債権回収の方法の一つとして動産執行があります。
動産執行とは強制執行の一つで、債務者の自宅や店舗に立ち入り、債務者が有するモノ(動産)を強制的に回収し、これを売却することで債権に充てる手続きのことです。
動産執行はうまく利用すれば債権回収を効率よく進めることが可能となりますが、リスクやデメリットも内包しております。
今回の記事では動産執行のメリットやリスク等について、債権回収の経験豊富な弁護士が解説します。
強制執行
01.強制執行とは
強制執行とは、債務者が債務の履行を行なわない場合に、裁判所等がその債権の内容を強制的に実現する手続きです。相手の財産を差し押さえることで強制的に金銭の回収を図ります。
強制執行は、差押えを行なう目的の財産によって以下のように分類することができます。
- 預金や給料など:債権執行
- 土地や建物など:不動産執行
- 動産等:動産執行
動産執行は強制執行のうちの一つです。なお、債務者に預金、動産、不動産といった財産が複数ある場合、どれを差押え対象とするのかは債権者が自由に選択できます。初手から動産執行を実行してもよいですし、債権執行・不動産執行で債権回収が図れなかった場合に動産執行をするといった対応をすることも可能です。
02.債務名義
強制執行を行なうためには債務名義が必要となります。債務名義とは、債務者に強制執行を行なうために必要となる公的機関が作成した文書のことを言います。
- 確定判決
- 仮執行宣言付き支払督促
- 裁判所の和解調書
- 調停調書
- 公正証書 等
上記のようなものが債務名義となります。裁判所や公証役場といった公的機関で作成した書面が債務名義に該当すると理解していただければ結構です。
逆に言うと、上記の書面を得ていない場合は強制執行をすることはできません。強制執行をするためには、事前に債務名義を得ておく必要があります。
動産執行
01.動産執行とは
動産執行は、債務者の自宅や店舗に立ち入り、債務者が有するモノ(動産)を強制的に回収し、これを売却することで債権に充てる手続きです。価値のある家財道具(生活必需品を除く)、現金、絵画、宝石、株券、機械、在庫商品などが差押えの対象となります。
差押えは、債務者の自宅や会社、倉庫といった差押えの対象となる動産の所在地に出向いた執行官(各地方裁判所に所属する裁判所職員)が行ないます。執行官が直接出向いて差押えを行なう点で、債権執行や不動産執行と異なります。
執行官により差し押さえられた動産は、原則として持ち帰り保管されます。その後1ヶ月以内に売却期日が決定され、動産は売却されます。債権者は動産の売却代金から債権回収を実現することとなります。
02.差押えの対象となる動産
動産執行では、以下のような動産が差押えの対象となります。
- 66万円を超える現金
- 絵画・骨董品
- 時計・宝石・貴金属
- 家財道具・電化製品
- 株券
- 在庫商品
- 機械・什器
- 動物 等
03.差押禁止動産
以下のような日常生活を送るために欠くことができないモノは動産執行の対象とすることはできません。
- 衣服
- 寝具
- 家具
- 台所用品
- 1ヶ月の生活に必要な食料、燃料
- 標準的な世帯の2ヶ月分の生活費
- 業務に必要な器具、用具
家具や家電についての差押え可否の判断は難しく、その判断は執行官次第です。また、例えば同じ家財を複数所有しているような場合には、1つを除いて差押えとなる可能性が高いといえます。
また、以下のような精神生活に必要な動産についても差押禁止財産にあたるとされております。
- 仏壇、位牌など礼拝や祭祀の道具
- 表彰や勲章など名誉に関する物
動産執行の流れ
動産執行の流れについてみておきましょう。
01.債務名義を得る
先述のとおり、債務者が支払いが滞納したからといっていきなり動産執行(強制執行)を行なうことができるわけではありません。事前に債務名義を取得しておく必要があります。
02.執行文の付与を申請する
強制執行を行うには債務名義に執行文の付与を受ける必要があります。執行文の付与とは、その債務名義に執行力があることを証明を、債務名義の末尾に文言を付記することです。
債務名義の取得後に申請する必要があり、裁判所で得た債務名義については裁判所書記官によって、債務名義となる公正証書については公証人によって執行文が付与されます。
なお、仮執行宣言付支払督促、少額訴訟における判決、乙類審判事項の家事調停調書、家事審判書の場合は執行文の付与申請は必要ありません。
03.送達証明の申請
債務名義が債務者に送達されていることも強制執行の要件の一つです。このことを証明するものが送達証明です。
送達証明は、債務名義を作成した裁判所の書記官に発行を申請します。公正証書では公証人が債務者に謄本を渡すと送達完了となります。
04.動産執行の申立
動産執行の申立てをする場合は、動産執行申立書を裁判所執行官に提出します。
申立書の提出先は、差押えの対象となる動産の所在地を管轄する地方裁判所の所属する執行官室です。動産執行の申立は、裁判所に対してではなく執行官に対して行うものであるため、法律的な意味での管轄裁判所というものはありません。
05.執行日時の決定
動産執行の申立が受理された後、債権者(代理人弁護士)と執行官との間で面談を実施し、執行日時を調整します。
なお、執行日が事前に債務者に通知されることはありません。事前に知らせてしまうと価値ある動産を隠匿されてしまうおそれがあるためです。
06.訪問(動産執行)
動産執行の当日に、執行官は対象となる動産の所在地(債務者の自宅や会社、倉庫など)に赴き、動産執行を実施します。債権者や代理人弁護士も現地まで同行することは可能です。
現地においては債務者がカギを開けずに執行官の立入りを拒否することや債務者が不在であることもあります。このような場合には鍵屋に頼んで鍵を開けるなどの強制解錠を行なうこととなります。鍵屋は執行官が手配してくれることが多いですが、日当の支払いは債権者がすることとなりますので不在が予見される場合にはあらかじめ手配しておきましょう。
立ち入りは執行官しかできない
債務者の建物内への立入りは執行官しか出来ません。債権者やその代理人弁護士は、建物内へ立ち入ることはできないのです。
債権者及び代理人弁護士が動産執行に同行した場合、債権者及び代理人弁護士は執行官から中の状況を伝え聞いた上で、どれを差し押さえ対象とするかを判断することになります。
また、執行現場に債務者がいた場合には、執行官に依頼して債務者を外に連れてきてもらい、債権者と直接話し合うことができることもあります。債務者に直接に支払を督促できる機会の一つとなります。
07.差押えと換価
執行官は、現金やその他の目ぼしい動産があれば差し押さえます。差し押さえた物件は債務者が勝手に処分しないように原則として執行官が持ち帰り保管します。もっとも、現金以外の重量物や大きな物を差し押さえる場合には、搬送用の車やトラックを事前に用意しておきましょう。
執行官は、差押えから1ヶ月以内に売却期日を決定し、動産を競売によって換価します。そのお金で債権者は債権回収を行ないます。
なお、売却期日は債務者にも事前に通知がされます。どうしても差押え対象の動産を手元に残したいという債務者は、自ら競り落とすか、あるいは、友人や知人(購入後も債務者による使用を認めてくれる第三者)に競り落としてもらうこともできます。
競売以外の換価方法としては、売却期日に専門業者を連れてきて買取りを依頼する方法、債権者自身が購入して購入代金と債権を相殺処理する(購入した動産は別途転売して換金する。)方法があります。
08.配当
差し押さえた動産の売却代金は、債権に充当されます。現金を差し押さえた場合は現金そのものを直接充当します。
債権者が複数で売却代金が債権総額に満たないときは債権者間で協議します。協議が調わない場合には裁判所が債権額に応じて分配します。
動産執行の費用
動産執行を行なうための費用としては以下のものがあります。
01.予納金
動産執行をする際は、裁判所に予納金(執行官の費用)を支払う必要があります。
予納金の額は一般的に3~5万円で動産執行の申立時に支払います。動産執行が終了した後に余りが生じていれば返還されます。
02.実費
鍵屋(開錠業者)を手配した際の日当、動産の搬出、トラックなどの手配、搬送業者を依頼したりする場合、その費用は債権者で負担することとなります。執行官が手配したものの一部については予納金から支払われることがあります。
03.弁護士費用
動産執行の申立等を弁護士に依頼をした場合は、弁護士費用がかかります。費用については依頼する弁護士により異なります。
不奏功のリスク
動産執行は時として失敗(執行不能)に終わることがあるので注意が必要です。失敗するケースとしては以下のものが考えられます。失敗してしまえば費用倒れとなってしまうので注意が必要です。
01.価値ある動産がない
動産は、換価価値に乏しいという実情があります。特に経年しているものはなおさらです。現金や貴金属以外のモノの場合、競売による換価代金が非常に低くなることが往々にしてあります。
02.執行妨害
一つは、執行妨害です。債務者が動産執行を事前に察知し、いざ執行現場に赴いたら中はもぬけの殻であったというような場合です。
03.所有権がない
動産の所有権が債務者にないケースもあります。オフィスに高価な家具・調度品があってもそれがリース物件である場合は差押えできません。
動産執行のメリットやリスクについて
動産執行は、手続が比較的簡便で費用も低額ですので、債権者にとって選択しやすい手続といえるでしょう。また、執行官が自宅や会社にやってきて動産を差し押さえるので、債務者に与える影響、心理的プレッシャーが大きく、債権回収の実を上げることができます。
他方で、動産執行のリスクとしては、債権回収として実を結ぶかどうかが不明である点が挙げられます。価値ある動産がなければ費用倒れになってしまいますし、高価な調度品があったとしてもその所有者が債務者でない場合は回収することができません。また、執行妨害による執行不能も想定されます。
さいごに
動産執行を行なう場合は、債権回収として実を結ぶかどうかをしっかりと検討することが必要不可欠です。動産執行で債権回収を実現できる見込みであれば動産執行を選択すべきですし、動産執行では債権回収が実現できないということであれば給与差押えや不動産執行等を検討する必要があります。
どの手法が最良の債権回収方法であるかは、債権回収の経験が豊富な弁護士であれば判断することが可能です。債権回収を検討されている方は経験豊富な弁護士に相談されることを推奨します。
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