事故に巻き込まれてしまったら、お互いの「過失割合」を決めなければなりませんが、このとき相手方が提示してくる過失割合が必ずしも適正であるとは限らないので注意が必要です。
今回の記事では、交差点での事故における適正な過失割合の基準をパターン別に解説します。事故に遭われた方はぜひ参考にしてみてください。
信号機のある交差点で出会い頭の衝突事故
実は交差点で発生した交通事故の過失割合は信号機の有無によって異なります。
まずは『信号機のある交差点』で『直進車同士が出会い頭で衝突した』事故の過失割合の基準をみてみましょう(判例タイムズ98~100)。
信号機による交通整理が行われている場合、車は必ず信号機の指示に従わねばなりませんので、信号無視をした側の過失割合が大きく上がります。
なお、道路交通法上「黄信号」の場合は原則停止しなければなりません。停止しなくて良いのは「無理に停止すると危険が発生する場合」だけです。黄信号で直進すると一種の信号無視となり過失割合が認められるので注意しましょう。
信号機の色ごとの基本の過失割合は以下の通りです。
- 赤信号車と青信号車…赤信号車:青信号車=100%:0%
- 黄信号車と赤信号車…黄信号車:赤信号車=20%:80%
- 双方とも赤信号車…50%:50%
信号機のある交差点で直進車と右折車の接触事故
次に『信号機のある交差点』で『直進車と右折車が衝突した』交通事故の過失割合の基準をみてみましょう(判例タイムズ107~113)。
直進車と右折車が交差点に進入する場合、原則的に直進車が優先されるので右折車の過失割合が高くなります。
以下の表は、直進車と右折車が対抗車線から入ってきて接触した場合の交通事故の過失割合です。
直進車の信号機の色 | 右折車の信号機の色 | 直進車の過失割合 | 右折車の過失割合 |
青 | 青 | 20% | 80% |
黄 | 右折の青信号で侵入し、途中で黄信号に変わった | 70% | 30% |
黄 | 黄 | 40% | 60% |
赤 | 赤 | 50% | 50% |
赤 | 青信号で侵入し、途中で赤信号に変わった | 90% | 10% |
赤 | 黄信号で侵入し、途中で赤信号に変わった | 70% | 30% |
赤 | 右折の青矢印信号 | 100% | 0% |
信号機のない交差点で直進車同士の出会い頭の衝突事故
『信号機のない交差点』で『直進車同士が衝突した』交通事故の過失割合の基準を見てみましょう。
基本的に「左方の車両」が優先されるので、左方車の過失割合が低くなります。ただし、道路幅、一方通行義務の有無、徐行したかどうか、優先道路などの具体的な状況によっても双方の過失割合が変わってきます(判例タイムズ101~105)。
以下でパターン別の過失割合の基準をみていきましょう。
01.同程度の道路幅の場合
道路幅が同程度の場合、減速したかどうかで過失割合が変わってきます。
左方車 | 右方車 | 左方車の過失割合 | 右方車の過失割合 |
同程度の速度 | 40% | 60% | |
減速しなかった | 減速した | 60% | 40% |
減速した | 減速しなかった | 20% | 80% |
02.どちらかに一方通行義務違反がある場合
一方通行義務違反車:違反していない車両=80%:20%
03.一方が明らかに広い道路の場合
どちらかの道路幅が明らかに広い場合、広路車の過失割合が低くなります。ただし減速したかどうかによって過失割合が変わってきます。
状況ごとの過失割合は以下の通りです。
広路車 | 狭路車 | 広路車の過失割合 | 狭路車の過失割合 |
同程度の速度 | 30% | 70% | |
減速しなかった | 減速した | 40% | 60% |
減速した | 減速しなかった | 20% | 80% |
04.一方に一時停止規制が及ぶ場合
一時停止規制が及ぶ車両は一時停止義務に従わねばなりません。従わなかった側の過失割合は高くなります。また減速したかどうかによっても過失割合が変わってきます。
一時停止義務がない車 | 一時停止義務がある車 | 一時停止義務のない車の過失割合 | 一時停止義務のある車の過失割合 |
同程度の速度 | 20% | 80% | |
減速しなかった | 減速した | 30% | 70% |
減速した | 減速しなかった | 10% | 90% |
一時停止後侵入 | 40% | 60% |
05.一方が優先道路の場合
優先道路とは、道路標識などによって「優先道路」と指定されている道路、中央線や車両通行帯がもうけられている道路などをいいます。
優先道路を走行してきた車と非優先道路を走行してきた車が接触した場合の過失割合は「優先道路車:非優先道路車=10%:90%」となります。
信号機のない交差点で直進車と右折車の接触事故
次に『信号機のない交差点』で『直進車と右折車が接触した』事故の過失割合をみてみましょう(判例タイムズ114~125)。
01.対向車線から走行してきた直進車と右折車の過失割合
右折車と直進車が接触した場合、基本的に「直進車が優先」されるので直進車の過失割合が低くなります。
直進車と右折車が対向車線から交差点に侵入し接触した交通事故の過失割合は「直進車:右折車=20%:80%」となります。
02.相手が右側または左側から侵入した場合
双方の位置関係が「右」または「左」方向から交差点に進入して交通事故が発生した場合、『直進車が右方、右折車が左方』であれば、「直進車:右折車=40%:60%」となります。また、『直進車が左方、右折車が右方』であれば「直進車:右折車=30%:70%」となります。
03.一方が明らかに広い道路の場合
どちらかの道路が明らかに広い場合、広路を走行する車両が優先されて過失割合が低くなりますが、左右の位置関係によっても過失割合が異なります。
狭路を走行してきた右折車が、直進車の走行してきた広い道路へ出る際に直進車と接触した場合、双方の過失割合は「広路車(直進車):狭路車(右折車)=20%:80%」となります。
また、右折車が広路を走行しており、直進車の走行してきた狭路へ入る際に接触した交通事故の過失割合は「狭路車(直進車):広路車(右折車)=60%:40%」となります。
右折車が広路を走行してきて、直進車が向かう方向へ狭路に入る際に接触した交通事故の過失割合は「狭路車(直進車):広路車(右折車)=50%:50%」となります。
04.一方に一時停止規制がある場合
一方に一時停止規制がある場合には、一時停止義務のある側の過失割合が上がります。ただし双方の位置関係によっても過失割合が変わります。
右折車に一時停止義務がある場合の過失割合は、「直進車:右折車=15%:85%」となります。
また、直進車に一時停止義務があり、右折車が左方車である場合の過失割合は、「直進車:右折車=70%:30%」となります。
直進車に一時停止規制があり、右折車が右方車である場合の過失割合は、「直進車:右折車=60%:40%」となります。
05.一方が優先道路の場合
一方が優先道路を走行している場合、基本的に優先道路車の過失割合は低くなります。ただし進行方向などの事情によって過失割合が変わるます。
非優先道路を走行してきた右折車が、直進車の進行する優先道路へ入る際に接触した場合の過失割合は、「直進車:右折車=10%:90%」となります。
また、右折車が優先道路を走っており、直進車が走行してきた非優先道路へ入る際に接触した場合の過失割合は、「直進車:右折車=80%:20%」となります。
右折車が優先道路を走っており、直進車が向かうのと同じ方向の非優先道路に入る際に接触した場合の過失割合は「直進車:右折車=70%:30%」となります。
過失割合の修正要素について
ここまで交差点の交通事故における基本の過失割合を開設してきましたが、必ずしもすべての交通事故で基本の過失割合の通りになるとは限りません。なぜならば過失割合には「修正要素」が適用される可能性があるからです。
修正要素とは、事故の個別的な状況によって基本の過失割合を加算・減算するための事情です。
たとえば以下のような場合、過失割合が修正される可能性があります。
- 飲酒運転
- スピード違反
- 大回り右折、早回り右折
- 相手が明らかに先に交差点に入っている
- 右折禁止違反
- 徐行しなかった
- 減速しなかった
- 著しい過失
- 重過失
適正な過失割合を確認する方法
交差点で交通事故が発生したとき過失割合は、具体的な状況によって異なります。基本の過失割合だけではなく修正要素も考慮しなければならないので、専門知識のない方が正しく判断するのは難しくなるでしょう。
なお、示談交渉の際には相手の保険会社から過失割合を提示されますが、その数字は必ずしも適正とは限りません。そのまま受け入れると過大に過失相殺され、賠償金を減額されてしまう可能性があります。
適切な過失割合の確認方法についてみておきましょう。
01.判例タイムズで確認する
自分で適正な過失割合基準を確認したい方は「判例タイムズ」という法律雑誌を入手しましょう。正式には「別冊判例タイムズ38 民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準」という本です。
こちらには事故の状況ごとに細かく過失割合の基準が掲載されているので、ご自身の巻き込まれた事故と同じ形態のケースを見つけられれば過失割合の基準を確認できるでしょう。
02.弁護士に相談する
例タイムズをみても、どの状況が合致するのかわからないこともありますし、修正要素をどこまであてはめればよいか判断がつかないケースもあります。
そんなときには、弁護士に相談しましょう。弁護士であれば事故の状況から正しい過失割合を判定できます。
弁護士に示談交渉を依頼すると賠償金が上がる
保険会社との示談交渉において相手から提示された過失割合に疑問がある場合には、弁護士に示談交渉を依頼するようお勧めします。
以下のような理由により、大幅に賠償金がアップする可能性があります。
01.事故の状況を明らかにして過失割合を適正にできる
交通事故の過失割合が問題になる場合、基準が適正かどうか以前に「そもそも事故の状況についての認識が一致していない」ケースも少なくありません。
たとえば相手は「信号無視をしていない」と言っているけれども、こちらとしては「相手が信号無視していた」と思っている場合などが典型です。
そんなとき、弁護士が対応すれば実況見分調書を入手するなどして事故の正確な状況を把握できる可能性があります。その結果、正しい過失割合が適用されて賠償金がアップするケースも少なくありません。
02.弁護士基準が適用される
弁護士が示談交渉を代行する場合、賠償金計算の際に「弁護士基準」が適用されます。弁護士基準は過去の裁判例の蓄積によって確立された法的な賠償金計算基準であり、一般的な任意保険会社の基準よりも高額です。
被害者ご自身が示談交渉する際には低額な任意保険会社の基準で賠償金が計算されますが、弁護士に依頼すると高額な弁護士基準が適用されます。そのため、慰謝料を始めとした賠償金が大きく増額される例が多数です。
東京・恵比寿に事務所を構える弁護士法人鈴木総合法律事務所では、交通事故のサポート業務に注力しております。相手方との交渉に辟易した、保険会社から提示された過失割合に納得できないといった方は是非一度当事務所にご相談ください。