債権が不払いとなったとき「保証人」がいたら、そちらへ請求しようと考えるでしょう。
しかし場合によっては保証人から「支払拒否」されるケースがあります。
法律上、保証人が支払拒否できる場合とできない場合があるので正しい知識をもって債権回収を進めましょう。
今回は滞納家賃や貸付金などの債務の支払いを保証人に請求したときに拒絶される理由や請求の手順、注意点を弁護士が解説します。
不良債権トラブルにお悩みの方がおられましたら、ぜひ参考にしてみてください。

1.保証人が支払拒否!よくある理由は?

保証人が支払拒否する場合、よくある理由をご紹介します。
1-1.先に主債務者へ請求してほしい
主債務者とは、借金をした本人や賃貸借契約の借主など「債務を負担する本人」をいいます。
保証人に請求すると「先に主債務者へ請求してほしい」といわれるケースが少なくありません。
この場合、保証人には請求できない可能性があります。どういった状況で請求できないのかについては、次の項目で説明します。
1-2.本人と連絡を取れないから困っている
保証人に請求すると、「自分としても主債務者と連絡を取れないので困っている」などといわれ、支払を拒否されるケースがあります。
ただ保証人が主債務者と連絡をとれるかどうかは債権回収と関係がないので、抗弁としては成り立ちません。法律上、支払拒否の理由にはならないでしょう。
1-3.勝手に保証人にされた
保証人に請求すると「知らないうちに勝手に保証人にされた」と主張されて支払拒否されるケースもよくあります。自分は契約書に署名押印していないのに、主債務者が勝手に印鑑を持ち出して署名押印した、などと言われるパターンです。
この場合、保証人の言い分が本当であれば保証契約が無効となり、請求できない可能性があります。
ただし印鑑を持ち出されたことについて保証人に過失があれば請求できるケースもあり、個別的な状況判断が必要です。
1-4.お金がない
保証人に請求すると「お金がないから支払えない」といわれるケースもよくあります。
しかしお金がないことは法律上、支払拒否できる理由になりません。
保証人が債務整理でもしない限り、請求は可能です。
1-5.時効が成立している
保証人から「時効が成立したので支払いません」といわれる可能性もあります。
確かに債権には時効があるので、長期に渡って請求しなければ消滅してしまう可能性があります。
時効が成立するまでの期間は基本的に「請求できることを知ってから5年」「請求できる状態になってから10年」の短い方です。
家賃や売掛金を滞納されて5年以上放置していると、時効が成立して請求できなくなってしまう可能性があるので注意しましょう。
時効の更新について
債権の時効は「更新」される可能性があります。時効が更新されると、また当初からの数え直しになるので時効が成立しません。
たとえば時効成立前に主債務者が一部を支払ったり債務を承認したりすると、保証債務の時効も更新されます。保証人自身が承認しなくても保証債務の時効が更新されるので、支払拒否されても請求が可能です。
また主債務者や保証人へ訴訟を起こして支払い命令の判決が出たときにも時効が更新されます。時効成立を防ぐには、支払時期から5年以内に訴訟を起こすとよいでしょう。

2.保証人に認められる抗弁権とは?

保証人にはいくつかの「抗弁権」が認められます。
法律上の抗弁権を主張されると保証人へ支払いを請求できない可能性があるので、どういった抗弁権が誰にあるのか、みていきましょう。
2-1.催告の抗弁権
1つ目は「催告の抗弁権」です。
これは「先に主債務者へ請求してほしい」と主張できる権利です。
たとえば家賃を滞納されたとき、借主本人には請求せずにいきなり保証人に請求すると「先に借主本人に請求してください」といわれて催告の抗弁権を主張される可能性があります。
その場合、先に借主へ請求しない限り保証人へは請求できません。
2-2.検索の抗弁権
検索の抗弁権とは、「先に主債務者の財産から強制執行してください」と主張する権利です。
主債務者に資力があるにもかかわらず保証人に請求すると「検索の抗弁権」を主張されてしまう可能性があります。
ただし検索の抗弁権が認められるには、保証人が「主債務者に資力がある事実」を簡単に証明しなければなりません。
たとえば保証人に請求したときに、「主債務者の○○さんは自宅不動産を所有しているので、そちらを競売にかけてください」などと言われたら、まずは不動産競売を申し立てなければならない可能性があります。
2-3.分別の利益について
保証人には「分別の利益」があります。
分別の利益とは、複数の保証人がいるときに一人ひとりの負担割合が分割されることです。
たとえば100万円の負債を4人が保証する場合、一人ひとりの負担割合は25万円ずつなどとなります。
この場合、1人の保証人には負担割合を限度としてしか請求できません。
保証人からは「私の負担部分は25万円なので、25万円までしか支払えません」といわれ支払拒否される可能性があります。
3.連帯保証人には抗弁権がない

以上のように、保証人には法律上「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」がありますし「分別の利益」を主張して負担部分を超える支払を拒否する権利も認められます。
一方で、「連帯保証人」には上記のような抗弁権が認められません。
連帯保証人の場合、主債務者に請求せずにいきなり支払いを請求してもかまいませんし、主債務者に資力があっても連帯保証人に請求できます。
さらに連帯保証人には「分別の利益」もありません。何人連帯保証人や保証人がいても、一人ひとりの連帯保証人が「全額の支払い義務」を負います。
日本の取引社会で「保証人」をつける場合、たいてい「連帯保証人」です。
たとえば賃貸借契約、事業用ローンの契約、住宅ローン契約など、ほとんどのケースで「連帯保証人」が要求されます。
連帯保証人は抗弁権を主張できません。保証人に請求したときに「負債を支払わない」といわれたら、契約書の文言を確かめて相手が「単なる保証人」か「連帯保証人」か、確認してみてください。
連帯保証人でも支払拒否できるケース
連帯保証人には保証人に認められる抗弁権や分別の利益がありませんが、以下のような場合には支払拒否できます。
- 勝手に連帯保証人にされた
主債務者が印鑑などを持ち出して勝手に連帯保証人欄に署名押印した場合です。
- 時効が成立している
連帯保証債務にも時効があります。基本的に通常の保証債務と同じ考え方となるので、請求できるときから5年が経過していると連帯保証人にも請求できない可能性が高くなります。
- 騙されたり脅されたりして連帯保証人にさせられた
主債務者や債権者から騙されたり脅されたりして意思に反して連帯保証人にさせられた場合、連帯保証人は契約を取り消せます。取り消されたら契約はなくなるので、支払いを請求できません。

4.保証人へ支払請求する際にやってはいけないこと

保証人や連帯保証人に支払を請求する際、以下のような方法をとらないように注意しましょう。
4-1.脅迫
思い通りに債務を支払われないからといって、相手を脅迫してはなりません。
たとえば「支払わなかったら家族に危害を加える」などといったり間接的にほのめかしたりすると、脅迫罪が成立する可能性があります。
4-2.頻繁すぎる督促、深夜早朝など非常識な時間帯における督促
短時間の間に何度も電話をかけたり深夜早朝に電話をかけ続けたりして、非常識な督促行為をするとトラブルになる可能性が高まります。相手の態度を硬化させる要因にもなるので控えましょう。
4-3.保証人の勤務先に押しかける
保証人が支払わないからといって、勤務先などに押しかけてはなりません。業務妨害や名誉毀損罪が成立してしまう可能性があります。
4-4.保証人の家族へ督促
支払い義務のない人へ督促してはなりません。たとえば保証人以外の債務者の親族や保証人の家族に「親族なのだから支払え」などというとトラブルになる可能性が高くなります。
4-5.「金返せ」などの張り紙をする、ネット上に滞納の事実を投稿する
債務者や保証人の自宅近くに「金返せ」などの張り紙をする、集合ポストに投函する、ネット上に「○○は支払いを滞納している、泥棒」などと書き込むと、「名誉毀損」になる可能性が高くなります。
周囲に滞納の事実を知らせてプレッシャーをかけようとすると違法行為となるリスクが高いので控えましょう。
5.保証人へ支払請求する手順

保証人へ債権の支払を請求するなら、以下のような手順で進めるのが一般的です。
5-1.内容証明郵便で督促
まずは内容証明郵便を使って保証人へ負債の支払いを督促しましょう。
内容証明郵便を使うと、郵便局と差出人の手元に相手に送ったものと同じ内容の控えが残ります。確実に請求した資料となるので、将来訴訟になったときにも証拠提出できます。
また相手にプレッシャーを与えられるので、任意の支払を受けやすくなるメリットもあります。
5-2.交渉、合意書の作成
次に相手と交渉し、いくらをいつまでに支払うのか取り決めましょう。
合意ができたら必ず「保証債務支払に関する合意書」を作成してください。
特に分割払いにする場合には、合意書を「公正証書」にするようお勧めします。
公正証書があれば、保証人が将来支払を滞納したときにすぐに保証人自身の給料や預金、不動産などを差し押さえて債権回収できるからです。
5-3.訴訟
保証人が支払に応じない場合や話し合っても条件面で合意できない場合などには、訴訟を提起して債務の支払いを求めましょう。
ただし保証人に合理的な拒絶理由がある場合、訴訟をしても勝てない可能性があります。
たとえば「勝手に保証人にされた」「時効が成立している」などと主張している場合、安易に訴訟提起せず相手の言い分に理由があるかどうか慎重に判断すべきでしょう。
相手の言い分に理由がなければ、裁判所が支払い命令の判決を出してくれます。保証人の主張する抗弁に理由があるかどうかわからない場合、弁護士までご相談ください
6.保証人への請求、債権回収は弁護士へ相談

保証人や連帯保証人から確実に債権回収するには、弁護士に依頼する方法が効果的です。
弁護士が代理で請求すれば相手に強いプレッシャーをかけて支払に応じさせやすくなります。相手が抗弁を主張してきても、法律的な理由があるかどうかの見極めができて、スムーズに請求を進められるでしょう。
当事務所は東京・恵比寿を拠点として家賃や売掛金、貸金などの債権回収業に積極的に取り組んでいます。不良債権にお悩みの方がおられましたらお気軽にご相談ください。

