毎日を真面目に過ごしていても、ついつい暴行を振るってしまうことがあります。
たとえば、飲み会の席で酔った勢いで他の客を殴ってしまうこともありますし、通行人に絡んでしまうこともあるかもしれません。歩きスマホの若者を注意したところ、思わぬ反撃をされて、カッとして、殴ってしまうこともあるでしょう。
このように、暴行事件、傷害事件を起こしてしまったとき、刑事裁判を避けて前科をつけないため、会社を首にならないためには、どのように対処するのが良いのでしょうか?
今回は、
「ついカッとなって…」
「そんなつもりじゃなかった」
「ちょっとこづいただけだったのに」
思いもよらないことで暴行・傷害罪となり警察にお世話になってしまい、不安になっている方のため、適切な対処方法を、刑事事件の専門家である弁護士がお伝えします。
1.暴行と傷害の違い

相手に暴力を振るうと、「暴行罪」「傷害罪」が成立する可能性がありますが、この2つの罪は、何が違うのでしょうか?以下ではまず、暴行罪と傷害罪の意味や違いを確認しましょう。
1-1.暴行罪とは
暴行罪は「暴行」したときに成立する犯罪です。
暴行とは、人の身体に対する不法な有形力の行使のことを言います。
たとえば、人を殴ったり蹴ったりすると典型的な暴行です。
これ以外にも、人に水や塩をかけた場合や、衣服を引っ張った場合、石を投げつけた場合などにも「暴行」となる可能性があります。
1-2.傷害罪とは

傷害罪は、暴行によって人の生理的機能に障害を起こした場合に成立する犯罪です。
暴行罪と傷害罪の違いは、「相手の生理的機能が障害されたかどうか」です。
たとえば相手を殴ったり蹴ったりしたとき、相手がケガをしなければ暴行罪となりますが、相手がケガをしたら傷害罪になります。
また「傷害」の意味は、一般に言う「ケガ」よりも広いです。
「人の生理機能に障害を起こすこと」には、たとえば人に病気を感染させたり、うつ病にさせたりすることも含まれるからです。
過去には、ステレオを大音量でかけ続けて隣人を睡眠障害に陥らせた犯人が、傷害罪で逮捕されて懲役1年になったケースなどがあります。
ただし、傷害罪が成立するには(暴行も同じですが)、故意が必要です。過失によって相手をケガさせた場合には、「過失傷害罪」という別の罪になり、刑罰もかなり軽くなります。
※過失傷害罪とは
過失傷害罪とは、過失によって被害者を「傷害」させたときに成立する罪です。過失とは「うっかり」や「落ち度」「不注意」のことを言います。
たとえば、うっかり重いブロックを取り落として他人の足の上に落として骨折させてしまったり、不注意で車のドアを閉めて子どもの指を詰めて怪我をさせたり、自転車に乗っていて他人にぶつかって怪我をさせたりすると、過失傷害罪となります。
過失傷害罪の刑罰は、30万円以下の罰金または科料です(刑法209条1項)。
また、過失傷害罪は、傷害罪や暴行罪とは異なり、被害者の告訴がないと起訴されない「親告罪」です。
1-3.暴行罪や傷害罪で逮捕されるケース
飲み会や通行中などに他人に対して「暴行」を振るったり相手をケガさせたりすると、その場で現行犯逮捕されることもありますし、被害者が受けた暴行の被害届を提出することにより、後に逮捕されてしまうケースもあります。
2.暴行や傷害で逮捕された後の流れ
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もしも暴行罪や傷害罪で逮捕されたら、その後どのような流れになるのでしょうか?
逮捕後の流れは、基本的に暴行罪でも傷害罪でも同じなので、以下ではまとめてご説明します。
2-1.48時間以内に検察官に送られる
暴行や傷害で逮捕されると、まずは警察の留置場に入れられます。
このとき、微罪であれば微罪処分として解放されることもありますが、相手が被害届を提出しているケースなどでは、ほとんどの場合、検察官へと身柄が送られます。このことを「送検」と言います。逮捕後送検までの時間は48時間以内です。
2-2.勾留決定される
検察官の元に身柄が送られると、検察官が勾留請求するかどうかを判断します。
引き続いての身柄拘束が必要と判断されると、裁判所に勾留請求されます。
すると、被疑者は裁判所に連れて行かれて勾留質問を受け、裁判官が勾留決定をするかどうか、判断します。
勾留決定されたら、被疑者は引き続き、警察の留置場で身柄拘束され続けることになります。送検後、勾留までのタイムリミットは24時間です。
勾留されない場合には、身柄が解放されますが、捜査自体は被疑者在宅のまま、継続します。この手続きを「在宅捜査」「在宅事件」と言いますが、在宅事件になると、普通に家で過ごして会社にも行けるので、身柄拘束を受け続けるよりも被疑者にとって有利です。
2-3.捜査が継続され、起訴か不起訴か決定される

勾留された場合もされずに在宅事件になった場合にも、暴行罪や傷害罪の捜査は継続されます。
勾留されている場合には、警察で取り調べを受けたり、実況見分に立ち会ったりします。
取り調べにおいて作成される供述調書は、後に起訴するか不起訴にされるかの重要な判断要素となりますし、裁判になった後の処遇にも大きな影響を及ぼすので、非常に重要です。
勾留期間は、原則10日ですが、10日で終わらなかった場合にはさらに10日間、延長されます。つまり、勾留期間は最大20日です。
勾留期間が満期になると、検察官は被疑者を起訴するか不起訴にするかを決定します。起訴されたら刑事裁判となりますが、不起訴になったら暴行や傷害が不問にされて、身柄を解放されます。
勾留されずに在宅事件となった場合には、捜査がある程度進んだ段階で、検察官から呼び出しを受けて、取り調べを受けます。
取り調べが終了すると、検察官が速やかに、暴行や傷害で起訴するか不起訴にするかを決定します。
2-4.裁判になる(略式裁判か通常裁判)
検察官が起訴すると、被疑者は被告人となり、裁判で裁かれることになります。
このとき、裁判には「略式裁判」「通常裁判」の2種類があります。
略式裁判は、100万円以下の罰金刑が適用される軽微な事件に適用される手続きです。公開法廷における審理が開かれず、裁判官が書面上だけで罰金刑を決定します。被告人は裁判に行く必要がなく、普通に会社に通勤できます。自宅で普段通り過ごしていると、起訴状と罰金の納付書が送られてくるので、それを使って支払いをしたら、刑罰を終えたことになります。
通常裁判になると、公開法廷で審理が開かれます。この場合、被告人は必ず裁判所に行って、審理を受けなければなりません。身柄拘束が続いているケースでは、拘置所から裁判所に連れて行かれることになります。
2-5.刑罰が下される
通常裁判の場合、裁判が終結すると、裁判官によって判決を言い渡されます。
判決では、暴行や傷害について、有罪か無罪か、及び、刑罰の内容が告げられます。
2-6.前科について

暴行罪や傷害罪で刑罰を受けると、「前科」がつきます。前科とは、有罪判決を受けた経歴のことであり、その人が亡くなるまで一生残ります。
前科情報は捜査機関で保管されるので、一般に公開されることはありませんが、何かあったときには捜査機関で照会されてしまいます。
通常裁判のみならず、略式裁判で簡単に罰金を支払って事件が終わった場合でも、暴行や傷害の前科がついてしまうので、注意が必要です。
2-7.不起訴になった場合
身柄拘束を受けた事件でも在宅事件でも、不起訴になった場合には、前科はつきません。
不起訴になると、そもそも刑事裁判にならず、「刑罰を適用される」ことがないためです。
そこで、暴行罪や傷害罪で逮捕された場合には、不起訴処分を獲得することがもっとも重要です。
3.量刑の刑罰と相場
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もしも暴行罪や傷害罪で有罪になってしまったら、どのくらいの刑罰が適用される可能性が高いのか、量刑の相場を見てみましょう。
3-1.暴行罪の場合
暴行罪の刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金また拘留若しくは科料です(刑法208条)。
拘留とは、1か月未満の身柄拘束の刑罰のことです。1か月以上になると懲役刑ですが、それを下回ると拘留になるということです。
科料とは、1万円を下回る金銭的な刑罰です。1万円以上になると罰金ですが、それを下回ると科料になるということです。
暴行罪になると、これらの範囲で、選択された刑罰が適用されます。
実際の暴行罪の相場は、事件によって異なります。
弁護士の感覚として、たとえば、通行人と喧嘩になり、殴ってしまったという程度の暴行であれば、略式裁判となって、科料や10万円~20万円程度の罰金刑で済む可能性が高いです。
これに対し、計画的に相手を傷つけてやろうと思い、継続的に暴行を振るったような悪質な暴行事案や、すでに暴行罪の前科がある場合などには、通常裁判となって懲役刑が選択されるケースもあります。
ただし、暴行罪の懲役刑の上限は2年なので、それを上回ることはありません。
3-2.傷害罪の場合
次に、傷害罪について、見てみましょう。
傷害罪の刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金刑であり(刑法204条)、暴行罪と比べると、かなり幅広いです。これは、傷害罪の場合、相手のケガの程度により、加害者の責任が大きく異なってくるからです。
そこで、実際の刑罰の適用の場面でも、相手の受けた傷害の程度により、量刑相場が大きく変わってきます。
弁護士のこれまでの取扱い事例における感覚で言うと、たとえば相手が軽傷で全治1週間などの場合には、罰金刑で済むことも多いですが、相手が骨折して入院したり、後遺障害が残ったりすると、初犯でも懲役刑を選択される可能性が出てきます(ただし、傷害罪の場合、執行猶予がつくことが多く、いきなり実刑になることはほとんどありません)。
また、暴行罪や傷害罪などの類似犯罪の前科がある場合にも、情状が悪くなって懲役刑になる可能性が高まります。
4.暴行罪や傷害罪による逮捕と解雇の関係について

暴行罪や傷害罪で逮捕されたら、解雇との関係についても考えておかなければなりません。
まず、多くの会社では「刑事犯罪で有罪判決を受けると、懲戒解雇する」と定められています。そこで、暴行罪や傷害罪で有罪となり、会社に知られると解雇されてしまう可能性があります。略式裁判でも有罪判決には変わりないので、やはり解雇の可能性があります。
また、「2週間以上無断欠勤すると、懲戒解雇する」という規定のある会社も多いです。つまり、暴行罪や傷害罪で逮捕され、2週間以上会社に出社できなかった場合、解雇されてしまう可能性があるということです。
そこで、暴行罪や傷害罪で逮捕されたときには、なるべく早期に弁護士に対応を依頼して、身柄を解放してもらうことと、前科をつけないことが重要となります。
5.暴行罪や傷害罪で逮捕されたら、どう対応すべきか?

以下では、暴行罪や傷害罪で逮捕されたら具体的にどのように対応すべきか、弁護士の立場からご説明します。
5-1.早期の身柄解放を狙う
まずは、早期に身柄解放してもらうことが重要です。いったん暴行や傷害で逮捕されると、その後起訴されるまでの間、最大23日間身柄拘束される可能性がありますし、起訴されると起訴後の勾留が続くことも多いです。
このような長期の身柄拘束が続くと、心身共に疲弊して、不利な調書を取られやすくなりますし、会社にも出社できず、解雇される可能性も高まります。
5-2.不起訴処分を狙う
次に、「不起訴処分」を獲得することが重要です。
たとえ暴行や傷害で勾留されたとしても、起訴されなければ裁判になりませんし、前科もつきません。また、身柄拘束されている場合でも、不起訴になった瞬間に解放されるので、会社に行くこともできます。不起訴処分は、被疑者にとって非常に有利な処分です。
5-3.示談をする

暴行や傷害で早期の身柄解放や不起訴処分を獲得するためには、被害者と示談することが重要です。
示談とは、加害者が被害者と話し合いをして、民事的な弁償金を支払うことです。
示談が成立すると、刑事事件の被疑者にとって非常に良い情状になるので、不起訴処分にしてもらえる可能性が非常に高くなります。
不起訴になったらその時点で身柄を解放してもらえますし、前科もつきません。
また、勾留前に示談ができれば、勾留請求や勾留決定される可能性がほとんどなくなります。
示談交渉は、次の項目で説明する通り、弁護士に対応を依頼することも可能ですし、その方が効果的です。
5-4.示談のポイント
それでは、暴行や傷害で示談を成立させるには、どのようにすれば良いのでしょうか?
この場合、被疑者や被疑者の家族が自分たちで対応すると、失敗しやすいです。
そもそも、被疑者は被害者の連絡先も知らないことが多いですし、被疑者自身が検察官に聞いても連絡先を教えてもらえません。
また、被疑者や被疑者の家族が被害者に連絡しても、被害者が示談に応じてくれない可能性も高いです。
暴行や傷害で効果的に示談を進めるためには、弁護士に対応を依頼することが重要です。弁護士であれば、法律の専門家としての立場から被害者に状況を説明し、示談に応じるよう説得することができます。被害者の方も、被疑者が直接連絡してくるより、弁護士から連絡を受ける方が、対応しやすいものです。
示談の金額についても、弁護士が間に入っている方が決まりやすいです。被疑者が自分で交渉をすると、被害者から高額な請求をされたときに減額を申し出にくく、話し合いが決裂しやすくなります。もし減額を申し出たら、被害者が感情的になって示談が成立しなくなってしまう可能性が高くなるからです。弁護士であれば、より冷静に被害者を説得できます。
このように、示談を成立させるためには、弁護士によるサポートが非常に重要です。ご自身やご家族が暴行や傷害で立件された場合には、早めに弁護士までご相談下さい。
5-5.会社への対応について

暴行罪や傷害罪で逮捕された場合には、会社への対応が非常に重要です。放っておくと、無断欠勤となって懲戒解雇される例もあるからです。
かといって、「今、暴行罪(傷害罪)で捕まって留置所に入っています」などと言うと、今度は「刑事事件で有罪になる」可能性があることで、懲戒解雇を検討されてしまいます。
そこで、暴行や傷害で逮捕されたときには、上手に会社に説明をして、処分を待ってもらうことが重要です。
ご家族の場合、上手に説明できずに追い詰められた状況になってしまうことも多いのですが、弁護士であれば、「今、捜査中であり、捜査が進展したらご報告します」などと言って対応することができるので、会社も急な処分を下すことはありません。
その間に、弁護士が速やかに示談交渉を進め、不起訴処分を獲得したら、解雇されずに無事に会社に戻ることが可能です。
そこで、会社員の方が暴行罪や傷害罪で逮捕されたら、すぐに弁護士に対応を依頼する必要があります。
6.懲役と罰金の量刑判断は

最後に、暴行罪や傷害罪で、懲役刑と罰金刑が選択される判断基準を見てみましょう。
6-1.暴行の場合
罰金刑になりやすいケース
暴行罪の場合、以下のようなケースでは罰金刑になりやすいです。
- 初犯の場合
- 計画性が無い場合
- 継続性が無い場合
- 喧嘩の場合
たとえば、通行人とトラブルになって口論となり、ついつい暴行を振るってしまったという場合などには、略式裁判となって罰金刑になる可能性が高いです。
懲役刑になりやすいケース
反対に、次のようなケースでは、暴行罪でも懲役刑になる可能性があります。
- 同種の前科がある場合
- 計画的な犯行
- 継続的に暴行が繰り返された
- 一方的な暴行
たとえば、憎い相手がいて、以前から暴行を振るってやろうと計画しており、覆面をして殴る蹴るの暴行を振るったり石などを投げつけたりした場合や、前科があって暴行や傷害を繰り返している場合などには、懲役刑となる可能性があります。ただし、暴行罪で懲役刑を選択されるとしても、ほとんどのケースでは執行猶予がつくので、いきなり実刑判決が下されることは考えなくて良いでしょう。
6-2.傷害の場合
罰金刑になりやすいケース
傷害罪の場合、以下のようなケースでは罰金刑になりやすいです。
- 初犯の場合
- 計画性が無い場合
- 相手の受傷が軽い場合
たとえば、普段は真面目に働いているサラリーマンの方が、飲み会などで羽目を外して酔った勢いで周囲の人と喧嘩になり、相手を受傷させた場合(全治10日)などには略式裁判となって罰金刑になる可能性が高いです。
懲役刑になりやすいケース
反対に、以下のようなケースでは懲役刑が選択される可能性があります。
- 同種の前科がある場合
- 計画的な犯行
- 暴行が執拗で悪質
- 相手の受傷結果が重大
たとえば、喧嘩の事案であっても、相手に対して執拗に殴る蹴るの暴行を振るい、相手に後遺障害が残った場合や、通り魔(愉快犯)で相手を傷つけて骨折させ、半年間の入院が必要になった場合などには、傷害罪でも懲役刑を選択される可能性が高いです。
ただし、こういったケースでも、多くの場合には執行猶予がつくものであり、いきなり実刑判決となることは少ないです。
また、暴行や傷害で懲役刑が選択されそうな事案でも、弁護士が間に入って被害者と示談を成立させれば、不起訴になる可能性があります。
いったん起訴されてしまった後でも、弁護士が示談を成立させたり、被告人の反省状況を示したり、家族による監督の可能性を主張することなどにより、罰金刑に落としてもらえるケースもあります。
暴行や傷害で情状が悪いケースでも、諦めずに弁護士に相談しましょう。
7.まとめ
暴行罪や傷害罪は、普通に暮らしている方でも巻き込まれやすい犯罪です。
ついついカッとなって殴ってしまっただけであっても、警察に留置されて会社に行けなくなり、裁判になって前科がついてしまう例も見られます。
そのような結果を避けるためには、弁護士に対応を依頼して、早めに被害者との示談交渉を進めることが重要です。
当事務所の弁護士は、刑事事件に非常に力を入れており、これまで多くの暴行罪や傷害罪の事件を解決してきました。ご自身やご家族が暴行や傷害で逮捕された場合には、お早めに弁護士までご相談下さい。