたうえで取り調べを受ける事件)の場合だけではなく、在宅事件(捜査上必要なときに捜査機関にて取り調べを受ける事件)になったときにも起訴休職処分が行われます。
休職期間は起訴されてから判決が確定する日までです。
3-1.起訴休職中の給料
起訴休職中も一応給料が支払われますが、通常の60%程度に減額されます。
3-2.略式起訴の場合
「略式起訴」となった場合には、起訴休職処分は行われません。
略式起訴とは、書類上のみで審理する刑事裁判手続きです。
100万円以下の罰金刑や科料の刑が適用されるケースで本人が罪を認めており略式起訴に同意していれば、略式起訴が行われる可能性があります。
略式起訴の場合、自宅宛てに起訴状や罰金の納付書が届きます。この支払いをすれば刑罰は終了したこととなります。
ただし、略式起訴であっても有罪には変わりなく、「前科」はつくこととなるので注意しましょう。
4.有罪判決が出たら職を失う?
刑事裁判が進み「有罪」の判決が出た場合、公務員はその職を解かれる可能性があります。
4-1.刑罰の種類
日本の刑罰は、下記の6種類に分けられます。数字が小さいほど重い刑罰となります。
- 死刑:生命を奪う刑罰
- 懲役:刑務所に拘置され刑務作業を強制される刑罰
- 禁錮:刑務所に拘置される刑罰
- 拘留:拘留所に最長29日まで拘置される刑罰
- 罰金:1万円以上の金額を国庫に納付させる刑罰
- 科料:1万円未満の金額を国庫に納付させる刑罰
4-2.禁錮以上の刑罰の場合
公務員の職につくには、一定の資格を満たさねばなりません。在職中でも要件を満たさなくなると資格を失うため、当然に失職します。不服申立てもできません。
国家公務員法でも地方公務員法でも「禁錮刑以上の刑に処せられたもの」は欠格事由とされています。
従って、公務員に「禁錮刑(③)」や「懲役刑(②)」が下されると、当然に資格を喪失する(職を失う)こととなります。
実刑となった場合、刑期の終了まで公務員になることはできません。執行猶予付き判決が出た場合であっても、執行猶予期間が終了するまでの間はその資格を失います。
地方公務員の場合、都道府県によって異なる可能性がある
なお、地方公務員の場合は、都道府県によって失職要件が異なることがあるので、失職せずに済む可能性があります。
たとえば東京都の場合、「過失かつ執行猶予付き判決」であれば資格を失いません。東京都の職員が、人身事故で過失運転致傷罪、器物損壊罪となった場合には失職しない可能性があります。
4-3.拘留未満の刑罰の場合
「禁錮刑以上の刑に処せられたもの」は欠格事由とされることから、「禁錮未満の刑に処せられた場合」は欠格事由には該当しません。すなわち、有罪判決を受けたとしても「拘留(④)」「罰金(⑤)」「科料(⑥)」であれば、欠格事由を満たさないので公務員資格を失うことはありません。
ただし、欠格事由を満たさないケースであっても「懲戒処分」によって免職される可能性は残ります。
4-4.禁錮刑や懲役刑になる犯罪
以下のような犯罪を犯すと、禁錮刑や懲役刑が下される可能性があります。
- 盗撮
- 痴漢
- 窃盗(万引きなど)
- 暴行・傷害
- 名誉毀損
- 器物損壊
- 人身事故
- 強制わいせつ
なお、上述した犯罪の中には「罰金刑も存在する」ものが多数含まれています。
たとえば盗撮や痴漢、窃盗、名誉毀損、交通事故などは罰金刑が選択される可能性のある犯罪類型です。
このような犯罪で逮捕された場合において、資格喪失による当然失職を避けるのであれば罰金刑を目指す必要があります。
4-5.懲戒される場合
公務員の場合、資格喪失によって失職とはならなくとも「懲戒処分」によって免職される可能性があります。
懲戒処分とは、非行のある公務員に罰を与える制度です。非行の内容や程度により、以下の4つの処分から選択されます。
- 戒告
- 減給
- 停職
- 免職
「戒告」は、将来を戒めるために行なわれる厳重注意のことです。懲戒処分の中ではもっとも軽い類型です。給料や職務内容等に対する実際の影響はありません。
「減給」は、一定期間基本給が減額される処分です。
「停職」は、一定期間出勤停止となって仕事ができなくなる処分です。停職期間中は、給与の支給はなされません。
「免職」は、職を解かれる処分であり、懲戒処分の中ではもっとも重いものとなります。
上述した資格欠格事由を満たさない場合であっても、懲戒処分で「免職」にされてしまうと職を失うこととなります。
4-6.公務員が懲戒免職されやすい犯罪
公務員が懲戒免職とされやすい犯罪類型としては、以下のものが挙げられます。
- 公文書偽造、変造、虚偽公文書作成
- 談合への関与
- 強制わいせつ罪(セクハラなど)
- 公金横領
- 詐欺・窃盗・恐喝
- 放火・殺人・強盗などの重大犯罪
- 淫行
- 薬物犯罪
- 飲酒運転(事故を起こさなくても免職の可能性があります)
- 飲酒運転で人身事故
- 飲酒運転の同乗
- 飲酒運転で事故を起こしひき逃げ
懲戒免職されにくい犯罪
暴行や傷害、遺失物横領や賭博、通常の人身事故などの犯罪であれば、免職とはされないケースが多いようです。
4-7.公務員が職を失う条件
上記の内容をまとめると、公務員が刑事事件で逮捕されたことにより職を失うケースとしては以下の2パターンとなります。
①通常裁判で有罪判決となり、懲役刑または禁錮刑が科された場合(公務員資格を失う当然失職)
②懲戒処分として「免職」処分が行われた場合

5.逮捕された事実は職場に知られてしまう?
こと公務員においては、逮捕された事実が職場に知られてしまうと、懲戒処分が行われるリスクが高まります。
では、刑事事件となった場合、その事実は職場に知られてしまうのでしょうか?
5-1.職務と関係する犯罪の場合
収賄罪、公金横領、虚偽公文書作成罪など、職務に関係する犯罪であれば職場に知られるケースがほとんどでしょう。
職場で度を超えたセクハラ行為を行い同僚や部下に訴えられた場合も職場に知られやすいと考えてよいでしょう。
5-2.逮捕勾留された場合
痴漢や盗撮、交通事故などの私的な犯罪であれば、報道されない限りは、職場の人間が知る由はありません。
しかし、逮捕後の身柄拘束が長引いてしまうと、長期に渡って出勤できなくなることから理由の説明をする必要が生じます。
うまく弁解弁明できなければ、刑事事件を知られるのはやむをえないでしょう。
5-3.マスコミ報道されると知られる
公務員が逮捕された場合、一般人の事例よりもマスコミ報道される可能性が高くなります。
そうなったら職場に知られるのは避けられないでしょう。
5-4.職場に知られにくいケース
以下のような場合であれば、公務員が逮捕されても職場に知られにくいと考えられます。
- プライベートな犯罪であった
- 在宅捜査となった
- マスコミ報道が一切なされなかった
- 早期に示談が成立し、不起訴になった
万引きや暴行、盗撮などを行って逮捕されたとしても、すぐに被害者と示談を成立させ、早期に身柄を解放してもらい不起訴になれば、職場に知られず穏便に解決できる可能性が高くなります。
この場合、前科もつきませんし、もちろん職を失う危険も発生しません。
6.失職した後に再度公務員になれる?
公務員が当選失職や懲戒免職によって職を解かれた場合、再度公務員になることはできるのでしょうか?
制度上は「可能」といえます。禁錮刑や懲役刑となっても「執行猶予期間の満了」「刑の執行の終了」をもって公務員になる資格を取り戻すことになるからです。
しかし公務員になるには、国や自治体に「採用」されなければなりません。
再就職であれば年齢も高いでしょうし、前科があって免職された経緯があると、採用されるのは困難でしょう。
不可能ではありませんが、事実上、再度公務員になるのは難しいといえるでしょう。
7.公務員が逮捕された場合の対処方法
公務員が刑事事件を犯してしまったら、どのように対応すればよいのでしょうか?
7-1.被害者がいる犯罪
被害者のいる犯罪であれば、一刻も早く示談を成立させましょう。
示談が成立すると、刑事事件において非常に良い情状として斟酌してもらえるからです。
逮捕前であれば逮捕される可能性が低くなり、職場に知られたり懲戒されたりするリスクも大きく低下します。
被害者と示談するときには「本件について一切口外しない」と約束してもらうこともできます。
また逮捕された後であっても、被害者との示談が成立したら検察官が「不起訴」にしてくれる可能性が高まります。
不起訴処分になれば有罪判決が出ないので、資格喪失による当然失職となるリスクはありません。前科がつかない分、懲戒免職される可能性も低くなるでしょう。
7-2.被害者のいない犯罪
被害者のいない犯罪で逮捕されたら、できるだけ早期の身柄開放を目指すべきです。
家族に身元引受書を書いてもらい、本人が普段真面目に働いている公務員であって逃亡や証拠隠滅のおそれもないことを示し、勾留請求しないようにはたらきかけましょう。
勾留されなければこれまで通り出勤できるので、職場に犯罪を知られる可能性が低下します。
次に、不起訴を目指して活動しましょう。不起訴になったら前科はつかず、当然失職の可能性がなくなるからです。
不起訴処分にしてもらうには、被疑者にとって良い情状を示さねばなりません。反省文を書いたり普段はまじめにはたらいていること、初犯であり再犯可能性が極めて低いことなどを示したりして、検察官へ説得的にはたらきかけましょう。
7-3.職場への対応
公務員が逮捕されたら、職場への対応についても考えておかねばなりません。
特に勾留請求されて身柄拘束が続く場合、職場への説明方法に工夫が必要です。
刑事事件を知られないのが一番よいのですが、知られるとしても予断や偏見を与えないようにしなければなりません。勾留されただけであれば、まだ有罪判決になったわけではないためです。
弁護士に依頼すれば職場との連絡も弁護士が代理でできるので、ご家族やご本人への負担が軽くなります。
逮捕されて職場に知られたくない公務員の方はお早めに弁護士までご相談ください。
7-4.刑事弁護人を選任する
公務員が刑事事件の被疑者となったら、早期に弁護士に依頼して刑事弁護人を選任するようお勧めします。
できれば「逮捕前」に相談しましょう。
逮捕前に依頼するメリット
痴漢や援助交際など被害者がいるケースでは、逮捕前に弁護士に依頼して、代理人として被害者と示談交渉すれば、逮捕を避けやすくなります。
弁護士が間に入れば被害者も冷静に対処しやすいので、ご自身で対応するより効果的で安心です。
示談が成立すれば被害届や刑事告訴状を提出される危険はなくなりますし「一切口外しない」という約束をして職場に知られず穏便に解決することも可能となります。
逮捕後に依頼するメリット
逮捕後は、ご本人が動けないのでさらに弁護士に依頼する必要性が高まります。放っておくと起訴されて有罪判決が出てしまう可能性もあるので、早期に刑事弁護人を選任しましょう。
被害者のいない犯罪でも弁護士がつけば、本人にとって良い情状を集めて検察官へ勾留請求しないように申し入れたり不起訴にするよう意見書を提出したりできます。
公務員の方が盗撮や痴漢、暴行などの犯罪行為をしてしまったときには、リスクを最小限に抑えるためにお早めにご相談ください。


