1 はじめに

痴漢をしてしまった・・・
その場で連行されてしまい、どうしたら良いか分からず容疑を認めてしまった・・・
逮捕されるのか?
示談にするにはどうしたらいいの?
この後のながれが全然わからない・・・
会社にはバレないか?
家族には??
一番良い解決策はなんなのか。
過去を変えることはできません。
現実に向きあい、最善の方法で解決して行くしかありません。
そこで、今回は逮捕後から示談や起訴になるまでの流れや、実際の具体例、相場などをまとめました。


2 示談とは?

示談とは、お互いが抱える問題や対立について、一定の決着をつけるようお互いが同意することです。対立している人たちの間に法律の専門家が入って示談をした場合、示談書という書類を作成することが多いです。
刑事事件の示談は、加害者と被害者の間で示談をすることになり、示談の内容によっては刑事裁判にならないこともあるので、どういった示談をできるかはとても重要です。
(1)示談のながれ
あなたが痴漢してしまった場合、被害者の方と示談したいという連絡を取るのに、少し時間がかかる場合があります。大抵の場合、痴漢をしてしまった当初は、被害者の方の連絡先を知らない状況だからです。
そういった状況で示談のお願いをすることになりますので、まず捜査を担当している警察の方に対して、示談のお願いをしたいので被害者の連絡先を教えてほしい、あるいは示談の条件などがあれば聞き取ってほしい、という連絡をします。
警察や第三者を通じて被害者の方の反応を知ってから交渉が始まり、合意に至ればそこで示談成立となります。
したがって、
- まず相手と連絡がつくようにして
・相手の連絡先を聞く
・相手に連絡先を教える
・警察や第三者に連絡してもらう - 謝罪し、示談したいことを伝えてから
- 示談金の額や支払い方法など示談条件の交渉を経て
- 合意に至れば示談成立
というながれになります。
(2)穏便に示談するためには
示談が成立するにはお互いの合意が必要です。痴漢の場合、条例などで定められている罰金額が示談金の相場とされることが多く、そこに個別の事情が加わって金額が上下することが考えられます。
示談金のほかに示談を成立させるために必要なことは、当然のことではありますが誠実で丁寧な応対をすることと、心を込めて謝罪することです。すでにしてしまったことをなかったことにすることはできませんが、誠実な対応が重要であると言えるでしょう。
(3)示談が成立した例

①30代男性が、深夜に泥酔したまま電車に乗り、電車内で痴漢してしまった・・・
逮捕された後にすぐに弁護士に依頼しました。その後、逮捕後の勾留手続に入り、弁護士が男性との面会を続けながら、被害者の方への連絡を試みました。
被害者の方と交渉を重ねた結果、示談が成立し、男性は不起訴となり釈放されました。
かかった弁護士費用 約50万円
②40代男性が、深夜に泥酔したまま駅の改札を出た後、痴漢してしまった・・・
逮捕後、翌日に警察署で弁護士に依頼しました。勾留手続に入る前に、弁護士が裁判所や検察庁に対して、勾留しないよう意見書を提出したところ、勾留されませんでした。
当初、被害者の方は示談に難色を示しておられましたが、弁護士が男性の謝罪文や反省している状況などをお伝えし交渉したところ、最終的に示談が成立し男性は不起訴処分になりました。
かかった弁護士費用 約60万円
③30代男性が、深夜から翌朝にかけて飲酒を続け泥酔し、翌朝の電車内で痴漢してしまった・・・
逮捕後、当番弁護士制度を利用して弁護士に依頼しました。
幸い、被害者の方とすぐに連絡をとることができ、示談も成立しました。
勾留手続に進むことなく不起訴処分となり、迅速な社会復帰を果たしました。
かかった弁護士費用 約50万円
④30代男性が朝の満員電車内で痴漢してしまった事案・・・
逮捕はされず、身柄が拘束されていない状態で捜査が続きました。
翌日に弁護士に依頼し、弁護士が被害者の方との示談交渉を開始しました。
本人が反省している状況や今後のことなどについても真摯にお伝えしたところ、無事に示談が成立しました。
もともと逮捕されていない事案だったので、会社などに発覚することもなく速やかな社会復帰を果たしました。
かかった弁護士費用 約60万円

3 示談できなかった場合

(1)具体的なながれ
痴漢をしてしまった人が逮捕された場合は、概ね二日間、現場近くの警察署内にある留置施設で拘束され、警察関係者以外と連絡を取ることが基本的にできなくなります。
2、3日中に裁判所に連れていかれ、その時点で拘束が解かれるのか、身柄の拘束が続くのかが決定されます。
つまり、現在の法律では、逮捕された時点から最長で二十三日の間、警察署の中での生活を強いられる可能性があります。
逮捕の前後で弁護士に依頼することによって、拘束期間が二、三日で終わることもあり、最も長い期間拘束されることを避けられることがありますが、この点は個別の事案によります。

なお、身体拘束されていたとしてもされていなかったとしても、刑事裁判にかけられた場合、一つの事件が終わるまでには数か月かかる場合があります。
痴漢して示談が成立しなかった場合のながれは、以下の通りです。
- 不起訴処分(前科なし)
- 略式起訴(罰金数十万円程度、前科あり)
- 即決裁判(有罪と懲役の執行猶予確定、前科あり)
- 公判請求(有罪無罪及び刑の重さを争う)の4通りの処分や手続が考えられます。
それでは、それぞれの流れを見てみましょう。
Ⅰ 不起訴処分
不起訴処分には次の3種類があります。
- 嫌疑なし(犯罪をしたという疑いがほぼ晴れた)
- 嫌疑不十分(犯罪をした疑いはあるが、裁判において有罪と認められない程度だった)
- 起訴猶予(示談成立など、なんらかの理由があり起訴するのが相当でない)
不起訴処分になると、罰金等の刑事処分が下されていないので前科はつきません。
この処分の場合、身体を拘束されていた場合は不起訴になったという連絡とその理由が告知され、身体拘束が解かれます。
身体拘束をされていなかった場合、不起訴処分が確定したことの連絡は来ないことが圧倒的に多いので、担当の検察官に確認するか不起訴処分告知書の交付を申請するのがよいと思います。
この処分では、刑事手続のながれで罰金を納めたりすることはなくなります。
Ⅱ 略式起訴
正式な裁判を受けないことなどについて同意することで、数十万円程度の罰金を支払って手続が終了します。前科がつきますが、略式起訴の条件を満たさず、この手続にならない場合があります。
略式起訴の条件は、
- 刑事罰が100万円以下の罰金(1万円以上)または科料(千円以上1万円より下)であること
- 刑事事件を扱う裁判所が簡易裁判所であること
- 罪を犯した、と疑われている人の同意
上記の3つです。また、検察官が請求しなければそもそもこの手続に進むことはありません。
Ⅲ 即決裁判
一定の要件を満たすことで、正式な裁判を非常に短い期間で終えることができます。
通常の刑事裁判で、起訴されてから一月程度で終了する事案はあまりありませんが、即決裁判の場合、たいてい起訴されてから一月前後で終了します。
即決裁判では、確実に執行猶予の懲役刑がつき、他の通常の刑事裁判よりも非常に早く終結するため、この点は公判請求と比較した際の利点です。
Ⅳ 公判請求
公判請求されると、即決裁判の場合と同様に、警察署の留置施設で身体拘束を受け続けていた人は身体拘束が継続されます。
留置施設に拘束されていた人が刑事裁判にかけられた場合、起訴された日を基準に2か月間の身体拘束が始まり、この期間は延長され続ける場合があります。
(2)事例

①20代男性が、電車内で痴漢してしまった事案
逮捕後、男性が直接被害者の方との示談を試みましたが、連絡先を教えてもらうことはできませんでした。男性の親族が示談のために連絡を試みましたが、同様に連絡先を教えてもらうことができず、最終的に略式起訴になりました。
結果:罰金30万円
②30代男性が、電車内で痴漢してしまった事案
逮捕後、被害者の方の連絡先を教えてもらうことはできましたが、示談交渉が決裂しました。男性以外の第三者が交渉を試みたものの示談できず、略式起訴されました。
結果:罰金30万円
③40代男性が電車内で痴漢してしまった事案
逮捕後、弁護士に依頼しました。被害者の方の連絡先を教えていただくことはできましたが、示談の交渉は難航し正式な刑事裁判が起こされました。
結果として、裁判中も示談を成立させることはできず有罪判決を受けました。
結果:懲役6か月、執行猶予4年
上記は一例ですが、正式な刑事裁判では、案件によって進行速度が大きく異なります。
逮捕されてから最初の判決が出るまで身体拘束が続くのは、実生活への影響が非常に大きいので、可能な限り早く弁護士を付けて身体拘束が解かれるよう行動するのがよいと思います。
4 周りの人に知られたくない!

(1)仕事関係の人に知られるリスク
痴漢の場合、まず警察署の中から一時的に出られなくなる場合と、そうでない場合が考えられます。
警察の取り調べに応じて、痴漢したことを認めている場合は、一時的に警察署から出られなくなったとしても、早い場合にはその日のうちに、そうでない場合でも2~3日の間に警察署から出られることがあります。
つまり、痴漢をしてしまった日から数えて最短でその日、それ以外の場合は2~3日以上は会社などとの連絡を取ることが難しくなります。
2~3日経ってもなお警察署から出られない、という事例も十分に考えられます。
いずれにせよ警察署から出られず、外部と自由に連絡をとることができない状況が続けば続くほど、仕事関係の人に痴漢してしまったことを知られるリスクは高まっていきます。
なお、警察の運用としては、逮捕した人や捜査中の人が会社勤めだった場合に、勤務先に「痴漢の容疑で逮捕しました」と必ず連絡するというわけではないようですが、会社の方から捜索願が出されるなどした場合、警察が事情を会社の方に説明する可能性はあります。
(2)社会復帰はできるのか? 親族が取るべき行動は?
上記のいずれの場合でも、捜索願を出されたりする前に、警察の方にお願いするか弁護士に依頼するなどして、先回りして「逮捕されましたが無事です」「訳あって複数日連絡取れません」などの連絡を入れるなど、様々な対応が考えられます。最終的には、その人の判断になります。
痴漢してしまった人の親族の方は、被害者の方に対して誠実に対応するのは当然として、
痴漢してしまった本人と意思疎通をすることが重要です。
親族が代理として示談の交渉をするのか、弁護士を探すのか、会社などへの連絡はどうするのか、といったことを決めることも、本人の今後に大きくかかわってきます。

5 取るべき行動

(1)まずすべきこと
痴漢してしまったときにまずすべきことは、先ほど述べた通り、被害者の方への連絡手段を確保することです。
直接連絡することができるようになる場合は稀ですが、どういった経路にせよ、誠実に向き合い、真摯に反省し、心を込めて謝罪することが重要です。
(2)これだけは絶対にやめよう
絶対にやめてほしいのは、現場から逃げることや、なおざりな態度で被害者に接することです。
また、会社に逮捕されたことが知られたとしても、その後に社会復帰を果たす場合もあるので、簡単に諦めたり、自暴自棄にならないことが重要です。
例えば、電車に乗っていて痴漢してしまった場合に、線路上に逃亡したりすると、法的にも社会的にも立場が一気に悪くなりますので、そういったことのないようにしましょう。
(3)弁護士に依頼するメリットデメリット
メリット
- 刑事弁護の専門家に依頼することで、精神的な負担が軽くなる
- 刑事弁護の知識があるので、利益を確保しやすい
- 本人や親族よりも、被害者の連絡先を教えてもらえる確率が高く、示談を試みるうえで有益
デメリット
- 依頼するための金銭が必要になる
(4)弁護士に依頼しない場合のメリットデメリット
メリット
- 弁護士費用の負担がない
デメリット
- 依頼していれば得られたであろう利益を失う可能性がある
- 被害者の方と直接交渉するか、親族などに交渉を依頼しなければならず、
精神的負担がある

6 弁護士の費用と選び方

今現在、弁護士費用は一律にこうでなければならない、という決まりはありません。その中で、特に刑事事件の弁護活動費用の相場としては、着手金という事件を担当し始めたときに一括で払うお金と、(成功)報酬金という、事件が終わった場合や何らかの活動に成功した場合のお金の、大きく2つにわかれています。
着手金も報酬金も事件の内容によって大きく金額がかわりますが、特に痴漢の場合は、着手金で30万円程度から、報酬金で30万円程度からの報酬を定める弁護士が多いと思います。
弁護士の選び方としておすすめしたい方針は、
- ここぞというときに素早く対応してくれること
- 事件の報告がこまめであること
- 依頼者の質問にすぐ答えられること
- 刑事手続をよく知っていること
この4つと、やはり複数回会って何度もやりとりすることになるので - 依頼者から見て気が合うか合わないか
この部分が最も重要です。
7 おわりに
痴漢事件の示談のながれや各費用の相場観については上記のとおりとなります。個別の事案によって事情が異なる場合もありますが、被害者の方との示談成立が重要であることには違いありません。
過去を変えることはできませんが、どう償うかが未来を変えることはあります。自暴自棄になることなく、被害者の方に対して誠実に向き合いましょう。

