雪や台風などの悪天候が交通事故の発生に影響を与えることがあります。
雪が降るとスリップ事故が多発しますし、台風や豪雨のために視界不良となると衝突事故が発生しやすくなります。
このような天候異常や地震等の天変地異による影響で交通事故が起こった場合、事故内容を検討する上で重視される「過失割合」にはどういった影響が及ぶのでしょうか?
今回の記事では、天候異常が交通事故にどういった影響を与えるのか、自動車保険の適用関係も併せて解説します。
1.雪道でよくある事故と過失割合
雪道上では事故が発生するケースが非常によくあります。
特に多いのが以下のようなパターンです。
1-1. 雪道でよくある事故
視界が悪くて後方から追突
雪が降ると、視界が悪くなります。
前方を確認できないまま走行していると、車間距離を誤って前方の車両に衝突してしまうリスクがあります。
ノーマルタイヤでスリップ
ふだん雪道を走り慣れていない人が旅行などで雪国を訪れると、スタッドレスタイヤやタイヤチェーンを使わずにノーマルタイヤで走行してしまうケースが少なくありません。
ノーマルタイヤで雪道を走行するとスリップするため、周辺の車や人に衝突しやすくなってしまいます。

1-2.雪道で交通事故が起こった場合の過失割合
雪道で交通事故に巻き込まれたら、それぞれの当事者の過失割合はどのくらいになるのかみてみましょう。
追突事故の場合
後方から前方車両に追突した場合、後方車両の過失割合が100%となります。前方車両には過失がありません。
ただし前方車両が急ブレーキを踏んだために追突した場合、前方車両が30%、後方車両が70%となります。
基本の過失割合は通常の道路と同じで「雪道」を理由に修正されません。雪道であっても、後方車両は前方車両との間に十分な車間距離をとらねばならないからです。
玉突き事故の場合
雪道は滑りやすいので、いわゆる「玉突き事故」が発生するケースもよくあります。
玉突き事故とは、3台以上の車が次々に追突する交通事故です。たとえば一番後ろの車が前方車両へ追突し、その衝撃で衝突された車がさらに前の車へ追突する3台の玉突き事故が典型です。
玉突き事故における過失割合は、基本的に「後方車両の責任」が重くなります。
たとえば3台の玉突き事故の場合、基本の過失割合は最後尾の車両が100%、中間の車と前方車両の過失割合は0%です。
ただし中間の車や前方の車が急ブレーキを踏んだために事故が生じた場合、それらの車両にも過失割合が認められます。
1-3.雪道で過失割合が修正されるケース
雪道で交通事故が起こり、以下のような事情に該当すると基本的な過失割合が修正される可能性があります。
ノーマルタイヤで走行していた
雪道をノーマルタイヤで走行すると危険なので、スタッドレスタイヤやタイヤチェーンを利用すべきです。
それにもかかわらずノーマルタイヤで走行して事故を起こすと、通常のケースより過失割合が加算される可能性があります。
スピード違反
雪道はただでさえ滑りやすいので、慎重に走行しなければなりません。
それにもかかわらずスピード違反していると、過失割合が加算されます。
時速15キロメートル以上の違反なら5~15%程度、時速30キロメートル以上の違反なら10~20%程度、過失割合が上がります。
著しい過失、重過失があった
飲酒運転、無免許運転、薬物を摂取して正常な運転ができない状態での運転、ながら運転や脇見運転、著しい前方不注視など、「著しい過失」や「重過失」が認められると過失割合は加算されます。
道路標識が見えなくなっていた
雪が降り積もると、道路標識が隠れて見えなくなるケースもあります。
そういった場合、道路標識は「ないもの」として過失割合が算定されるケースがあります。
たとえば「一時停止」の標識が見えなくなっていたら、一時停止義務がないものとして過失割合を算定します。その意味で雪道の場合、通常の道路とは過失割合が変わってくる可能性があります。
雪道の事故現場で道路標識を確認できなかった場合、「不注意による見落とし」か「雪で見えなくなっていたのか」で大きく過失割合が異なってくる可能性もあるので、示談の際には現場の状況をしっかり思い出して説明しましょう。

2.台風でよくある事故と過失割合
次に台風の際によくある事故や過失割合をみていきます。
2-1.台風でよくある交通事故
台風の際には以下のような交通事故が生じるケースがよくあります。
豪雨で視界が悪く追突
台風が来ると、豪雨が発生するものです。雨によって視界が悪くなると、前方車両との車間距離を見誤って追突してしまう事故が多発します。
暴風でハンドルをとられて衝突
台風が来ると、暴風が吹き荒れるものです。
強い風にあおられるとハンドルをとられるので、うまく操作できずに追突したり周辺の車や人へ接触してしまったりする事故が起こりやすくなります。
暴風であおられた自転車や人に接触
暴風が吹き荒れると、人や自転車が転倒してしまうケースも多々あります。
自動車を運転していると、近くの歩行者や自転車が突風にあおられて車の方へ吹き飛ばされてきて、接触してしまう事故もあります。
雨でスリップ
雨が降ると、道路はスリップしやすくなります。マンホールの上だとなおさらです。
そのため、前方車両との追突事故をはじめとして接触事故が起こしやすくなります。
2-2.追突事故の過失割合
追突事故が起こった場合の過失割合は、台風の影響があっても基本的に変わりません。
追突した車両が100%、追突された車両が0%となります。
雨で滑りやすく風が吹き荒れているとしても、後方車両はそうした状況を念頭に十分な車間距離をとるべきだからです。
ただし前方車両が急ブレーキをかけたために追突してしまった場合は後方車両の過失割合が70%、前方車両の過失割合が30%となります。
2-3.歩行者と自動車の事故
台風の影響で歩行者と自動車が事故を起こしてしまった場合の過失割合をみてみましょう。
信号機のある横断歩道上
信号機のある横断歩道上で事故が発生すると、基本の過失割合は以下のとおりです。
歩行者の信号機の色 | 自動車の信号機の色 | 歩行者の過失割合 | 自動車の過失割合 |
青 | 赤 | 0% | 100% |
黄 | 赤 | 10% | 90% |
赤 | 青 | 70% | 30% |
青信号でわたりはじめて途中で赤になった | 赤 | 0% | 100% |
赤信号でわたりはじめて途中で青になった | 赤 | 10% | 90% |
青信号でわたりはじめて途中で赤になった | 青 | 20% | 80% |
黄信号でわたりはじめて途中で赤になった | 青 | 30% | 70% |
信号機のない横断歩道上
信号機のない横断歩道上で交通事故が発生したら、基本的に自動車の過失割合が100%、歩行者の過失割合は0%となります。横断歩道上では歩行者は絶対的に保護されるからです。
台風で暴風雨となっている場合、歩行者の動きを予想するのは簡単ではありません。
横断歩道のある場所では特に徐行して慎重に運転しましょう。
横断歩道以外の道
横断歩道以外の場所の場合、幹線道路なのか歩行者用道路がある場所なのかなどの状況によって過失割合が変わります。
特に幹線道路でもなく道路幅の優先関係などもない基本的なケースでは、歩行者の過失割合が20%、自動車が80%となります。
2-4.自転車と自動車の事故
自転車と自動車が事故を起こした場合の過失割合もみてみましょう。
交差点で直進車同士が出会い頭で衝突したケース
信号機のある交差点で車と自転車が出会い頭で接触した場合の過失割合は以下のとおりです。
自転車の信号機の色 | 自動車の信号機の色 | 歩行者の過失割合 | 自動車の過失割合 |
青 | 赤 | 0% | 100% |
赤 | 青 | 80% | 20% |
黄 | 赤 | 10% | 90% |
赤 | 黄 | 6% | 40% |
赤 | 赤 | 30% | 70% |
信号機のない交差点での事故
信号機のない交差点上で事故が発生した場合、自転車の過失割合は20%、自動車の過失割合が80%となります。
自転車を巻き込んだ場合
暴風雨が吹き荒れると、車が左折する際に自転車を確認しにくくなって巻き込み事故を発生させる可能性も高まります。
巻き込み事故の過失割合は以下のとおりです。
【自動車が先行していた場合】
先行していた自動車が左折時に後ろから来た自転車を巻き込んでしまった場合、自動車の過失割合は90%、自転車の過失割合は10%となります。
【自転車が先行していた場合】
自転車が先行していて自動車が追い越し際に自転車を巻き込んで事故を起こすと、自動車の不注意の度合いが大きいと考えられます。
基本の過失割合は自動車が100%、自転車は0%です。
2-5.台風で過失割合が修正されるケース
台風によって暴風雨が吹き荒れていたとしても、基本的には過失割合に影響しません。
しかし以下のような場合には過失割合が修正される可能性があります。
視認不良
事故当時、現場が著しく視認不良となっていた場合には、過失割合が修正される可能性があります。
たとえば高速道路上で追突事故が発生したとき、著しい豪雨によって視界が悪くなっていたら追突車両の過失割合が10%程度減算される可能性があります。
著しく不適切な判断
豪雨や暴風の影響を考えずに著しく不適切な判断をすると、過失割合が高くなる可能性があります。
たとえば道路が冠水しておりそのまま進むと立ち往生する可能性が高いのにあえて自動車を発進させ、動けなくなったところへ別の車が来て接触された場合には立ち往生していた車の過失割合が加算される可能性が高いでしょう。

3.地震でよくある事故と過失割合
自動車の運転中に突然地震が発生すると、交通事故が起こる可能性が高まります。
どのような事故が多いのか、過失割合とともにみてみましょう。
3-1.地震でよくある事故
地震が発生すると、以下のような交通事故が起こるケースがあります。
ハンドルをとられて他車に衝突
突然の地震によってハンドル操作ができなくなり、他車へ接触してしまうパターンです。
停車中に他の車がぶつかってきて事故に巻き込まれる可能性もあります。
渋滞中の事故
地震が起こると車が動けなくなったり事故が起こったりして、渋滞が生じるケースもよくあります。
渋滞が発生すると、車と車の間からバイクや自転車などが飛び出してきて接触する事故が起こりやすくなります。
3-2.地震で事故が起こった場合の過失割合
地震の影響で事故が起こった場合の過失割合をみてみましょう。
信号機のある交差点で自動車同士の出会い頭衝突事故
信号機のある交差点で自動車が出会い頭の衝突事故を起こした場合、過失割合は以下のとおりです。
信号機の色 | 過失割合 |
青信号車と赤信号車 | 青信号車が0%、赤信号車が100% |
黄信号車と赤信号車 | 黄信号車が20%、赤信号車が80% |
双方とも赤信号 | どちらも50% |
渋滞中の事故
渋滞中の交差点でバイクが飛び出してきて自動車と衝突した場合の過失割合は、バイクが30%、自動車が70%です。
交差点ではない場所で事故が発生した場合、バイクの過失割合は20~25%、自動車の過失割合が75~80%となります。

4.天候が悪いと自損事故や物損事故も多発する
天候が悪いときや天変地異が起こったときには、他車と接触する事故に限らず「自損事故」も多数発生します。
自損事故とは、自車が物に追突したり溝に落ちたりして自分が損害を負う事故です。
自損事故を起こすと自分の車が傷つき、乗車していた人がケガをする可能性もあります。
また雪や暴風雨の影響でガードレールや施設などにぶつかって、物損事故を起こしてしまうケースも少なくありません。事故で他人のものを壊したら、賠償義務が発生するので修理代等を支払う必要があります。
5.悪天候下で事故が発生した場合の保険

台風や大雪などの悪天候下や地震などの災害によって交通事故が発生すると、どういった自動車保険が適用されるのでしょうか?
5-1.天変地異の事故には保険が適用されない
地震や噴火などの天変地異が原因で事故が起こったら、基本的に自動車保険は適用されません。
保険には「免責事項」があり、以下のような事情があると保険会社が免責されると規定されているためです。
- 地震や噴火、津波
- 地震や津波、放射能事故による混乱が原因で発生した事故
たとえば地震で大規模な災害が発生して事故が生じた場合、自動車保険からは保険金が支払われないケースが多いと考えましょう。
5-2.天候不良でも自動車保険は適用される
一般的な豪雨や雪害などの天候不良が原因の事故には、自動車保険が適用されます。
- 台風が来て暴風雨が吹き荒れる中で事故にあった場合
- 雪国でスタッドレスタイヤをつけずにスリップ事故を起こした場合
こういったケースでは対人対物賠償責任保険も人身傷害補償保険も適用されて、保険金を受け取れます。
5-3.車両保険の特約
車両保険については多くの保険会社で、地震や噴火、津波による事故でも補償される「特約」をつけられます。
「地震・噴火・津波車両全損時一時金特約(保険会社によって多少名称が異なる可能性があります)」をつけておけば、地震や津波で車が全損したときに50万円程度の保険金が払われます。
車両価額が高額な場合など、必要に応じて加入しておくとよいでしょう。
5-4.弁護士費用特約も適用できる
台風や雪害などによる交通事故でも、弁護士費用特約を適用できます。
弁護士費用特約を使えば、無料で弁護士に交通事故の相談ができますし、示談交渉や訴訟も自己負担なしで依頼できるなどメリットが大きくなります。
交通事故に遭ったら弁護士費用特約に加入していないか確認し、加入していたら必ず利用しましょう。
なお地震や津波などの天変地異の場合には、弁護士費用特約も適用されないケースが多数です。
台風や大雨、積雪などが要因で事故が生じると、過失割合についても個別的な検討が必要です。保険会社の提示する条件が必ずしも適切とは限りません。
恵比寿の鈴木総合法律事務所は交通事故案件に積極的に取り組んでいますので、お困りの際にはお気軽にご相談ください。


