自己破産の申立を行う場合、裁判所に対し破産申立書を提出します。この申立書は大まかに分けて以下の書類から構成されます(東京地裁の場合)。
- 破産手続開始・免責許可申立書
- 債権者一覧表
- 資産目録
- 陳述書・報告書
- 家計全体の状況
- (上申書・報告書)
- 疎明資料
今回の記事では債務整理事件の経験豊富な弁護士が、東京地方裁判所における破産申立書の書式の内容、記載事項等について解説します。
破産申立書の内容
東京地方裁判所で自己破産を申し立てる際の申立書は下記の書類から構成されています。
- 破産手続開始・免責許可申立書
- 債権者一覧表
- 資産目録
- 陳述書・報告書
- 家計全体の状況
- 上申書・報告書
- 疎明資料
以下、その内容について確認していきましょう。
破産手続開始・免責許可申立書
申立書の表紙となる部分です。
申立人の名前、生年月日、現住所等を記載します。また、申立人を確認するための資料として住民票を添付します。弁護士を代理人として申立する場合には、破産申立を弁護士に委任したことを疎明する委任状も添付します。
債権者一覧表
債権者一覧表には、申立人が負っている全ての債権者について、債権者名、住所、電話番号、負債についての情報(債務額、借入時期(取引期間)、債務の原因・使途、連帯保証人の有無など)を記載します。貸金業者や信販会社の負債だけでなく、個人からの借入額、家賃や電気料金の滞納、奨学金などの債務も漏れなく記載しなければなりません。
なお、債権者を意図的に伏せて申し立てした場合、その債権者に対し免責の効力が及ばないのはさることながら場合によっては破産手続全体に対し悪影響を及ぼします。債権者の申告漏れや債権者隠しは絶対にしないようにご注意ください。
また、住民税や国民健康保険料といった公租公課に滞納がある場合も債権者一覧表に計上しなければなりません。なお、公租公課については免責の効果は及ばないため、手続きが終わってもゼロになることはありません。
資産目録
資産目録には、申立人が有している財産を全て記載します。資産目録は、破産手続において配当に回すことになる財産がいくらあるのかを確認するために作成することになります。
東京地方裁判所の場合、資産目録で指定されている項目は下記のとおりです。
- 現金
- 預金・貯金
- 公的扶助の受給
- 報酬・賃金
- 退職金請求権・退職慰労金
- 貸付金・売掛金等
- 積立金等
- 保険(生命保険等)
- 有価証券、ゴルフ会員権等
- 自動車・バイクなど
- 過去5年間において、購入価格が20万円以上の物
- 過去2年に処分した評価額又は処分額が20万円以上の財産
- 不動産
- 相続財産
- 事業設備、在庫品、什器備品等
- その他、破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産
上記の財産について、有しているか有していないか、有している場合はその財産の内容や評価額を記載します。また、その財産価値を疎明する資料を添付しなければなりません。
以下、各財産についてみていきましょう。
01.現金
「現金」には、申立人が持っている現金の総額を記載します。財布の中にあるお札や小銭のほか、貯金箱やタンス預金で自宅に保管している金額を計上することになります。SUICA等のデポジット式の電子マネーの残高も「現金」に計上します。
02.預金・貯金
申立人自身の名義で開設されている口座をすべて記載します。現在使っているか使っていないかは関係ありません。開設されている口座(解約していない口座)については全て漏れなく記載してください。解約済みであっても解約してから2年を経過していない口座についても記載します。
なお、申立人の親が申立人名義で開設した口座についても、申立人自身の名義で開設されている口座に該当しますので記載する必要があります。
疎明資料として、直近2年間の通帳の写しや取引履歴を添付します。
03.公的扶助の受給
年金や生活保護を受給している場合には、その種類やひと月当たりの受給額等を記載します。疎明資料として、公的扶助の受給資格証明書等を添付します。
04.報酬・賃金
給与、賞与を受給している場合には、その金額を手取りベースで記載します。疎明資料として、直近2ヶ月分の給与明細、直近2回分の賞与明細、直近2年分の源泉徴収票(課税証明書)を添付します。
05.退職金請求権・退職慰労金
企業に務めている方は、勤務先が退職金制度を採用しているか、採用している場合には「現時点で自己都合で退職した場合に支給されるであろう退職金額」を記載します。近い将来に定年を迎え退職金が支給される場合には、その退職金支給見込み額を記載します。
疎明資料としては、退職金制度があるかどうかを確認できる書面、退職金制度がある場合には「現時点で自己都合で退職した場合に支給されるであろう退職金額」または「(近く支給される場合には)退職金支給見込み額」を疎明する資料を添付します。
退職金の有無を疎明する資料は雇用契約書や就業規則で確認できることがありますが、退職金がある場合の「現時点で自己都合で退職した場合に支給されるであろう退職金額」を疎明する資料は勤務先に発行をお願いをしなければならないケースがほとんどです。
勤務先にこのような資料の発行を依頼すると破産手続き(または個人再生手続き)に臨もうとしていることが発覚してしまう可能性があるため、この資料は自己破産手続における必要書類のうち収集が厄介な資料として有名です。
06.貸付金・売掛金等
知人に貸しているお金といった貸付金債権なども申立人の財産にあたりますので、ここに記載します。具体的には、債権の種類、相手方、金額、回収見込み等を記載します。また、債権が存在することを疎明する資料、相手方の情報等を資料として添付します。
07.積立金など
支給される給与から天引きされる形で積み立てている金銭、例えば旅行積立であったり財形貯蓄であったりですが、こういったものがあれば、その内容や現在残高を記載します。また、疎明資料として現在残高が分かる資料などを添付します。
08.保険
加入している保険があれば、その保険を記載します。また、解約返戻金があるかどうか、ある場合は現時点で解約した場合の解約返戻金額を記載します。
疎明資料としては、保険証券、解約返戻金計算書などを添付します。
09.有価証券、ゴルフ会員権等
株式等の有価証券、ゴルフ会員権などを有している場合はその内容と現在価値を記載します。また、それを疎明する資料を提出します。
10.自動車・バイクなど
自動車・バイクを所有している場合は、車種、購入金額、所有権留保の有無、査定額等を記載します。
また、疎明資料として、車検証や査定書等を添付します。
11.過去5年間において、購入価格が20万円以上の物
大型家電など過去5年間で20万円以上で購入した物があれば、購入した物品、購入時期、購入金額、所有権留保の有無、手元に現存している場合は査定額等を記載します。疎明資料としては、購入時の資料、物品のパンフレット、査定書等を添付します。
12.過去2年に処分した評価額又は処分額が20万円以上の財産
過去2年間で処分したことにより20万円以上の対価を得たものがあればここに記載します。たとえば、保有していた貴金属を売却して30万円を受領した場合などです。
13.不動産
不動産を所有している(いた)場合は、その不動産に関する情報を記載します。疎明資料としては、不動産登記簿謄本等を添付します。
親族の逝去によって不動産(の持ち分)を単純相続してしまっていることも往々にしてあります。しっかりと確認しましょう。
14.相続財産
親族の逝去により相続財産を相続した場合は、その内容や金額(評価額)等を記載します。
疎明資料として、遺産分割協議書や相続関係図、相続した財産の評価額が確認できる資料を添付します。
15.事業設備、在庫品、什器備品等
個人事業主等で、事業設備、在庫品等を有している場合には、その内容や数量、評価額を記載します。
また、疎明資料としてその在庫数が分かる資料や査定書を添付します。
16.その他、破産管財人の調査によっては回収が可能となる財産
上記の財産以外で、管財人によって回収することが可能となる財産がある場合には、ここに記載します。
- (過払いによる)不当利得返還請求権
- 否認権行使
上記のような(難しそうな)権利がこれに該当します。法律の知識がないと16番に該当する財産の判断は難しいかと思いますので、わからなければ専門家である弁護士に相談しましょう。
陳述書・報告書
陳述書・報告書は、申立人が負債を負うに至った状況や免責不許可事由の有無を確認するための書式であり、以下の内容を記載します。
- 過去10年前から現在に至る経歴
- 家族関係等
- 現在の住居の状況
- 今回の破産申立費用の調達方法
- 訴訟等の状況について
- 破産申立に至った事情
- 免責不許可事由
01.過去10年前から現在に至る経歴
過去10年間の職務経歴を記載します。
02.家族関係等
同居の家族、扶養の関係にある家族を記載します。
03.現在の住居の状況
現在の住所について、持ち家か賃貸か、持ち家の場合は誰名義の持ち家か、賃貸の場合は誰名義の賃貸か等を記載します。
04.今回の破産申立費用の調達方法
申立費用(含弁護士費用)をどのようにして調達したかを記載します。
05.訴訟等の状況
債権者から訴訟され訴訟が進行しているか、既に債務名義を取られているか、既に差押えを受けているかといった事情を記載します。
06.破産申立に至った事情
負債を負うに至った事情、破産申立に至った経緯を嘘偽りなく詳細に記載します。
07.免責不許可事由
免責不許可事由に該当する行為lたとえばパチンコや競馬といったギャンブル、ブランド品の購入といった浪費行為、株や仮想通貨、FX等に対する投機行為、クレジット枠の換金行為等があったかどうか、該当する行為があった場合はどのような行為を行なったのかを記載します。
なお、免責不許可事由に該当する行為を行なっていたとしても絶対に免責を得ることができないわけではありません。裁量免責と言って、過去の行為を反省していること、将来の生活再建に向けて相応の行動を取っていることを説明できれば裁判所の裁量によって免責を得ることが可能です。
家計全体の状況
申立する直近2ヶ月の家計の状況を添付します。
なお、家計は原則として家計を同一とする者全員を対象として記載しなければなりません。この点で同居の家族に手続きをすることを打ち明けなければならなくなることがあります。
上申書・報告書
特定の事情がある場合には、上申書や報告書を作成します。たとえば自由財産の拡張を行なう場合には、自由財産拡張の申立書等を添付します。
疎明資料
資産目録に記載した財産等の疎明資料を添付します。
さいごに
破産申立書の内容を一通り解説しました。なお、上記の説明は東京地方裁判所管轄の申立書を前提に説明したものであり、東京地裁以外の裁判所では申立書の内容や疎明資料が異なることがあります。申立を行なう際は、管轄の裁判所や弁護士にしっかりと確認しましょう。
破産手続はやろうと思えば専門家に依頼せずとも申立を行なうことはできますが、収集しなければならない資料の判断、債権者一覧表や資産目録、報告書の作成は相応の知識がないと非常に難しいです。また、弁護士に依頼すれば、債権者からの請求や督促を止めることも可能となります。精神的に解放されることにもなりますので、破産申立の手続きは専門家である弁護士に依頼した方がよいでしょう。
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