痴漢や盗撮、児童買春などの性犯罪で逮捕された場合、適切に対応しないと有罪判決が出て不利益が大きくなってしまいます。
「自分はこのような行為をしないから」と安心していても、夫や息子といった家族が犯罪行為を行ない逮捕されてしまうこともあります。
刑事事件の流れや正しい対処方法を押さえておきましょう。
今回の記事では、痴漢や援助交際、児童ポルノなどで逮捕された際の不利益を小さくする方法について解説します。
性犯罪で成立する犯罪と罰則
ひとことで「性犯罪」といってもその種類は様々です。まずは主な性犯罪をみていきましょ。
01.痴漢
痴漢とは、電車やバスなどの乗り物の中、広場、イベント会場などで他人の身体を衣服の上から直接触るといった行為による犯罪です。多くの場合、迷惑防止条例違反にあたります。
実は迷惑防止条例違反の刑罰は、各自治体が定めており一律ではありません。東京都の場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金刑と定められております。常習の場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑に加重されます。
また、痴漢行為が著しく悪質な場合には、強制わいせつ罪が成立する可能性があります。被害者の下着の中に直接手を入れて性器を触り続けたケースや暴行脅迫によって痴漢行為をしたケースでは強制わいせつ罪が成立する可能性が高いです。
強制わいせつ罪の刑罰は「6ヶ月以上10年以下の懲役刑」であり、罰金刑はありません(刑法176条)。
02.盗撮
盗撮とは、エレベーターやエスカレーターなどの場所で女性のスカートの下にスマホカメラを差し入れて撮影する、女子トイレや更衣室にカメラを仕掛けるといった行為による犯罪です。
各自治体の定める迷惑防止条例違反にあたります。刑罰は自治体によって異なっており、東京都の場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑となっています。
また、他人の家の風呂場やトイレ、更衣室などをのぞき見した場合は、軽犯罪法違反になります。刑罰は拘留または科料です。
盗撮目的で他人の住居に侵入した場合は、建造物侵入罪も成立します。刑罰は3年以下の懲役または10万円以下の罰金刑です。
03.強制わいせつ
強制わいせつとは、暴行や脅迫によって被害者にわいせつな行為を強要することです。たとえば服を脱がせて身体を触ったり抱きついて押し倒したり無理矢理キスをしたりすると強制わいせつにあたります。
強制わいせつ罪の刑罰は6ヶ月以上10年以下の懲役刑であり、初犯でも実刑になる可能性があります。
04.強制性交等罪
むかしは強姦罪と呼ばれていた犯罪です。
暴行や脅迫によって相手の反抗を抑圧し、被害者を無理矢理レイプすると、強制性交等罪が成立します。被害者は男性か女性かを問いませんし、肛門性交や口腔性交などであっても強制性交等罪になります。
刑罰は5年以上の有期懲役刑であり(刑法177条)、執行猶予がつく可能性が極めて低い重罪です。
05.児童買春
児童買春は、18歳未満の児童に対価を渡して性交や性交類似行為をする犯罪です。援助交際の相手が18歳未満だった場合、児童買春罪が成立する可能性が高いと考えましょう。
児童買春罪の刑罰は5年以下の懲役または300万円以下の罰金刑です。
06.青少年健全育成条例違反
児童を相手に性交や性交類似行為を行なった場合は、対価を渡さなくても犯罪が成立します。
まじめに交際しているつもりでも、相手が18歳未満の場合には犯罪になってしまうので注意しましょう。
刑罰は2年以下の懲役または100万円以下の罰金刑です(東京都の場合)。
07.児童ポルノ製造、所持
児童ポルノとは、簡単にいうと18歳未満の児童のわいせつな写真や動画です。裸の児童、性交をしているときの様子、性器を触らせている様子などを撮影したり、写真や動画を保存していたりすると児童ポルノに関連する罪に問われることとなります。
児童ポルノを製造したり提供したりすると3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑、児童ポルノを所持しているだけでも1年以下の懲役刑または100万円以下の罰金刑となります。
刑事事件の流れ
警察などの捜査機関に刑事事件が発覚すると、刑事事件として立件されて捜査が進められます。
刑事事件の一般的な流れを見てみましょう。
01.現行犯逮捕
痴漢や盗撮などの性犯罪加害者は、現行犯逮捕されるケースが多数です。よくあるのは電車やエスカレーターなど公共の場所で犯罪行為をしているときに通報されるパターンです。
02.被害者からの告訴・被害届
現行犯逮捕されなかったとしても、被害者からの被害届や告訴、家族からの告発などによって発覚するケースがよくあります。
03.捜査開始
警察に被害申告があると、捜査が開始されます。警察が被疑者を特定し、証拠が集められます。
04.任意の事情聴取
被疑者が犯罪を犯した可能性が濃厚になると、警察が被疑者を呼び出して任意の取り調べを行うケースがあります。
なお、任意取り調べは拒絶することもできますが、拒否し続けていると「逃亡、証拠隠滅のおそれ」があるとして逮捕されるリスクが高くなります。
05.逮捕、勾留
重大犯罪ですぐにでも逮捕する必要がある場合、被疑者が逃亡や証拠隠滅のおそれが高い場合などには逮捕されます。逮捕されると48時間以内に検察官のもとへ身柄が送られます。
その後、検察官の判断によって24時間以内に勾留されます。勾留されなかった場合には逮捕後72時間以内に釈放されます。
06.身柄拘束されながら取り調べ
勾留された場合には、警察の留置場で身柄拘束されながら取り調べを受けることとなります。取り調べにおいて話した内容(供述)は、後日の処分内容に大きな影響を与えますので慎重に対応しましょう。
07.身柄拘束されない場合
勾留されなかった場合は、在宅のまま捜査が進められます。この場合、捜査が一定段階に達すると検察庁から呼出を受け検事調べが行われます。
08.起訴、不起訴の決定
勾留期間が満期になったら、検察官が起訴か不起訴かを決定します。
起訴された場合は刑事裁判となります。不起訴となった場合はそのまま釈放されます。
在宅捜査の場合には、検事調べが終了したあと速やかに処分決定が行われます。
09.刑事裁判
刑事裁判になった場合は、裁判官によって裁かれます。
略式起訴の場合には書面上の簡単な審理となるので裁判所に行く必要はありません。科せられた罰金や科料の刑罰を支払えば手続きが完了します。なお、この場合であっても、罰金や科料という刑罰が科されている以上、前科はつきます。
正式裁判の場合には複数回裁判所へ出向き、察官や裁判所からの質問に答えるなど、対応しなければなりません。刑事弁護人と相談しながら不利益を最小限にとどめるための適切な対処をしましょう。
10.判決言い渡し
刑事裁判が終わると判決が言い渡されます。有罪判決が出た場合は、刑罰を受けなければなりません。刑罰を科せられた以上前科もつきます。
無罪判決の場合にはそのまま釈放されます。
逮捕前の対処方法
性犯罪を行なってしまった場合、逮捕前であれば以下の対処をしましょう。
01.被害者と示談する
性犯罪での処分を軽くするためには、被害者との示談が必須です。
相手にきちんと賠償金を支払い、「被害届の提出や刑事告訴をしない」と約束してもらうことができれば刑事事件にせずに解決できます。このように逮捕前に示談できていれば逮捕を避けられるので早期に示談交渉を進めましょう。
02.反省の態度を示す
捜査が開始されてしまった場合は、逮捕されて身体拘束されることを回避することに注力しましょう。悪質な犯人と思われないよう真摯に反省の態度を示しましょう。
03.任意取り調べには協力する
警察から任意の取り調べを求められたときには、なるべく協力しましょう。あくまで任意なので断ることはできますが、断り続けると逮捕の理由にされてしまうおそれがあるからです。
なお、日程調整はそこまで問題視はされません。急な用事、外せない用事があるのであれば、合理的な根拠を示して日程調整を打診しましょう。
逮捕された場合の対処方法
逮捕されてしまったら以下の対応をとりましょう。
01.被害者との示談を進める
逮捕された場合でも被害者との示談が重要です。特に不起訴処分を獲得するためには勾留満期前に示談を成立する必要性があります。
とはいえ逮捕されている状態で示談交渉を進めることは大変です。また、被害者としては、加害者本人またはその家族とやり取り(交渉)するのは精神的にきついので、そもそも交渉すらできない可能性もあります。この点、弁護士であれば被害者も対応してくれることがほとんどです。
早期の示談を希望される場合には、早めに弁護士に刑事弁護を依頼し示談交渉を進めてもらいましょう。
02.虚偽の自白をしない
勾留時の取り調べにおいて虚偽の自白をしないことも大切です。
捜査官側からストーリーを押しつけられて「このとおりだったのだろう」などと迫られ、供述調書への署名指印を求められることも往々にしてあります。真実とは異なる供述調書を作成してしまったら、後に大きく不利になってしまいます。
事実にそぐわない内容、同意できない・納得できない内容であれば、供述調書に署名指印してはいけません。
03.不起訴獲得を目指す
逮捕された場合は、不起訴処分の獲得が最重要です。不起訴となればすぐに身柄を解放してもらえますし前科もつきません。
早急に被害者との示談交渉を進めるとともに、反省の態度を示し、家族に身元引受書、誓約書などを書いてもらいましょう。刑事弁護人が作成した不起訴申入書も有効に働く可能性があります。
04.弁護人を選任する
逮捕されたとき、被疑者をサポートできるのは刑事弁護人のみといっても過言ではありません。刑事弁護人を通じて被害者と示談交渉を進めることや、家族や会社との連絡を行なうことが事態の解決に必須です。
刑事弁護に積極的に取り組んでいる弁護士を探して接見を依頼しましょう。
被害者と示談するときの注意点
01.交渉にデリカシーが必要
性犯罪の場合、一般的な案件よりも示談交渉にデリカシーが求められます。性犯罪の性質上、被害者は加害者に対して強い拒絶感情を抱いているケースが多いためです。
特に未成年が被害者である場合、その親が示談交渉の相手となります。示談の持ちかけ方によっては完全に拒絶されてしまう可能性もあるので、当初の段階から心証を害さないように慎重に対応する必要があるといえます。
02.相手方を特定しにくい
電車内での痴漢、不特定の相手を対象とした盗撮行為の場合、被害者の名前や連絡先がわからないケースも少なくありません。連絡先が分からないのであれば示談交渉をすることすらできません。
03.弁護士に任せるのがベスト
性犯罪の刑事弁護に慣れている弁護士であれば、相手の気持ちに配慮して適切な方法で示談交渉を進められます。また、捜査が開始されている場合には、弁護士が検察官に照会することで被害者の連絡先を教えてもらえる可能性もあります。
被害者と示談交渉を有利に進めたい、示談成立の可能性を少しでも上げたいということであれば、弁護士に対応を一任するのがベストといえます。
勤務先への対処方法
01.逮捕されたことによるリスク
逮捕された場合、長めの身体拘束が続き、外部との連絡も取れなくなってしまいます。これにより勤務先との関係でリスクが生じる可能性があります。
逮捕されただけでは解雇されることはありませんが、無断での長期欠勤が続いてしまえば解雇の可能性は高まります。また、性犯罪を犯してことを勤務先に知られてしまえば不利益を受けてしまうことも想定されます。
02.弁護士に対処を任せるのがベスト
刑事弁護人をつければ、勤務先に対して対して必要な範囲で適切な説明が可能となりますし、安易に解雇しないよう牽制することも可能です。また、早期に不起訴処分を獲得できれば、また元のように出社できるので不利益を受けずに済むでしょう。
会社での対応が心配な方も、できるだけ早めに弁護士に相談するようお勧めします。
さいごに
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、痴漢、盗撮、強制わいせつといった性犯罪の刑事弁護に力を入れております。本人からだけではなくご家族からの問合せも広く受け付けております。逮捕による不利益を避けたい方はお早めにご相談ください。